資本主義の病巣 君臨するアマゾン⑤ 人事評価で病む社員
ネット通販大手アマゾンのピラミッド型労働構造の中で最上層にいる正社員も苦しんでいます。
複数のアマゾン社員が2015年11月にアマゾン・ジャパン労働組合(本部・東京管理職ユニオン)を結成しました。
「通勤電車に飛び込もうとまで思った」
記者会見した社員の一人は物流センターで出入荷の管理をしていました。長時間労働と上司のパワハラに悩まされ、うつ病を発症しました。病気になって退職する同僚を何人も見ました。
「自分だけの問題ではない」。公正な人事評価をめざして組合結成を決断しました。
東京管理職ユニオンの鈴木剛執行委員長
教育は「無駄」
社員らを追い込んだのは「業務改善計画(PIP)」と呼ばれる人事評価制度でした。業績が不十分だと評価した社員に「改善計画」を示す制度です。東京管理職ユニオンの鈴木剛執行委員長はいいます。
「PIPはリーマン・ショック後に外資系企業が編み出した新手のリストラ手法でした。退職勧奨を人事評価という形でカムフラージュしたものです。多くの外資系企業が導入し、いまでは定着しています。中でもアマゾンのPIPは突出してひどいものでした」
社員の一人は上司に呼び出されて「業績が期待に達していない」と決めつけられ、自主退職するかPIPを受け入れるかの二者択一を迫られました。上司は「PIPは退職に導くプログラムであり、私なら選ばない」と自主退職を勧めました。
PIPの標的にされた社員は通常業務とは別に達成困難な計画を与えられました。PIPは就業規則の中で懲戒処分の1項目として定められていました。つまり社員への懲罰だったのです。
「いまだかつてない驚くべきシステムでした」と鈴木さんは指摘します。人事評価は労使間で見解の分かれる事柄であるため、多くの企業はPIPシステムをつくっても就業規則には定めません。ましてや懲戒処分に組み込むのは異常でした。
「ここにはアマゾンの思想が表れています。新卒採用をせず、即戦力になる人を中途採用するので、仕事の引き継ぎや教育は無駄な時間だという思想です。無駄な時間を使わせるのは欠陥人間だから懲罰の対象だととらえているのです」
どちらも地獄
さらに異例なのはPIPの対象とした社員に誓約書へのサインを迫ることでした。期限内に「改善計画」を達成できない場合、降給、降格、解雇などの不利益変更を受け入れると書かれた誓約書です。
「サインしない社員は業務命令違反で処分されるのです。サインしても地獄。しなくても地獄。事実上の退職強要制度でした」
人事評価は基準が不明確で、おおむね上司の意見で決まりました。上司に口答えするのは社風に合わない、上司に批判されたら自己批判しなければならない、などと行動の指針が書かれた手帳が社員に配られていました。
「私たちの組合に相談に来る社員は絶えません。相対評価で必ず一定割合がローパフォーマー(低業績者)と判定されるからでしょう。人事評価への恐怖で社内はギスギスし、同僚の足を引っ張るような行為がまかり通っているといいます」
組合を結成した社員らはアマゾンの不誠実な交渉姿勢が不当労働行為にあたると主張して東京都労働委員会に申し立てを行い、和解に達しました。アマゾンはこの社員らへのPIPを撤回。組合との団体交渉に誠実に対応すると約束しました。交渉の過程で就業規則も変更し、PIPを懲戒処分の項目から外しました。しかしPIPそのものは形を変えて存続しています。問題は解消されていないと鈴木さんは見ます。
「いまでも月に1人くらいは労働相談があります。上司に嫌われた。正当に評価してもらえない。嫌がらせの標的にされている。そんな内容が多い。追い込まれて退職に同意してしまう人もいます」(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2018年8月2日付掲載
労働者を意図的に選別する「業務改善計画」。その時の業績が良い悪いは、労働者本人の能力とは別に外部的要因もあるのにね。
ネット通販大手アマゾンのピラミッド型労働構造の中で最上層にいる正社員も苦しんでいます。
複数のアマゾン社員が2015年11月にアマゾン・ジャパン労働組合(本部・東京管理職ユニオン)を結成しました。
「通勤電車に飛び込もうとまで思った」
記者会見した社員の一人は物流センターで出入荷の管理をしていました。長時間労働と上司のパワハラに悩まされ、うつ病を発症しました。病気になって退職する同僚を何人も見ました。
「自分だけの問題ではない」。公正な人事評価をめざして組合結成を決断しました。
東京管理職ユニオンの鈴木剛執行委員長
教育は「無駄」
社員らを追い込んだのは「業務改善計画(PIP)」と呼ばれる人事評価制度でした。業績が不十分だと評価した社員に「改善計画」を示す制度です。東京管理職ユニオンの鈴木剛執行委員長はいいます。
「PIPはリーマン・ショック後に外資系企業が編み出した新手のリストラ手法でした。退職勧奨を人事評価という形でカムフラージュしたものです。多くの外資系企業が導入し、いまでは定着しています。中でもアマゾンのPIPは突出してひどいものでした」
社員の一人は上司に呼び出されて「業績が期待に達していない」と決めつけられ、自主退職するかPIPを受け入れるかの二者択一を迫られました。上司は「PIPは退職に導くプログラムであり、私なら選ばない」と自主退職を勧めました。
PIPの標的にされた社員は通常業務とは別に達成困難な計画を与えられました。PIPは就業規則の中で懲戒処分の1項目として定められていました。つまり社員への懲罰だったのです。
「いまだかつてない驚くべきシステムでした」と鈴木さんは指摘します。人事評価は労使間で見解の分かれる事柄であるため、多くの企業はPIPシステムをつくっても就業規則には定めません。ましてや懲戒処分に組み込むのは異常でした。
「ここにはアマゾンの思想が表れています。新卒採用をせず、即戦力になる人を中途採用するので、仕事の引き継ぎや教育は無駄な時間だという思想です。無駄な時間を使わせるのは欠陥人間だから懲罰の対象だととらえているのです」
どちらも地獄
さらに異例なのはPIPの対象とした社員に誓約書へのサインを迫ることでした。期限内に「改善計画」を達成できない場合、降給、降格、解雇などの不利益変更を受け入れると書かれた誓約書です。
「サインしない社員は業務命令違反で処分されるのです。サインしても地獄。しなくても地獄。事実上の退職強要制度でした」
人事評価は基準が不明確で、おおむね上司の意見で決まりました。上司に口答えするのは社風に合わない、上司に批判されたら自己批判しなければならない、などと行動の指針が書かれた手帳が社員に配られていました。
「私たちの組合に相談に来る社員は絶えません。相対評価で必ず一定割合がローパフォーマー(低業績者)と判定されるからでしょう。人事評価への恐怖で社内はギスギスし、同僚の足を引っ張るような行為がまかり通っているといいます」
組合を結成した社員らはアマゾンの不誠実な交渉姿勢が不当労働行為にあたると主張して東京都労働委員会に申し立てを行い、和解に達しました。アマゾンはこの社員らへのPIPを撤回。組合との団体交渉に誠実に対応すると約束しました。交渉の過程で就業規則も変更し、PIPを懲戒処分の項目から外しました。しかしPIPそのものは形を変えて存続しています。問題は解消されていないと鈴木さんは見ます。
「いまでも月に1人くらいは労働相談があります。上司に嫌われた。正当に評価してもらえない。嫌がらせの標的にされている。そんな内容が多い。追い込まれて退職に同意してしまう人もいます」(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2018年8月2日付掲載
労働者を意図的に選別する「業務改善計画」。その時の業績が良い悪いは、労働者本人の能力とは別に外部的要因もあるのにね。
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