尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「大地動乱の時代」始まるー「現在史」の起点1995年②

2025年01月02日 22時22分25秒 | 社会(世の中の出来事)

 「1995年」はどういう年だったか。最も重大なものは「大地動乱の時代」が始まったことだと思う。1995年1月17日午前5時46分、淡路島北方の明石海峡を震源とする大地震が起きた。気象庁は「兵庫県南部地震」と命名したが、一般的には阪神・淡路大震災として知られている。犠牲者は6434人にのぼり戦後最悪(当時)の大被害を出した。2025年に地震発生30年を迎えるので、様々な振り返りが行われると思う。だから、ここで震災被害のことは細かく書かないことにする。

(倒壊したマンション)

 震災当時、東京ではなかなか情報がつかめなかった。これほど大きな被害になっているとは想像出来なかったのである。1948年の福井地震をきっかけにして1949年に「震度7」という揺れの基準が作られた。しかし、以後50年近く一度も震度7が適用された地震はなかった。ところが、その後2004年の新潟県中越地震、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震(2度)、2018年の北海道胆振東部地震、2024年の能登半島地震と、この30年間に7度も震度7を記録しているのである。

 これはまさに「異常」というべき事態ではないのか。人間世界の感覚からすれば非常に長い時間をかけて動いていくのが地球の地質年代だろう。それなのに一人の人間が生きている間にこれほど大地震が起こるものなのか。ところが、このような大地震発生を警告した本がある。それが地震学者石橋克彦氏(1944~、当時建設省建築研究所)による『大地動乱の時代ー地震学者の警告』(岩波新書、1994)である。当時読んで、そんなことがあるのかと思ったけど、まさに翌年大震災が起きた。

(『大地動乱の時代』)

 僕は当時神戸に行って震災を見た思い出がある。2月初めの連休(建国記念の日が土曜日だった。当時土曜はまだ学校の授業があった)を利用して行ったのである。少しボランティアをしても良かったんだけど、行った段階ではもう人手も足りていたので日帰りで帰ってきた。前から関わってきたFIWC(フレンズ国際労働キャンプ)関西委員会が灘区の避難所でボランティアを始めていて、そこに卒業生も行ってたので顔を出しに行ったわけである。当時生徒文集に書いた記録があるので読み返してみた。

 新大阪止まりの新幹線、普通電車で住吉まで。そこから代替バスに乗り換え。そういう風に行ったと出ている。尼崎あたりはまだ屋根のビニールシートが目立つ程度だが、次第に倒壊した建物が多くなる。それも全部じゃなくて、古い家などが倒壊しているのに、隣の新築マンションはちゃんと建っている。町のあちこちにピサの斜塔みたいなビルがある。実に不思議というか、異世界に紛れ込んだような感覚。避難所は養護学校だったので、キレイな教室が並んでいて、駅にも近く「もう物は持ってこないで」と告知していた。ボランティアも子どもやお年寄りの相手が中心だった感じ。時期的に一番大変な時期は過ぎていたと思った。

(水道蛇口のレバーも変わった?)

 阪神淡路大震災は当時非常に大きな衝撃を与えた。今になると東日本大震災という大災害に記憶が「上書き」された感もあるが、当時は経験のない大災害だったのである。よく「水道蛇口のレバー」が上に上げると水が出る方式になったのは阪神淡路大震災がきっかけと言われている。テレビ番組で池上彰氏もそう解説していたが、調べてみるとそう簡単なものではないようだ。それ以前から議論されていて、欧米の方式に統一したというのが正しいらしい。ただ当時の議論の中で、震災時に物が落ちて蛇口が出っぱなしになった事例もあったとも言われている。わが家など未だに混在していて、うっかり間違ってしまう。

 ところで、石橋克彦氏は1997年10月号の雑誌「科学」に「原発震災―破滅を避けるために」という論文を発表した。大地震によって原発メルトダウンが起き、震災被害と放射能汚染が複合的に絡み合う災害を「原発震災」と名付けて警告したのである。そして何と14年後に石橋氏の警告はまたしても的中したのである。学問的予知能力に驚くしかない。2024年1月1日に発生した能登半島地震では、実は動いた断層のほぼ直下に「珠洲原発」を建設する計画があったのである。長い反対運動があり最終的に2003年に計画は凍結されたが、下の地図を見れば判るようにまさに恐るべき事態になっていた可能性がある。

(珠洲原発予定地)

 このような「大地動乱の時代」に原発の新増設を主張し、首相官邸に石破首相を訪ねて(2024年11月27日)「原発新増設」を求める要望書を提出したのが国民民主党である。僕はこの政策はまったく支持できないが、最近国民民主党の支持率が上昇しているのは国民の多くもまた原発新増設に賛成なんだろうか。それともあまり知らずに「手取りを増やす」ことに賛同しているのか。ところで、石橋氏は次に『リニア中央新幹線と南海トラフ巨大地震 「超広域大震災」にどう備えるか』(2021,集英社新書)を書き、リニア新幹線に警鐘を鳴らしている。(リニア新幹線建設は中止すべきである参照)「二度あることは…」にならないか。

(石破首相に原発新増設を要望する国民民主党)

 最後に紹介だけしておくが、Wikipediaの阪神・淡路大震災に関する文学の項を見ても、神戸在住だった詩人安水稔和(やすみず・としかず)氏が出ていない。もし図書館に入っていれば、今年の機会に是非探して読んでみて欲しい。またどこかの文庫に是非収録して欲しいと思っている。(神戸の詩人、安水稔和の逝去を悼む


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「男はつらいよ」が終わり、... | トップ | 第3次ベビーブームは起きなか... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

社会(世の中の出来事)」カテゴリの最新記事