性犯罪刑法改正① 被害者の声 政治動かす
「性暴力被害に即して改正してほしい」―。刑法の性犯罪規定の改正をめぐり、法務省で現在、検討会で議論が行われ、7月27日の第4回会合では今後の「論点整理(案)」のなかに、初めて「暴行・脅迫要件の撤廃」と「不同意性交の処罰化」が盛りこまれました。性暴力被害の当事者らが長年求めてきたものです。性犯罪の刑法改正の論点を考えます。
厳しい暑さが残る11日の夕刻、千葉県習志野市の津田沼駅前でフラワーデモが行われました。スピーチで、長年父親から体罰とセクハラを受けてきたと告白した女性は「性的な虐待に抗議する私の意思を、父はないがしろにした」「私はもう黙らない。自分の気持ちに決してふたをしない」と訴えました。
広がるデモ参加
性暴力の根絶を求めるフラワーデモは、昨年3月の四つの強制・準強制性交等罪をめぐる裁判で無罪判決が相次いだことをきっかけに、全国47都道府県に広がり、回を重ねるごとに新たな参加者が増え続けています。
四つの無罪判決のうち三つで「同意のない性交(不同意性交)」があったと事実認定したことを受け、デモは不同意性交それ自体がレイプであり罰せられるべきだと訴え、不同意性交のごく一部のみが犯罪となる現行法では性暴力が正確に理解されず、被害者保護を阻んでいるとして法改正を求めてきました。
この動きに押され、今年3月、法務省は「性犯罪に関する刑事法検討会」を設置。性暴力被害の当事者が初めて委員に選任され、子どもや性的少数者などの性被害の実態のヒアリングを実施しました。
法改正に向けた「論点整理(案)」には、現行の強制性交等罪の成立要件である「暴行・脅迫要件」の「撤廃」が明記されるなど、当事者らの長年の要求が盛り込まれました。
2017年の刑法改正で検討会委員を務めた角田由紀子弁護士は「前回の検討会で『暴行・脅迫要件の撤廃』を訴えたのは私一人だけだったが、今検討会は、被害の実態をよく踏まえ、被害者保護に重点を置いている」と述べます。
「現行法は悪法」
法改正の必要を長年主張してきた齊藤豊治・甲南大学名誉教授(刑法)は「現行法は悪法であり、法改正は当然」だと述べ、「刑法の中に、戦前以来の家父長制の権力構造の仕組みが放置されてきたことが問題だ」と指摘。「被害者の声を受け止めてこの権力構造を改めるかどうかが、鋭く問われている」と語ります。
性暴力の被害やジエンダー不平等を訴えたフラワーデモ@千葉=11日、千葉県・津田沼駅前
現行法の性犯罪規定と主な条文
刑法の性犯罪規定は2017年、「強姦罪」から「強制性交等罪」への名称変更や、親による18歳未満の児童への性交を条件なしで罰する「監護者性交等罪」の新設など、110年ぶりに大きく改正されました。一方で、「暴行・脅迫要件の見直し」や「13歳の性的同意年齢の引き上げ」などの論点は積み残されました。
改正前の強姦罪(1907年制定)は、日本国憲法で男女平等が規定されたもとでも、戦前の家父長制、男系中心の世襲制の「家制度」の発想を法の運用などで強固に引き継いできました。
同罪の成立要件の「暴行又は脅迫」は判例上、「相手方の反抗を著しく困難ならしめる程度のもの」(最高裁判決、59年5月10日)とされ、裁判官や警察が「抵抗できたのではないか」などと、被害者に責任を負わせる運用がまかり通ってきました。
一般社会に「挑発的な服装だったのが悪い」などと被害者を非難(セカンドレイプ、二次被害)する風潮をつくり、泣き寝入りを余儀なくされる被害者が生まれるなど、被害者を何重にも苦しめてきました。
角田氏は、日本国憲法の下でも「家制度」の発想とその仕組みが残った結果、今に至るも法曹界の女性は少なく、社会では性暴力を肯定する家父長制への批判がきちんとされてきていないと指摘。フラワーデモなどで「性被害は深刻なもの」との理解が広がり、検討会での被害者保護の議論にも反映し、「暴行・脅迫要件」を撤廃する議論が避けられなくなっていると言います。
齊藤氏は、欧米やアジアの国々でも家父長制は根強く残ってきたが、70年代以降、女性の人権の問題として被害者らが性暴力の実態を告発し、各国が被害者保護のために「強姦罪」の法改正を積み重ねてきたと指摘。日本でのフラワーデモは「世界の流れと同じように、家父長制の権力構造への異議申し立てに他ならない」と述べます。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年8月23日付掲載
性暴力の根絶が求められています。
普通のデモとは違う、静かなデモ、フラワーデモ。
性暴力の被害者が、淡々と語ることで始まります。
その声が、政府を動かし始めています。
「性暴力被害に即して改正してほしい」―。刑法の性犯罪規定の改正をめぐり、法務省で現在、検討会で議論が行われ、7月27日の第4回会合では今後の「論点整理(案)」のなかに、初めて「暴行・脅迫要件の撤廃」と「不同意性交の処罰化」が盛りこまれました。性暴力被害の当事者らが長年求めてきたものです。性犯罪の刑法改正の論点を考えます。
厳しい暑さが残る11日の夕刻、千葉県習志野市の津田沼駅前でフラワーデモが行われました。スピーチで、長年父親から体罰とセクハラを受けてきたと告白した女性は「性的な虐待に抗議する私の意思を、父はないがしろにした」「私はもう黙らない。自分の気持ちに決してふたをしない」と訴えました。
広がるデモ参加
性暴力の根絶を求めるフラワーデモは、昨年3月の四つの強制・準強制性交等罪をめぐる裁判で無罪判決が相次いだことをきっかけに、全国47都道府県に広がり、回を重ねるごとに新たな参加者が増え続けています。
四つの無罪判決のうち三つで「同意のない性交(不同意性交)」があったと事実認定したことを受け、デモは不同意性交それ自体がレイプであり罰せられるべきだと訴え、不同意性交のごく一部のみが犯罪となる現行法では性暴力が正確に理解されず、被害者保護を阻んでいるとして法改正を求めてきました。
この動きに押され、今年3月、法務省は「性犯罪に関する刑事法検討会」を設置。性暴力被害の当事者が初めて委員に選任され、子どもや性的少数者などの性被害の実態のヒアリングを実施しました。
法改正に向けた「論点整理(案)」には、現行の強制性交等罪の成立要件である「暴行・脅迫要件」の「撤廃」が明記されるなど、当事者らの長年の要求が盛り込まれました。
2017年の刑法改正で検討会委員を務めた角田由紀子弁護士は「前回の検討会で『暴行・脅迫要件の撤廃』を訴えたのは私一人だけだったが、今検討会は、被害の実態をよく踏まえ、被害者保護に重点を置いている」と述べます。
「現行法は悪法」
法改正の必要を長年主張してきた齊藤豊治・甲南大学名誉教授(刑法)は「現行法は悪法であり、法改正は当然」だと述べ、「刑法の中に、戦前以来の家父長制の権力構造の仕組みが放置されてきたことが問題だ」と指摘。「被害者の声を受け止めてこの権力構造を改めるかどうかが、鋭く問われている」と語ります。
性暴力の被害やジエンダー不平等を訴えたフラワーデモ@千葉=11日、千葉県・津田沼駅前
現行法の性犯罪規定と主な条文
第22章 | わいせつ、強制性交等及び重婚の罪 |
第174条 | 公然わいせつ罪 |
第175条 | わいせつ物頒布等罪 |
第176条 | 強制わいせつ罪 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。 |
第177条 | 強制性交等罪 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門(こうもん)性交又は口腔(こうくう)性交(以下「性交等」)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。 |
第178条 178の2 | 準強制わいせつ及び準強制性交等罪 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。 |
第179条 179の2 | 監護者わいせつ及び監護者性交等罪 18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は、第176条の例による。 18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第177条の例による。 |
第180条 | 未遂罪 |
第181条 | 強制わいせつ等致死傷罪 |
第182条 | 淫行勧誘罪 |
第183条 | 削除(姦通罪、1947年) |
第184条 | 重婚罪 |
刑法の性犯罪規定は2017年、「強姦罪」から「強制性交等罪」への名称変更や、親による18歳未満の児童への性交を条件なしで罰する「監護者性交等罪」の新設など、110年ぶりに大きく改正されました。一方で、「暴行・脅迫要件の見直し」や「13歳の性的同意年齢の引き上げ」などの論点は積み残されました。
改正前の強姦罪(1907年制定)は、日本国憲法で男女平等が規定されたもとでも、戦前の家父長制、男系中心の世襲制の「家制度」の発想を法の運用などで強固に引き継いできました。
同罪の成立要件の「暴行又は脅迫」は判例上、「相手方の反抗を著しく困難ならしめる程度のもの」(最高裁判決、59年5月10日)とされ、裁判官や警察が「抵抗できたのではないか」などと、被害者に責任を負わせる運用がまかり通ってきました。
一般社会に「挑発的な服装だったのが悪い」などと被害者を非難(セカンドレイプ、二次被害)する風潮をつくり、泣き寝入りを余儀なくされる被害者が生まれるなど、被害者を何重にも苦しめてきました。
角田氏は、日本国憲法の下でも「家制度」の発想とその仕組みが残った結果、今に至るも法曹界の女性は少なく、社会では性暴力を肯定する家父長制への批判がきちんとされてきていないと指摘。フラワーデモなどで「性被害は深刻なもの」との理解が広がり、検討会での被害者保護の議論にも反映し、「暴行・脅迫要件」を撤廃する議論が避けられなくなっていると言います。
齊藤氏は、欧米やアジアの国々でも家父長制は根強く残ってきたが、70年代以降、女性の人権の問題として被害者らが性暴力の実態を告発し、各国が被害者保護のために「強姦罪」の法改正を積み重ねてきたと指摘。日本でのフラワーデモは「世界の流れと同じように、家父長制の権力構造への異議申し立てに他ならない」と述べます。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年8月23日付掲載
性暴力の根絶が求められています。
普通のデモとは違う、静かなデモ、フラワーデモ。
性暴力の被害者が、淡々と語ることで始まります。
その声が、政府を動かし始めています。
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