AIと科学的社会主義① 「一度きりのチャンス」
経済研究者の友寄英隆さんに「人工知能(AI)と科学的社会主義」をテーマに寄稿してもらいました。
経済研究者 友寄英隆さん
これまで筆者は本紙でさまざまな角度からAIをとりあげてきました(「生成AIルールを考える」「AIとルール」「AIと民主主義」など)。今回は「AIと科学的社会主義」という視点から、未来社会とのかかわりにも焦点をあてつつ、AI技術の特徴を考えてみましょう。
AIは人間の知能にかかわる技術ですから、その発展は自然科学、社会科学、人文科学の知識を吸収して、文字通り総合的な特徴をもっています。AIは、これまで人類が築き上げてきたさまざまな分野の科学・技術の集積の上に発展してきたのです。一例として、20世紀に急速に切り開かれた量子物理学とAIの関係をみてみます。
米半導体大手ネヌビディアのロゴマーク(ロイター)
原爆の開発にも
米国のIT(情報技術)企業エヌビディアは、AI向け半導体の開発・製造で急激に成長した企業です。
同社の株価総額は今年、GAFAM(ガーファム=グーグル、アマゾン、フェイスブック〈現・メタ〉、アップル、マイクロソフト)と呼ばれる巨大IT企業をも抜いて一時トップになりました。同社は最先端の生成AI向け画像処理半導体(GPU)で、世界市場シェアの実に9割以上を占めるからです。
エヌビディアなどが製造するAI半導体は最先端の量子物理学の理論がなければ作れません。量子物理学は、電子の運動のような微小なスケールでの物理現象を解明する理論であり、古典物理学では説明しきれない現象を扱えるからです。
コンピューターの部品である半導体の技術は、1940年代のトランジスタの発明のころから、量子物理学の発展と並行して開発されてきました。
量子物理学はAIの発展にとって基礎的な科学・技術ですが、忘れてならないのは、それは原子爆弾の開発にとっても前提となったということです。
映画「オッペンハイマー」は、史上最初の原子爆弾を開発するためのマンハッタン計画に、当時の量子物理学研究者が動員された様子を描きました。量子物理学の父とも呼ばれるニールス・ボーアをはじめ、ノーベル物理学賞を受賞した研究者たちが核兵器開発に協力しました。
アルバート・アインシュタインは開発に直接は参加しませんでしたが、ナチス・ドイツの原爆開発を懸念して米国大統領に原爆開発を進言しました。しかし戦後は核兵器廃絶のために尽力しました。
最善か、最悪か
コンピューターやAIの発展には、数理科学も貢献しています。AIの技術は最適化アルゴリズム(問題解決の方法)の研究を前提とし、数理科学や情報科学の発展によって支えられています。
「車いすの宇宙物理学者」として、世界中の人びとから敬愛されていたスティーブン・ホーキング博士は、遺言ともいうべき著作『ビッグ・クエスチョン―〈人類の難問〉に答えよう』(邦訳2019年3月)のなかで、「AIの到来は、人類史上、最善の出来事になるか、または最悪の出来事になるだろう」と指摘して、次のように述べています。
「火を使いはじめた人間は、何度も痛い目を見たのちに消火器を発明した。核兵器や合成生物学、強い人工知能といった、もっと強力なテクノロジーについては、あらかじめ計画を立てて最初からうまくいくようにしなければならない。なぜならそれは一度きりのチャンスになるかもしれないからだ。私たちの未来は、増大するテクノロジーの力と、それを利用する知恵との競争だ。知恵が確実に勝つようにしようではないか」
「一度きりのチャンス」と言うのは、核兵器にしても、AIにしても、その国際的管理に失敗したら、人類破滅の危機に陥る危険があるからです。
(つづく)(5回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年9月17日付掲載
米国のIT(情報技術)企業エヌビディアは、AI向け半導体の開発・製造で急激に成長した企業。
元々、グラフィックボードのメーカーに過ぎなかったエヌビディア。そのGPUの技術がAIに応用されるってことで急成長しました。
「車いすの宇宙物理学者」として、世界中の人びとから敬愛されていたスティーブン・ホーキング博士の言葉から。
「火を使いはじめた人間は、何度も痛い目を見たのちに消火器を発明した。核兵器や合成生物学、強い人工知能といった、もっと強力なテクノロジーについては、あらかじめ計画を立てて最初からうまくいくようにしなければならない。なぜならそれは一度きりのチャンスになるかもしれないからだ。私たちの未来は、増大するテクノロジーの力と、それを利用する知恵との競争だ。知恵が確実に勝つようにしようではないか」
「あらかじめ計画を立てて最初からうまくいくように…」って言いますが、資本主義のシステムでそれが可能かってことですね。
経済研究者の友寄英隆さんに「人工知能(AI)と科学的社会主義」をテーマに寄稿してもらいました。
経済研究者 友寄英隆さん
これまで筆者は本紙でさまざまな角度からAIをとりあげてきました(「生成AIルールを考える」「AIとルール」「AIと民主主義」など)。今回は「AIと科学的社会主義」という視点から、未来社会とのかかわりにも焦点をあてつつ、AI技術の特徴を考えてみましょう。
AIは人間の知能にかかわる技術ですから、その発展は自然科学、社会科学、人文科学の知識を吸収して、文字通り総合的な特徴をもっています。AIは、これまで人類が築き上げてきたさまざまな分野の科学・技術の集積の上に発展してきたのです。一例として、20世紀に急速に切り開かれた量子物理学とAIの関係をみてみます。
米半導体大手ネヌビディアのロゴマーク(ロイター)
原爆の開発にも
米国のIT(情報技術)企業エヌビディアは、AI向け半導体の開発・製造で急激に成長した企業です。
同社の株価総額は今年、GAFAM(ガーファム=グーグル、アマゾン、フェイスブック〈現・メタ〉、アップル、マイクロソフト)と呼ばれる巨大IT企業をも抜いて一時トップになりました。同社は最先端の生成AI向け画像処理半導体(GPU)で、世界市場シェアの実に9割以上を占めるからです。
エヌビディアなどが製造するAI半導体は最先端の量子物理学の理論がなければ作れません。量子物理学は、電子の運動のような微小なスケールでの物理現象を解明する理論であり、古典物理学では説明しきれない現象を扱えるからです。
コンピューターの部品である半導体の技術は、1940年代のトランジスタの発明のころから、量子物理学の発展と並行して開発されてきました。
量子物理学はAIの発展にとって基礎的な科学・技術ですが、忘れてならないのは、それは原子爆弾の開発にとっても前提となったということです。
映画「オッペンハイマー」は、史上最初の原子爆弾を開発するためのマンハッタン計画に、当時の量子物理学研究者が動員された様子を描きました。量子物理学の父とも呼ばれるニールス・ボーアをはじめ、ノーベル物理学賞を受賞した研究者たちが核兵器開発に協力しました。
アルバート・アインシュタインは開発に直接は参加しませんでしたが、ナチス・ドイツの原爆開発を懸念して米国大統領に原爆開発を進言しました。しかし戦後は核兵器廃絶のために尽力しました。
最善か、最悪か
コンピューターやAIの発展には、数理科学も貢献しています。AIの技術は最適化アルゴリズム(問題解決の方法)の研究を前提とし、数理科学や情報科学の発展によって支えられています。
「車いすの宇宙物理学者」として、世界中の人びとから敬愛されていたスティーブン・ホーキング博士は、遺言ともいうべき著作『ビッグ・クエスチョン―〈人類の難問〉に答えよう』(邦訳2019年3月)のなかで、「AIの到来は、人類史上、最善の出来事になるか、または最悪の出来事になるだろう」と指摘して、次のように述べています。
「火を使いはじめた人間は、何度も痛い目を見たのちに消火器を発明した。核兵器や合成生物学、強い人工知能といった、もっと強力なテクノロジーについては、あらかじめ計画を立てて最初からうまくいくようにしなければならない。なぜならそれは一度きりのチャンスになるかもしれないからだ。私たちの未来は、増大するテクノロジーの力と、それを利用する知恵との競争だ。知恵が確実に勝つようにしようではないか」
「一度きりのチャンス」と言うのは、核兵器にしても、AIにしても、その国際的管理に失敗したら、人類破滅の危機に陥る危険があるからです。
(つづく)(5回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年9月17日付掲載
米国のIT(情報技術)企業エヌビディアは、AI向け半導体の開発・製造で急激に成長した企業。
元々、グラフィックボードのメーカーに過ぎなかったエヌビディア。そのGPUの技術がAIに応用されるってことで急成長しました。
「車いすの宇宙物理学者」として、世界中の人びとから敬愛されていたスティーブン・ホーキング博士の言葉から。
「火を使いはじめた人間は、何度も痛い目を見たのちに消火器を発明した。核兵器や合成生物学、強い人工知能といった、もっと強力なテクノロジーについては、あらかじめ計画を立てて最初からうまくいくようにしなければならない。なぜならそれは一度きりのチャンスになるかもしれないからだ。私たちの未来は、増大するテクノロジーの力と、それを利用する知恵との競争だ。知恵が確実に勝つようにしようではないか」
「あらかじめ計画を立てて最初からうまくいくように…」って言いますが、資本主義のシステムでそれが可能かってことですね。