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「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

避難所トイレ どうする?衛生管理 快適に使い“エコノミー”防ぐ

2021-03-19 07:28:20 | 震災・災害・復興・地震&災害対策など
避難所トイレ どうする?衛生管理 快適に使い“エコノミー”防ぐ
「水害時のトイレ対応を考える」をテーマに防災トイレフォーラム2020が先月、開かれました(NPO法人日本トイレ研究所主催)。コロナ禍で衛生管理の重要性が見直される中、必要なトイレの備えとは?(手島陽子)

JRAT熊本(熊本県災害リハビリテーション推進協議会)の佐藤亮さんは、「災害時に起こりがちな健康問題として、安心して使える避難所トイレが足りないために水分摂取をがまんし、エコノミークラス症候群となる可能性もあります」といいます。汚れたトイレの使用をためらい、水分を制限することで、血栓ができやすくなるのです。
予防には、水分補給と適度な運動などが必要です。過去の災害の教訓により、避難所では早期からエコノミークラス症候群予防活動が行われるようになりましたが、十分に注意が必要です。



フォーラムの登壇者。左上から(時計回りに)上田さん、上月さん、佐藤さん、日本トイレ研究所の加藤篤さん

●安心できるか
健康のために避難所の生活環境を整備する必要性を強調した佐藤さん。内閣府のガイドラインでは、TBK=トイレ(表)、ベッド、キッチンをなるべく早く整えることを推奨していることを紹介。とくに「トイレで大切なのは、安心できる環境、衛生的かどうか、だれでも使いやすいかどうかです」と強調しました。
学校は段差が多く、高齢者にとっては転倒のリスクが高いため、トイレまでの導線では、段差にスロープを付ける、手すりをつける、トイレは靴のまま入れるようにするなどの注意点を述べました。
さらに、衛生面は最初の清潔さに左右されるため、平時からきれいに掃除することの重要性を指摘。仮設トイレが、大量に届いても使われずに放置された事例を紹介して、トイレの設置場所を決めておくなど、平時からの準備が大きく影響することを強調しました。


避難所のトイレ環境確認項目
トイレ周辺般備
・災害時に使用するトイレの種類、設置場所
・避難者数とトイレの数
・トイレまでの導線
(距離、段差、誘導灯、屋根等)
・障害者トイレ等の有無
・トイレ内の照明
・トイレ内の物置
(トイレットペーパー、荷物等)
・トイレ内、周囲の衛生
(手洗い場、ハンドソープ、換気扇、ウエットティッシュ、消毒液、脱臭・消臭剤、防虫剤、ごみ箱等)
・防犯・緊急時呼び出し、擬音装置等の有無
・補助便座・簡易洋式便座の有無
運営
・トイレの使用方法やルールの掲示
・掃除方法
・防犯対策
・要配慮者(障害者・女性や妊婦・子ども等)への対応
(内閣府避難所運営ガイドライン・国土交通省ホームページから作成)


●健康管理の核
岡山県倉敷市からは、2018年7月の豪雨災害を経験した小学校教頭の上月寿彦さんが報告。想定200人の小学校に、最大2000人の避難者が押しかけた状況を話しました。
街は一面泥水に浸る中、アルミ工場の爆発も発生。「猛暑があり、水道も停止した」と上月さん。「トイレをはじめ、避難所全体の衛生環境の悪化という問題が出てきて、感染症や食中毒の懸念も高まりました」
トイレの悪臭は消臭剤でも消えず、掃除が重要でした。給水車の水や井戸水を給水袋に入れ、トイレ前のバケツにくみ置きして流しました。
要介護者には①バケツで水を流せない②和式トイレを使えない③階段の昇降が難しい、などの課題がありました。そこで校舎1階の洋式トイレを水洗に。給水車の水を受水槽に入れて校内の給水バルブを調整し、使用するトイレだけに水が行くようにしたのです。
トイレの衛生環境は徐々に改善。ところが、しばらくすると水洗トイレの水の抜けが悪くなりました。学校は市役所に調査を依頼。原因は、浄化センターの被災で、下水処理ができず、汚物が下水管にたまり続けたことです。バキュームカーで汚物回収を行い、解決しました。「行政との連携は欠くことのできない重要ポイントだと感じました」と上月さん。水道復旧後、ボランティアや避難者で「トイレ掃除隊」を結成し、1日2回の掃除が行われました。
上月さんは「トイレの衛生管理を健康管理の核ととらえて、運営スタッフ、ボランティア、避難者などが連携することが大切です。早く体制を整えるために、コーディネーターやマニュアルの整備が欠かせないと痛感しました」と語りました。

●県から補助金
愛媛県からは、県防災危機管理課の担当係長・上田陽一郎さんがコロナ禍の県の取り組みなどを報告。三密が危惧される避難所の衛生環境を整備するため、集会所のトイレ洋式化等に対する補助金の制度を創設したことを話しました。
手指消毒の置き場についての質問に、佐藤さんが答えました。「仮設トイレを設置するときは、トイレの近くに手洗い場があるほうがよい。トイレから遠いと洗わない人が出てくる。さらに消毒液を居住スペースの出入り口に置く。透明のボトルに入れて、日付を書いておくと使用状況が把握できます」

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年3月12日付掲載


地震の時だけでなく、水害の時も断水が発生します。
阪神・淡路大震災の時も地区事務所が断水。飲み水は給水車で手に入りますが、水洗トイレの水は近所の公園の池から水を汲んで運んだものです。
避難所のトイレもしかり。洋式であることはもちろん、清潔、快適であることが求められます。

対談 原発事故10年④ 舘野 廃棄物出して問題先送り 野口 矛盾したエネルギー計画

2021-03-18 07:30:47 | 原子力発電・放射能汚染・自然エネルギー
対談 原発事故10年④
舘野 廃棄物出して問題先送り
野口 矛盾したエネルギー計画



野口邦和さん(左)と舘野淳さん

―原子力政策の破たんもみえてきました。
舘野淳・元中央大学教授(核燃料化学) 展望のなさが如実なのは核燃料サイクルです。使用済み核燃料はたまる、プルトニウムはどんどん蓄積する…。再処理工場はどうかというと、運転できるかどうかも疑問だし、たとえ開始しても、液漏れなどの事故が続くのではないかと思います。
高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分地については、自治体が名乗りをあげましたね。

お金目当ての応募
野口邦和・元日本大学准教授(放射線防護学)
 2002年に応募方式になったのですが、どこからも応募がありませんでした。昨年になって、北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村が応募しました。
文献調査の交付金は2年間で最大20億円です。人ロ1000人に満たない村からすればとんでもない額です。ああいう応募方式だと、お金がほしくて応募することになって、安全な場所が選ばれる保証はありません。それが一番の問題です。
原発をやめたとしても高レベル核廃棄物は現実に存在しているので、なんとかしなければいけません。
舘野 その場合、地層処分をした方がいいのか、頑丈な建物に保管するのがいいのか。
野口 当面は、地上で監視できる状態で保管することになるのでしょうけれど、何万年もそうはいかない。
既存の原発が動いている限りは廃棄物が出てきます。原発をやめて現にある廃棄物を何とかするのか、これからも原発の運転を続けて廃棄物が増え続けるというのか。そういう議論が重要です。



政府が進める核燃料サイクル政策の中核施設である、日本原燃の再処理工場。1993年の着工時には97年に工事が完了する予定でしたが、25回も延期、四半世紀も遅れています=青森県六ケ所村

国民側の提起大切
舘野
 後から後から廃棄物が出てくるけれども、とにかくためておきましょうというのは、問題の先送り。展望を示さないのは無責任ですね。
野口 原発推進派の展望は、エネルギー基本計画に出ています。
原発は発電コストが低く昼夜を問わず安定的に発電できる「ベースロード電源」という言い方をしています。一方で、彼らは原発への依存度を可能な限り低減するとも言っています。
原発の電源構成比率は、原発がほとんど運転できなかった13年度は1%、再稼働が進んだ19年度でも6%でした。ところが、エネルギー基本計画では、30年にめざす原発の電源構成比を20~22%としています。依存度を下げると言いながら、依存度を下げる気がないとしか思えない。矛盾しています。
舘野 原発の寿命延長を原子力規制委員会が認めているのは、それがあるんですね。
野口 新設はまったく無理でしょうから。
舘野 経済性も含めて原子力発電の見通しは暗いのに、現体制は一挙に壊すことができず、ずるずる惰性的に進めている状況で、国民の側からしっかりした考えを提起していくことが大切ですね。(おわり)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年3月11日付掲載


完全に破たんしているのが、核燃料サイクル。使用済み核燃料を再利用して夢の原子炉って言われていたけどね。
原発を止めても、高レベル核廃棄物は残る。その管理も残されています。

対談 原発事故10年③ 舘野 “先祖返り”する規制当局 野口 避難計画なく再稼働とは

2021-03-17 07:17:05 | 原子力発電・放射能汚染・自然エネルギー
対談 原発事故10年③

舘野 “先祖返り”する規制当局
野口 避難計画なく再稼働とは


―廃炉の展望もみえないなかで、原発再稼働が進んでいます。
野口邦和・元日本大学准教授(放射線防護学) 事故当時、安全に最高の責任をもっていた内閣府原子力安全委員会と安全審査をしていた経済産業省原子力安全・保安院への批判が高まり、1年半後に廃止されました。
同時に原子力規制委員会ができ、新規制基準をつくりました。でも実際に進んでいることをみると、あまり良くはなっていないと国民も受け止めています。
舘野淳・元中央大学教授(核燃料化学) 当初の規制委にはあった緊張感が消えて、規制委も事務局の原子力規制庁も、トラブル・事故隠し体質、無責任体制で物事を進めるような“先祖返り”が進行している―。それが事故10年の特徴といえます。きちんと追及しなければならない。
東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)で社員が昨年9月、中央制御室に不正入室しましたが、規制庁の役人は4カ月近く、委員に報告しませんでした。



日本原子力発電・東海第2原発。30キロ圏内には90万人以上が住んでおり、すぐ近くにも住宅地があります=2月5日、茨城県東海村(本紙チャーター機から佐藤研二撮影)

東電に資格はない
野口
 東電に原発を運転する資格があるのかどうかを判定する時期でした。規制庁が忖度(そんたく)したとしか思えません。
舘野 官僚がそういうことをやりだすと、組織全体が信用できなくなります。
新規制基準への適合性の審査でも、問題点が具体的に表れています。審査の“目玉”といえば、シビアアクシデント(過酷事故)対策なんですね。設計者が予定した以上の事故が起こっても何とかしようという対策です。
もともと原子炉をつくるときに大丈夫だといって運転を始め、こんな事故が起こった。沸騰水型軽水炉(BWR)の限界が表れたわけです。当面は使うのをやめて、設計の根本から見直すのが普通の安全性の考え方です。
シビアアクシデント対策と称して、お手軽の装置(例えば代替循環冷却装置)を付加して、「これでシビアアクシデントが起こらなくなった」と宣言するようなやり方で本当によいのか、抜本的にBWRの欠陥を追究する必要があるのではないか。
シビアアクシデント対策として挙げているのがベント(原子炉内の圧力を下げるために中の気体を放出する作業)です。放射性物質を住民に浴びせることを対策にあげるのがおかしい。建設時は「止める・冷やす・閉じ込める」と説明されてOKを出したのに、今は「止める・冷やす・放出する」になった。これは約束が違います。

妥協的な適合審査
冷却ができず福島事故が起こりましたが、ポンプをつけて水の循環をさせれば大丈夫だと。何かあったら消防車や電源車など可搬型装置をつなぐといいますが、地震のとき果たして持っていけるのか疑問です。非常に電力会社に妥協的な適合性審査なのです。
あと可燃性ケーブルも問題です。米国の原発でろうそくの炎がケーブルに燃え移って原子炉の制御ができなくなった教訓として難燃性ケーブルに取り換えるはずだったのに、不可能だから難燃性の塗料を塗ればいいと。炉心溶融が起きた場合に溶融物の受け皿となる装置「コアキャッチャー」もつけなくてよいことになっています。
野口 老朽原発の問題では、40年を超える原発の運転は「例外中の例外」としていたのに、今は申請すればほとんど再稼働を認めるようになっています。

―避難計画の問題もあります。
舘野 東海第2原発(茨城県)の周辺は人口密度も高く、避難できないのに、規制委はOKを出しています。
野口 チェルノブイリ原発事故では人口4・5万人のプリピャチ市の住民が事故翌日に1100台の大型バスで避難しました。もっと人口の多い日本でバスを用意し迅速に避難できるのか疑問です。避難計画がなくても原発が認可されるのは大問題。国はぜんぜん熱心ではない。
舘野 国際原子力機関(IAEA)の多重防護の考え方では、第5のレベルとして住民が被ばくしない手段が必要だとしています。しかし国は自治体任せにしています。結局は無責任体制です。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年3月10日付掲載


事故当時、安全に最高の責任をもっていた内閣府原子力安全委員会と安全審査をしていた経済産業省原子力安全・保安院への批判。1年半後に廃止され、同時に原子力規制委員会ができ、新規制基準が。
でも、いままた規制がゆるくなってきている。
建設時は「止める・冷やす・閉じ込める」と説明されてOKを出したのに、今は「止める・冷やす・放出する」になった。これは約束が違う。
東海第2原発(茨城県)の避難計画にも無理があります。

対談 原発事故10年② 野口 デブリ工法さえわからず 舘野 技術開発含め展望が必要

2021-03-16 08:06:58 | 原子力発電・放射能汚染・自然エネルギー
対談 原発事故10年②

野口 デブリ工法さえわからず
舘野 技術開発含め展望が必要


―廃炉の道筋をどうみますか。
野口邦和・元日本大学准教授(放射線防護学) 政府や東京電力は、2041~51年に廃炉を終了すると言っています。しかし、これまでの作業工程がこれだけ遅れ、最難関の工程が残っているのに終了時期だけは変わらないというのは、ありえないと思います。
51年といえば、私が生きていれば99歳。長い時間監視しなくてはいけない。
舘野淳・元中央大学教授(核燃料化学) 福島の人と話したら、デブリ(原子炉から溶け落ちた核燃料)が本当に取り出せるかを気にしていました。無理なら無理だと早く教えてほしいと。ただ、取り出せず埋めてしまうといっても、あんなに地下水があるのでは…。
野口 そこがチェルノブイリ原発事故との違いです。上をコンクリートで密閉すればいいという話ではない。
舘野 地下を密閉する方法もありますね。
野口 おわん型の地下構造物を、あれだけ大きな敷地につくるというのは、世界的にも経験がない大工事になるでしょう。果たしてできるのかどうか…。
舘野 やはり取り出さざるを得ないのでしょうね。でも「何十年後に取り出す」と言いっ放しにするのではなく、技術開発を含め展望を示す必要がある。
野口 まだデブリ取り出しの環境整備をやっているだけで、取り出しの工法さえはっきりしていません。
建物の劣化も課題です。避難住民の家が管理されないでいるとポロポロになっているのと同じで、原発も見えないところで劣化しているはずです。



福島第1原発の構内を移動する全面マスク姿の作業員=2月19日

作業員被ばく心配
舘野
 作業員の被ばくも心配です。
野口 事故直後は東電社員の被ばく量が大きかったですね。協力企業の作業員にできないことがあって、線量が高い現場に投入されたようです。翌年以降は、協力企業の作業員の平均被ばく量が東電社員を上回り、全体的には下がりました。現場の作業環境は良くなっていますが、ここ数年はあまり変わっていません。今後、廃炉に向けて核心部の線量が高い場所に近つく作業が増え、被ばく量も増えるかもしれません。

―放射能汚染水を処理した後にタンクにためている「アルプス処理水」について、政府は薄めて海に流すことを検討しています。
野口 事故直後は高レベル汚染水が海に漏れて魚が汚染されましたが、海水で薄まり、魚の世代交代もあって、水産庁のデータをみると、汚染濃度は着実に減っています。昨年には、福島県海域の水産物の出荷制限指示はすべて解除されました。
福島の漁業がようやくここまでたどり着いた今の時期に海洋放出を強行すれば、風評被害を拡大させ福島の復興にはつながらない。風評被害が起きたときに損害をどのように賠償するのかの話もなく、政府の考え方がみえない。不透明すぎます。
舘野 処理水にトリチウム(3重水素)以外の放射性物質は入っているのですか。

処理水の保管可能
野口
 処理水の7割が排水の基準値を超えています。トリチウム以外の放射性物質を浄化して基準値以下にする必要があります。昨秋ようやく約2000トンを浄化したにすぎません。
舘野 (処理水の処分方法は)風評と政治という、科学以外の問題になっています。
野口 とりあえずの合理的な解決策といえるのは、原発の近隣の土地を借りるか買うかして敷地を広げて保管することです。政府は難しいと主張しますが、本気でやるつもりがあればできるはずです。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年3月9日付掲載


これまでの廃炉の工程が遅れに遅れているにも関わらず、最後だけは変えないってのはおかしいでしょ。
地下水が流れてくる現場。旧ソ連のチェルノブイリの様に石棺で固めてしまえばいいってわけじゃない。
地下におわん型の構造物を造るっていうのも難しい。
結局、核燃料が溶け出したデブリを取り出すしかない。それまでの建屋の劣化がどうなるか。

対談 原発事故10年① 舘野・最近の調査でも新事実判明 野口・遅れに遅れている廃炉工程

2021-03-15 06:32:57 | 原子力発電・放射能汚染・自然エネルギー
対談 原発事故10年① 舘野・最近の調査でも新事実判明 野口・遅れに遅れている廃炉工程
元中央大学教授(核燃料化学) 舘野淳さん
元日本大学准教授(放射線防護学) 野口邦和さん


野口邦和さん


舘野淳さん

東京電力福島第1原発事故の発生から10年―。いまだ廃炉の道筋もみえない状況です。事故前から原発の危険性について警鐘を鳴らしてきた舘野淳・元中央大学教授(核燃料化学)と野口邦和・元日本大学准教授(放射線防護学)が、事故の状況や復興、原子力政策について語り合いました。

舘野 最近の調査でも新事実判明
野口 遅れに遅れている廃炉工程


―事故の現状をどうみていますか。
野口 廃炉工程は遅れに遅れています。
順調に進んだのは4号機の使用済み核燃料プールからの燃料取り出しだけです。3号機はトラブルが多発し遅れ、ようやく先月に取り出しが完了しましたが、1~2号機はまったくできていません。
2021年末までに全部取り出す計画でした。デブリ(原子炉から溶け落ちた核燃料)の取り出しが控えているから、その前にということでしたが、1号機の取り出し開始は27~28年度、2号機は24~26年度の予定。まるで遅れています。
舘野 デブリは、4年前から写真を見ることができるなど、調査が進んでいます。
野口 化学分析もするでしょうが、冷えてどこかにこびりつき、均一に混合しているわけではないでしょう。



2号機原子炉格納容器底部から数個の小石状の核燃料デブリ(1センチメートル程度)を調査機器でつかんで持ち上げた様子。東京電力は2021年中に試験的な取り出しを実施する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症拡大により1年程度遅れる見込み。1~3号機のデプリ総量は推定600~1100トンに上ります=2019年2月(東京電力提供)

1時間いれば死亡
舘野
 餅のようにくっついたものや、小石のようなものですね。小石状でザラザラしていれば、すくい取ることができるかもしれません。ただ溶融した炉心の近くは、1時間もいれば人が死んでしまうほど高い放射線量です。その前提で取り出さなければいけない。
野口 地下水の問題もあります。いまだに1日140トンも原子炉建屋に流れ込み、汚染水を増やしています。敷地の舗装、建屋周囲や上流側の井戸からの地下水くみ上げ、凍土遮水壁…。考えられる手段はほぼやり尽くしたのに、なかなか減らない。現場は大変な状況です。
舘野 原子力規制委員会の最近の事故調査分析で、大量の放射性物質の付着も新たに分かりましたね。
野口 原子炉格納容器の上部にある蓋(ふた=シールドプラグ)のところに、環境に漏れ出た量の何倍もくっついていた。これが環境に出なかったのは不幸中の幸いだったといえるでしょうね。
舘野 排ガス系の配管にも付着していた。そういうものがあると解体は難しく、廃炉の妨げになります。うまく放射線を浴びないように作業できるのか見当もつきません。高濃度放射性物質の付着の原因は、ベント配管が途中で途切れているためであることが最近判明しています。

制御できない下で
―10年を振り返ってどう思いますか。
野口 福島県の避難者は、地震・津波による避難も含め最大16・5万人。今年1月になっても3・6万人が避難しています。これは県の発表ですが、もっと多いという人もいます。
除染が進んだ地域では、空間線量率も下がって自然界のレベルに近づき、事故前の生活に戻りつつあります。でも帰還困難区域では除染が行われておらず、自然減衰以上にはあまり下がっていません。
私は、大学で放射線施設の監督を24年間やってきました。大学では放射性物質が制御できている状態で管理するのに対し、福島の事故では、大規模に放射性物質が環境に漏えいし放射性物質が制御できていない下で管理する。質が全く違います。私自身の専門性が試され、鍛えられた10年間でした。
原発事故に警鐘を鳴らしてきましたが、原子炉3基が同時に炉心溶融し、10万人以上が避難する事故が起こった。旧ソ連チェルノブイリ原発事故(1986年)があったにしても、よもや日本でこれほどの事故が起こるとは想像しませんでした。
舘野 私も、自分の生きている間にこれほどの事故が起こるとは思ってもみなかったですね。旧・原子力研究所で研究していたころから原発問題に首を突っ込み、所内で目の敵にされていました。原子力開発が進められ、私たちは、万一事故が起こったら国民の信頼を失うと昔から警告してきました。
科学者は、自分の科学的知識を正直に言う以外にない。「曲学阿世」(きょくがくあせい=学問の真理に背いて世間に気に入られる説を唱えること)という言葉がありますが、逆風が吹いても、言うべきことは、科学に忠実に発言しなければいけないと思いました。(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年3月7日付掲載


デブリは、4年前から写真を見ることができるなど、調査が進んでいるが、冷えてどこかにこびりつき、均一に混合しているわけではない。溶融した炉心の近くは、1時間もいれば人が死んでしまうほど高い放射線量。それが前提での取り出し作業になる。
野口さんは、私自身の専門性が試され、鍛えられた10年間と。舘野さんも、自分の生きている間にこれほどの事故が起こるとは思ってもみなかったと