きんちゃんのぷらっとドライブ&写真撮影

「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

AIと科学的社会主義④ 分業固定の条件崩す

2024-09-25 07:15:40 | ドライブ(県内)
AIと科学的社会主義④ 分業固定の条件崩

経済研究者 友寄英隆さん

人工知能(AI)の進化は、人間の労働のあり方や、肉体労働と精神労働の分離・分業と格差の固定化、階級支配との関連の問題についても、新しい視点をもたらす可能性があります。
マルクスが『資本論』のなかで強調しているように、人間の活動はほんらい、どんな肉体的活動であっても精神的活動と結びついており、それが他の動物の活動と根本的に違う特徴です。ところが人類の歴史においては、私有財産の発生と同時に、肉体労動と精神労働の分離が始まりました。すでに古代社会から、支配階級は精神労働の分野を独占し、それを搾取制度の手段としてきました。
資本主義的搾取制度は資本による生産手段の私的所有を前提としています。資本は、生産手段の資本所有を根本的条件としつつ、労働の性格という面からみると、肉体労働と精神労働の職業的分業を固定化し、それを階級的支配のために利用してきました。



マンハッタンにあるグーグルビル(ロイター)

精神労働を代替
マルクスは『ゴータ綱領批判』のなかで「共産主義社会のより高度の段階で、すなわち個人が分業に奴隷的に従属することがなくなり、それとともに精神労働と肉体労働との対立がなくなったのち…」と述べています。AIは、未来社会のより近い段階で、「精神労働と肉体労働との対立」をなくすための技術的な条件を準備する可能性があります。
生成AIの開発は、人間の精神的労働がコンピューターによってかなりの程度まで代替されうることを示しています。これは、人類史において搾取制度の手段ともなってきた肉体的労働と精神的労働の分離、職業的固定化の条件が崩れつつあることも意味します。
ところが皮肉なことに、現代の資本主義のもとでは異常な報酬格差が拡大しています。たとえば、次のような報道があります。
「NECはAIなどの分野で優秀な新卒者を対象に年収1000万円以上を提示。富士通は最高で年収3500万円を提示できるとされるデジタル人材向けの新制度を導入」。「海外では、最上位クラスだと同120万ドルといった高い報酬で処遇されている例もある」(米ブルームバーグ通信、22年3月2日付)120万ドルといえば、1億8000万円(1ドル=150円で換算)です。日本では、大企業がIT人材の大卒者を高給で迎え入れているために、理工系大学院への進学者が減少し、独創的な学術研究の弱体化が懸念されています。ある意味では逆説的な現象ですが、利潤を追求する資本主義的な搾取制度の本質的な矛盾でもあります。

脳には及ばない
エンゲルスは『自然弁証法』のなかの手稿「猿が人間になるにあたっての労働の役割」で、労働とともに言語が生まれ、この二つが最も本質的な推進力となって人間の脳が形成されてきたと述べています。ギリシャ語の「言葉(ロゴス)」が同時に「理性」を意味するように、人間の精神的活動は言語を使ってなされるからです。
生成AIとは、人間の求めに応じて文章や画像を作成してくれるAIのことです。生成AIのような大規模言語モデルの開発は、人間の精神的活動と深くかかわっています。
とはいえ、生成AIが人間の言語活動を模倣できるようになったとしても、人間の精神的活動を代替できるようになったとはいえません。現在のAIにはさまざまなリスクや欠陥があり、人間の脳にはまだ遠くおよばない未完成の技術です。
モナリザを描いているレオナルド・ダビンチの手の動きは、言語によっては説明できません。生成AI(generative AI)は、創造AI(creative AI)ではないのです。(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年9月20日付掲載


マルクスは『ゴータ綱領批判』のなかで「共産主義社会のより高度の段階で、すなわち個人が分業に奴隷的に従属することがなくなり、それとともに精神労働と肉体労働との対立がなくなったのち…」と述べています。AIは、未来社会のより近い段階で、「精神労働と肉体労働との対立」をなくすための技術的な条件を準備する可能性が。
生成AIが人間の言語活動を模倣できるようになったとしても、人間の精神的活動を代替できるようになったとはいえません。現在のAIにはさまざまなリスクや欠陥があり、人間の脳にはまだ遠くおよばない未完成の技術。
モナリザを描いているレオナルド・ダビンチの手の動きは、言語によっては説明できません。生成AI(generative AI)は、創造AI(creative AI)ではない。

AIと科学的社会主義③ 知能の解明をめざす

2024-09-24 05:13:16 | 政治・社会問題について
AIと科学的社会主義③ 知能の解明をめざす

経済研究者 友寄英隆さん

人工知能(AI)の研究・開発は、医学や生命科学の分野にも、大きな影響をもたらしつつあります。
日本の人工知能学会が総力をあげて編集した『人工知能学大事典』(2017年)では、AIと脳科学との関係について次のように解説しています。
「人工知能の研究は、人間の知能を人工物として実現することを目的とするが、それだけでなく、それを通じて知能の働きを解明することを目指す研究分野でもある」
実際に、近年の急速なAIの技術的な進歩、たとえば生成AIのような大規模言語モデルの開発は、人間の脳のニューロン(神経細胞)を模した深層学習によって急速に発展しました。



共立出版(2017年)

量子脳の可能性
AIと心の関係については、さまざまな研究や論争がありますが、ここでは、20年のノーベル物理学賞を受賞したロジャー・ペンローズ博士の提唱している量子脳理論にふれておきましょう。
ペンローズ博士は、AIについて物理学の視点から論じた『皇帝の新しい心―コンピュータ・心・物理法則』(原著:1989年)を発表しています。そのなかで、人間の脳の神経細胞が生成する意識は無数の量子によるものなので、量子論でしか説明できない、そのため現在の電子コンピューターのレベルでは人間の心は実現できないと主張しています。逆に言えば、量子コンピューターが実現したら「量子脳」の可能性が生まれるということになります。
広い意味の人間の精神的活動には、「知」だけでなく、《知・情・意》の「情」すなわち《喜怒哀楽》のようなさまざまな感情の働きも含んでいます。また《知・情・意》のなかの「意」は、人間の自律的な意思決定のことを指しています。
さらに、人間の脳による精神的活動、心の動きは、目、耳、鼻、舌、皮膚などの感覚器官、いわゆる五官が外界と接触することによって成り立っています。また、それらの認知活動は、手や足などの身体全体の活動と切り離すことができません。
その意味では、AIの研究にとっては、人間の知能の研究だけでなく、身体のあらゆる機能を研究する医学や生理学の研究も必要です。生命科学や生物学、さらに心理学、認知科学、情報科学、スポーツ科学などとも結びついています。


人類史の発展と疫学転換による寿命の延伸
社会制度疫学転換(死亡率の変化)寿命(年)
原始社会第1の疫学転換
感染症蔓延(まんえん)による死亡率上昇
20~40
古代社会
封建社会第2の疫学転換
感染症制圧による死亡率低下
30~50
資本制社会
第3の疫学転換
循環器系疾患制圧による死亡率低下
50~80
将来第4の疫学転換
がん制圧による死亡率低下
80~120
未来社会
自然との物質代謝
AIの利用・共生
第5の疫学転換
老化の遅延・減速(可能性)
120~?
堀内四郎論文(2001年)などを参考に著者作成


平均寿命120歳?
疫学とは、疾病の原因や流行、健康状態や寿命の条件を探究する医学の一分野です。コロナパンデミックとのたたかいのなかで、あらためて注目されています。
疫学の研究によると、人類の平均寿命は、原始社会の20~40歳から歴史発展とともに延伸し、資本主義時代には50~80歳代にまでなり、さらに将来の疫学転換の第5段階では120歳を超える可能性も展望されています。
人類の寿命の延伸の条件は、なによりもまず、地球環境の危機を打開して、人間と自然の物質代謝を正常に回復することです。そのうえで、AIなどの科学・技術の発展を真に人類全体の幸せのために利用できるようにすることが前提になります。そのためには、資本主義という階級対立、国家対立の時代を超えて、人類が共産主義・社会主義へむかって新たな時代を切り開いていかねばなりません。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年9月19日付掲載


疫学とは、疾病の原因や流行、健康状態や寿命の条件を探究する医学の一分野です。コロナパンデミックとのたたかいのなかで、あらためて注目されています。
疫学の研究によると、人類の平均寿命は、原始社会の20~40歳から歴史発展とともに延伸し、資本主義時代には50~80歳代にまでなり、さらに将来の疫学転換の第5段階では120歳を超える可能性も展望。
人類の寿命の延伸の条件は、なによりもまず、地球環境の危機を打開して、人間と自然の物質代謝を正常に回復すること。そのうえで、AIなどの科学・技術の発展を真に人類全体の幸せのために利用できるようにすることが前提。そのためには、資本主義という階級対立、国家対立の時代を超えて、人類が共産主義・社会主義へむかって新たな時代を切り開いていかねばなりません。

AIと科学的社会主義② 途方もない電力消費

2024-09-23 07:10:18 | 政治・社会問題について
AIと科学的社会主義② 途方もない電力消費

経済研究者 友寄英隆さん

人工知能(AI)は、人間と自然の物質代謝のあり方にも大きな影響をもたらします。気候危機や宇宙開発などとも深く関連します。
人間の脳とAIとの決定的な違いは、人間の脳はきわめて微小なエネルギーで驚くべき能力を発揮しますが、少なくとも現段階のAIは途方もない電力を消費することです。国際エネルギー機関(IEA)の資料によると、一般的なグーグル検索が1回あたり平均0・3Wh(ワット時)の電力を消費するのにたいし、米オープンAI社の対話型生成AI「チャットGPT」は10倍の2・9Whも必要です。(1月25日付「日経」)
AIの開発・利用が進むとともに、膨大な計算資源を蓄積・管理するデータセンターの建設が世界中で進んでいます。IEAの試算では、2026年の世界のデータセンターの電力消費量は、22年の2倍以上の1050テラWh(1テラは1兆)に拡大します。日本の年間総電力消費量に相当する規模です。



米オープンAIのロゴマーク(ロイター)

CO2との関係
AIが膨大な電力を消費することは、地球温暖化を防ぐためのCO2削減の実現にとっては、大きな負担となります。実際に、生成AIの開発・利用が急激なブームとなった23年ごろから、AI先進国のCO2削減目標の達成が危ぶまれてきています。日本政府は「エネルギー基本計画」を改定中ですが、AIによる電力需要の増大を口実にして、原子力発電所の再稼働、新増設を狙っています。
他方では、AIはCO2排出量の削減や炭素回収技術の開発に寄与する側面もあります。たとえば、AIは大量の気象データを分析し、気象パターンや気候変動の予測、異常気象の早期警戒や対応策の立案に寄与しています。また、AIはセンサーや衛星データを活用してリアルタイムで環境の監視を行い、森林破壊、海洋汚染、大気質の変化などを検出し、環境保護活動がより効果的に行われるようにします。
23年からの生成AIブームの陰に隠れていますが、メタバースの開発・利用も進んでいます。メタバースとは「仮想空間」と翻訳されるように、インターネットの空間に人工的な世界をつくり出す技術です。
メタバースとAIとは密接な関連があります。メタバースでつくり出した仮想世界の内部に、アバターと呼ばれる人間の分身を登場させて、AIによって操作することができるからです。




宇宙開発と軍事
近年のAIの能力向上とともに、宇宙開発の国際競争に急速に拍車がかかっています。
AIは、惑星探査ロボットの制御によって宇宙開発に利用されています。これらのロボットは、地球から遠く離れた場所で作業するため、人間の指示を待つことなく自律的に判断して行動できなければなりません。AIは、障害物を回避し、サンプルを収集して写真を撮影するロポットの能力を高めています。
宇宙分野の開発は多大な資金と技術を要するため、国際協力が不可欠です。しかし、AIによる宇宙開発競争は、大国間の政治的軍事的な緊張を激化させています。
AIによる宇宙開発は、AIの軍事利用と連動しています。『防衛白書』(24年版)はAI技術について「軍事分野においては、指揮・意思決定の補助、情報処理能力の向上に加え、無人機への搭載やサイバー領域での活用など、影響の大きさが指摘されている」、「将来の戦闘様相を一変させる、いわゆるゲーム・チェンジャーとなりうる」として、AIの軍事利用の意義について繰り返し強調しています。
(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年9月18日付掲載


人間の脳とAIとの決定的な違いは、人間の脳はきわめて微小なエネルギーで驚くべき能力を発揮しますが、少なくとも現段階のAIは途方もない電力を消費すること。
AIが膨大な電力を消費することは、地球温暖化を防ぐためのCO2削減の実現にとっては、大きな負担と。
他方では、AIはCO2排出量の削減や炭素回収技術の開発に寄与する側面もあります。たとえば、AIは大量の気象データを分析し、気象パターンや気候変動の予測、異常気象の早期警戒や対応策の立案に寄与。

AIと科学的社会主義① 「一度きりのチャンス」

2024-09-22 07:14:50 | 政治・社会問題について
AIと科学的社会主義① 「一度きりのチャンス」

経済研究者の友寄英隆さんに「人工知能(AI)と科学的社会主義」をテーマに寄稿してもらいました。

経済研究者 友寄英隆さん

これまで筆者は本紙でさまざまな角度からAIをとりあげてきました(「生成AIルールを考える」「AIとルール」「AIと民主主義」など)。今回は「AIと科学的社会主義」という視点から、未来社会とのかかわりにも焦点をあてつつ、AI技術の特徴を考えてみましょう。
AIは人間の知能にかかわる技術ですから、その発展は自然科学、社会科学、人文科学の知識を吸収して、文字通り総合的な特徴をもっています。AIは、これまで人類が築き上げてきたさまざまな分野の科学・技術の集積の上に発展してきたのです。一例として、20世紀に急速に切り開かれた量子物理学とAIの関係をみてみます。



米半導体大手ネヌビディアのロゴマーク(ロイター)

原爆の開発にも
米国のIT(情報技術)企業エヌビディアは、AI向け半導体の開発・製造で急激に成長した企業です。
同社の株価総額は今年、GAFAM(ガーファム=グーグル、アマゾン、フェイスブック〈現・メタ〉、アップル、マイクロソフト)と呼ばれる巨大IT企業をも抜いて一時トップになりました。同社は最先端の生成AI向け画像処理半導体(GPU)で、世界市場シェアの実に9割以上を占めるからです。
エヌビディアなどが製造するAI半導体は最先端の量子物理学の理論がなければ作れません。量子物理学は、電子の運動のような微小なスケールでの物理現象を解明する理論であり、古典物理学では説明しきれない現象を扱えるからです。
コンピューターの部品である半導体の技術は、1940年代のトランジスタの発明のころから、量子物理学の発展と並行して開発されてきました。
量子物理学はAIの発展にとって基礎的な科学・技術ですが、忘れてならないのは、それは原子爆弾の開発にとっても前提となったということです。
映画「オッペンハイマー」は、史上最初の原子爆弾を開発するためのマンハッタン計画に、当時の量子物理学研究者が動員された様子を描きました。量子物理学の父とも呼ばれるニールス・ボーアをはじめ、ノーベル物理学賞を受賞した研究者たちが核兵器開発に協力しました。
アルバート・アインシュタインは開発に直接は参加しませんでしたが、ナチス・ドイツの原爆開発を懸念して米国大統領に原爆開発を進言しました。しかし戦後は核兵器廃絶のために尽力しました。

最善か、最悪か
コンピューターやAIの発展には、数理科学も貢献しています。AIの技術は最適化アルゴリズム(問題解決の方法)の研究を前提とし、数理科学や情報科学の発展によって支えられています。
「車いすの宇宙物理学者」として、世界中の人びとから敬愛されていたスティーブン・ホーキング博士は、遺言ともいうべき著作『ビッグ・クエスチョン―〈人類の難問〉に答えよう』(邦訳2019年3月)のなかで、「AIの到来は、人類史上、最善の出来事になるか、または最悪の出来事になるだろう」と指摘して、次のように述べています。
「火を使いはじめた人間は、何度も痛い目を見たのちに消火器を発明した。核兵器や合成生物学、強い人工知能といった、もっと強力なテクノロジーについては、あらかじめ計画を立てて最初からうまくいくようにしなければならない。なぜならそれは一度きりのチャンスになるかもしれないからだ。私たちの未来は、増大するテクノロジーの力と、それを利用する知恵との競争だ。知恵が確実に勝つようにしようではないか」
「一度きりのチャンス」と言うのは、核兵器にしても、AIにしても、その国際的管理に失敗したら、人類破滅の危機に陥る危険があるからです。
(つづく)(5回連載です)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年9月17日付掲載


米国のIT(情報技術)企業エヌビディアは、AI向け半導体の開発・製造で急激に成長した企業。
元々、グラフィックボードのメーカーに過ぎなかったエヌビディア。そのGPUの技術がAIに応用されるってことで急成長しました。
「車いすの宇宙物理学者」として、世界中の人びとから敬愛されていたスティーブン・ホーキング博士の言葉から。
「火を使いはじめた人間は、何度も痛い目を見たのちに消火器を発明した。核兵器や合成生物学、強い人工知能といった、もっと強力なテクノロジーについては、あらかじめ計画を立てて最初からうまくいくようにしなければならない。なぜならそれは一度きりのチャンスになるかもしれないからだ。私たちの未来は、増大するテクノロジーの力と、それを利用する知恵との競争だ。知恵が確実に勝つようにしようではないか」
「あらかじめ計画を立てて最初からうまくいくように…」って言いますが、資本主義のシステムでそれが可能かってことですね。

子どもたちとともに 「教育のつどい」から⑤ 自分らしくふるまえる

2024-09-21 07:05:03 | 政治・社会問題について
子どもたちとともに 「教育のつどい」から⑤ 自分らしくふるまえる

大阪府貝塚市にある通信制・単位制の私立秋桜高校の教員、蔦(つた)緑さんと壽山(ひさやま)雅美さんは「発達・学力、教育課程づくり」分科会で「誰もがよりよく生きていける社会をめざして」と題して報告しました。

強さ誇示せずに
同校は開校して23年目。不登校や高校中退、勉強が苦手など、さまざまな背景をもつ子が入学してきます。毎月数日登校して授業を受け、月末にリポート課題を出します。474人が在籍し、校則はありません。
入学した当初、外履きの靴で職員室に入ってきた生徒がいました。壽山さんはおにぎりとみそ汁を出し、肩をもんでリポートを応援しました。2回目も外履きで入ってきましたが、スリッパを渡すと履き替えました。3回目は玄関でスリッパに履き替えました。
「学校で過ごすうちに、強さを誇示しなくてもいいとわかって、好き勝手にすることがなくなっていく」と壽山さん。「その子が本来持っているものを損なわず、自分らしくふるまえる場所が学校だったらいいなと思います」と話しました。同校でも生徒との関係は初めからよかったわけではありません。2人が初任のときは、話しかけると「しゃべりかけてくんな」と怒鳴られたり、貸した鉛筆を目の前で折られたりしたといいます。学校の教員全体で子どもたちをどうとらえ、どんなかかわり方をしたらよいのか語り合うことがなかったそうです。
「教職員が個々の思いや判断で子どもと出会うのではなく、みんなで大事に出会っていこう」という思いが教職員全体に広がっていきました。▽生徒全員の名前を覚えて呼ぶ▽月1回の学校からの郵送物に、手書きの手紙を入れる▽朝、誕生日の子どもを確認し、直接または動画でハッピーバースデーの歌とメッセージを送る―ことを大事にしています。
どの子も大切にする同校の思いは憲法の理念と一致する、と2人は言います。それは教科の教育内容にも生きています。



「発達・学力、教育課程づくり」の分科会で報告する(右から)蔦さんと壽山さん=8月18日、大阪市内

不当なことに声
2年生の「家庭基礎」の授業では1955年の森永ヒ素ミルク事件を題材に、不当なことに対して声をあげることの大切さを考えました。
森永事件では約1万3000人の乳児がヒ素中毒になり、130人以上の死者が出ました。森永は死亡者に25万円、中毒者に1万円しか払いませんでした。
生徒からは「25万とかありえへん」と声が出ました。
後遺症が出た被害者が14年後に再び声をあげ、森永はその翌年、被害救済への協力を表明しました。
近年カップ焼きそばにゴキブリが混入した事件では、会社は半年間営業を停止して原因を究明し、再発防止に努めた例を蔦さんが紹介。「かつてたたかった人が勝ち取った歴史が、いま消費者の権利や企業の責任を当たり前のこととして社会に浸透させた。おかしいことはおかじいと声に出すことがみんなの生きやすさにつながる」ことを伝えました。
分科会には、卒業生(19)も一緒に参加しました。障害のある子どもが放課後などに通う放課後等デイサービスで働きながら、大学進学をめざしています。「私もそんな人(秋桜の教員のような人)になりたい。秋桜みたいな学校が全国に増えてほしい」と話しました。
(染矢ゆう子)(おわり)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年9月14日付掲載


「教職員が個々の思いや判断で子どもと出会うのではなく、みんなで大事に出会っていこう」という思いが教職員全体に広がっていきました。▽生徒全員の名前を覚えて呼ぶ▽月1回の学校からの郵送物に、手書きの手紙を入れる▽朝、誕生日の子どもを確認し、直接または動画でハッピーバースデーの歌とメッセージを送る―ことを大事に。
2年生の「家庭基礎」の授業では1955年の森永ヒ素ミルク事件を題材に、不当なことに対して声をあげることの大切さを考えました。
森永事件では約1万3000人の乳児がヒ素中毒になり、130人以上の死者が出ました。森永は死亡者に25万円、中毒者に1万円しか払いませんでした。
生徒からは「25万とかありえへん」と声が。
後遺症が出た被害者が14年後に再び声をあげ、森永はその翌年、被害救済への協力を表明。