尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「大ロシア共栄圏」の下のウクライナ窮乏化

2022年05月02日 22時53分02秒 |  〃  (国際問題)
 国連のグテーレス事務局長が4月末にロシアとウクライナを相次いで訪問した。普通ならそこでは何か停戦に向けたリップサービスなどがあるものだが、プーチン大統領は全く取り合わなかった。一応マリウポリから避難する市民に対する「人道回廊」を国連が関与して作るという話は出た。しかし、その後現実化しているという報道がない。それどころか、モスクワからウクライナに移動したグテーレス氏の滞在中に、ロシアはキーウにミサイルを撃ち込んだ。信じられない話だが、それが現実のロシアの対応だった。
 
 上記2つの画像を見ると、その雰囲気が何となく判る。前がウクライナで行われたグテーレス事務局長とゼレンスキー大統領の会談。後ろは同じくグテーレス事務局長とプーチン大統領の会談。開戦前にヨーロッパ首脳が相次いでモスクワを訪問した際も、異様に離れてテーブルに向かい合ったプーチンと相手方の写真が公開された。新型コロナウイルスを恐れた「ソーシャル・ディスタンス」だとも言われるが、何か「世界からの孤立」を象徴するかのような風景である。

 ロシア軍のウクライナ侵攻が始まって2ヶ月以上。改めて思うのはロシアが、というかプーチン大統領がというべきだろうが、「何を目指しているのか判らない」ということではないだろうか。ウクライナに何があったにしろ、ウクライナの各地に容赦なくミサイルを撃ち込むということの目的は理解しがたい。逆に言えば、「東部地域(ドンバス)に侵攻する」だけなら、理解することは可能である。もちろんそれは非難されるべきことだが、すでに2014年に「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」という「偽国」をねつ造してしまった。ドネツク、ルガンスク両州の全域支配を目指すだけならば、「理解」は可能になる。

 しかし、ロシア側がはっきりした目標を明示しないこともあって、一体何のための戦争なのか誰にもよく判らない。戦時では「国難に立ち向かう強い指導者」に支持が集まるもので、ロシア国内でもプーチン政権の支持率が高くなっている。恐らくは「ただ支持している」のだと思う。「ウクライナに侵攻している」という意識もロシア国内では少ないのではないかと思う。よくロシアとウクライナにさらにベラルーシを加えて、「スラブ系民族の兄弟国」などと呼ぶことがある。確かに歴史的、文化的、言語的にも共通性が多いのは確かだ。しかし、ロシア人の意識ではロシアが兄であって、ウクライナが次男ベラルーシが三男といった感じに違いない。「兄弟」と表現した時点で、「長幼の序」意識が入り込んでくる。

 1991年末にソ連が突然崩壊した時点で、ソ連邦構成国には多くのロシア人が居住していた。ソ連は経済、交通などで一体化していたから、仕事などでロシアから各社会主義共和国に移り住んでいた人が多かった。例えば、カザフスタンでは今でも2割ぐらいはロシア人である。かつての大日本帝国が崩壊したときにも、朝鮮や台湾、「満州国」などに多くの日本人が住んでいた。しかし、日本の場合は戦争敗北によるものだったから、「外地」に住んでいた日本人は苦労を重ねながら全員が「引き揚げ」てきた。(帰国できずに死亡した人、現地に残された「残留孤児」も多かったが。)

 しかし、ソ連崩壊は「平和的」に起こったので、ロシア人たちの多くはその後も住み続けてきた。例えばバルト三国の一つ、ラトビアでは国民の4分の1近くがロシア系である。その中にはラトビア国籍を取得しないままの人も多く、社会問題になっている。ロシア語も使われているが、ラトビア語を使わなければ不利になるようなラトビア化政策が行われてきた。ロシアとの間で長く揉めているが、ラトビアはNATOに加盟しているから、ロシアもうかつには侵攻出来ない。EUにも加盟していて、もう西欧社会の一員という構図が定着している。バルト三国は独ソ不可侵協定の秘密条項によって、第二次大戦勃発時に強制的にソ連に編入された。それ以前は独立国だったわけだから、ロシアも不満ながら認めざるを得ないのだろう。

 そこがウクライナと違う点だと考えられる。ウクライナも第一次大戦直後に独立を宣言したことがあったが、結局ソ連(西部はポーランド)に支配された。ウクライナは帝政ロシア、ソ連と体制は異なっても、ロシアの「帝国」の内部だった。「独立」を果たしても、長年の関係はすぐには切れない。ロシアからすれば、「事実上の属国」である。そうであらねばならない。しかし、はっきりとウクライナは西欧入りを目指してきた。サッカーのヨーロッパ選手権大会ウクライナとポーランドが共催したのは、もう10年前の2012年のことである。調べてみると、キエフ(キーウ)、ハリコフ(ハルキウ)、ドネツク、リビウの4都市で試合が行われた。意識ではロシアよりポーランドの方が近しくなったとしても不思議ではない。(なお、同大会の最優秀選手はイニエスタ。)

 ウクライナで民主的な方法で親ロシア政権が誕生することはあり得ない。何故なら、ドネツク、ルガンスク両州の一部、及びクリミア半島がウクライナから「独立」して、ロシア系住民の有権者数が大幅に減ったからである。大統領選挙でも議会選挙でも、親ロシア派はもうウクライナの選挙では勝つことが出来ない。従って、ロシアがウクライナの政策を変える手段は、武力行使しかなかったことになる。しかし、武力侵攻でウクライナを支配権に再び組み込んでも、それは長続きするものじゃないだろう。それで良いということなんだと思う。ウクライナが窮乏化しても、むしろロシアに逆らったことへの見せしめになる。

 ロシアは周辺国のロシア系住民が虐待されていると訴える。そのような国でロシア系住民の「独立」国を作る。かつてナチスドイツがチェコスロヴァキアの(当時ドイツ系住民が多かった)ズテーテン地方の割譲を要求したようなものだろう。そのように旧ソ連圏でロシアを中心にした「大ロシア共栄圏」のようなものを作ろうとしているのだと思う。かつての「大東亜共栄圏」のようなもので、「共に栄える」といいながら、どこの国が「指導国」なのかは決まっている。決して対等ではない。

 ウクライナ政権が緒戦で崩壊しなかった時点で、「ウクライナ全土の保護国化」は不可能となった。そこで残された目標は「ウクライナの破壊」ということになってくる。ロシア系住民地区は「独立」(いずれはロシアに編入)させるが、その他の地域はロシアが支配する地域ではないから、責任を持つ必要がない。ロシアの現時点での戦闘行為を見ている限り、いずれは訪れる停戦後にウクライナと友好関係を結ぼうと思ってはいないだろう。そのような「戦後への布石」が感じられない。取りあえずは、ウクライナの分割親ロ派支配地区以外のウクライナの窮乏化が目標にならざるを得ないのではないか。
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長期戦が避けられなくなったウクライナ戦争

2022年04月29日 22時58分21秒 |  〃  (国際問題)
 ウクライナの戦況を考えると、現在時点では「長期戦が避けられない」ということがはっきりしてきたと思う。ほぼ一ヶ月前に「突然終わる可能性も」を書いた。その後首都キーウ近辺に展開していたロシア軍が撤退し、「突然終わる」可能性が大きくなったかに見えた時もあった。ウクライナ戦争はロシアから見て(反ロシアになった)「ウクライナ懲罰戦争」という側面があって、かつての中国による「ヴェトナム懲罰戦争」のように突然始まって突然終わる可能性が起こりうると考えたのである。

 しかし、それから一ヶ月して、東部戦線、さらに南部戦線と侵攻は続き、ロシア軍がすぐに停戦する可能性はない。5月9日の「戦勝記念日」までに終わるという観測もあったが、現状ではウクライナ側の方で応じる可能性がない。プーチンはブチャの「戦争犯罪」(ウクライナによるねつ造と主張)や黒海艦隊の旗艦「モスクワ」の撃沈などで、引き返すことが出来ない段階に入ったように見える。戦争が始まり犠牲者が出ると、「血の代償」が得られない限り止められなくなっていく。
(4月29日段階の地図)(3月27日段階の地図)
 上記の地図を見比べてみると、確かに北方戦線ではロシア軍が撤退しているが、東部、南部のロシア占領地域は侵攻前に比べて2倍ほどに広がっている。オデッサ(オデーサ)への攻撃も行われていて、このまま南部を占領していくとウクライナが「内陸国」になってしまう可能性さえある。その時はモルドバとも陸続きともなるから、「沿ドニエストル共和国」(モルドバ東部でロシア系住民が「独立」を宣言した地域)への回廊を作るという目標があるのかもしれない。

 そうなると、ウクライナには絶対容認出来ないことになる。もちろん国連安保理常任理事国が隣国の領土を併合するというあってはならない事態で、全く認めがたい。その場合、ウクライナ側にとっては「国土防衛戦争」であり、「解放戦争」を戦う以外に選択肢がない。しかし、ロシアのプーチン政権が退く可能性はないだろう。そうなると、決着はどういうことになるだろう。僕にはその道が想像出来ない。突然プーチンの健康状態悪化で政権が崩壊する…といった事態でも起きない限り、しばらく延々と続くと考えて置いた方が良い。思えば戦争は実は2014年から続いていたのであって、これは1931年に「満州事変」が起こったのと同じような段階。1937年に日中全面戦争が始まったのが現段階なのだから、あと何年も続くと想定されるのである。

 世の中には「今すぐ戦争が終わって欲しい」というように語る人が結構いる。確かにそうなんだけど、ではウクライナが東部や南部をロシアに譲って決着することを望んでいるのか。そうではなくて、ロシアが侵攻以前に(少なくとも今回の侵攻以前に)撤退することが停戦交渉の前提だと考えるのか。ロシアは「実力で獲得した地域」は事実上は自国領土と考えるに決まっているから、交渉も出来ない。資源国ではなかった日本でもあれだけ長期間戦争が出来たんだから、資源国ロシアはさらに耐えられる。ソ連崩壊前後の窮乏期を経験している世代がロシアの実権を握っている。ロシア経済やプーチン政権がすぐに崩壊すると思うのは幻想である。

 そうなると、ロシアに経済制裁をした国々はどこで解除できるだろうか。今まで中国の天安門事件後の「制裁」などを考えると、いつの間にかうやむやになっていくということが多かった。いつまで続けても効果が出ないだけで、自国経済への負荷ばかり多くなる。ロシアへの制裁も似たような面があって、ロシア経済より先に資源をロシアに頼らざるを得ない国々が悲鳴を上げてしまうかもしれない。それを狙ってロシア側もさまざまな策略を使ってくるだろう。いくら何でも、戦争が続いている間は制裁を解除出来ないだろうから、世界経済はその間に完全に「G7」対「BRICS」に分断される可能性が高い。

 かつて17世紀前半に起こったドイツの「30年戦争」のような、ウクライナ30年戦争になってしまう可能性も覚悟しておくべきではないか。この間、ロシア軍はウクライナ各地にミサイル攻撃を行ってきた。その悲惨、恐怖、怨恨は簡単には収まらない。一世代では解消出来ないから、22世紀になっても両国関係はうまく行かない。恐怖の記憶は2500年になっても残るだろう。どうしてそんなことをロシアが始めてしまったのか。ウクライナには国民の怒りが充満しているだろうから、簡単には妥協できない。ロシアに領土を譲るような政治家は、政治家として生き残れないだろう。だから、どういう「解決」がありうるか、部外者のものには想定不可能だ。
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二重基準問題をどう考えるかーウクライナ戦争余波②

2022年04月19日 22時47分14秒 |  〃  (国際問題)
 ウクライナ戦争をめぐっては、いろんな問題で「二重基準」(ダブル・スタンダード)という批判がある。「二重基準」があるとして、それは批判されることが多いが、果たして批判すべきものなのかということを含めて、ちょっと考えてみたい。「国際的な問題」と「国内的な問題」があるが、基本は同じである。その代表的なものは「ウクライナ難民の扱い」だろう。EU諸国、特に東欧諸国はシリア難民をめぐって、露骨に来るなと言わんばかりの対応を繰り返していた。
(ポーランドのウクライナ難民)
 それが今回は周辺諸国はどんどん受け入れているし、大きな支援態勢がある。全然違うじゃないかという声は当然上がってくるだろう。もっともそれでも難民は出来るだけ受け入れるなと右派政治家は言っているようだが。僕はこれはやむを得ないというか、当然だろうなと思っている。周辺諸国にとっては、まさに隣国の問題であり、自国もロシアの脅威にさらされているという思いがある。ポーランドは同じスラブ系民族で、クルコフ「ウクライナ日記」を読んでいたら、ポーランド語はある程度理解出来ると書いてあった。スロバキアもスラブ系だし、モルドバはルーマニア系だけど国土の一部がロシア系「人民共和国」になっている共通性がある。文化的共通性もあるが、それ以上に他人事ではないという危機感がある。

 そのような背景がある以上、ウクライナからの避難者を多数受け入れるのは、まさに当然だろう。さらにソ連崩壊後、経済困難が続くウクライナからは多くの人々が国外に働きに出た。そのため親族がヨーロッパ各地にいる場合が多く、ポーランド等の一次避難国を経て、それらの最終目的地に向かう場合も多いという。だから、国境付近に大量の難民が集結して、医療も行き届かず人道危機が起きるという事態までは起こっていない。首都キーウ付近からロシア軍が撤退したという状況変化を受けて、帰国(一時帰国)している人も多いらしい。つまり、文化的背景が異なる移民が突然大量にやってきて定住する事態とは少し違うのである。

 このウクライナ難民受け入れ問題は、むしろ日本において「二重基準」というべきだろう。難民そのものをほとんど受け入れない日本が、今回に限って受け入れを表明している。ここで書かなかったが「牛久」という映画が上映されている。入管収容所(東日本入国管理センター)の実態を撮影して、被収容者の声を記録している。その様子を見る限り、日本政府は「批判されるべき二重基準」になっていると思う。国家政策だから「法の下の平等」に反することはおかしい。ウクライナ難民を受け入れるのはいいけれど、同じような事情にあるミャンマーなどの希望者こそ受け入れる必要がある。しかし、まあ遠いウクライナからはそんなに来ないだろうが、近くのアジア諸国はいっぱい来るかもしれないから困るというのが本音だろう。
(映画「牛久」から)
 「二重基準」だからダメという風にすべて一般化することは出来ない。民間でやってること、映画に学生料金やシニア料金があることは、理由ある経営方針というもんだろう。ドラッグストア「ぱぱす」では、60歳以上のシニアカード持参者には15,16.17の3日間に一回10%割引をしている。自分も毎月利用しているんだけど、大変有り難い「二重基準」である。これが許されるのは、公的機関の法に基づく方針ではないことと、やがてすべての人がシニア割引を利用できるという二つの条件があるからだ。 

 他にもう一つ、重大な問題として、アメリカもイスラエルに関しては拒否権を使うじゃないかということがある。被害者側、例えばガザの住民からすれば納得できないに違いない。中東全体でむしろ反アメリカ感情を増大させているのではないか。確かに国連安保理決議で決められた第3次中東戦争(1967年)でイスラエルが占領したヨルダン川西岸地区からの撤退決議は実施されていない。イスラエルは自国の領土化を進めているし、シリアのゴラン高原は自国に編入してしまった。これはロシアのクリミア編入と同じである。僕も何とかしなければいけないと思うけれど、これを「二重基準」という論理で批判出来るかは疑問だ。要するにアメリカもロシアも「国益最優先」という同じ一つの基準で判断をしているだけだからだ。

 いや、国連安保理なんだから、国益ではなく、国連憲章に基づいて判断するべきものである。本来はそういうことになるが、国連大使は政治任命であって出身国政府を代表している。どうも大国が国益優先で判断するのは止めようがない。ところで、もし大国の判断を左右できるとすれば、それぞれの国の国民世論が止めるしかないだろう。それは取りあえずは理想論だけど。問題はそれが理想論だからではなく、やはりウクライナ戦争より、シリアやミャンマーの事態の方が関心が薄く、さらにイエメン内戦はもっと知られず、アフリカのコンゴスーダンなどの事情はもっと知られていない。

 我々の側の無関心という問題がある。イエメン内戦はこの間ラマダン期間の停戦に同意したと伝えられたが、なかなか実際は守られていないらしい。報道がほとんどないのが実態である。さらに僕が思っているのは、今までにロシアにはひどいこと、おかしなことがいっぱいあった。チェチェンでは非道な弾圧が行われたし、ジャーナリストや野党政治家の不可解な死亡、襲撃が多すぎた。それがプーチン政権によるものと解明されているわけではない。しかし、どうも恐ろしいことがいっぱいあった。

 しかし、安倍元首相が何度もプーチン大統領と会談を重ねていた時期に、ロシアの人権問題を理由に抗議した人がどれだけいただろうか。それはロシアの国内事情であって、後にこれほど非道な戦争を始めるとは思っていなかったとはいえ、やはりプーチンの危険性を見過ごしたと言えるのではないか。トランプの動向に(あるいは習近平や金正恩の動向に)関心を持ったようには、プーチンに注意を払わなかった。このブログでは何度かロシアの人権状況を書いたけれど、それは十分ではなかった。自分の認識にこそ「二重基準」があったと言うべきだろう。
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国連総会のロシア非難決議案、世界の状況を分析する

2022年04月16日 22時32分08秒 |  〃  (国際問題)
 ウクライナ戦争に関して、国連は何をしているのか? 国連で実効性のある対応が可能なのは、唯一安全保障理事会だけである。しかし、ロシアは常任理事国として拒否権を有しているから、何も決まらない。これはイスラエルの行動に関しては、アメリカが拒否権を行使するから何も決まらないのと同じである。もっとも安保理が何事かを決議しても、当該国が無視すればそれっきりだが。そのため、今回は国連総会の緊急特別総会が開催された。これは過去に10回開かれているが、新しい総会としては21世紀初になる。(パレスチナ問題では継続して開かれている。)そして3月2日にロシア非難決議案が採択されたわけである。

 もう1ヶ月以上経ってしまったが、各国の判断状況をまとめておきたい。新聞に国ごとの投票行動が報道されたが、国連発表通りにアルファベット順で掲載されているから判りにくい。例えば、アメリカや日本等が共同提案した決議案には96ヶ国が名を連ねている。数で言えば非常に多いが、その筆頭はアフガニスタンである。タリバン政権はアメリカに賛同したのか。そうではなく、ミャンマーの軍事政権とアフガニスタンのタリバン政権は、未だに国際的な承認が得られず、国連代表部の扱いは信認委員会で審議中である。両国とも前政権が任命した代表部が共同提案に加わることを判断したと思われる。
(各国の投票行動状況)
 ロシア非難決議に関する投票行動には5つのカテゴリーがある。
A.賛成(共同提案国)=95ヶ国
B.賛成(共同提案国以外)=45ヶ国
C.反対=5ヶ国
D.棄権=35ヶ国
E.無投票=12ヶ国

 「国連でロシアは孤立していない」と主張する人もいるが、それはやはり強弁と言うべきだろう。まあ「棄権」も多いとは言え、賛成が140ヶ国で、反対は5ヶ国だから、ロシアが多くの国々に非難されたのは間違いない。反対の5ヶ国はロシアベラルーシという当事者を除けば、エリトリアシリア朝鮮民主主義人民共和国である。シリアのアサド政権はロシアの軍事力に完全に依存している。ところで、エリトリアは何で反対なのか。エリトリアは紅海に面したアフリカ北東部の国で、1993年にエチオピアから独立した。長く独立運動を率いたエリトリア人民解放戦線のイサイアス書記長の独裁が続き、「アフリカの北朝鮮」とも言われるという。エリトリアもエチオピア内戦に介入していて、そういう問題も絡んで反対したのではという話。

 反対は極少数だから、問題は「賛成か、棄権か」になる。無投票と棄権は何が違うのか、僕にはよく判らない。棄権は「総会で棄権という意思表示をした」ということで、無投票は何も意思を表明していないということだろうが、違いはあるのだろうか。

 各地域別に見ていくが、まず「東南アジア」(ASEAN)諸国。共同提案国がカンボジア、インドネシア、ミャンマー、シンガポールの4ヶ国、共同提案以外の賛成がブルネイ、フィリピン、マレーシア、タイの4ヶ国、棄権がベトナム、ラオスの2ヶ国。いつもは一番中国寄りのカンボジアが共同提案に加わったが、ベトナム、ラオスは棄権。かつて戦争中にソ連が支援したかどうかの問題か。あるいは中国への配慮か。フィリピン、タイなどが共同提案に何故加わっていないのも疑問がある。

 西アジア・北アフリカのイスラム圏アラブ連盟)。共同提案国が、クウェート、カタールの2ヶ国、共同提案以外の賛成が、バーレーン、コモロ、エジプト、ヨルダン、ジブチ、リビア、レバノン、モーリタニア、オマーン、サウジアラビア、チュニジア、アラブ首長国連邦、イエメンの13ヶ国、棄権がアルジェリア、イラク、スーダンの3ヶ国、無投票がモロッコ、反対がシリア。アラブ圏では圧倒的に「共同提案以外の賛成」が多い。それは恐らくは、イスラエルによるパレスチナ問題に拒否権を行使するアメリカと共同行動は取れないということだと思う。ただし、クウェートはウクライナにかつての自国と同様の事態を見て共同提案に参加したと思われる。他の諸国もほとんどはロシアの主権侵害行為には反対である。
(国連特別総会の様子)
 次に旧ソ連構成諸国共同提案国が、エストニア、ラトビア、リトアニア、ジョージア、モルドバ、ウクライナの6ヶ国、反対がロシア、ベラルーシ、棄権がアゼルバイジャン、アルメニア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの6ヶ国、無投票がトルクメニスタン、ウズベキスタンである。ロシアに対する親疎の関係が投票に反映されている。共同提案国はウクライナ以外でもロシアの圧迫を受けている。しかし、棄権、無投票を加えれば、その方が多い。ソ連構成国ではないが、事実上ソ連の「衛星国」だったモンゴルも棄権している。ロシアと中国にはさまれているモンゴルには賛成という選択肢が採れないのだろう。

 次からは棄権国だけ見る。ラテンアメリカ諸国。棄権したのは、ボリビア、キューバ、エルサルバドル、ニカラグアの4ヶ国、無投票がベネズエラ。なお、地域大国のブラジルは共同提案国以外の賛成だった。この地域は右派政権、左派政権が入り乱れているが、かつてソ連と深い関係があったキューバも反対はしなかった。同じ立場でアメリカに侵攻されたら困るわけで、国家主権最優先という意味では棄権しかないのだろう。

 南アジアではインド、中国への配慮が強く、インド、バングラデシュ、スリランカ、パキスタンが棄権に回っている。ブータンだけが共同提案国以外で賛成した。アフリカ、オセアニアまで見るのは大変なので省略する。まあ国の名前だけ書いてもイメージが湧かない人もいるだろう。その後、UAE(アラブ首長国連邦)は棄権に転じた。安保理議長国だったこともあるだろうが、ロシアの新興財閥層のマネーロンダリング先でもあって、何やら深い関係があるかもしれない。またイエメン内戦との関わりも考えられる。

 棄権国、無投票国の合計47ヶ国というのは、多いのか少ないのか。どういう言い方も可能かと思うが、安保理で制裁が成立しない以上は、インドと中国という世界で一番人口が多い2ヶ国との貿易が残り続ける。ちなみにまだ人口1位は中国だが、差は5千万人ぐらいなので遠からずインドが1位となる。ロシアは原油を割引でインドに提供しているらしい。ロシアは大資源国で、買わざるを得ない国もあるので、かつての日本のように石油資源が得られなくなることはないだろう。
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仏大統領選とウクライナ問題ー各候補の対ロシア姿勢を見る

2022年04月14日 22時49分11秒 |  〃  (国際問題)
 フランス大統領選選挙第1回投票が4月10日に行われた。この選挙に僕はほとんど関心はない。現職のエマニュエル・マクロン大統領(共和国前進=中道)と極右「国民連合」のマリーヌ・ルペンが決戦投票に進むだろうことは、事前の予測通りである。この顔ぶれは前回2017年の決選投票と同じである。前回の決選投票は、マクロン=66.1%ルペン=33.9%と、ほぼダブルスコアでマクロンが圧勝した。しかし、マクロンの5年間には失望することがが多く、今回はもっと僅差になると予想されている。しかし、よほどとんでもない事態でも起きない限り、やはりマクロンが再選されるだろうと思う。ほぼ事前に予測出来る大統領選である。
(マクロンが1位で決選投票進出)
 では、何で仏大統領選のことを書くのか。それは各候補のロシアへの対応の差を考えたいのである。しかし、その前に二つほど別のことを書きたい。マスコミによれば、今回は盛り上がりに欠け、戦後2番目に投票率が低かったというのである。しかし、その投票率は73.69%なのである。2021年に行われた日本の衆議院選挙は、55.93%。調べてみると、日本でも1950年代の衆院選までは、今回のフランス大統領選を上回っていた。その後下がり始め、1967年と1980年を例外として、いつも「73.69」を越えた年がない。1993年以降は70%に届いたことがない。その差はどこにあるんだろうか。

 もう一つ、今回の大統領選には12人の候補者がいた。しかし、日本ではマクロン、ルペンの他には、ジャン=リュック・メランション(不服従のフランス=左派)、エリック・ゼムール(再征服=極右)、ヴァレリー・ペクレス(共和党=中道右派)、アンヌ・イダルゴ(社会党=中同左派)しか報じられない。一体他にはどんな候補が出ていたのだろうか。
(各候補の得票状況)
 では調べてみよう。得票を%で示すと、マクロン=27.8%ルペン=23.1%。最終盤で詰められたと言われていた割には、この差は大きかったと言われている。マクロンはウクライナ戦争回避のため、プーチンとも何度も会い、戦争開始後は欧米諸国の中心となって存在感を示し、一時は支持率が急上昇した。しかし、戦争が長期化するに連れ、でも戦争を防げなかったじゃないかとか、エネルギーや食料の価格上昇への批判が出た。しかし、最後は「ルペンかメランションか」になっては大変だと思った共和党票が流れたのだろう。3位は左派のメランションで22%。今回で3回続けて立候補していて、今回が一番得票が多かった。

 この3人で7割以上の得票になっている。4位は極右のゼムールで7.1%。5位が共和党のペクレスで4.8%。事前調査は9%ぐらいはあったので、恐らくマクロンに半分流れた。6位は「緑の党」のジャドで4.6%。フランスの環境保護政党はドイツに比べて弱小だが、この程度の勢力はある。7位は中道右派の「抵抗!」から出たジャン・ラサールで3.1%。8位が共産党ファビアン・ルーセルで2.3%。かつて大勢力だったフランス共産党はまだあることはある。9位が「立ちあがれフランス」のニコラ・デュポン=エニャンで2.1%。名前で想像出来るように、かつて日本にもあったのと同じ感じの立ち位置。10位が社会党のイダルゴで1.8%。11位は極左「反資本主義新党」で0.8%。12位も極左「労働者の闘争」0.6%。
(主要8候補)
 このように様々な立場の党が出ているので、小選挙区と違ってある程度自分に近い考えの候補もいるだろう。それが投票率にも影響しているんだろうが、それでも決選投票に進出するためには「合同」が必要になる。結果的に今回は3人に絞られていったわけだろう。ところで、今回の大きな争点として、ウクライナ戦争とロシアへの対応があった。主要候補の言動が9日付朝日新聞に載っているので、それを見てみたい。(現職のマクロンは発言に制約があるから省略)

 ルペン=侵攻を非難しつつ、ロシアとは将来「同盟関係になりうる」と発言。
 メランション=ウクライナ侵攻で原発を狙われるリスクが露呈と指摘。脱原発を訴え。
 ペクレス=プーチン氏は「和平に不可欠な対話相手」。
 ゼムール=「フランスを不安定化させる」としてウクライナ難民受け入れに反対。
 イダルゴ=ロシア産天然ガスの禁輸を含めた制裁強化を訴え。

 これを見れば一目瞭然だ。右派が親プーチンで、左派がロシアに厳しい。もともと「国民連合」(旧「国民戦線」)はプーチンとは協力的だったとされる。日本では「左派」「リベラル派」、もしくは「反安倍政権」的な論調を取っていた人に、「ウクライナにも問題があった」「ブチャの虐殺は証明されていない」などと主張する人がかなりいるように思われる。そういう人ほど、日本のマスコミはアメリカ寄りの情報しか流さなくて国際標準から離れているなどというのだが、僕が思うに欧米に関しては「右派が親プーチン」というのははっきりしている。トランプがその代表である。プーチンのロシアは、トランプ、安倍、エルドアンなどが喜ぶ「伝統的価値」一色に染め上げられた強権社会である。左派が批判的なのは当然だろう。
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「NATO主犯説」の錯誤ーウクライナをめぐる言説③

2022年04月06日 22時49分44秒 |  〃  (国際問題)
 一応「ウクライナをめぐる言説」は3回で一端終わり、ウクライナ国内の問題その他の関連事項はしばらく後で書きたい。3回の最後に「NATO主犯説」を取り上げる。これは2段階あって、前段はなかなか「そういう見方もあるか」的なんだけど、後段になると相当の「陰謀論」になってくる。まずウクライナはこの間NATO北大西洋条約機構)への加盟を望んできた。NATO(ナトー)は加盟国が攻撃されれば相互に防衛を保証する集団的な安全保障機構である。従って、ウクライナが加盟を認められていれば、他の加盟国も自国と同じようにウクライナを防衛する条約上の義務があることになる。

 だから、ウクライナのNATO加盟は、ロシアの攻撃に対する強力なけん制となる。しかし、その一方で、それでもロシアが攻撃するならば、それは全面的なロシア対アメリカ・西欧の第三次世界大戦に発展することを避けられない。その意味でウクライナのNATO加盟希望は、NATOをどう評価するかは別として、もともと難しい面があった。何故なら、ウクライナは2014年以来ロシアと「ある意味でずっと戦争状態にあった」わけだから。ウクライナの加盟を認めれば、クリミアやドンバス奪還に向けてウクライナ側から戦争を始めた場合、ロシアとの戦争になし崩し的に巻き込まれる恐れがある。

 それはともかく、結局ウクライナのNATOやEUへの加盟は、すぐには認められなかった。現時点ではロシアとの停戦交渉で、ウクライナはNATO加盟を諦め「中立国」を目指すという方針を取るようである。それだったら、最初からウクライナに対して、「NATOには入れないから別の道を探すべきだ」と言っていれば良かったのではないか。そういう声が出て来ても不思議ではない。NATOは対ソ同盟として発足したわけだが、ソ連崩壊後も存続したのは「ロシアへの警戒感」があったからだ。その意味でも、ロシアが(バルト三国以外の)旧ソ連構成国のNATO加盟に不快感、警戒心を持つのも理解出来なくはない。

 そこから逆に考えて行くと、「NATOが出来ないものを出来ないと言わずに引き延ばした」ことが、戦争をもたらしたと発想するわけである。果たしてそのように言って良いのだろうか。しかし、結果論的にそう見える点があることは僕も理解出来る。ここまでが前段で、そこから「陰謀論」的に発想していけば、「アメリカ」(なりどこかの国や機関)がわざとじらして、ロシアとウクライナの関係をこじらせて相互不信を起こさせ意図的に戦争を起こしたと考えるわけである。

 なんでそんなことをしなければならないのか。一説によれば、昔から(2004年の「オレンジ革命」や2014年の「マイダン革命」)アメリカ(CIAなど)はずっとウクライナをロシアから引き離す策謀を進めてきて、今はその最終盤なのだと見る。あるいはアメリカの軍需産業は自分の利益を求めて世界に戦争を起こさせるもので、この戦争も米国の軍産複合体の陰謀と見る。また特にバイデン大統領は自分の息子を通してウクライナ利権に関わっていて、もしトランプ大統領だったらプーチンとうまく「ディール」して戦争を避けられたはずだと考える。しかし、常識的に判断すれば、このような「陰謀論」は成り立たないと考えられる。

 その理由は「プーチン大統領」の決断なくして、この戦争は起こらなかった点を無視しているからだ。それともプーチンは実はアメリカ軍産複合体のエージェントだとでも言うのだろうか。どんな挑発や陰謀が西側にあったとしても、プーチンがもっと賢く、我慢強く、慎重で、器が大きな指導者だったならば、このような戦争を起こすことはなかった。ロシア側から起こされた戦争なのだから、ロシア国内に最終的な原因があるはずで、他に何か西側の陰謀があったとしてもそれは補助的なものでしかない。
(NATO加盟国地図)
 そもそもNATOとはどこかに統一的な指導部が常置されている組織ではない。2022年4月段階で欧米諸国の30ヶ国が加盟していて、決定は全会一致を必要とする。一国でも反対すれば加盟できないから、アメリカなりどこかの国に、ウクライナが加盟できるかどうかを保証できるわけがない。それはTPP(環太平洋パートナーシップ協定)を考えてみれば、同じようなことが言える。現在、TPPには中国と台湾が正式に加盟を申請している。これに対して、日本にどうなるかと聞かれても困ってしまう。中国も台湾も参加を希望するのは自由だし、それが認められるかどうかは今後の全加盟国の交渉によるとしか言えない。

 実はTPPにはイギリスが先に加盟を申請していて、順番からしてイギリス加盟問題が先に交渉されている。エクアドルも加盟申請しているそうで、中国や台湾もいずれ協議されることになるが決着はまだ先になるだろう。同じように、NATOにも様々な順番があって、「平和のためのパートナーシップ」にはウクライナもロシアも加盟しているのである。旧ソ連、旧ユーゴスラヴィア諸国、及びヨーロッパの中立国(アイルランド、オーストリア、スイス、スウェーデン、フィンランド)など20ヶ国が参加している。NATO加盟にも順番があって、まずボスニア・ヘルツェゴビナセルビアの加盟問題が先決なのである。ウクライナのNATO加盟について、どこかの国に可否を聞かれても、どこもはっきりしたメドを答えられないのである。

 とにかくプーチン大統領とロシア軍がこれほど悲惨な戦争を実際に起こすとは、事前にはなかなか想定しづらい。それを事前に知っていた人には「陰謀論」が有効かもしれないが、実はNATOがわざと戦争を引き起こしたなどと考えるのは無理だろう。僕も東部侵攻はありうると思っていたが、ベラルーシから首都攻撃軍を送り込むとは信じられなかった。現実にこのような無道な攻撃を受けたのだから、ウクライナがNATO加盟を求めてきたのも理解可能だと僕は今になって思っている。なお、NATOやEUへの加盟はゼレンスキー政権になって決めたことではない。2004年以後、親ロシア派のヤヌコビッチ政権でさえ、公式的にはEUとの交渉を続けていた。全国民的な合意があったと見るべきで、それはロシアの圧迫を受け続けたウクライナ国民の選択だった。
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日本「中立」「仲裁」論の錯誤ーウクライナをめぐる言説②

2022年04月05日 23時02分34秒 |  〃  (国際問題)
 ウクライナ戦争をめぐる日本国内の言説検討2回目は、「日本は戦争に中立であるべきだ」とか「日本が戦争の停戦に向けた仲裁者になるべきだ」といった議論を取り上げたい。いろんな意見の中には、「ロシアだけでなくウクライナ側にも非があった」という認識に基づくものもあるが、それは後でまた別に検討したい。時々見られる意見には「戦争そのものを否定しなくてはならない」から、ロシアも問題だが、ウクライナの応戦にも否定的な反応を示すというタイプがある。

 人によっては、プーチンも問題だがゼレンスキーによって多くのロシア兵の命が失われていると説く人までいる。僕には全く理解出来ない発想だが、そういう考え方もあるのか。ロシア軍が戦車を送り込み、ミサイルを発射している。それを命じたのはプーチン大統領であって、攻撃されたウクライナ側が反撃したことによってロシア兵に戦死者が出たことはプーチンに責任がある。ウクライナが反撃のためにロシアにミサイルを撃ち込んで、ロシアの民間人に被害が出たわけではない。戦争を仕掛けられて相手に反撃したら、戦争犯罪者扱いされてはたまったもんじゃない。

 戦争そのものが「絶対悪」だとしても、「非暴力抵抗」のみしか認めない考え方に立つなら、現実には強いものの味方になってしまう。一般的な市民社会においては、反政府運動は「非暴力」で進めなければならない。しかし、一端戦争を仕掛けられた場合は国家としては反撃する権利がある。それが現時点での国連憲章の決まりだから、一応それが世界共通の一般ルールと認めなければならない。もっとも個人としては別である。宗教的な信条などで、戦争を認めない考えは尊重されなければならない。いわゆる「良心的兵役拒否」の権利は、どこの国でも認められなければならない。

 「いじめ」に関して言えば、「いじめる側(加害者)」と「いじめられる側(被害者)」だけで見てはならないという考え方を我々は次第に共有してきた。いじめが発生する時には「見て見ぬ振りをする側(傍観者)」が必ず存在するのである。いじめに関して、「私はいじめていません。私は無関係なので、勉強や部活動を頑張りたいです」という論理は成り立たない。そういう「傍観者」の存在こそが、いじめを発生させる基盤となる。戦争に関しても、同じようなことが言えるだろう。

 「中立」の立場などないのである。ロシアにもウクライナにも問題があると言ってる時点で、(そのこと自体には考えなければならない問題があるとしても)、戦争の認識が間違っている。未だに「いじめられた側にも問題がある」などと責任逃れをする教育行政のように、「ウクライナ側にも問題があった」などと言っている人がいる。隣国に問題があったら、攻撃しても良いのか。それでは「敵基地攻撃能力」そのものを認めることになる。それなのに、ウクライナ側の問題を取り上げる人には、リベラル系、反自民系の人が多いような印象がある。アメリカ寄りの情報は厳しめに見るという「反米優先主義」による偏りではないか。
(憂慮する日本の歴史家の会)
 もう一つここで取り上げたいのは、「憂慮する日本の歴史家の会」という集団が呼びかけている「日中印3国にウクライナ戦争の停戦仲裁を求める賛同署名のお願い」である。(上記画像はホームページのトップ。見たい人は自分で検索してください。)12人の歴史学者が名を連ねていて、代表して文を書いているのは和田春樹氏。他にも塩川伸明、藤本和貴夫、西成彦、毛利和子氏らが加わっている。他の方は知らない。僕は和田春樹氏の本、特に現代東アジア史に関する本は随分読んで、いろいろと教えられた。しかし、この呼びかけには全く賛同できない。

 この戦争をただちに止めるために、日本人も何か出来ることはないかという思いはもちろん共有できる。しかし、だからといって「ロシア軍とウクライナ軍は現在地で戦闘行動を停止し、正式に停戦会談を開始しなければならない」は、調停者として間違っている。現在地で戦闘行動を停止したら、戦争を始めて占領地を拡大したロシアに一方的に有利になる。戦争を起こした側に利益を与えることになる。「ロシア軍は一度開戦前の地点まで撤退して」、それから停戦協議を始めるというのでなければ、ウクライナは正統な調停者として認めないだろう。

 「停戦交渉を仲介するのは、ロシアのアジア側の隣国、日本、中国、インドがのぞましい」も全く理解不能。3国の中で、国連特別総会のロシア非難決議に賛成したのは日本だけ。中国とインドは棄権した。従って、この3国で仲介すれば、「棄権国」の意思が強くなり、ロシアに有利になるのははっきりしている。だからウクライナが賛同できないメンバーである。アジアの「G20」参加国という範囲で考えれば、韓国、インドネシア、サウジアラビア、トルコもある。トルコは実際に停戦協議に力を尽くしている。何で韓国を除外するのかも不明。「日中印」などアジアの大国意識としか思えないけど。

 「日本はアメリカの同盟国で、国連総会決議に賛成し、ロシアに対する制裁をおこなっている。しかし、日本は過去130年間にロシアと4回も深刻な戦争をおこなった国である。最後の戦争では、米英中、ロシアから突き付けられたポツダム宣言を受諾して、降伏し、軍隊を解散し、戦争を放棄した国となった。ロシアに領土の一部をうばわれ、1956年以降、ながく4つの島を返してほしいと交渉してきたが、なお日露平和条約を結ぶにいたっていない。だから日本はこのたびの戦争に仲裁者として介入するのにふさわしい存在である。」

 このくだりこそ全く理解不能。「なお日露平和条約を結ぶにいたっていない」から「ふさわしくない」というのなら理解できるが。この3国では、ウクライナ側もロシア側も乗ってくるとは思えない。しかし、そういう問題以前に、日本政府が動くとは思えない。G7の枠組でロシアに制裁を課した日本である。政治のリアリズムの問題として、「G7を離れて日中印で停戦を」など実現可能性ゼロである。日本が「中立」的な立場で、両国の調停が出来るなどというのは僕には「幻想」としか思えない。
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「降伏勧告論」の錯誤ーウクライナをめぐる言説①

2022年04月04日 23時09分29秒 |  〃  (国際問題)
 ウクライナ戦争に関して、ちょっと前に書いたように「突然終わる」可能性が出て来た。首都キーウ(キエフから呼称変更)周辺からはロシア軍が撤退し、ウクライナは「キーウ州を解放した」という。恐らくは今後「もともと東部攻略のための陽動作戦だった」「役割が終わったので計画通りの撤退」といった説明をロシアが行うと思う。しかし、首都めがけてミサイルを発射したり、大軍を送り込んだりすれば、世界中が大騒ぎになるに決まっている。日中戦争の始まりのように、「ガツンとやれば相手はすぐに崩壊する」などと安易な予測に基づいて始めてしまったのだと判断している。

 ロシア軍撤退後に、キーウ近辺のブチャという町で、民間人の大量虐殺が行われたと報道されている。戦争をしていたんだから、そういうこともあると考えている。ただし、規模や目的などは今後の検証に待つところが大きい。ここではまず、ウクライナ戦争をめぐって日本で流通している言説状況を考えておきたいと思う。僕が感じているのは、意図してか意図せずにか、思ったよりも「ロシア寄り言説」が多いと思っている。そんなものがどこにあるかという人もいるだろう。新聞やテレビの「公式」的な場面には確かに少ない。しかし、SNSなどには結構載ってるのである。そのうちの幾つかに関して自分の考えを書いておきたい。
(ブチャの状況)
 まず日本国内に「ウクライナは早く降伏した方が良い」という意見が出て来たのには僕は驚いた。ロシア軍がいずれは勝つと思われるから、自国民の犠牲を最少にするために早く手を挙げた方が良いというのである。その時点で実際に「降伏」していたら、今は首都をロシア軍が制圧し、ゼレンスキー政権は崩壊していた。その後の現状を見れば、「降伏勧告論」は無意味になったと思うが、しかし、見方によってはブチャやマリウポリの悲惨な状況は早く降伏していれば避けられたとも言える。「何よりも人命が第一」という原則を主張する人は今後も自説を曲げないのではないか。

 しかし、僕はこのような考えは、ウクライナの厳しい現実に見合ってないと思っている。そして、そのような意見が出て来るのも、日本の特殊な歴史状況がもたらしたものだと思っている。ウクライナが現実に降伏したとして、それが全国民に受け入れられるはずがない。ウクライナには後に検討するように、東西の歴史的な差があって、西部では降伏を認めず抵抗政府が出来る可能性が高い。あるいはゼレンスキー政権がリビウに移転して、臨時政権を樹立するかもしれない。リビウは抗日戦争中の中国の重慶のようなものになる。一方で「独立」宣言した東部地域はそのままロシアに編入されるだろう。中央部のみが「親ロ政権」の支配地域になる。つまり「ウクライナ分割」が起きる可能性が高い。

 僕はテレビをちゃんと見ていないが、玉川徹氏(テレビ朝日コメンテーター)が東京新聞のコラムに書いていたものは読んだ。沖縄戦末期のような悲惨な事態が今後のウクライナで起きる可能性がある、従って一日も早い停戦が必要、勝てる可能性のない状況で戦争を長引かせるのは市民の犠牲を増やすだけというような論だったと思う。それがまさにブチャやマリウポリで現実になったという言い方も可能だろう。だが、ゼレンスキー大統領はあくまでも抵抗すると言い続けてきた。市民の犠牲は痛ましいが、まさに国家と民族の存亡の危機なのだから、国家指導者としてはそれ以外の方法を選べないのを僕は理解するのである。

 日米戦争は日本から始めたのだから、日本が一日も早く和平の道を探るべきだったのは当然だ。しかし、悲惨な事態が予測されるから、勝てないと思われた側は早期に降伏するべきだという論を歴史的に検証すればどうなるのか。日中戦争で中国は1千万とも言われる犠牲者を出したが、蒋介石や毛沢東に対して、早く「満州国」を承認して戦争を終わらせるべきだったというのか。「満州国」は日本がでっち上げた「偽国」であり、およそまともな国家指導者なら認めることなど出来ない。同じように「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」もロシアがでっち上げた「偽国」であって、ウクライナ指導者には認めることなど不可能だ。

 ナチス・ドイツに侵攻されたソ連も降伏すべきだったのかヴェトナム戦争ではアメリカが北ヴェトナムへの苛烈な爆撃(「北爆」)を繰り返したが、当時の北ヴェトナムも「降伏」すべきだったのだろうか。その時世界の多くの人々は、「アメリカはヴェトナムから手を引け」とデモを繰り広げた。もちろん日本人も同じである。当時の日本政府はアメリカを支持していたから、日本でデモをする意味は大きかった。今は日本政府もロシアを非難する立場だから、日本国内でデモをする意味は少ないかもしれない。それでも我々がするべきことは、「ロシアはウクライナから手を引け」と言い続けることではないのだろうか。
(ウクライナ「降伏勧告論」の人々)
 日本は第二次世界大戦で悲惨な大被害を受けた。大都市空襲沖縄戦広島・長崎への原爆投下ソ連参戦による「満州国崩壊」で起きた様々な悲惨事などなどである。そして敗戦によって連合国による占領を受けたが、ドイツが東西に分割されたのと違って、日本は分割されなかった。いや、沖縄、奄美諸島、小笠原諸島及び「北方領土」など、戦勝国の統治が続いた地域もある。それでもアメリカが支配した地域は、1972年の「沖縄返還」を最後に日本に戻ってきた。
 
 一方で、アメリカを中心にした占領は、いろいろと問題はあったものの、歴史的には非常に「成功した占領」だった。現在に続く民主主義的な諸制度が占領下に整備され、それまで軍部の圧政に苦しんでいた国民は「自由」を実感した。だから、僕の小さい頃には周囲の大人たちは大体「負けて良かった」と言っていたものだ。戦争中の東京は日々続く空襲に怯え、食糧不足に苦しんだ。戦争が終わり占領が始まって生きた心地をした日本人には、それが歴史的に非常に特殊な体験だという意識が少ないのではないか。

 ウクライナの場合、降伏に追い込まれた場合、その後に「負けて良かった」となる可能性は全くない。良くても全土がロシアに支配され「ベラルーシ」のような国になる。つまり、ルカシェンコのような指導者がずっと支配して、言論の自由は全くない国である。それは良い場合で、恐らくは「国土が分割される」のである。その場合、自由なウクライナ国家を取り戻すためには、50年、100年単位が必要になる。そういう未来を子どもたちに残してはならないと思うから、ウクライナの人々は抵抗している。遠い国の人間があれこれ言えることではない。
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ウクライナ戦争、「泥沼化」の可能性ー戦争のシナリオ②

2022年03月28日 22時44分48秒 |  〃  (国際問題)
 ウクライナ戦争の行方について、「突然終わる可能性」を1回目に書いたけれど、それで完全に終わる性格のものではない。ウクライナは東部2州の「分離独立」(その後しばらくすれば、ロシアに併合されるだろう)を認めることは出来ない。ゼレンスキー政権が仮に承諾しても、国民投票では否決されるだろうし、国会で講和条約が批准されるとは思えない。逆にロシア側からしても、一度は独立まで承認した東部2州をウクライナに「返還」するはずがない。他にもロシアがでっち上げた「偽国家」はいくつもある。ロシアは徹底的にロシア系の「分離主義者」を守ろうとするはずだ。では、どうなるのか。

 どうにもならないから、「泥沼化」するということになる。ウクライナがロシア軍を国境の外へ追い出すのは、今のところ難しいと思われる。一方、ロシア軍がウクライナ全土を占領するのも大変そうだ。そもそも首都を制圧することによって、ウクライナを「正常化」することが当初の目標だったのではないかと思われる。政権を取り替えて「かいらい政権」を樹立すれば、全土を占領する必要はない。苦労の多い地方統治はかいらい政権に任せればいいのだから。しかし、ゼレンスキー政権の打倒は難しくなりつつある。(ロシアによる暗殺計画が何度も計画されたと言われるので、今後政権中枢へのテロが起こる可能性は否定できないが。)
(西部のリビウへのミサイル攻撃=26日)
 つまり、ウクライナ情勢は「中期的には泥沼化せざるを得ない」性格を持っている。しかし、そのために日々ロシア軍が都市を攻撃し、多くの死傷者が出る事態を続けていて良いのか。良いはずがないが、攻撃を命じたプーチン政権が戦争を止めない限り戦争は続く。その結果、ロシアに対する経済制裁もどんどん強化されていく。ロシアにとっても、それは好ましくないだろうから、どこかで妥協がなされる。合理的判断で考えれば、そうなるはずだが、合理的判断が出来るなら戦争自体が起こらない。プーチン大統領や政権中枢には、それだけの判断が難しい段階になっているのか。

 第二次大戦末期の1945年2月、もう日本軍は敗戦必至だった。その時近衛文麿元首相が昭和天皇に早期講和を上奏したところ、天皇は「もう一度戦果を挙げてからでないとむずかしい」と語ったと伝えられる。追いつめられた帝国日本と今のロシアでは置かれた事情が違うが、それでも指導者の発想は似ているものだ。今後の戦況がどうなろうと、最終的にはウクライナとの交渉が必要となる。しかし、交渉をより有利に進めるには、「軍事的勝利」、もっと正確に言えば「占領地の拡大」が絶対条件になる。

 軍の指導部は「出来ません」とは言えない。軍、情報関係者が「ウクライナ制圧は短期間で可能」と進言したから、戦争が始まったんだろう。誤算はいろいろとあっただろうが、今さら泣き言は言えない。「もう少しで出来ます」と言い続ける。我々は間違えたと内心で思っても、大っぴらに発言出来る状況ではないだろう。かくして停戦がまとまらず、ダラダラと戦闘が長く続く。3ヶ月、半年と戦争が続いていき、解決の兆しが見えなくなる。まあ、日中戦争の経過と似たようなことになる。

 このような「泥沼化」はあり得るシナリオだろう。プーチンが決断しない限り、この可能性が高い。その場合、今はまだロシアにとって「遠くで起こっている戦争」に近いが、ロシアの経済的困窮が深まっていき、「国家総動員体制」の構築が迫られる。ロシア国内の締め付けは今以上に強まり、完全に戦時独裁政権となる。それが経済的に世界が密接に結びついた21世紀に起こりうるだろうか。僕にはそこまでは何とも判断が付かない。ただ、現時点では「停戦」しても、完全な解決がすぐに実現出来るとは思えない。

 「ロシアの一方的停戦」「停戦しないまま泥沼化」の二つ以外の可能性は少ないと思う。例えば、ロシアが周辺国を攻撃し、NATOが応戦する可能性。ミサイルがポーランドに誤爆されることは絶対にないとは言えない。ただ、それが本格戦争に発展する可能性は低いと思われる。どちら側も「偶発」として処理するのではないか。今の段階ではウクライナ側で政変が起こって、より妥協的またはより好戦的な政権が成立することは考えなくていいだろう。ウクライナ側がロシア領内にミサイルを発射することも考えにくい。周辺諸国のあっせんによって解決する、あるいは国連の関与で停戦する可能性も難しい。結局、ひとたび武力を発動してしまった以上は、外交的手段のみで解決することは出来ない。残念ながら、それが現時点の見通しだと思う。
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ウクライナ「冬の陣」、突然終わる可能性もー戦争のシナリオ①

2022年03月27日 23時02分10秒 |  〃  (国際問題)
 ウクライナ戦争に関して、考えるべきことが幾つもある。事態の本質をどう理解するか世界各国の対ロシア姿勢の分析日本国内の言論状況の考察などなどだが、まあ順番に少しずつ書いていきたい。多くの人はまず「これからどうなるか」が気になるだろう。そういうことを書いても数ヶ月すれば、予測の当たり外れははっきりしてしまう。どっちになっても、もうその記事は読まれない。だからあまり書きたくないんだけど、一応準備しておく必要もあるから書いておきたい。

 当初はロシア軍が首都キエフを簡単に制圧すると思われていたが、1ヶ月経って首都攻防戦は停滞している。ロシア軍が攻撃しないからなのか、出来ない事情があるのかは判らない。現時点では東部のマリウポリが焦点になっている。黒海の奥の方にクリミア半島とロシアに囲まれた「アゾフ海」という内海がある。マリウポリはそのアゾフ海に面した港湾都市で、戦争前は50万人ほどの人口があった。クリミアドンバス(ドネツク、ルガンスク両州)を結ぶ交通の要衝で戦略上の重要地になる。
(ウクライナ戦争地図)(マリウポリの攻撃)
 ウクライナ戦争の行く末をはっきり示すのは難しい。そもそも何で始まったのかも、未だによく理解出来ない人が多いだろう。結局ロシアのプーチン大統領が何を考えているのか、それが判らないわけである。政治・経済・軍事的な合理的要因だけでは、戦争が理解出来ない。だから「プーチンはすでに合理的な判断が出来ない状態になっている」という分析もある。でも、まあパワハラ的言動が増えたり、苛ついたりすることはあるだろうが、精神的に破綻しているとまで見るのは行きすぎだろう。

 そこで注目されるのが、25日に行われたロシア軍参謀本部のルツコイ作戦総司令部長の記者会見である。「作戦の第1段階の任務は総じて達成された」と述べ、今後は「ドネツク、ルガンスク両州の解放に集中することが可能になった」と述べた。その前からロシアはキエフ制圧を断念し東部攻撃に集中するのではという観測があった。正式に記者会見したということは、その観測を裏付けたものだと言ってよい。この発言は何を意図しているのだろうか。
(記者会見するルツコイ氏)
 僕は前から思っているのだが、ロシア軍のウクライナ侵攻が「突然終わる可能性」を考えて置くべきではないか。世界には「泥沼化する」という観測が多いようだが、ロシアが一方的に戦闘を打ち切る可能性も事前に考えておかないといけない。あらゆる戦争は勝つためにやるのであって、やってみたら負けてしまいましたというわけにはいかない。プーチンも負けを認める事態になったら、権力基盤が揺らぐと考えられる。だけどスポーツと違って、戦争の勝ち負けははっきりした点数では示されない。だからプーチンが勝ったと言って、周りも認めれば取りあえずロシア内部では勝ち扱いに出来る
 
 かつて「中越戦争」と言う戦争があった。(1979年に中国がヴェトナムに侵攻した戦争。カンボジアに侵攻したヴェトナムを中国が「懲罰する」と始めたが苦戦した。約一ヶ月後に中国は懲罰完了を宣言して撤退した。)同じように、今回もプーチンによる「ウクライナ懲罰戦争」の要素がある。それだけではないと思うが、今回もプーチンが一方的に勝利を宣言して攻撃を終了する可能性を考えて置くべきではないか。事前にロシア側は例えば「ゼレンスキー大統領打倒」などといった具体的なことは言ってない。東部を確保して「ロシアの安全は確保された」「大勝利だ」と言えば、取り巻きは「プーチン万歳」となる。

 しかし、ぼくはそれで全部解決するとは言わない。キエフ周辺からはベラルーシに軍を引き揚げるかもしれないが、東部戦線からは引き揚げないだろう。だから停戦後の和平交渉は行き詰まると考えられる。つまり「ウクライナ冬の陣」は終わるが、いずれ「夏の陣」があると想定される。「冬の陣」「夏の陣」というのは徳川家康からの連想で、必ずしも今年や来年の夏という意味ではない。ただその間、「外堀を埋める」か「惣堀を埋める」かの欺し合いが起こるわけである。

 そしてウクライナ弱体化に一定のメドを付けて、次の侵攻が始まる。ウクライナ側がクリミアや東部2州のロシア帰属を認めるはずがないから、また何らかの戦いが予測されるわけだが、取りあえず今回の戦闘が一方的に停戦となったら、世界はどう対応するだろうか。当初はともかく、夏頃になれば次第に不和が表面化するのではないか。ロシアからの天然ガスや小麦がないと、世界経済が大混乱する、戦闘が終われば制裁は解除してもいいのでは。そういう声に対して、きちんとした停戦実現までは待つべきだ。いやプーチンは信用出来ないから、プーチンいる限り制裁は解除してはならない。様々な声が上がるだろう。

 ロシアが国際世論を「分断」するためには、この一方的勝利宣言に戦略的有効性があると思うのだが、必ずそうなると思っているわけでもない。シナリオ②は「泥沼化」だろうし、シナリオ③の「破滅的大戦争」も絶対にないとは言えない。そこら辺を次に考えたいと思う。
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クルコフ「ウクライナ日記」を読むー2014年「マイダン革命」の日々

2022年03月24日 23時12分17秒 |  〃  (国際問題)
 ロシアによるウクライナ侵攻から1ヶ月が経った。まあ2月は28日までだから、3月24日で29日目になる。この戦争については、3月初めに5回書いた。その後の展開をそろそろ考える時期だけど、この間書くことがいっぱいあって遅れている。そんな中でアレクセイ・クルコフウクライナ日記」(集英社、2015)という本を読んだので、まずこちらを紹介。この本を知らなかったが、大きな書店でウクライナ関連本をまとめた中にあったので買ってしまった。臨場感あふれる本だが、必ずしも判りやすい本とは言えない。本体価格2400円もするので、国際情勢に関心が深い人以外には必読とは言えないだろう。

 著者のアレクセイ・クルコフ(1961~)はウクライナを代表する作家として知られる。日本では「ペンギンの憂鬱」「大統領の最後の恋」という2冊が新潮社のクレストブックから翻訳されている。04年、06年に刊行された時には、かなり話題になったと記憶している。キエフに住んでいるが、レニングラード(現サンクトペテルブルク)に生まれ、ロシア語で創作する作家である。しかし、ウクライナの市民権しか持っていないし、ウクライナへの帰属心を持っている。日本で翻訳された小説は先の2冊だけだが、他に幾つもの著書がありヨーロッパ各地で高く評価されている。
(アレクセイ・クルコフ、キエフでヘルメット姿の写真)
 3月15日の朝日新聞に「ウクライナの国民的作家 クルコフ氏緊急寄稿」という記事が掲載された。かなり長い寄稿だが、編集サイドが付けたリードには「ロシアが恥ずかしい」「私たちは降伏しない」「独立と自由は譲らず」とある。ソ連時代、ロシアとウクライナの往来は頻繁で、クルコフもキエフで育ってキエフ外国語大学を卒業したが、祖母に育てられたため母語はロシア語なのである。そういう生育歴からロシア語で創作するが、いわゆる「親ロシア派」ではない。一方でウクライナでは過激な右派民族主義者も存在するが、彼らにも批判的である。ウクライナには東西の地域差があるが、クルコフは朗読会などで各地を訪れる機会が多く、全国の実情に通じている。「ウクライナ日記」は、そんなクルコフの2013年から14年に掛けての日記である。

 この本が読みにくいのは、自分がウクライナの政治情勢、政党や政治家にうといことが第一。クルコフは当然自分が知っていることは前提なしで書いている。詳しい訳注が付いているけど、なかなか付いて行くのが難しい。またこれは本当の日記だという理由もある。永井荷風は後世出版されることを意識して、日記を作品として清書していた。クルコフはもう何十年も日記を付けていると書いているが、この本は書かれてすぐに出版された。時事的緊急性から推敲は後回しという感じである。本人にしか関係ない家族や友人に関する記述も多い。また有名作家だから近隣諸国からの招待が多く、肝心なときにウクライナにいないことが結構多い。

 そういう風に日本で読むと判りにくいことが多いのだが、それでもこの本で幾つものことを教えられた。2014年2月に当時のヤヌコビッチ大統領が辞任に追い込まれた。ヤヌコビッチ大統領は「親ロシア派」の代表格で、この政変を「親ロ」「親欧米」で理解しようとする人が多い。日本でもこの政変を「アメリカの謀略」などと証拠も挙げずに決めつける人がいる。形の上では確かに「親ロシア派」の大統領が解任されロシアに亡命した政変だが、焦点は「自由と民主主義」か、「言論の自由のない社会」かの争いだった。プーチンに従って国策を変えたヤヌコビッチ大統領に対する反発が国民の怒りに火を付けたのである。
(ヤヌコビッチ)
 どういう事かというと、そもそものきっかけは2013年11月21日のアザーロフ首相の声明だった。長く交渉が続けられてきたEUとの連合協定の調印を間近に控えて、その交渉を中止すると発表したのである。当時はヤヌコビッチ政権でも、EU加盟を目指す方向性を否定していなかった。だからこその協定調印なのだが、直前に中止されたのは誰もがロシアの影響(というか、もっと言えばプーチンの指図)と受け取った。その頃、ウクライナに資金援助するとか、特別にロシアの天然ガスを割引するなどと持ち掛けられていた。このような不明朗なやり方、いつの間にかロシアの言いなりになるような政権に怒った国民は、独立広場に集結した。
(ヤヌコビッチとプーチン)
 この「広場」がウクライナ語で「マイダン」である。ただ「マイダン」と言えば、首都キエフの最大広場である「独立広場」を指すという。全国各地の都市には広場があって、そこに民主化運動家、野党政治家が集まったのである。それは僕らにとって、1989年5月の天安門広場を思い出すと言えば、通じるかもしれない。時期は真冬だったが、マイダンに泊まりこんだ運動は2014年3月まで続いた。クルコフはキエフ中心部に住み、マイダンまで徒歩で5分程度。家からはバリケードが見え、射撃音が聞こえた。クルコフは毎日のようにマイダンに通い、日々の出来事を記録したのである。

 政変の細かな経過はネットで調べられるので省略する。ここで驚いたのは、「院外団」の大きな役割である。院外団というか、民兵というか、内務省の外側にあって警察ではなく、マイダンにいる人々を襲撃するのである。ロシアはよくウクライナは「ネオナチ」だと非難する。マイダンにはかなり過激な民族主義者も集まっていたが、国家権力を背景にしたナチスの突撃隊のような組織は親ロシア派に存在した。そういう組織が野党政治家やジャーナリストを誘拐したり、暴力を振るったりする。警察は捜査しないし出来ない。そういう状況が続き、2月18日にはついにマイダンに武力攻撃が加えられ死傷者が出た。(クルコフはその時外国にいた。)その事件をきっかけにして、1989年の中国と違って、ウクライナではヤヌコビッチがロシアに逃亡した。
(新大統領に当選したポロシェンコ)
 僕がもう一つ驚いたのが、ヤヌコビッチの過去である。デモ隊のスローガンが「服役囚は辞めろ」だった。東部に生まれたヤヌコビッチには、実は高校卒業後に暴力団に入り窃盗(あるいは強姦)で2回実刑に服した過去があったのである。その判決は後に父の知人の有力者のつてで、無効になった。そして共産党に入党し、1996年からドネツク州で重職に就くようになった。97年からドネツク州長官を務め、2002年にクチマ大統領から首相に指名された。このような経歴を見れば判るように、ソ連や東欧で冷戦終結後に多数見られた「ギャング政治家」の典型だ。本当に暴力団出身というのがちょっと凄いが、こういう地域ボスが共産党を支えていた。

 そしてヤヌコビッチの失脚後、ロシアはもはや隠すこともなく、クリミアと東部2州に軍事行動を起こす。マイダンに欧米の特務機関員はいなかったが、クリミアと東部2州には紛れもなくロシアの特務機関員が存在した。ただし、クルコフはマイダン派、特に右派民族主義者にも厳しい目を向けている。政治が私物化されてきたウクライナでは、ヤヌコビッチ失脚に功があった勢力には新政権で有力がポストが与えられるべきだとポスト争いがはじまった。そんな絶望感の中で、ダーチャ(別荘)に行って子どもたちとジャガイモを植えたりするのが楽しみ。政治は激変しても、生活の日々は続く。そんな日記で、今回の戦争の直接の始まり、日中戦争で言えば「満州事変」に当たる時期を知るためには重要な材料になる。
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アメリカと中国はどう対応するかーウクライナ戦争⑤

2022年03月06日 22時30分47秒 |  〃  (国際問題)
 ウクライナ戦争を5回続けたので、重大事態が起きれば別だが一端中断したい。5回目にアメリカと中国が今回の事態にどのように対応するかを考えたい。アメリカは昨年末から何回もロシアの侵攻を警告してきた。ウクライナのゼレンスキー大統領が戦争をあおると批判したぐらいである。北京五輪中にも侵攻するという情報は当たらなかったが、その後、プーチン大統領はすでに侵攻を決定したとか、数日内に侵攻があるなどとバイデン大統領が断定的に警告した。結果的にアメリカ情報は全く正しかった

 中国はアメリカの情報機関はイラク戦争で全く間違えたと批判して、ウクライナ情報も信用度は低いと述べていた。では何でアメリカは今回正しい情報をつかむことができたのか。国境地帯に大軍が集結していることは、衛星写真によって証明出来る。しかし、その大軍が国境を越えて侵攻に踏み切るかは、普通の公開情報ではつかみにくい。現地の軍の情報だけでは「重大な演習を行っている」と言われたら、それ以上の判断は出来ないだろう。だから、よほど大統領周辺の情報が伝わったのである。

 真相は何十年も明らかにならないと思うが、アメリカは携帯電話やパソコンなどを監視しているとスノーデンが告発している。しかし、これほど重大な、それも大統領個人の「決心」という重大情報を外部から把握出来るものだろうか。アメリカが確信を持って断言するということは、ロシアの相当上位の人物から正しい情報が伝えられていたと考えられる。その情報がウクライナや世界を脅す目的の情報操作である可能性もありうるが、その心配の必要がないほどの「確証」が存在したのだろう。ウクライナ侵攻によって完全に世界を敵に回して、ロシアが経済的に破滅する事を恐れる「ロシア政府内部の愛国者」がいたのではないか。あえて世界に情報を流して戦争を止めようとして失敗したのである。

 僕は現在そのように推測しているのだが、当たっているかどうかは判らない。ただ(徴兵制度によって)士気が上がらない兵士を抱える軍部や、経済制裁や資産凍結によって大損害を受ける新興財閥層に戦争を忌避する気分は存在すると思う。そこでアメリカの基本方針は、「軍事介入はしない」「経済制裁によって追いつめる」と表面的には掲げながら、「プーチン排除」を目指すのではないか。「プーチン大統領の暴走」が戦争の悲劇をもたらしている、しかし「プーチン以外が正しい道を選択するなら一緒にやっていける」ということである。
(一般教書演説のバイデン大統領)
 バイデン大統領は一般教書演説で「侵略者に代償を払わせる」と語った。侵略者とはプーチン個人ということになるだろう。現時点でロシアで大規模な反戦デモが起こり政権交代をもたらす、つまり東欧各地で起こった民主革命(カラー革命)が起きる可能性はほとんどないと思われる。だから「宮廷クーデター」方式しかありない。秋の中間選挙には間に合わないと思うが、2024年までにロシアの体制変換がない限り、制裁で原油価格が上昇するなどの経済悪化が大統領選挙に悪影響を与える。

 ウクライナが早期に「降伏」してしまい、「かいらい政権」がクリミア半島の割譲、東部2州の「独立」を認める講和条約を結んでしまうと、事態の長期化が避けられない。当面はそれを避けるために、ウクライナへの軍事的支援も拡大するのではないか。もっとも直接介入はしないとしていても、ウクライナにある米国外交施設(あるいは米国系企業の施設)が「偶発的に」攻撃されたりすれば、米国内で一気に「報復感情」が湧き上がることもありうる。ロシア軍も反米感情が高まって、偶発を装って故意に米大使館を空爆したりする可能性がある。歴史ではほんのちょっとした出来事で戦争が激化してしまったことがある。今のところ欧米は軍事的介入はしないとしているが、何があるかは予測不能と覚悟しておく必要がある。
(北京冬季五輪開会式に参加する中ロ首脳)
 ウクライナ戦争の隠れた主役は中国だろう。中国はアメリカの警告を一貫して否定してきた。それは間違いなく本気だったらしく、他の主要諸国が自国民に「退避勧告」を出した後も中国は何もしなかった。その結果ウクライナ国内には6千名の中国国民が取り残されたという。その後、どれだけ国外に脱出できたか情報はないが、中国もプーチンに欺されたわけである。最近になって、中国が五輪中は侵攻しないようにロシアに要求していたという報道があった。公には否定したものの、実際に「16日にも」というバイデンが予告した最初の日程には侵攻がなかった。パラリンピック開始までには終わっているという当初の目論みだったとすれば、ロシアが侵攻を少し延ばした可能性がある。
(五輪中の侵攻中止を要請か)
 中国もホンネでは何というバカなことを始めたのかと思っているだろう。中国としては北京冬季五輪・パラリンピックを「成功」させ、全人代を乗り切って、内外ともに平穏な環境で秋の共産党大会を迎えるというのが当初の目論みだったろう。余計な戦争を始めやがってと思うだろうが、同時にアメリカにもロシアにも与しない、あるいは「どっちにも恩を売れる」機会にしたい。一方でウクライナは「一帯一路」に重要な役割を果たす重要国と位置づけてきた。ロシアほどの重要性はないと言っても、世界にはウクライナへの同情が湧き上がっている。あまりに親ロシア的姿勢を見せてしまうと、やはり中国は人権を重視しない独自の独裁国家だという批判を呼びかねない。兼ね合いが難しいが、中国(共産党指導部)が最も重視するのは「プーチンじゃなくてもいいけれど、親欧米の民主主義国家になっては困る」という点だと思う。

 ロシアに対する経済制裁は安保理では(ロシアの拒否権で)決定できない。だから、現在言われている制裁というのは、G7が中心になって独自に課しているものである。安保理決定には拘束力があるが、それがない以上中国がロシアと貿易するのは自由である。もともと中国はここ10年以上、ロシアにとって最大の貿易相手国だった。欧米日が経済制裁を課しても、当面は中国から代替できるだろう。しかし、中国経由でロシア貿易が行われるようになり、特に高級ブランドなどが流れるようになると批判が強くなる。ブランドイメージを大切にするため、中国との取引も控える企業が出て来ると思われる。中国もロシア以外との取引の方が多いわけで、あまりロシア経済を丸抱えしたくないだろう。

 中国が安保理決議で「棄権」したのは、「欧米に賛成しなかった」というよりも「ロシアと一緒に反対しなかった」という意味合いの方が大きい。北京五輪開会式に参列したプーチンに中国は恩義があるが、今回はあまりロシアべったりではない感じも受ける。今後中国が「ウィグル」「台湾」「チベット」などで欧米に制裁を課されたとして、その時自国にどれだけ影響があるのか、その予行練習としてじっくり見ているという感じか。

 ただし、ロシアがFacebookやTwitterを使用できなくしている中で、「中ロで使えるSNS」と「中ロ以外で使えるSNS」に分かれてしまう可能性がある。ITだけでなく、様々な分野で同じように世界の分断が定着してしまうと、数年間で完全に理解不能な二つの世界が形成される恐れがある。なかなか難しい課題を抱えて、世界は今まで経験したことがないような段階に入っている。
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主権国家は「勢力圏」を脱する自由を持っているーウクライナ戦争③

2022年03月04日 23時06分41秒 |  〃  (国際問題)
 3月4日に、ウクライナ南部にあるヨーロッパ最大級の原子力発電所、ザポリージャ原発をロシア軍が占拠した。出火している映像があるが、原発本体ではなく訓練施設だという。原発本体を攻撃・破壊しようという意図ではないと思うが、攻撃を避けるために原発を運転する職員が避難してしまう可能性はある。電源が失われることもないとは言えない。前にはチェルノブイリ原発をロシア軍が占領したというニュースもあった。とにかく安全が確保されるのかどうか、あり得ない危機が続く。ロシア軍の攻撃は明らかな戦争犯罪であって、ロシア軍の現地司令部は原発攻撃命令は拒否するべきだった。
(攻撃されたザポリージャ原発)
 日本では今後ロシアの液化天然ガスが輸入できなくなり、原油価格も上昇が続いているから、「原発を最大限に再稼働せよ」と主張する人がいる。一方で、中国や北朝鮮など「国際法を順守しない国家」が日本を攻撃するかもしれないから、日本も軍備増強を進めよ、「敵基地攻撃能力を持て」という人もいる。おおよそ両者は重なっているのだが、自分で矛盾を感じないのだろうか。日本が戦争の危機にあるのだったら、ウクライナの事態を見れば「原発廃炉」が緊急の課題ではないかと思うが。

 今回から数回にわたって、日本国内におけるウクライナ戦争理解の間違いを考えて行きたい。まず「ロシア(プーチン)は何をするか判らない好戦国家である」「だから、いつ日本を攻撃してこないとも限らない」。この「ロシア」というところは「中国」や「北朝鮮」も代入可能で、要するに今こそ「日本の防衛力増強」に努めなければならないと訴える。そのためには「(現行憲法内で)敵基地攻撃能力を可能にする」とか「憲法を改正して国防軍を持つ」とか言い始めるわけである。

 このような議論は根本から事態の本質理解を誤っている。日本は「ウクライナ」だと思い込んでいる人が多いが、日本は歴史的には「ロシア」の方だったのである。ロシアはソ連崩壊後に、旧ソ連諸国で何度か武力を行使してきたが、原則的には旧ソ連諸国以外では武力を行使していない。(例外的に中東のシリアを事実上の勢力圏とみなして、軍事的介入を行ってきたが。)中国はウィグル族チベット族を迫害したり、香港の「一国二制度」を無視して民主化運動を弾圧した。「台湾統一」も目指しているが、香港や台湾を含めて「中国」だという認識は諸外国にも争いはない。つまり、ロシアや中国は「自らの勢力圏」で強硬に出ているのである。武力行使により民間人の犠牲を出すのは論外だが、中ロが闇雲に戦争を仕掛ける好戦国という理解は間違いだ。

 ミャンマーではクーデタによって軍事政権が誕生し、民主主義が圧殺されている。それに対して、国際社会は「制裁」を課しているが、ASEANも「内政不干渉」の原則からなかなか解決への見通しが立たない。中国のウィグル問題も「内政不干渉」のもとに、なかなか外部から解決を見通せない。しかし、ロシアの場合はソ連崩壊前後に、15の構成国がすべて「独立」した。(バルト三国は崩壊前に独立を達成。)それは今のロシアからみると、あってはならなかった間違いに見えているかもしれない。しかし「覆水盆に返らず」である。それぞれが国連に個別に加盟したのだから、国連憲章の適用を受ける主権国家になったわけである。
(旧ソ連の構成国)
 旧ソ連構成国にもいろいろある。突然の「独立」で国家運営の準備も何もないまま独り立ちさせられ、「失敗国家」になった国が多い。旧共産党幹部がそのまま新国家の首脳に転じて、独裁者になった国も多い。そうじゃない国では、権力を私物化した指導者が追い落とされると、次に登場した指導者も権力を私物化することの繰り返し。そんな国が多かった。ジョージアやウクライナもそのような国だったと言えるだろう。中央アジアのイスラム諸国のように、自国防衛のためにロシアの武力を必要とする国もある。

 カザフスタン騒乱の記事で書いたように、CSTO(集団安全保障条約)という仕組みがあって、ロシアカザフスタンアルメニアベラルーシキルギスタジキスタンの6ヶ国が加盟している。しかし、キリスト教文化圏の中でウクライナジョージアモルドバは参加していない。(もちろん事情が別のバルト三国は、すでにEUにもNATOにも加盟している。)中央アジアで参加していないのはウズベキスタントルクメニスタンアゼルバイジャンの3国。

 これら旧ソ連諸国は、ロシアから見れば自国の「勢力圏」と思っている。ここで勢力圏と言っているのは、昔の「帝国秩序」と言い換えても良いだろう。帝国秩序の崩壊過程で、長い長い騒乱が起きる。南北朝鮮間の問題、台湾をめぐる問題、これらは「大日本帝国の崩壊」によって生じた問題が、75年以上経っても解決していないのである。それどころか、イラクやシリアの戦乱は長い目で見れば100年以上前の「オスマン帝国の崩壊」によって列強が人工的に国境線を引いたことに遠因がある。

 1922年に成立したソ連(ソヴィエト社会主義共和国連邦)は、社会主義と称していたが「ロシア帝国」の「帝国秩序」を受け継いで少数民族を抑圧した体制だった。本来高度に発達した資本主義の矛盾から革命に至るはずが、中央アジアなどは資本主義どころか農業社会でもない遊牧民族が突如「社会主義」に巻き込まれた。その「帝国」秩序がソ連末期の混乱の中で、突然何の準備もなく崩れた。今の日本でもアジア周辺諸国を下に見て、支配者然としてかつての過ちを直視出来ない人がいる。ロシアで「旧ソ連圏」は自分の勢力圏であって譲れないと思う政治家がいるのも、日本を思い起こせば想像出来る。

 日本はロシアの勢力圏だったことが一度もない。それどころか中国文明に対しても一定の独自性を持ち続けた。逆に近代になってアジアで唯一の「帝国主義国」として中国を侵略したわけである。どこの国の「勢力圏」でもなかった「帝国」が、無謀な対米英戦争を起こして無惨に敗北した。「連合国」のポツダム宣言を受諾したので、日本はアメリカだけでなく、イギリスや中国やソ連など多くの国に敗北したことになる。しかし、日本軍を打ち破った軍事力は圧倒的にアメリカ軍の力だった。それはイギリスやソ連も認めざるを得なかったから、日本の占領はアメリカ軍が中心になった。そして占領終了後も日米安全保障条約を結ぶことで、アメリカ軍が戦後75年を経ても日本に駐留し続けている。

 そういう経緯を振り返り、特に沖縄の米軍基地問題を思えば、戦後日本は「アメリカの勢力圏」だと考えられる。ウクライナ問題で判ることは「ロシアが攻めてくる危険性」ではない。アメリカの勢力圏である日本を攻撃すれば、ロシアが負う傷の方が大きい。しかし、日本は主権国家なのだから、日本の防衛政策を自国の有権者が決める権利を持っている。「日米安保条約を廃棄して、中国と同盟を結ぶ」ことも可能なはずである。そのような反米親中政権が選挙によって合法的に成立し、日米安保条約廃棄を通告したものの、アメリカ軍が撤退せず日本政府を武力で打倒しようと東京に向かって進軍中。あえてウクライナ戦争を日本に当てはめれば、以上のような事態のはずである。

 もちろん、そんな事態は起こらない。日米安保条約を廃棄するという主張はあっても、その後は「中立」をイメージしているだろう。「勢力圏」を変えるという主張を掲げる政党はないし、あっても政権を取るとは考えられない。ウクライナの人々がロシアに抵抗して「真の独立」を求めている姿を見て思うのは、果たして「日本は真に独立しているのだろうか」ということだ。沖縄県で米軍からコロナ禍が広まった(と思える)のを見ても、日米地位協定の改定程度のことも提起できないのでは、日本は独立しているのかと思う。沖縄の現状に何の思いも寄せずに、中国が攻めてくるなどと言い募るのは、「独立」よりも「従属」を求めることだ。
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「開戦責任」問題、歴史修正主義的発想を批判するーウクライナ戦争②

2022年03月03日 23時02分26秒 |  〃  (国際問題)
 ロシアでは毎日のように反戦デモが行われている。ヴェトナム反戦運動がアメリカで盛り上がるまでにはかなり長い時間が掛かった。今回はまだ少数勢力ではあるけれど、開戦当初から厳しい政治環境の中で反戦デモが各地で起こっている。ロシア軍に被害が出ていることをロシア当局も認めざるを得なくなっている。演習だと言われて訓練中の息子が死体となって帰ってきた母親は、プーチンを支持するか、それともプーチンに怒りをぶつけるか。両国の間には深いつながりがあるが、だからこそ戦争という手段に訴えたプーチン政権には疑問を感じるロシア国民も多いだろう。
(ロシアで起こった反戦デモ)
 プーチン演説では「ロシアと自国民を守るためにはこの手段しか残されていない。ドンバスの共和国はロシアに助けを求めており、迅速な行動を取る必要がある。」と「自衛」を主張している。ウクライナ東部で「ロシアに希望を持つ100万人の人々へのジェノサイド(民族大量虐殺)を止めなければならない。ドンバスの人民共和国の独立を認めたのは、こうした人々の望みや苦痛が理由だ。」「NATOの主要国はウクライナの極右勢力とネオナチグループを支援し、こうしたグループは、クリミアの人々がロシアに再統合するという選択を、自由にすることを決して許さないだろう。」「ロシアがこうした勢力と衝突することは避けられない。それは時間の問題で、核兵器の所有すら要求している。われわれはこれを認めない。」と述べる。

 今までのあらゆる戦争と同じくロシアは「自衛戦争」を主張するが、それはどこまで正当性を持つのだろうか。ウクライナ東部で「虐殺」があったという主張は、僕は最近になって初めて聞いたが、それは本当なのか。仮にそのような虐殺があったとしても、それは東部を攻略する理由にこそなれ、首都キエフを直接攻撃する理由になるのだろうか。そこでウクライナ政府そのものの批判を繰り広げる。そもそもウクライナは国家としてダメなのだと言っているが、特に2014年の政変(マイダン革命)以後は「ネオナチ」が勢力を握ると決めつける。しかし、仮に隣国が「ネオナチ」政権だったら、侵攻して打倒しても許されるのか
(ウクライナ東部の地図)
 このような疑問がプーチンの主張にはいっぱい思い浮かぶが、日本では案外「ウクライナやアメリカにも責任がある」などと言っている人がいる。交渉ごとでは両者にそれぞれ幾分かの責任があるものだろう。その意味では戦争の前段階でウクライナ側の対応が適切だったか、やがて検証が必要だろう。しかし、今回はウクライナを取り巻くようにロシア軍が「演習」と称して大軍を配置していた。それは「武力による脅し」であって国連憲章違反である。アメリカも様々に関わっているのかと思うが、しかし、ロシア軍に侵攻を命じられるのはロシア軍最高司令官のプーチン大統領だけである。アメリカだろうが、他のどこだろうが、ロシア軍には命令できない。ロシア軍の行動にロシア以外は責任を持たない。

 今回日本の衆参両院では、「ロシアによるウクライナ侵略を非難する決議」が採択されたが、これは両院とも全会一致ではなかった。「れいわ新選組」が反対したのである。「ロシア軍による侵略を最も強い言葉で非難し、即時に攻撃を停止し、部隊をロシア国内に撤収するよう強く求める立場」としながらも、「一刻も早く異常な事態を終わらせようという具体性を伴った決議でなければ、また、言葉だけのやってる感を演出する決議になってしまう」と言っている。しかし、日本の国会決議に即時的有効性があるわけがない。こういう考え方に立てば、あらゆる国会決議に反対しなければならない。

 ホームページにある「声明」には「今回の惨事を生み出したのはロシアの暴走、という一点張りではなく、米欧主要国がソ連邦崩壊時の約束であるNATO東方拡大せず、を反故にしてきたことなどに目を向け、この戦争を終わらせるための真摯な外交的努力を行う」とある。恐らくこの「ロシアの暴走、という一点張りではなく」という部分に反対の真意があるのだと思う。しかし、そう考えることには大きな問題があると僕は考える。ちょっと前に、ウクライナのNATO加盟を認めるのは「挑発」にすぎると僕も書いたが、それは戦争以前である。ウクライナの「中立化」が意味を持ったのはロシアの侵攻までだ。現にロシア軍が攻撃しているとき、ウクライナ国民は「中立化」を望むだろうか。ウクライナ国民に押しつける「中立」とは、実はロシアに対する従属ではないのか
(東部地域の戦闘とされる画像)
 ロシアが主張する「東部地域の虐殺」は、ロシアによるフェイクニュースだろう。そもそもドネツク、ルガンスクの「人民共和国」とは、ロシアがでっち上げた「偽国家」である。ウクライナ側からすれば「反乱軍占拠地域」である。停戦協定はあったものの、軍事的衝突は起こっていただろう。ウクライナ軍と衝突すれば、武力組織に死傷者が出ることはある。それを「虐殺」と誇張しているのだと思われる。「虐殺」という以上は民間人への無差別的な攻撃があったと証明しなければならない。

 今まで歴史上で「虐殺」が起こったとき、被害者名までは特定できないとしても、場所と時間は特定されていた。イラクのフセイン政権がクルド人に行った毒ガス攻撃。アメリカ軍がヴェトナム戦争中に起こした虐殺事件。「満州事変」や日中戦争中に日本軍が起こした幾つもの虐殺事件。詳細が不明のものもあるが、おおよその日時や場所は判明している。そしてナチスドイツがウクライナに侵攻したとき、キエフのバビ・ヤール渓谷で起こしたユダヤ人大虐殺事件。これは1941年9月29日から30日にかけて行われ、一晩で10万人が殺害されたと言われる。ホロコーストの中で一日で殺害された最大人数とされる。ソ連崩壊後、バビ・ヤール地区に多くのユダヤ人追悼碑が建設されたが、今回ロシア軍は同地区を空爆し被害が出ているらしい。どっちがナチスだよと思う。

 日米戦争でも、同じように「日本は被害者だった」「自衛戦争だ」「アメリカの謀略だった」などと言う人がいる。真珠湾攻撃についても、ルーズヴェルト大統領は知っていたとか、自国を戦争に参加させるため日本を挑発したなど、いろいろと言う人がいる。そりゃあ、アメリカはいろいろ情報活動を行っていたに違いないが、だからといって日本は自国で決断して米英に宣戦布告したのである。当たり前のことだが、ルーズヴェルトは帝国海軍連合艦隊に命令できない。真珠湾攻撃を承認できるのは、大元帥(昭和天皇)だけである。今回も裏で何があろうが、国連憲章違反の攻撃を命じられるのは、プーチン大統領だけだという冷厳たる事実は動かしようがない。「どっちもどっち」は歴史修正主義につながる発想である。右だけでなく左にも歴史修正主義がある。
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ロシアの「誤算」、侵攻の現状をどう考えるかーウクライナ戦争①

2022年03月02日 22時29分20秒 |  〃  (国際問題)
 これからしばらくウクライナ戦争について考えてみたい。ところで、ウクライナでは紛れもなくロシアの侵略による戦争が起こっているにもかかわらず、マスコミなどでは「ウクライナ情勢」などと呼ぶことが多い。その言葉自体がおかしいだろう。24日に全面侵攻が始まって、当初は「キエフは2日で制圧される」などと言われていた。それはまんざら間違いでもないようで、ロシアのRIAノーボスチ通信という国営通信社がウェブ上に「ロシアと新たな世界の到来」という予定稿を26日に載せてしまった。

 予定稿というのは、新聞記者などが事前に用意しておく原稿で、選挙の時など「バイデン勝利」「トランプ勝利」など両方用意する。決まってから書いては遅くなるから、どっちになってもいいように両方書いておくという。死亡記事なんかでも、大々的な記事になると思われる高齢者はもう書いてあるとか言われる。事情はロシアでも同じなんだろう。26日にはゼレンスキー政権が崩壊して、ロシアは世界に大々的に「新秩序」をお披露目出来るはず。だからウェブに予定稿を載せる日を26日に設定しておいたと推測出来る。掲載後すぐに気付いて削除されたというから、この推定は確かなのではないか。

 ロシア軍がキエフを攻撃し、世界は1939年のマドリードのようにキエフの状況に一喜一憂した。(まあスペイン内戦はもちろん同時代には知らないけれど。)しかし、現実には3月2日現在キエフは陥落していない。ロシアには「誤算」があったと言われている。週末には「停戦交渉」も行われた。ロシアとウクライナの求めるものは正反対なので、交渉の進展はなかなか見込めない。ロシア代表団の顔ぶれからしても、ロシアは本心では停戦する気はないと考えられる。大軍をあまりにも一気に動員して補給も大変になっていたという。この間キエフやハリコフが攻撃されているのを見ても、ロシアは時間稼ぎをしていると思われる。
(キエフのテレビ塔が攻撃された)
 このロシアの「誤算」をもたらしたのは何だろうか。まずはゼレンスキー大統領の求心力が回復したことが最大の理由だと考えられる。アメリカは亡命を勧めたとも言うが、仮にゼレンスキー大統領が国外に脱出していたら、アフガニスタンのガニ政権のように簡単に崩壊していた可能性もある。ゼレンスキー大統領の政治的手腕には今まで疑問も多かったが、今回の戦時指導で国民の支持率は91%と伝えられる。毎日のように「自撮り映像」を投稿し、首都に止まっていることを発信している。
(ゼレンスキー大統領)
 上の画像の背景の建物は「怪物屋敷」と呼ばれるウクライナ大統領公邸だという。もともと1901、02年に建てられた高級マンションで、「キエフのガウディ」と呼ばれたポーランド人建築家が設計し、イタリア人彫刻家が怪物の彫刻を施した。ウィキペディアに日本語で「怪物屋敷」の項目があるぐらいだから、ウクライナではほとんどの人が知っているんじゃないか。紛れもなく首都で呼びかけている事が伝わるから、軍の士気も高まるはずである。

 ウクライナ軍の実情はよく知らないが、2014年のクリミア事態以後、NATO諸国の援助を受けてかなり増強されてきたとも言う。「祖国防衛」だから士気も高いと伝えられる。一方、ロシア軍は演習と言われて、そのままウクライナで実戦に巻き込まれた若者が多く、士気も今ひとつだという話だ。補給線も途絶えて「略奪」も起こっているらしい。ウクライナ側もそれなりに準備してきて、主要道路の橋を爆破してロシア軍戦車を通さないようにしていると言う。「と言う」「らしい」としか僕には書けないが、ウクライナ軍が健闘しているのは確かだろう。もっともロシア軍の方が圧倒的に多いので、このままではいずれ数日中にキエフも制圧されるという見通しもある。東部にある第二都市ハリコフも攻撃を受けている。南部の黒海沿いからも侵攻を受けていて、少しずつウクライナの都市が陥落したという報道が多くなってきた。
(ハリコフの状況)
 この間、ウクライナへは世界中で同情が高まっている。戦闘はウクライナで起こっていて、ロシアで起こっているわけではない。ウクライナ軍がロシアに攻め入ったのではなく、ロシア軍がウクライナに攻め入ったのである。民間人の被害も増大している。ロシアは軍事施設しか攻撃していないと言っているが、信じることは出来ない。それを信じろと言うのなら、ロシア軍への報道機関の従軍を認めるべきである。ロシア側から自由に報道出来ないのだから、信じろと言われても無理である。ロシア軍は残虐兵器を使用したとか、病院や学校を砲撃したという報道もある。食料や医療品が不足して来ているとも言われる。

 ロシア軍の車列に身を投げ出して進行を妨害するウクライナの人々。それを見て、ヨーロッパでも支援の動きが広がるだろう。すでに武器の援助、特にミサイルや軍用機も支援が始まっている。しかし、それをどのように運搬するのだろうか。ウクライナ戦争が東ヨーロッパに波及する可能性も考えて置くべきだろう。またキエフに対する食料空輸なども検討するべきだ。もっともロシア軍に撃墜される可能性があるから、ウクライナ上空の制空権を確保する必要がある。キエフを直接支援出来るルート(陸上でも)を確保するように、周辺諸国もうごくのではないか。日中戦争における「援蒋ルート」のようなものである。

 ロシア軍侵攻に対してNATO軍の介入はしない方針ではあるが、正規軍は出さないにしても様々な支援は行われると思う。フランスやドイツも何とか戦争を止めようと首脳外交を繰り広げていたが、結果的に嘘をつかれた形になって怒っているという。どのような形になるかは現時点では見通せないが、1956年のハンガリー1968年のチェコスロヴァキアのようにウクライナを見殺しにしてはならないという声がヨーロッパで高まることが考えられる。そうなると、現在何をするか判らないプーチンが核兵器を使用する可能性もある。第二次世界大戦後、最大の危機にあると思って警戒しなければいけない。

 日本はロシアに「満州事変の愚」を伝えなければいけないと思う。リットン調査団報告の採択をめぐって、国際連盟総会で日本だけが反対した。(棄権はタイだけ。)それに対して、日本の松岡洋右代表は連盟脱退を告げて、帰国時には英雄扱いされた。しかし、それこそが日本の暗黒時代の始まりであり、国と国民を存亡の淵に追いやった。ロシアも国連安保理におけるウクライナ問題の決議案で孤立した。棄権が中国、インド、アラブ首長国連邦の3ヶ国だった。何でインド、UAEが棄権したのか、よく判らないけれど。ロシアの反対は「拒否権」になるから、決議案は否決になる。しかし、自国しか反対票がなかったのは、かつての日本と同じである。世界がこれほど反対しているのは、それなりの理由があると判断しなければならない。そうでなければ、かつての日本のように国を危うくするのだとロシアに伝えるのは、日本人の歴史に対する責任だと考える。
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