きんちゃんのぷらっとドライブ&写真撮影

「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

東日本大震災・原発事故10年 被災地から① 水産業 復興途上で試練次々

2021-03-09 08:02:08 | 震災・災害・復興・地震&災害対策など
東日本大震災・原発事故10年 被災地から① 水産業 復興途上で試練次々
東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から11日で10年。その傷がいえぬまま起きたコロナ禍と2月13日の福島県沖地震。度重なる災害の中、被災者の今と復興への課題を探ります。

宮城・塩釜
宮城県の太平洋沿岸部に位置する塩釜市は、水産業を主要産業とする港町です。不漁、コロナ禍、地震。復興の途上で度重なる災害が、水産・水産加工業の復興をはばんでいます。
全国有数の生鮮本マグロの水揚げ量を誇る塩釜市の魚市場。津波で大きな被害を受け、全面建て替えした新施設を2017年から運用開始しました。魚種拡大のため大型冷凍施設を準備するなど復興に取り組む中、コロナ禍に見舞われました。



マグロがずらりと並ぶ、コロナ禍前の塩釜市魚市場の初競り=2020年1月4日、宮城県塩釜市

コロナに地震
「みなと塩釜魚市場」の志賀直哉社長は、「漁獲が減少しているところにコロナで漁船の寄港が減少し、ブランドマグロの季節の昨年9月ごろから影響が深刻化してきた」と説明。「開設当初120億円だった年間売り上げ目標も、今年度はコロナで70億円くらいか。来年度は80億~90億円はいきたい」と言います。
今年2月13日の福島県沖地震で、塩釜市は震度5強を観測。港の岸壁に長さ約100メートルにわたる段差が生じ、フォークリフト運行に支障が出ています。聞き取りをした日本共産党の天下みゆき宮城県議と塩釜市議団は、県の漁港復興推進室に状況をすぐ伝え、被害調査が始まりました。
魚市場近くの4950平方メートルの建物で、鮮魚店など93店舗が営業する「塩釜水産物仲卸市場」は、震災の前は約170店舗が入っていました。
震災後、ネットやテレビで店内飲食のアピールなど広報に力を入れ、ピーク時は年間100万人が来場。しかし現在はコロナ禍で客もまばらに。仲卸市場の茂庭秀久事務局長は「場内通路に人の姿が見えないなんて以前はなかった」と言います。茂庭氏は「ほとんどの店が持続化給付金を受けました。2回目の実施は絶対必要。今も持続できない状況なんだから」と訴えます。

加工業も深刻
かまぼこなど魚肉練り製品の生産量がかつて全国1位だった塩釜市。水産加工業も状況は深刻です。
「震災から販路が回復せず、特に西日本で苦戦しています」と話すのは、塩釜蒲鉾連合商工業協同組合の理事長を務める阿部善商店の阿部善久社長です。
コロナ禍に加え、2月の地震で床や壁に亀裂が入りました。阿部氏は、「新たに災害がくるたびに震災復興が止まります。消費税を一時免除するだけでも違ってくると思うのですが…」と吐露します。
福島第1原発の汚染水海洋放出の問題については、「海に流したら東北の水産業、養殖業が駄目になってしまう」と懸念します。
震災後にグループ補助金を活用した水産加工業者の社長は、「自己負担分の借入金返済が重いが、先延ばししても最終期限は延ばせない。企業努力にも限界がある。先が見えないが人間に欠かせない『食』を扱っているということが、私たちにとって唯一の希望です」とつぶやくように語りました。(高橋拓丸)(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年3月4日付掲載


漁獲が減少しているところにコロナで漁船の寄港が減少し、ブランドマグロの季節の昨年9月ごろから影響が深刻化。
かまぼこなどの加工業でも、販路が減っている。
さらに、今年2月の地震で設備に被害も。

映画「フィールズ・グッド・マン」 ネット空間でヘイトが加速 実在ユーザーの証言に衝撃

2021-03-07 04:59:52 | 映画について
映画「フィールズ・グッド・マン」 ネット空間でヘイトが加速 実在ユーザーの証言に衝撃
SNSの闇を描いたドキュメンタリー映画「フィールズ・グッド・マン」が、12日から公開されます。フォトジャーナリストの安田菜津紀さんに、寄稿してもらいました。

フォトジャーナリスト 安田菜津紀

変わり者で、とろんと眠たげな目を向け、けれども友人たちから愛されるカエルのぺぺは、若者たちのリアルな日常を描いた漫画「ポーイズ・クラブ」のキャラクターだった。「だった」と安易に過去形にするのは、不適切かもしれない。ぺぺは紛れもなく、作者のマット・フユーリー氏が生み出したのだ。ところが、そんな「オリジナル」を覆うほどの過激な現象が、マットとぺぺに降りかかっていた。




予兆はあった。ネット空間でペペは、ぺぺが放ったせりふ「feels good man(気持ちいいぜ)」と共に、徐々に改変された姿で表れはじめていた。漫画のキャラクターを、不特定のユーザーが自身で描き直しアップする行為は、「よくあること」と見過ごされがちだ。ところがぺぺはやがて、匿名掲示板「4chan」で人種差別のイメージと共に拡散されていく。熱狂的な「トランプ現象」とも結びつき、気づけば作者の意図とかけ離れた独り歩きは、もはや歯止めのきかないところまで加速してしまっていた。
とりわけゾッとしたのは、ぺぺをヘイトのシンポルにまで祭り上げていった人々の証言だった。一見すると“普通”の人々が、ネットで攻撃的な言葉を書き込み続け、矛先を向けたターゲットに“粘着”していく過程が、実在のユーザーの言葉と共に徐々に浮き彫りになっていく。
「原作なんて関係ない」といわんばかりに、自身がヘイト拡散の「加担者」であることを正当化する若者さえいた。「単なるネットの書き込み」と高をくくってはいられない。言葉の暴力は歯止めをかけなければ、身体的暴力に豹変(ひょうへん)する。
こうして映画は、SNSの構造的な問題をとらえながら、自己承認欲求を満たすためにネットストーキング(インターネット上のストーカー行為)を繰り返す心理にも迫り、あふれ続ける「過激な言葉」の濁流の水底に何が堆積しているのかをあぶり出していく。
ともすると人は、わかりやすい「シンボル」や「アイコン」を求めがちだ。だからこそマットとぺぺが、のみ込まれていったフェイクやヘイトの渦は、遠い国の問題とは思えなかった。






日本でもヘイトや誹謗(ひぼう)中傷は、掲示板やSNSで日々繰り返されている。追い詰められたマットはある時、自身の作品中でぺぺを葬ったことがあったが、漫画のキャラクターだけではなく、言葉の刃によって命を絶つまでに人が追い詰められることさえある。法改正やプラットフォーム側の運用のあり方が問われるのはもちろん、スマホのボタンひとつで加害者になってしまわないために、立ち止まり、再考できるかが、私たち一人ひとりにも求められている。

「しんぶん赤旗」日曜版 2021年3月7日付掲載


何の悪意もなくネットに公開した画像や動画が、その作者の意図を超えて変質されて拡散、ひいてはヘイトに使われてしまうってこと。
SNS社会の脅威を描き出します。

車中避難は ば・す・だ・し・で 誤った方法では命の危険

2021-03-06 07:38:01 | 震災・災害・復興・地震&災害対策など
車中避難は ば・す・だ・し・で 誤った方法では命の危険
被災生活で、車中避難をする人が増えています。しかし、車中避難には、エコノミークラス症候群など、命に関わる危険も。アウトドア防災ガイドの、あんどうりすさんに注意点を聞きました。
日恵野香記者

アウトドア防災ガイド あんどうりすさん


自身の阪神・淡路大震災被災経験やアウトドアの知識を生かして啓発活動を行う

コロナ対策やプライバシーの確保などで、車中泊を検討する人もいると思います。誤った方法をとると、健康上の危険を招くこともあります。国や自治体は積極的には推奨していません。自宅の駐車場やキャンプ場などで体験しておくのを勧めます。



事前に体験お勧め 車とつながるテントの活用も
日中は体動かす
車中避難の注意点は「ばすだしで」で覚えましょう。

「ば」は場所選びです。
普段は安全で快適そうに見える場所でも、災害時には利用できない可能性があります。ハザードマップで、浸水や洪水、土砂災害などの危険がない、避難場所と避難経路を確認しましょう。安全で、水道とトイレが使える場所を探してください。


「す」は、水平です。
車中泊で一番気をつけなければいけないのは、エコノミークラス症候群です。
狭い場所に長時間座って体を動かさないと、血栓ができて肺に詰まり、肺塞栓などを誘発する恐れがあります。日中はできるだけ車外で体を動かし、車内で過ごすのは休む時に限る方が良いでしょう。
座席を倒して水平にし、隙間に緩衝材やクッションを詰めます。脚を伸ばして水平に寝られ、寝返りできる空間が確保できないのであれば、車中避難はおすすめしません。車とつなげられるテントなどを活用する方法もあります。


「だ」は断熱です。
車は熱伝導率のいいガラス・鉄でできているので、熱しやすく冷めやすいです。冬場は屋外のテント内よりも寒く、夏場は50度超になることもあります。
足元や寝床の下には銀マットなどの断熱材を敷きます。プチプチした空気緩衝材や段ボール、ヨガマットなども使えます。車のトランクに備えておきましょう。
冬は冷気を防ぐために、特に断熱します。窓には銀マットや空気緩衝材をはがしやすいテープなどで貼り、扉には、段ポールをギュッと押しつけて密着させます。
夏場は、昼間のフロントガラス部分からの熱でやけどする危険もあるので気をつけましょう。フロントガラス用の断熱のサンシェードは、ホームセンターなどで購入できます。


「し」は、収納です。
狭い車内では、鍵や携帯電話、財布など、荷物が行方不明になりがちです。出入りの際に貴重品を落とさないために、つり下げて使うウォールポケットなどが便利です。


断熱した座席の下も、収納スペースに有効活用(本人提供)

「で」は電源です。
電源の確保ができれば、スマホやパソコンで情報収集や救助を求める発信ができます。モバイルバッテリーは必須です。
電気自動車やハイブリッド車は、延長コードを使って室内の家電を動かせる場合があります。車の説明書を確認しましょう。
ガソリン車は、走行中やアイドリング状態の時に、シガーソケットに差し込む型の機器を使えばスマホやパソコンが充電できます。
アイドリング状態は、大雪の場合、一酸化炭素中毒の危険があります。マフラー周辺は徹底的に除雪を。


情報届きにくい
災害時はガソリン不足が問題になり、移動が困難になります。ガソリンが半分になったら給油する習慣をつけておくと安心です。
車中避難では、配給など必要な情報が届きにくいという課題があります。避難所に足を運ぶ、自治体の公式ツイッターをフォローする、防災ラジオを聴くなど、意識的に情報を確認しましょう。
防災の備えを特別なものと考えず、日々の暮らしの中に取り入れると、災害時に新たにやるべきことが減り、心身の負担も減らせます。いろいろ試して、あなた流の防災術を工夫してみてください。


【車中避難持ち物リスト】
□携帯トイレ

成人のトイレの使用回数は1日平均5回。家族の人数×必要日数分の確保を。持ち運びできる簡易トイレにもなる折り畳みイスもあると、さらに安心。
□ヘッドライトやLEDランタン
着替えや車中で過ごす際や、夜間のトイレ外出などに。
□モバイルバッテリーやポータブル電源
スマホやパソコンの電源確保に。
□寝袋
吸湿に優れ、小さくまとまる寝袋を。布団では、体温と車内の温度差により結露が発生して湿ります。
□弾性ストッキング
むくみやエコノミークラス症候群防止に。

「しんぶん赤旗」日曜版 2021年3月7日付掲載


避難所のプライバシー確保はかなり改善されつつありますが、いろいろ便利と車中避難・車中泊をする人がいます。
「ば」は場所選び。「す」は水平。「だ」は断熱。「し」は収納。「で」は電源。
ヘッドライトやLEDランタン、モバイルバッテリーやポータブル電源、寝袋などもそろえておくと便利。
被災時はガソリンスタンドに車が並ぶことも。常に半分以上は入れておくように心がける。

希望をもてる日本へ 5つの改革 第4回【自然と共生】

2021-03-05 07:23:38 | 解散総選挙(2020年~2021年)
希望をもてる日本へ 5つの改革 第4回【自然と共生】
10月までに実施される総選挙に向けて日本共産党が提案した「五つの改革」を紹介するシリーズ。今回は提案4「地球規模の環境破壊を止め、自然と共生する経済社会をつくる」です。
【グリーン・リカバリー】(環境に配慮した景気回復)
●石炭火力の計画的な廃止、再生エネルギー普及で、50年CO2排出実質ゼロを実現。
●原発再稼働ストップ、原発ゼロの実現。
●人も動物も環境も、みんな健康に。至急ワンヘルスで対処する。

地球環境の破壊を止める
1年余で感染者1億2千万人近く、死者250万人をもたらした新型コロナウイルスの世界的流行(パンデミック)。背景に地球規模の環境破壊があることは、今や誰も否定できない共通認識になっています。
ある時点の人間の社会・経済活動を維持するには地球何個が必要かを調べたデータがあります。エコロジカル・フットプリントと呼ばれ、「人間の活動が地球環境を踏みつけにした足跡」のことです。
それによれば1961年には地球が0・73個あれば足りていました。それが70年に1個を突破し、2017年には1・73個になりました(グラフ)。もし全人類が米国並みに資源を消費すれば5・03個、日本並みなら2・91個の地球が必要だといいます。



地球温暖化(気候変動)も人ごとではありません。従来は地表の気温上昇の一部を海が吸収してきました。それが限界に達し、海水温が急上昇。特に顕著なのが日本近海です。
海水温上昇で狂暴化した19年10月の台風19号。東日本の71河川、142カ所が決壊し、死者・行方不明者107人となりました。東京湾に接近したのは干潮時。もしこれが満潮時なら破滅的な被害になったといわれます。
産業革命以降に急速に拡大した大量生産・大量消費・大量廃棄の経済。利潤最優先の資本主義経済システムの下で、人間と自然の均衡が失われました。いま猛威をふるう新型コロナを抑えたとしても、根本原因に対処しなければ、次の感染症の流行は避けられません。
新たな対処法として提起されているのが
「ワンヘルス」(一つの健康)です。たった一つの地球で、人間の健康、動物の健康、自然(生態系)の健康を一体のものとしてとらえ、保全すべきだという考え方です。今回の「提案」は、この考え方も取り入れています。



緊急ワクチン接種センターとなった英バーミンガムのリッチフィールド大聖堂=1月15日(ロイター)

人も動物も環境も一つ「ワンヘルス」の考え方
WWF(世界自然保護基金)ジャパン野生生物グループ 浅川陽子さん



いま新型コロナウイルス感染症が大きな問題となっています。最近は毎年、五つ以上の新たな感染症が発生し、うち一つがパンデミックとなっています。哺乳類、鳥類が保有する未知のウイルスのうち人間に感染しうるものは80万をも上回るとみられています。
「ワンヘルス」とは、人の健康、動物の健康、生態系の健康を一つの健康と捉える概念です。生態系を健全なものにしなければ、動物由来の新たな感染症のパンデミックは予防できないからです。
2004年に米ニューヨーク市のマンハッタンで開かれた国際会議で「マンハッタン原則」が採択され、ワンヘルスに取り組む12項目の行動計画が定式化されました。10年に名古屋で開かれた生物多様性条約第10回締約国会議が採択した「愛知目標」も、ワンヘルスに共通する目標が掲げられています。今回の新型コロナ禍でワンヘルスが改めて注目されています。
ただ「理念としては分かるが、問題が大きすぎ、個々の市民がどう行動すればいいか分からない」と思う方も多いでしょう。WWFが取り組んでいることの一つは、自然由来の食物や製品を買う際に認証マーク(エコラベル)の付いた商品を選ぶ働きかけです。
例えば熱帯林破壊を起こしうるパーム油は、カップラーメンなどの食品や化粧品など、いろんなものに使われています。これらを買う時はRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)のマークが付いた商品を選んでください。
持続可能な方法で作られた木材や紙製品にはFSC🄬(森林管理協議会)のマーク、持続可能な水産物にはMSC(海洋管理協議会)のマークがあります。
日本は、サル、カワウソ、トカゲ、カメなど、海外原産の動物がペットとして輸入、取引される輸入大国の一つです。これらの野生生物の輸入規制も重要です。
今回の提案でワンヘルス問題を取り上げていただいたことは大変うれしいです。ぜひ推し進めてほしいです。

「しんぶん赤旗」日曜版 2021年3月7日付掲載


ある時点の人間の社会・経済活動を維持するには地球何個が必要かを調べたデータ。
2017年には1・73個になりました(グラフ)。もし全人類が米国並みに資源を消費すれば5・03個、日本並みなら2・91個の地球が必要だと。
人も動物も環境も一つ「ワンヘルス」の考え方。
日本は、サル、カワウソ、トカゲ、カメなど、海外原産の動物がペットとして輸入、取引される輸入大国の一つです。これらの野生生物の輸入規制も重要。

カップラーメンで使われているというパーム油。家にあるカップラーメンの原材料にはパーム油はなかったようです。

課税新時代③ 課税権力のグローバル化

2021-03-02 07:51:03 | 予算・税金・消費税・社会保障など
課税新時代③ 課税権力のグローバル化
京都大学教授 諸富徹さんに聞く

―合算課税(ユニタリータックス)の導入は「課税権力のグローバル化」という観点からはどのような意義を持ちますか。
合算課税は、多国籍企業グループが全世界であげた利益を合算し、単一の全体利益を把握する方式です。これを実行するためには、企業の所得の定義を世界共通のものにする必要があります。また、各国ごとに企業の利益と費用を足し合わせるためには、企業活動に関する国別の情報を集約しなければなりません。
この段階で、各国の課税権力は国境を越えて強力に結びつき、ネットワーク化され、協力し合う関係になっていきます。企業が国境を越える経済活動を活発化させ、税逃れを激化させてきたのに対抗して、国家の側も国際課税ルールの共通化という形で国際協調を進め、税逃れを封じ込めようとしているという構図です。これは、国家こそが課税主権の唯一かつ排他的な主体であるという、19世紀以来の国家観からの脱却をも意味します。私たちは、「課税権力のグローバル化」が目の前で進行しつつあるのを目撃しているのです。
ただし、国民国家を超える世界政府のような課税主権を生み出すのとは違い、現行の国家単位の課税主権は維持されます。把握された多国籍企業の全体利益は、ケーキにナイフを入れるように切り分けられ、各国に配分されます。その後は、従来と同じように各国乙との徴収機関が課税を行います。このように、国家の課税主権を前提にして国際協調体制を深化させることで創出される21世紀型の新しい課税権力を、私は「ネットワーク型課税権力」と呼んでいます。
―現在、経済協力開発機構(OECD)は世界共通の最低法人税率を導入するという提案も行っています。
これも画期的です。
かねて、とめどなく法人税率を引き下げる「底辺への競争」を食い止める方法は最低法人税率の導入しかないといわれてきました。それがようやく日の目を見る。少なくともOECDが提案するところまでたどり着いたということです。



税逃れで有名な米国企業アップルの店舗=東京都内

市民が怒りの声
―「課税権力のグローバル化」が進む背景には何がありますか。
振り返ってみると、変化は2010年代半ばぐらいから起きていました。それまでOECDは「合算課税なんて非現実的だ」といっていました。ところが、無形資産によって増幅された多国籍企業の税逃れの実態が暴かれ、これを放置していたらひどくなるばかりだと、欧州諸国が突き上げたんですね。遠因は2008年のリーマン・ショックと、それに続いた欧州債務危機です。
低信用層向け高金利型(サブプライム)住宅ローンで火遊びをした金融機関は、公的資金で救済されたのに、一般市民は不況と緊縮財政で塗炭の苦しみを味わっている。「なんだ、これは」と市民が怒りの声をあげたのです。消費者や労働者の負担をこれ以上増やせない情勢の中で、税逃れしている多国籍企業からとろうという各国政府の問題意識が高まりました。金融部門に負担を求める金融取引税のアイデアが出てきたのもそういう脈絡です。
パナマ文書などを通じて、租税回避地の実態が全世界に知れ渡り、租税回避地の側が改革の動きに抵抗しきれなくなってきたという事情もあります。

変わる税制議論
―日本ではどんな運動が必要でしょうか。
税制をめぐる世界の議論は変わってきました。日本では、「社会保障を望むなら消費税率を上げるしかない」といわれてきましたが、そうではない道があることを国民に知らせる運動が必要です。
夢物語と思われるかもしれませんが、企業活動のグローバル化に対抗する「課税権力のグローバル化」はもう始まっています。OECDは今年半ばまでに合算課税と最低法人税率導入の最終合意に達することをめざしています。企業側の抵抗があり、紆余(うよ)曲折はあるでしょうが、それらを実行できる基盤が整いつつあるのです。
国際的な潮流を踏まえて、税制をめぐる議論の構図を変えていかなければなりません。
(おわり)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年2月27日付掲載


多国籍企業が世界をまたにかけて利益を上げているのを手をこまねいて見てるわけにはいかない。各国はお互い協力して、多国籍企業に課税して行こう。
「課税権力のグローバル化」って観点です。
それは、パナマ文書などの開示によって、「これはなんだ!」って怒りが市民社会から沸き起こったこと。国家もそれに応えざるをえなくなった。
日本でも、自公政権に対して市民と野党の共闘が沸き起こっていますが、国際レベルでの課税の動きです。