尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「桃組公演」と権太楼ー浅草演芸ホール3月上席を通しで聞く

2023年03月07日 22時22分17秒 | 落語(講談・浪曲)
 浅草演芸ホール3月上席を通しで聞いてきた。昼夜の「入れ替えなし」という昔の名画座みたいな仕組みだから、その気になれば延々といられるのである。もっとも「入れ替えなし」と言われても、普通は疲れるからしない。今回は夜に「桃組公演」と名付けて、東京の定席寄席で初めて「女性のみ出演」というチャレンジをしている。今まで一回(余一会)だけとか寄席以外ではあったけど、10日間全部というのは初である。ということで、夜を見たかったんだけど、実は昼席のメンバーが豪華すぎて、どうせなら全部見ようかと思ったのである。そして、何とかそれほど疲れずずっと聞いてられたから、自分でも驚いた。
(桃組公演)
 全部見ると、11時40分頃から20時40分頃までになる。さすがに長すぎてイヤなんだけど、13時前後に春風亭一之輔桃月庵白酒が出るので、これは頑張るしかないなあと思った。二つ目昇進の柳家小もん古今亭菊正にはさまれ、柳家わさび。少し後に一之輔が出て、子どもが父親に小遣いをせびる「真田小僧」。母が男を家に迎えるのを、ところどころで切りながら、お小遣いを貰わないと先は話さないという。何度も聞いてるけど、一之輔に合ってる噺。白酒は「粗忽長屋」。行き倒れを見た八五郎がこれは隣の熊だと言って、今朝会ったから確かだ、今から本人を連れてくるという。これは名作でいろんな人がやってるが、白酒はとぼけていて上手いのである。もうここまでで満足。
(桃月庵白酒)
 こうやって全部書いてると長くなるから、後は簡単に。漫才のロケット団は相変わらず快調。その後に早くも柳家さん喬師匠で、夢の内容を言えと迫られる「天狗裁き」。新作の柳家小ゑんは仏像巡り女子の噺でおかしい。林家木久蔵は「勘定板」。春風亭正朝は小僧に浮気夫の後を付けさせる「悋気の独楽」。鈴々舎馬風の昔語りをはさんで、仲入り後に柳家燕弥が泥棒噺の「出来心」。柳家三三が「長屋の花見」で春も近い。こんなに演目を覚えてるはずはなく、今回はいつもはしないメモを取っていた。ここらで疲れて名人五街道雲助はウトウトしてしまった。
(柳家権太楼)
 そして昼席トリの柳家権太楼。何回も聞いているお気に入りだが、久しぶり。去年紀伊國屋寄席で聞くつもりが、病気休演(さん喬が代演)だった。その後もコロナになったり、なかなか復帰できず去年暮れも病気で出られなかった。ようやく復帰しているが、体調はしっかり戻ってるらしき熱演だった。でも高齢(76歳)だから、熱演爆笑落語がいつまで聞けるか。逃さず聞いておきたい。今回は何度も聞いてる「代書屋」。履歴書を代書屋に書いてもらう噺だが、今回はトリなのでいつもより長く「賞罰」を書くまでやって場内大笑いだった。展開を知ってても笑える熱演の名作。

 少し休憩を取って、今度は夜席が始まる。夜は二つ目が二人出た後の5時に「お楽しみ 余興」とプログラムにある。これが何と漫才の「すず風にゃん子・金魚」のトリビュート漫才だったのでビックリ。落語協会の寄席によく出ている二人組の漫才コンビである。にゃん子がツッコミで、金魚はボケてゴリラの真似をするお約束である。年齢不詳、同じネタながら、ゴリラの物真似はいつも受けてる。今回は春風亭律歌が「にゃん子」、蝶花楼桃花が「金魚」そっくりの扮装で出て来て、そっくり漫才をやる。そう桃花がゴリラのマネをするのである。これはある意味、「女性芸人」の本質を自己批評するとも言える大胆な「余興」で、桃花は偉いなあと感心した。なかなか出来るもんじゃない。体力的にも大変だし、男社会の中で生きる覚悟を示して大受けしていた。
(にゃん子、金魚)
 蝶花楼桃花はトリにも出て来て、昔任侠映画の藤純子にハマった話がマクラ。今回桃の節句にちなんで「桃組」と名付けたが、トリを取る自分が「組長」に成りたかったという。そこから、多くの落語家が演じている三遊亭白鳥作「任侠流山動物園」の桃花ヴァージョン。ピンチに陥った流山動物園の動物たちの話で、僕は初めて聞いた。こんな変な噺があるんだと思ったけど、メス象に緋牡丹のアザがあって、桃花が緋牡丹博徒を歌い出す。元の映画「緋牡丹博徒」シリーズを知らないと乗れないかもしれないが、観客の大方は高齢だから知ってる人が多いだろう。実におかしかったし、桃花が顔だけで売れてるわけじゃないことが判る。

 落語界で女性が初めて真打に昇進したのは、1993年3月の三遊亭歌る多古今亭菊千代だった。それぞれ、三遊亭律歌古今亭駒子という弟子を真打に育てた。今回は師弟そろって出演しているが、菊千代は「ふぐ鍋」、歌る多は「喧嘩長屋」かな。安定してやはり上手。柳亭こみちは「」(たけのこ)という隣家の竹がこちらに生えてきた武家の噺。この人は何回か聞いてるけど、すごく上手いと思う。また弁財亭和泉は初めて聞いたけど、非常に面白かった。(演目は失念。)

 今回は落語以外の色物もすべて女性芸人。講談の神田茜宝井琴鶴、曲芸の翁屋小花、音楽パフォーマンスののだゆき、本家のにゃん子・金魚、浮世節の立花家橘之助。橘之助は最近弟子のあまねを連れて舞台に上がっていて、客にも大受けになっている。二つ目の落語家は書かないが、真打は他にもいて交替出演している。通常の興行にも女性落語家は出ているわけだが、男性の大物にはさまれると印象が薄くなる。今回のような公演には、今の段階では価値があるように思った。それを実現出来たのは、トリを桃花が務めるというのが、マスコミ的にも話題になるからだ。平日夜にもかかわらず、9割方埋まっていたから興行的にも大成功だろう。まあ、かなり疲れたけど、大満足の一日だったなあ。
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五代目春風亭柳朝三十三回忌追善興行

2023年02月17日 23時22分51秒 | 落語(講談・浪曲)
 浅草演芸ホールで行われている「五代目春風亭柳朝三十三回忌追善興行」も20日まで。1月下席の4代目桂三木助追善興行は、まだ落語に行ける心境じゃなくて見送った。今回は連日立ち見という評判だし、もうそろそろいいかなと思って、行くことにした。寒いから、つくばエクスプレスで演芸ホールの真下まで行くことにした。地上に出たら、ズラッと行列が…。アレと思ったら、東洋館のものだった。そこは昔のフランス座で、今は漫才専門館。今日はナイツやU字工事も出る。大行列のわけである。

 ところで「五代目春風亭柳朝」(1929~1991)って誰だっけ。60年代に「若手四天王」と言われた一人だということは知っている。他の三人は古今亭志ん朝立川談志5代目三遊亭円楽なんだから、それに並ぶ人気者だったのである。テレビにも出ていたというから、当時よく落語番組を見てた僕が知らないはずがない。でも、覚えていない。若い頃は寄席や落語会には行かなかった。だから、1980年に弟子の春風亭小朝が「36人抜き」で真打に昇進したニュースは覚えているのに、師匠の名を忘れていた。
(五代目春風亭柳朝)
 五代目柳朝の師匠は、8代目林家正蔵(後の林家彦六)である。(この人の戦中日記を読んだ感想は「『八代目正蔵戦中日記』を読むー戦時下の寄席と東京」に書いた。)7代目林家正蔵は、先代林家三平の父だった。一代限りということで蝶花楼馬楽が借りて、1950年に8代目正蔵を継いだ。現在の9代目正蔵は、林家三平の息子だから名跡は戻ったわけである。という経緯があって、8代目正蔵は一番弟子に「林家」ではなく、春風亭という亭号を付けさせた。その頃の「春風亭」には落語芸術協会(前名=日本芸術協会)を立ち上げて44年間会長を務めた春風亭柳橋がいたので、正蔵は柳橋に断りを入れたという。

 柳朝の一番弟子は春風亭一朝だが、真打に昇進したのは1982年12月だった。二番弟子の春風亭小朝の昇進が80年5月だから、兄弟子を抜いてしまったのである。ところで、今回は出ていないが、一朝の二番弟子が最近「笑点」メンバーになった春風亭一之輔で、2011年に21人抜きで真打に昇進した。一之輔が売れたせいもあって、一朝も最近よく寄席で聞く機会が多い。しかし、一之輔は兄弟子を抜いたわけではない。一朝の一番弟子が、2007年に真打に昇進した6代目春風亭柳朝で、孫弟子が大師匠の名を継いだことになる。連日トリを取っていて、今日は堅すぎる若旦那を稲荷参りと称して吉原に連れて行く「明烏」を熱演していた。
(6代目春風亭柳朝)
 今回はプロデューサーとしての春風亭小朝の力が見事に発揮された公演だと思う。特に話題になったのが、三遊亭好楽が40年ぶりに落語協会定席に出たこと。好楽はもともと8代目正蔵の弟子で、林家久蔵の名で81年9月に真打に昇進した。しかし、82年に師匠が亡くなり、83年になって落語協会を脱退して5代目三遊亭円楽一門に移籍して三遊亭好楽を名乗ったのである。つまり、好楽はもともとは5代目柳朝と兄弟弟子なのである。そこで特例として、今回の追善興行に参加を認められた。それが小朝の力である。林家木久扇も8代目正蔵の弟子として、何回か出演している。今日は息子の林家木久蔵だったけど。
(春風亭小朝)
 今日は5代目柳朝の兄弟弟子は三遊亭好楽三代目八光亭春輔。5代目柳朝の弟子からは、春風亭一朝春風亭小朝春風亭正朝春風亭勢朝いなせ家半七と勢揃い。孫弟子としては、一朝の弟子の6代目春風亭柳朝春風亭三朝春風亭一左、小朝の弟子が(師匠没後に移籍した勢朝、半七を除き)、蝶花楼桃花。(五明楼玉の輔もプログラムにあるが欠席だった。)初めて聞いた人も多くて、こういう機会は貴重だ。これに9代目林家正蔵が加わって、実に豪華な布陣に満足。

 今回は噺の中身にほとんど触れず、人名ばかり並べてる。僕がここまで詳しいわけがなく、ウィキペディア等で調べながら書いてるわけだが、それが楽しい。そうだったのかと思うことが多い。「春風亭」は落語協会と落語芸術協会の双方にいるけれど、そんな経緯があったのか。6代目春風亭柳橋の弟子に春風亭柳昇がいて、その弟子が春風亭昇太。落語協会には春風亭一之輔が出て、今や春風亭は注目のまとだ。まあ、僕としては昇太も一之輔も早く「笑点」から卒業して欲しいと思ってるけど。
(カバーby林家たい平=今戸焼のうさぎ)
 色物も面白かったが、浮世節の2代目立花家橘之助の舞台に、21歳の弟子の立花家あまねが同席して、三味線だけでなく舞踊も披露したので驚き。漫才の「にゃん子・金魚」で、金魚ちゃんにホントにバナナを差し入れした客がいたのも驚き。3月末に江戸家猫八を襲名する江戸家小猫も相変わらず上手かった。久しぶりでお尻が痛いけど、やはり面白かったなあ。
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6代目円楽復帰の高座ー国立演芸場8月中席

2022年08月15日 22時02分48秒 | 落語(講談・浪曲)
 ブログを書いてもお金になるわけじゃないから、絶対に毎日書こうと決めているわけじゃない。でも、まあ出来るだけ書きたいとは思っている。本は毎日読んでるし、何かしらニュースはあるわけだから。文章を書くことは昔から好きで全然苦にならない。そして、書いてみて初めて自分はこう思っていたのかと気付くことがある。書いてみないと、自分の考えでもまとまらないのである。だから、大体2、3日分の書きたいテーマは心づもりしている。

 ところが今回は昨日は予想もしてなかった話題である。昨日ブログを書いた後で、いろいろなサイトを見ていて、突然明日は国立演芸場に行くと決めたのである。最近落語に行ってないから、そろそろ行きたいとは最近ずっと思っていた。でも猛暑の中、駅から離れた寄席に行きたくない。寝てしまいそうだし、4時間ぐらいあるから腰が痛くなる。さて、国立演芸場では病気療養中の6代目三遊亭円楽が講座に復帰という予定がマスコミでも報道された。当初の予定は3日間、11、14、20だけ。ネット販売で完売である。シニア割引は何とネット販売がないので、見送るしかないのである。
(円楽復帰の記者会見、11日の国立演芸場)
 ところが昨日になって、15日に円楽が追加で出ると告知されているではないかと気付いた。毎日チェックしていたわけではなく、昨日初めて知った。そしてチケットは余裕で空いてそうだった。だから行きたいなと思ったわけである。一度幕が下りて、上がったら机の後ろに座った円楽師匠。だから車いすかもしれないが不明。「生きてるか確認しに来たんでしょ」と言ってたけど、まさに図星。小三治や円丈のように、しばらく聞いてないなあと思ってるうちに訃報を聞くのはつらい。木久扇師匠からは、「NO高速」でゆっくりと言われたというが、何しろ脳梗塞なんだから左半身が不自由で大変。最初はマクラというより病状報告。

 こりゃあどうなるかと思ったら、歌丸師匠との釣りの思い出から「馬のす」という噺になった。しかし、はっきり言ってまだ言語不明瞭で、落語に不可欠なリズムと間が取れない。2年前の神田伯山真打披露の時に見た素晴らしい形態模写を見てるから、残念だけどやむを得ない。国立の8月中席は長く桂歌丸が圓朝の怪談噺をやっていた。僕も2回ぐらい聞いている。歌丸没後は芸術協会に加えて円楽など関係の深かった人がやっているようである。来年、再来年と少しでも元気を取り戻して出てくれることを期待したい。

 トリは桂米助で、今まで掛け違って実は初めて。ヨネスケとカタカナ表記でテレビに出ていたから、テレビタレントだと思っている人も多いだろう。全国各地の家庭で晩ご飯を食べる番組をやって「日本一の不法侵入者」と自分でも言っている。今日は桂竹丸から「トリの米助さんは他殺で死ぬ」と言われて大爆笑だった。21世紀になって、落語芸術協会理事、参事を務めていて、真打披露などにもよく出ている。マクラが面白くて、それで終わるのかと思ったら、「落語禁止法」という新作になった。落語が禁止され、禁酒法時代のアメリカみたいに闇の落語がはやるようになって、ギャングのように落語界で抗争が起きるというバカ噺。
(桂米助)
 大受けしたのは、真打昇進したばかりの春風亭昇也の「壺算」。師匠の昇太得意の古典落語だが、買い物がうまいと言うよりは詐欺の噺。「時そば」より手が込んでいるから、上手くやらないと聞いている方も混乱する。店主の方が混乱しないと成立しない噺なので、そこらへんの語り方が難しい。昇太より賑やかで、面白いかもしれない。ただ、瓶を「一荷(いっか)」「二荷(にか)」と話すのが普通なのに、どうも「にかい」と聞こえる。そもそも水瓶の数え方を僕は知らない。一個、二個で良いのでは。
(春風亭昇也)
 円楽の後に出て来て、前半のトリが桂竹丸。師匠の米丸の話など、内輪話が面白い。何度も聞いているけど、何度聞いても飽きない。どうも芸協で一番面白いのはこの人かも。落語界では10年ごとに大名人が死ぬと言って、20年前が古今亭志ん朝、10年前が立川談志、そして去年柳家小三治と名を挙げて、「談志師匠、ひどい人でしたねえ」とか寸評が大爆笑。だから10年後に自分が死ぬんじゃないかと笑わせる。いつまで元気な米丸師匠の話をしながら、米助は他殺じゃないかと言う。このあたりの緩急自在の内輪ネタが絶品である。僕は若手は別にして、ベテラン級ではとても面白くていつ聞いても損がない人だと思う。
(桂竹丸)
 俗曲の檜山うめ吉、好楽の弟子の三遊亭好の助、歌丸の弟子の桂歌助、曲芸ボンボン・ブラザーズなどが登場した。聞いてる噺が多くなってきて、それを楽しむ芸能だけど、よほど元気な人じゃないと真夏は眠くなるなあ。
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(春風亭ぴっかり☆改め)蝶花楼桃花真打昇進披露公演(浅草演芸ホール)

2022年04月11日 22時23分36秒 | 落語(講談・浪曲)
 落語協会の真打昇進披露公演が3月21日の上野鈴本演芸場から始まっている。新宿末廣亭に続いて、今日から浅草演芸ホールである。今まで夜だったのだが、浅草から昼になるので早速見に行った。4人昇進するが、今回は10日間を4人に割り振って、一日一人ずつ披露がある。今日は蝶花楼桃花(ちょうかろう・ももか)で、二つ目時代は「春風亭ぴっかり☆」だった。蝶花楼というのは伝統ある亭号らしく、師匠の春風亭小朝が名付けたもの。小朝は弟子に「春風亭」と違う名を付けるが、「春風」から「蝶花」になって、さらに「桃花」である。まことに春の昇進にふさわしい名前を付けたもんだ。

 ぴっかり☆は落語協会だけでなく、東宝芸能がマネジメントして落語以外でも売れていた。今回の興行でもいろいろな芸能人が花を贈っていて、すでにスター性十分。「のん」が贈った絵が幔幕になっていて、何度目かに披露されたのにはビックリ。幕が4回も変わるのも初めてだ。披露口上の幕が上がると、「カワイイ」の声。入るときに桃花のタオルがプレゼントされ、中入り時にこのタオルを広げてと説明された。口上で顔を上げたら、タオルを見せる。コロナ禍で大声も出せない中、「スター誕生」のムードである。
(のんの絵の幕)
 真打披露公演は口上に出る協会幹部、弟子が昇進する師匠連がそろって出るから、オールスター。いつもはトリを取っているような落語家が続々と出て来る。今回は師匠の春風亭小朝(「荒茶」=戦国大名の茶会のバカ話を立て板に水で演じる)、会長の柳亭市馬(「一目上がり」=掛け軸を八五郎が褒めて失敗する話)、副会長の林家正蔵(「紋三郎稲荷」=駕籠に乗った侍が化け狐に間違えられる)は、いずれも小ネタでサラッとあげる。元会長の鈴々舎馬風になると、いつもと同じく昔話で終わってしまうが、口上では女性落語家をよく真打まで育てたと褒めて、女房では失敗したなどと言うから、小朝、正蔵は悶絶である。

 兄弟子の五明楼玉の輔は子どもが商売にまつわる都々逸を作って親を驚かす。同じく兄弟子の橘家圓太郎は「強情灸」をまるでお灸を据えているような真っ赤な顔で熱演。柳家三三の「釜泥」(石川五右衛門の供養にと泥棒が江戸中のお釜を盗もうとするが…)、古今亭文菊の「浮世床」(髪結いで太閤記を読もうとして全然読めない)も良かったけれど、春風亭一之輔の「人形買い」が圧倒的に面白かった。ネットで調べると、少し展開が違うようだが、そこも含めて勢いが止まらない感じ。他にもいっぱい出ていたが、色物では漫才のロケット団が相変わらず大受け。

 さて、最後に新真打の蝶花楼桃花登場。近年女性の落語家も増えてきて、今日も初めの方で柳亭こみちが民謡好きの大家を歌入りで演じて面白かった。同時昇進の三遊亭律歌より桃花が注目されたのは、やっぱり「ルッキズム」なんだろう。見た目可愛さを越えて大成できるか。「権助提灯」という本妻と妾が旦那を押しつけ逢う様を巧みに演じたが、まだまだ昇進披露以外でトリを取るには力不足か。声で人物を描き分ける力が一之輔や文菊に比べてまだまだかな。そこはまあ、今後の精進次第ということになる。
(同時昇進の4人)
 何でも「桃花笑春風」(とうか しゅんぷうに えむ)という漢詩があるという。小朝のブログに出ていたが、ある人にこの漢詩を教えられたと言う。そこから「桃花」と付けたのかと聞かれたが、事前には知らなかった由。「春の風に誘われて、去年と同じように桃の花が咲きほころんだ様子」を表わすという。まさに春の昇進向けだ。日々大自然は冬から春へと移り変わっていくが、人間世界はそうはいかない。ウクライナの戦争は続き、昨日は見田宗介さんの訃報を書いた。あまり落語を聞きに行く気分ではないのだが、これは2月に前売を買っておいた。ぴあで売ってたが、利用料を加えても当日券よりも少し安いと気付いたのである。今回は他にも柳家風流、林家はな平、三遊亭律歌が同時昇進。国立演芸場に聞きに行こうかなと思ってる。
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新宿末廣亭で桂宮治と「成金」競演を見る

2022年02月19日 22時33分11秒 | 落語(講談・浪曲)
 2月18日に新宿末廣亭2月中席夜興行を見てきた。トリを「笑点」新メンバーで一般知名度が一気にアップした桂宮治が務める。他にも旧「成金」メンバーが勢揃いで、勢いだけで言えば現在最強かもしれない。ということで行きたいと思ったのだが、こういう人気番組は今までだとかなり早くから並ばないとダメだった。寒い中並んで、自分の前で終わったら悲劇だから行きたくなかったが、この興行からイープラス(e+)で前売するようになった。そこでイープラスに新たに登録して買っておいた。

 と思ったら、末廣亭ホームページには、何と桂宮治が「みなし陽性」で自宅待機になって初日から5日間休演と出た。結局6日目まで休演で、7日目から登場した。僕は18日だから間に合った。休演ばかりになっている「ラ・マンチャの男」を前日に見たのに続き、今回も予定通り。何だか運がいいけど、今年の運を使い果たしてしまわないか心配。やっと出られた前日にはテレビ局が何局も入っていたというが、18日は「ヨネスケちゃんねる」(桂米助のYouTube番組)だけが来ていたというのが笑える。

 「成金」というのは、落語芸術協会の二つ目11人で結成したユニットで、2013年から2019年まで活動した。誰かが真打に昇進したらオシマイと決めていて、柳亭小痴楽の昇進で解散した。その後、六代目神田伯山、「昔昔亭A太郎、瀧川鯉八、桂伸衛門」、桂宮治、「三遊亭小笑、春風亭昇々、笑福亭羽光」と次々に昇進して、ここで書いた人も多い。2022年5月に「春風亭柳若、春風亭昇也」が昇進して全員が真打となる。カギ括弧は同時昇進で、ない人は単独昇進。今回は全員が出ている。(昨日は昔昔亭A太郎が休演。伯山は浪曲の玉川大福と交代出演。)これだけそろうのは貴重な機会だ。見逃せない。

 トリの桂宮治から書くと、鬱憤を晴らすかのような異様なハイテンションで、マクラからオチまで駆け抜ける。いつも全力投球ではあるが、知名度急上昇さなかの定席トリが、まさかの6日休演。これは悔しいだろうが、他の皆にネタを提供していた。「絶対ズル休み」などと言われる中、ぶっ飛んでおかしかったのは瀧川鯉八。「冬の寒い夜、新作を作っていてどうしても出来ないで悩んでしまう。そんな時に、欲しくなるのは、薬物です。」なんて始まって、「宮治はやってますよ。あのハイテンション見れば判るでしょう。私も宮治から買っています。」と続くあたりの悪ノリに爆笑である。

 演目は「死神」で非常に素晴らしかった。この前好楽でも聞いたけど、勢いでは宮治が上だったと思う。まあ落語は勢いではなく、淡々と話す中に深みを感じさせるという方向もあると思うが、宮治の場合は話芸という以上に「一人芝居」に近い。体全体で演じるという趣で、緩急、陰影のある話ぶりが立体的に伝わる。ちょうどⅠ年前の真打昇進興行の時はマクラの面白さばかり覚えているが、やはり相当の実力だなと思った。願わくば「笑点」で変になっちゃわないことを祈る。
(桂宮治)
 今回聞いた中で、話の面白さで抜群なのは柳亭小痴楽だなあと思った。「粗忽長屋」という何度も聞いてるネタだけど、小痴楽がやるといつも以上におかしい。行き倒れの死体に行き会って、ああこれは熊の野郎だ、今朝会ったから間違いない、みたいな展開がおかしいわけである。大体落語というものは、人の「粗忽」を笑うものだが、これだけおバカぶりが堂に入っていると、嫌みにならずにほとんどシュールになる。久しぶりの小痴楽だが、やっぱり面白い。
(柳亭小痴楽) 
 前座は別にして最初は春風亭昇也で、最初だから宮治をいじって受けていたが、噺は「時そば」。奇術のポロンに続いて、三遊亭小笑は「転失気」(てんしき)。「おなら」のことであるが、それを知らずに知ったかぶりをする。最初の方だから大ネタは出来ないが、今ひとつ。笑福亭羽光は大阪出身だが、東京で活躍する鶴光に弟子入りした。関東、関西の友人二人が秘湯の宿に泊まるが、そこの主人は関西出身者にいじめられて死んだので、関西人っぽいシチュエーションになると化けて出る。何か飲み物をお出ししますと聞かれて、関東人が「アイスレモンティー」を注文するが、関西人が「レイコ」というと幽霊が出るという新作。

 バイオリン漫談のマグナム小林を間にはさみ、今も大人気の神田伯山。こういう中にはいると、何だか普通に思えてくる。ネタは平手造酒で、これは一発変換できないから「ひらて・みき」とフリガナを付けないと今は読めない人が多いだろう。天保時代の下総(千葉県北部)にいた剣客で、博徒笹川繁蔵方に付き飯岡助五郎との出入りで死んだ。「天保水滸伝」の途中まで。
(神田伯山)
 桂伸衛門は前に超絶的「寿限無」を聞いたけど、この人も相当変な人だと思う。今回は「マスクの女」という新作で、ある女子生徒を男子生徒が好きになる。コロナ禍の高校生事情を軽妙に描く作品で、女子高生のマネがおかしい。確かに今はマスク越しの会話が多く、マスクなしの顔を体育の時間に見て好きになったというと、「キモい」と返される。女子が男子を見るのはいいけど、男子が女子のマスクなし顔をチェックするのは「キモい」という。だからマスクを取って見せてくれと言って、もめてるところに用務員が現れて…。コロナ時代を代表する新作に磨き上げられていくのか。それとも忘れられてしまう作品か、まだ見極めは難しい。
(桂伸衛門)
 18日が誕生日の「ねづっち」の謎かけ、小痴楽で中入り。春風亭柳若は古典が多いと言うけれど、今回はロック音楽ファンならではの新作。ロックでメジャーデビューしてインタビューを受ける兄弟グループ。父親がロックなんだから、スラム育ちと言えとか押しつけてくる。瀧川鯉八は前に聞いてるけど、どうにも可笑しなニキビの新作。「ニキビ」というらしいが、ニキビをつぶすかつぶさないかをめぐる祖母と孫の会話なんて、どうしてこんな新作を思いつけるのかな。次の春風亭昇々は見習い泥棒の間抜けぶりを描く「鈴ヶ森」。曲芸のボンボン・ブラザースを経て、いよいよトリの宮治である。
(瀧川鯉八)
 全体を通して、かつてないほど受けていた落語の定席だったと思う。しかし、コロナ禍で飲みにも行けないかつての仲間たちが内輪ネタで盛り上がるサークル同窓会の趣がある。盛り上がりすぎじゃないか、と思わないでもない。桂宮治は笑点メンバーに選ばれたが、それが吉と出るかは本人次第。「笑点」には株価ばかりを気にする外資ファンドみたいなところがある。じっくり聞かせることより、目先の受け狙いにならないで欲しい。とにかく現時点ではもっとも受ける芸人の一人。
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紀伊國屋寄席で金翁、さん喬を聴く

2022年01月28日 23時59分12秒 | 落語(講談・浪曲)
 紀伊國屋寄席三遊亭金翁を聴いてきた。紀伊國屋寄席というのは、新宿の紀伊國屋ホールで月に一回開かれている落語会で、今回がなんと第679回である。一年に12回、10年でも120回なんだから、もう56年も続いている。でも初めて行った。夜だから新宿からだと帰りが遅くなるのが嫌なのである。今日も帰宅が10時40分頃を越えたからブログを休もうかと思ったが、宵っ張りの母親が今頃風呂に入っているので先に書いているわけである。

 今回は仲入前に三遊亭金翁、トリが柳家権太楼というはずだったんだけど、なんと権太楼師匠がコロナに感染してしまった。今芸能界ではコロナ感染が爆発的に増えていて、芸協会長の春風亭昇太も感染してしまった。落語協会では林家たい平も感染したという話。チケットを買ったときには、こんなに爆発的に増えてはいなかった。僕も夜というのはどうかなと思わないでもないが、金翁を聴いておきたいと思ったのである。小三治、円丈が亡くなり、落語協会では鈴々舎馬風林家木久扇は何度も聴いているが、当年92歳の最長老、三遊亭金翁を一度も聴いていない。寄席の定席にはほとんど出ないからホール落語をねらうしかない。
(三遊亭金翁)
 金翁と言っても、誰だという人も多いだろう。2年前までは金馬である。もっと前は小金馬だった。小金馬という方がなじみだというのは、相当の年長者である。小金馬は一龍斎貞鳳江戸屋猫八と共に、1956年から1966年までNHKで放送された「お笑い三人組」のメンバーだった。元祖お笑いヴァラエティみたいな番組である。僕は小学校低学年だったけど、それに出ていたメンバーを覚えているのである。67年に4代目金馬を襲名し、2020年に息子の金時に金馬を譲って金翁を名乗った。その時の襲名披露にも一日ぐらいしか出なかった。僕が寄席に行くようになった頃には、もうほとんど出ていなかった。だけど探せばたまにはどこかに出ているので、今回行く気になったわけである。もう椅子に座って演じているが、やむを得ない。

 演目は「阿武松」で相撲を見ているじゃないと読めないだろう。「おうのまつ」である。今は親方の名前で、阿武松部屋には阿武咲(おうのしょう)という関取もいる。だけど僕は名前の由来を知らなかった。ある大食いの力士が食い過ぎて武隈(たけくま)部屋をしくじる。故郷に帰る前に戸田の渡し(今の東京・埼玉を分ける荒川)でもう身投げするかと思ったが、部屋で貰った金で最後に食べようと思う。その食べっぷりを飯屋の主人が見込んで、今度は錣山(しころやま)部屋に世話する。これが大成した後の6代横綱阿武松だった。毛利家に抱えられ、萩にある阿武松原に由来するしこ名を名乗ったという。

 いや、そんな由来があるとは知らなかった。まあ実話そのものではないらしいが、6代目横綱は確かに阿武松緑之助である。噺は小ネタだけど、悠然たる語り口で口跡もはっきりしている。大したもんだ。やはり一度聴いておいて良かった。協会が違うが、桂米丸が1925年生まれで落語界最長老。金翁は1929年生まれである。米丸もちょっと前まで寄席によく出ていたが、最近は出ていない。ところで今の武隈親方は元大関豪栄道で、今の錣山親方は元関脇寺尾だが、大昔にそんな因縁があったのか。

 トリはもともと権太楼の「夢金」と出ているけれど、代演のさん喬は「妾馬」(めかうま)だった。さん喬と権太楼は年末に末廣亭で何年も一緒にやっている。同門だから、代演にふさわしい。でもさん喬は2年前に聴いてて、権太楼はナマではしばらく聴いてない。「妾馬」は、長屋住まいの八五郎の妹、鶴が殿様に見そめられて側室になり、世継ぎの男子を産む。殿様は八五郎を屋敷に招待するが、長屋の職人と堅苦しい武士の言葉遣いが事々に行き違い…という何度も聴いてる有名な噺。何度聴いてもよく出来た人情噺だと思う。身分制と人情の相克を肩肘張らずに訴えている。今回は踊ってもいいかと八五郎が踊って終わるという珍しい終わり方。
(柳家さん喬)
 ほかに柳家やなぎ春風亭三朝(蛙茶番)、中入り後に太神楽曲芸(包丁の芸で一度失敗したのがビックリ)があった。
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上野広小路亭で、三遊亭好楽・兼好を聴く

2022年01月19日 22時10分43秒 | 落語(講談・浪曲)
 2022年の初落語。落語は誰を聴いたか忘れないように記録しておくことにしている。東京にはいつもやってる4つの寄席があって、それを「定席」(じょうせき)と呼ぶ。しかし、他にも落語や講談などの演芸をやっているところが幾つかある。永谷商事が運営している4つの小さな演芸場の中で、お江戸上野広小路亭お江戸日本橋亭お江戸両国亭の3つは大体毎日のように落語をやっている。(「新宿永谷ホール」は主に貸しホールらしい。)定席の一つ、上野鈴本演芸場は落語協会しか出られないので、上野広小路亭では逆に落語芸術協会五代目圓楽一門会落語立川流を中心にしたプログラムを組んでいて貴重。
 (お江戸上野広小路亭)
 と書いたけれど、実は一度も行ったことがなかった。場所は上野松坂屋本館の(中央通りをはさんだ)真向かいにある。場所が小さいので、どうせなら大きいところで見たいなと思っていたんだけど、正月の寄席は顔見世興行である。いつもより高い料金なのに、多くの芸人が顔を見せてちょっと漫談を話して代わる。それも楽しいといえば楽しいけれど、最近は行ってない。代わりに正月に地元ホールでやってる「初笑い寄席」なんていうのに行くことも多かった。しかし、これも芸人は他の寄席と掛け持ちで、急いでやっている。客も普段は落語なんて聴かないシロウトばかり。会場も大きすぎることが多く、最近は行ってない。

 ということで、お江戸上野広小路亭にそろそろ行ってみるべきだと思った。当日2千円のところ、予約すると5百円も安い。だから予約電話をしたら、スリッパを持参してくれという。靴を脱ぐのである。いつもはスリッパを置いてるが、今は感染対策で貸してないという。パイプ椅子が50ぐらい置いてある小さなホールだった。まず靴を脱いで、靴は2階の靴入れに入れる。寄席は3階で、全部で50人ぐらい入るところ、今日は20人ぐらいだった。今日は多いと言ってたけど、本当かどうか判らない。

 今日しか時間が取れなかったけど、トリが三遊亭好楽、仲入前が三遊亭鳳楽なのが楽しみだった。でも、鳳楽は休演で、一番面白かったのが三遊亭兼好。評判はずっと聞いてたが、寄席には出ないので(最近は新宿に時々出ているが)、今まで聴いたことがなかった。どういう人か知らなかったのだが、1970年生まれの52歳。社会人経験を経て、1998年に好楽に入門した。2008年に真打昇進。昔の俳優の山村聡みたいな容貌で、元気いっぱいの落語を演じた。演目は「王子の狐」で、狐が人間を欺すのではなく逆に人間が美女に化けた狐を欺そうとする話。勢いがあって面白く、人気があるのも当然。また機会があれば是非聴きに行きたい。
(三遊亭兼好)
 前座は立川流の立川半四楼、その後に落語芸術協会所属の二人。上方落語の笑福亭希光、講談の日向ひまわり。ひまわりは前にも聴いてるが、大岡政談を30分たっぷり。次が兼好で、さらにラッパ漫談トリトン海野。聞いたこともない名前だが、日本唯一の自衛隊を定年退職した芸人だという。つまりラッパは、陸上自衛隊時代の仕事だった。ラッパにマスクを掛けたりして笑わせる。意外にもとても面白かった。続いて鳳楽の代演、立川談之助だが、この人は浅草演芸ホールの芸協公演に時々出てるから聴いたことがあった。前も「笑点裏話」だったが、今回は林家三平が代わった(下ろされた?)最新ニュースがある。一番知られている落語番組だけど、こんなに「笑点」や他の落語家の悪口ネタでみんな面白いんだろうかと疑問。

 仲入り後に、活動弁士坂本頼光。活弁を寄席でやるのは珍しいが、アート無声映画は別にして、娯楽映画の活弁は今は話芸の一種として扱うのもありだろう。昔のアメリカ映画「ジャックと豆の木」をDVDで流しながら、説明を付ける。昔は特撮のレベルが低いから、今となっては笑えるシーンが多い。そこを弁士が誇張して述べると、立派な寄席の芸だった。続いて阪妻(阪東妻三郎)の「血煙高田馬場」をちょっと流して終わる。落語芸術協会に正式に入会するという話も聞いたが、これは受けるのではないか。
(坂本頼光)
 次に芸協重鎮の桂竹丸で、僕はこの人がお気に入りだけど今日は漫談に終始してちょっと残念。さらに俗曲の桧山うめ吉。昔国立演芸場で夏に桂歌丸が圓朝の怪談をやっていた頃、トリの前は大体この人が出て来た。すごい美人だなあと思って、ブログを時々のぞいている。今日は久しぶりだったが、踊りもあった。そして最後に三遊亭好楽。実は初めてである。この人は昔林家久蔵と言われた時代に「笑点」大喜利メンバーで、一端退いた後で三遊亭好楽になった後で復帰したという過去がある。もともと林家彦六(先代林家正蔵)に入門して真打になった。その後師匠が亡くなって、五代目圓楽一門に移籍した。師匠没後に他の師匠に付くのはよくあるが、好楽の場合は落語協会から脱退してしまったわけだから、凄い決断である。
(三遊亭好楽)
 最近は時々浅草や新宿に出ているが、基本的に定席では聴けないから、五代目圓楽一門や立川流には聴いてない人がかなりいる。好楽は「死神」というネタで、貧乏神に取り憑かれた男が死にたくなって死神に出会う。死なない方策を伝授されて医者になって、成功するが…。上野広小路亭はトリの持ち時間が長いので、長いネタをタップリできる。どうも本当に年取った感じがあって、死神に取り憑かれてもおかしくない。やっぱり凄いなと思うところと、なんだか一本調子だなという場面がある。もう絶頂期ではないのでやむを得ないだろう。近くの鈴本演芸場の半分の値段なんだから、十分もとを取った気になって帰宅した。
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上野鈴本で桃月庵白酒「富久」を聴く

2021年12月22日 20時48分17秒 | 落語(講談・浪曲)
 最近落語家の訃報を書くことが多く、そろそろ寄席に行きたいなと思っていた。年内にどこかと思って、上野鈴本演芸場に行ってきた。最近は浅草に行くことが多かったが、思い出してみれば鈴本が一番落語を聴いてる場所だろう。ホール落語だと夜が多いので、昼間に行くとなると寄席になる。しかし、ヒマやお金の問題と別に寄席だと、客席が小さくてずっと聴いてるのが大変。腰が痛いときには行けないという大問題がある。まあ映画館のような席にしてくれとは言わないが、結構大変なのである。

 今やってるのは「一発逆転 千両富くじ! 暮れの鈴本 富久まつり」と題して、4人の演者が日替わりで「富久」を語る。鈴本演芸場は落語協会しか出ないので、コロナ禍でもっとも大きな影響を受けたと言っていい。(落語協会で感染者が出た。)その後、昼間だけの公演を再開し、今は夜もやってるが、時間が短くなっている。月曜は休演日とし、年末も27日~31日は休演している。そんな中で、一つの演目を何人かが日替わりでやるような企画をやることが多い。普通は10日間同じ顔ぶれだからあ、少しでもファンが日参してくれればということか。
(桃月庵白酒)
 今日のトリは桃月庵白酒(とうげつあん・はくしゅ)で、この人こそ昨年コロナに感染してしまった人の一人だが、すぐに復帰して活躍している。僕は落語協会中堅でもっとも面白い人の一人だと思っている。いろんな落語家がいるけれど、(登場人物の)何気ない反応、ちょっとした一言がおかしいのである。噺は知っているわけだが、なんか一言付け加わって面白い。今日は右手に包帯をしていて、やけどで病院に行ってきたと言っていたが、火事が出て来る噺だから、時々自分をネタにして笑いを取る。

 「富久」は酒でしくじった幇間(ほうかん・たいこもち)が暮れに富くじを買ってしまう。絶縁された旦那が住んでる日本橋辺が火事と知り、すぐに駆けつけて出入りを許されるが…。その間に住んでいた浅草でも火事が起こって、長屋が焼けてしまう。数日後、たまたま富くじ抽選に行き会い、調べてみると買ったくじが当たってるではないか。じゃあ富くじと引き換えにと言われると、くじは家ごと焼けてしまった…という展開の噺である。落語だけではなく、大衆芸能には「年末もの」がある。落語だと「芝浜」や「掛取り」が代表だが、日頃の商売が掛け売りで歳末に一斉借金払いという商習慣から、年末にはお金の苦労がつきものになる。

 今日は柳家小ゑん(おでんの新作落語で笑わせた)、ごひいきの古今亭文菊(湯屋蕃)、春風亭一朝、漫才のロケット団などが前半。中で柳家小八の「千早振る」がおかしかった。この人は柳家喜多八に入門したが、喜多八が2016年に亡くなり、大師匠の柳家小三治のもとで真打に昇進した。小三治のモノマネがおかしく、農工大で物理学を学んだと言ったら、小三治が学んだことを生かさなくてはと言った。ということで、「千早振る」の物理学版という珍品である。ニュートリノとかカミオカンデの話になっちゃうから、意想外の展開に笑撃である。
(柳家小八)
 後半は実は初めて聞いた(と思う)隅田川馬石五明楼玉の輔に、動物物真似の江戸屋小猫、紙切りの林家正楽と安定した芸に満足。そしてトリが白酒だから、やっぱり寄席は面白いと思って帰ってきた。家から近いから、やっぱり上野、浅草でもっと寄席に行こう。上野の街には双子パンダの名前がはためいていた。上野松坂屋本館もパンダ絡み。上野に行くと、「うさぎ屋」でどら焼きを買おうか、松坂屋の地下で日光金谷ホテルのパンを買おうかなどと迷うのだが、今日はまあ止めておこう。24日に地元でケーキを買うかと思って帰ってきた。
(鈴本演芸場)(パンダの名前が)(上野松坂屋本館)
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九代目春風亭柳枝真打昇進披露興行ー浅草演芸ホール4月中席

2021年04月14日 22時11分02秒 | 落語(講談・浪曲)
 落語協会新真打5人の披露興行が続いている。3月下旬に始まって、上野、新宿と来て、4月中席が浅草演芸ホール。10日間の興行を5人で2日ずつ披露している。昇進するのは、弁財亭和泉(三遊亭粋歌改め、師匠は 三遊亭歌る多)、柳亭燕三(柳亭市江改め、師匠は市馬、えんざ、明治期存在の名)、柳家㐂三郎(小太郎改め、師匠は柳家さん喬)、九代目春風亭柳枝(春風亭正太郎改め、師匠は春風亭正朝)、三遊亭れん生(三遊亭めぐろ改め、師匠は三遊亭円丈)の5人。今日は春風亭柳枝(しゅんぷうてい・りゅうし)である。
(9代目春風亭柳枝)
 他の人も気になるけど、古典専門で二つ目時代から人気があったと聞き、是非春風亭柳枝を見てみようかと思った。今日は朝から断続的に雨で、寄席の前に幟(のぼり)が立てられない。師匠の春風亭正朝の口上にあったが、柳枝の披露5日目のうち4日が雨だという。トリを取った柳枝によれば、実は師匠の方が雨男だと言うが。しかし、次の披露である今週土曜の天気予報も雨になってる…。東京もずっと晴れていた冬が終わって定期的に雨の日々。
  
 僕はけっこう真打披露興行に行ってると思う。新しい真打を見てみたいという気持ちがある。二つ目時代から追っかけて、誰が伸びると見極めるほどの落語通ではない。だから評判は聞いてても、実際には知らない二つ目が多いのである。そして真打に昇進しても、その後何度も見聞きする人は少ない。落語界も大所帯になっていて、真打もオーバードクター状態だ。トリを取れる資格は得られても、実際に活躍の場が得られる人は数少ない。

 それと真打披露には原則として師匠が口上に付き添う。複数の昇進の場合、複数の師匠レベルが口上の前後に出ることが多い。また協会の幹部も名を連ねる。今日は柳亭市馬会長、林家正蔵副会長の他、柳家さん喬春風亭一朝橘家圓太郎などがそろう。珍しく一番目に春風亭一之輔も出た。どこか用事があったんだろうが、12時からは早い。「桃太郎」という、親が寝かせるために話す「桃太郎」に子どもがいちいち「昔昔っていつ?」「どこの川?」と問い詰めて、最後は親が寝ちゃう。久しぶりのナマ一之輔は短くても面白い。
(真打昇進の5人)
 トリの春風亭柳枝は「佐々木政談」をやった。僕も落語の名前はそんなに知らないから、調べて書いている。南町奉行の佐々木信濃守の裁きを語る噺。佐々木信濃守とは、佐々木顕発(あきのぶ)という幕末の実在人物である。一介の旗本から出世し、勘定奉行になったものの井伊直弼に罷免された。その後復権し、江戸町奉行(北、南)や外国奉行を務めた。というのも今調べて判ったことで、幕末史で有名な人ではない。

 佐々木信濃守が下情視察をしていたら、子どもたちがお裁きごっこをしていた。その様子を見て感心した。佐々木は親子を奉行所に呼ぶが…。親が恐怖に駆られる中、子どもの機転が佐々木を感心させる。最初と最後の噺が対応した。柳枝は貫禄十分で、マクラも面白い。柳枝は60数年ぶりの復活の大名跡だそうだが、今後も活躍して大看板になることを期待したい。
(表紙絵=林家たい平)
 初めて聞いた五明楼玉の輔柳家小八も良かった。小八は貨幣価値の異なる村へ迷い込む「噺家の夢」は知ってるけど笑わせる。この人は今度真打に昇進した弁財亭和泉の夫だという。真打どうしの夫婦は初めてだとのこと。三遊亭歌武蔵の相撲漫談は前にも聞いたけど、今日の方が大受けだった。柳家圓太郎は「強情灸」、柳家さん喬は「替り目」を口上後にサラッと語る。その前の漫才、ロケット団が大受け。今一番受ける人たちだと思う。林家正蔵柳亭市馬は何度も聞いてるからか、ちょうど疲れる頃でウトウトしてしまった。ところで、弟子のれん生が昇進するのに、師匠の三遊亭円丈が出ていない。健康状態が心配だ。
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国立演芸場で春風亭小朝を聞く

2021年03月10日 21時06分58秒 | 落語(講談・浪曲)
 国立演芸場3月上席の千穐楽。トリは春風亭小朝である。落語協会は大御所の元会長・鈴々舎馬風や気鋭の桃月庵白酒などを中心にコロナ感染者が出て休演期間があった。落語協会だけ出演の上野・鈴本演芸場は今も休業中である。白酒は今月から復帰し、浅草演芸ホール夜の部でトリを取っている。そっちは時間的に大変だから国立演芸場に行こうと思った。ここは時間が短くなっている(1時開始で3時半上がり)。椅子も他の寄席よりいいし、国立で料金が安い。「津波の霊たち」のような本を読んでいると、重さを抜く必要がある。
(春風亭小朝)
 春風亭小朝は1980年に36人抜きで真打に昇進した。その頃は落語に関心がなかったけれど、これは大きく報道された一般ニュースだった。そして80年代、90年代には、テレビでも大活躍していた。20世紀の終わり頃から落語を聞きに行くようになって、小朝も何度か聞いている。今も大スターだけど、昔ほどの勢いがなくなった感じもある。「春風亭」と打ち込むと、一之輔昇太に次ぐ3番目で、下に昇太の弟子の昇吉、小朝の弟子の「ぴっかり☆」が迫っている。どんな大名跡を継ぐのかと期待されていた小朝も、3月上席中に誕生日が来て66歳である。

 今日はたっぷり「男の花道」を語った。これは初めてで、昔映画にも何度もなったけど、そっちも掛け違って見ていない。映画と落語、講談では少し内容が違うようだが、基本は上方の歌舞伎役者が東上する途中で失明の危機におちいる。それを東海道の宿場町に同宿していた目医者が治す。江戸で大人気を取った中村歌右衛門は、かつての恩義を忘れず医者の危機に舞台をなげうち駆けつけようと思うが…。という話で、途中少し言い間違いもあるが、長い話を聞かせた。

 前座が終わって、最初が先に名前を書いた「ぴっかり☆」。☆までが芸名である。元女優だそうで、年をごまかしてAKB48の第一期オーディションに参加して最終予選まで残ったという。最後は秋元康に年齢を見抜かれたということになっている。二つ目ながら、すでに大人気らしいが僕は初めて。演題は「やかん」という、横町の隠居先生が言葉の由来を無理やり語呂合わせするバカ話。訪ねた八五郎を先生が「愚者」「愚者」と呼ぶから、やる人によっては嫌み感が出る。アイドル系のぴっかり☆がやると、おかしさだけ伝わる感じがした。若いようでも不惑が近いけど、二つ目も10年目。そろそろ飛躍が期待できそう。
(春風亭ぴっかり☆)
 トリの前に僕のごひいきの音楽パフォーマンスのだゆき。今日は座ってやったのが珍しい。今まで何回か聞いてるが、いつも立ってやっていた。毎回鍵盤ハモニカでコンビニの音を再現するけど、それは手始め。パイプオルガンに再現には驚いた。簡単に演奏できる楽器をいくつか持ってくるが、この人はアルト・リコーダーソプラノ・リコーダーを一緒に吹ける。一人合奏で「ふるさと」を吹くんだからすごい。でも音楽だけでない雰囲気に持ち味がある。
(のだゆき、立って二つのリコーダーを一緒に吹くところ)
 前半はぴっかり☆に続き、春風亭柳朝、曲芸の翁屋勝丸林家三平で終わり。三平は「悋気の独楽」という、嫉妬深い奥さんが浮気旦那の後を小僧に付けさせる話。三平はだんだん風貌が先代に似てきたと思う。去年も浅草で聞いたけど、三平はうまくなっている。中入り後は桂文雀。この人も初めてで、調べると持ちネタがたくさんあるらしい。今日は「歯ンデレラ」という新作で、お婆さんが合コンに行って入れ歯を落とす。それを妻を亡くした社長が拾って落としたお婆さんを探すという、実におかしくも哀しいバカ話である。これは笑えた。時間が短いから疲れなくていい。でも国立演芸場はやはり「寄席」っていう感じが薄いんだなあ。
(林家三平)(桂文雀)
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桂宮治真打昇進披露公演ー浅草演芸ホール2月下席

2021年02月24日 22時17分22秒 | 落語(講談・浪曲)
 落語芸術協会所属の桂宮治真打昇進披露公演が始まった。2月中旬の新宿末廣亭が最初だが、夜だったので敬遠。毎日代わりの口上メンバーが豪華だったけど、帰りも遅くなるし食べるところがない。次の浅草演芸ホールは夜の予定が昼に変わったので、時間を作って聴いてきた。現在の芸協会長・春風亭昇太以来の5人抜き真打抜てきだという。

 桂宮治は初めて聴いたけど、これはまた威勢のいい真打が登場したものだ。二つ目ユニット「成金」メンバーで、柳亭小痴楽神田伯山昔昔亭A太郎瀧川鯉八桂伸衛門に続く6人目の昇進だ。1976年生まれだが、入門は2008年で30を超えていた。しかし、2012年に二つ目に昇進すると、その年にNHK新人演芸大賞落語部門大賞を受賞した。その後も毎年のように若手落語家向けの賞を受賞している。口上で桂文治が言ってたが、他の二つ目に賞を譲るため宮治と神田松之丞(伯山)は早く昇進させるべきだと主張したという。
(師匠の桂伸治と)
 若手の春風亭昇也や昨秋の真打・昔昔亭A太郎が元気だったけど、成金メンバーは宮治を含めて相当変だ。かつてはイキの良さ抜群だった春風亭昇太が普通に見えてきた。まあ昇太は寄席では古典をやることが多く、口上でも「さすが会長」的にまとめていた。ナマ昇太にも少し飽きてきたかな。上方から応援の桂三度の「代書屋」がおかしい。東京で柳家権太楼や三遊亭小遊三がやるときと雰囲気がかなり違う。調べてみるとこの人も異色の経歴の持ち主で、吉本で漫才や放送作家をしていた。2011年に文枝に入門したが、そのエネルギーと面白さは注目。

 今日は子どもが客にいたためか、割と有名な噺が続きちょっと飽きてきた。桂竹丸桂文治の安定した力量が楽しい。僕も若手のエネルギーに押され気味である。口上後は、芸協の真打披露は大体同じだが、東京ボーイズ(歌謡漫談)、ボンボンブラザーズ(曲芸)が終わり頃に組まれる。そのとぼけた味わいが客を沸かせて、また静める。特にボンボンの帽子投げは客を巻き込んで、最近ではトリの次ぐらいに受けている。今日も男の子を高座に上げて大喝采だった。
(大分竹田の姫だるま=林家たい平絵)
 そして十分盛り上がったところで、トリの桂宮治。悪口と客いじりのエネルギーで各席を圧倒。マクラが面白すぎて、ネタをあまり覚えてない。しかし、こういうエネルギッシュな落語に当てられると、落語協会も聞きに行きたくなるから不思議。今年初めての寄席だったが、コロナ禍に半日をつぶすのはどうなのかと1月は行かなかった。席は半分だし、検温しているから、マスクをしてれば大丈夫だと思っている。ただし最大の問題は腰や尻が痛くなることだ。
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羽子板市の浅草に落語を聞きに行く

2020年12月18日 22時47分45秒 | 落語(講談・浪曲)
 今年はついに旅行や演劇には行かずに終わりそうだ。コロナの影響というだけではない。家に年寄りがいるので、泊りで出掛けにくい。演劇は面白そうなのは、高くて遠い。秋からは見たい公演がいくつか出てきたが、歯医者が始まってしまって余裕がなかった。(来年早々の二兎社は取ってある。)ということで、何とか落語だけは行きたいなと思う。もっとも夜は避けたくなってしまう。どこかで食べないといけないから。そこで羽子板市の浅草に落語を聞きに行った。
 
 羽子板市も初めてではないと思うけど、ガラガラでビックリ。大体、こんな羽子板を何故買う人がいるのか、僕には判らない。浅草自体も人が少なくなっている。まあ、それでもいるとも言えるが、ちょっと前よりも減っていると思う。正月間近の仲見世はこんな感じ。
 
 TOHOシネマズで映画を見ると、山崎紘菜が「映画館っていいですよね」と言ってるけど、それは昔の映画館だろう。指定席なんかほとんどなく、いつ入っても良かった。ヒット映画は立ち見で見た。ナマ(ライブ)という意味で、演劇やコンサートには独自の緊張した匂いがある。そこが好きだが、でもずいぶん前からチケットを買ってないと、今では行くのも難しい。

 それを考えると、僕は一番寄席が落ち着くと思う。まあ椅子が悪くて疲れるが、いつ入っても構わないし、途中で出ていく人はいっぱいいる。そして時には12時前から夜9時頃までいられる。眠くなったら寝てしまっても、演者が変わるから筋が判らなくなることはない。

 12月中席は上野・鈴本演芸場浅草演芸ホールは出演者がかなり被っている。近いから時間を変えれば、両方に出られる。それを浅草に行ったのは、落語協会会長の柳亭市馬会長をしばらく聞いてないので、ずっと聞きたかったから。上野にも出ているが、浅草はトリである。たっぷり「掛け取り」をやって聞き応えがあった。

 「掛け取り」というのは、大晦日の借金取り攻勢を如何にしのぐかという話だ。去年は「死んだふり」で逃れた。今年はどうするか。相手の好きなジャンル(狂歌や芝居)に話を引きつけて、うまく撃退してしまう。市馬師匠の「掛け取り」は三波春夫ファンの借金取りに対して、歌ってごまかしてしまう。必ず歌入りになる市馬らしい工夫で、最後は東京五輪音頭でコロナ退散だった。

 今日は他でトリを取る五街道雲助三遊亭圓歌、最近人気沸騰の春風亭一之輔桃月庵白酒、大御所の林家木久扇鈴々舎馬風、さらに古今亭文菊三遊亭白鳥三遊亭歌武蔵など人気者が勢揃い。これで3千円は安い。若手の柳家わさびの「パーリー・ピーポー」もおかしかった。笑いで言えば漫才のロケット団がいつものようにバカウケしていた。「今年ももうすぐおわりです、か?」と何でも疑問文にするのが笑えた。

 白酒師匠が「時々メモ帳を開いて採点してる人がいるけど、これは困る」と言ってたけど、僕も同感。ぼうっと聞いてればいいと思うので、演題も忘れてしまう。しかし、その桃月庵白酒師匠の「粗忽長屋」のとことんバカバカしいけど、突き抜けた感じのぼけ具合が良かった。行き倒れの死体を「隣に住んでる熊だ」と言い張り、今朝本人に会ったから連れてくるという訳の判らない男を絶妙に演じている。何度も聞いてる話だが、印象的だった。この人はあまり聞く機会が無かったけれど、すごく面白くてハマりそうである。まあ、備忘のために書いておく次第。
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芸協の真打昇進披露公演(浅草演芸ホール昼席)を聞く

2020年10月30日 22時32分50秒 | 落語(講談・浪曲)
 久しぶりに浅草演芸ホールで落語を聞いてきた。落語芸術協会で5月に予定されていた真打昇進披露公演が非常事態宣言で出来なかった。それが10月中旬から行われていて、浅草も今日が千秋楽である。だから行ったというよりも、浅草の歯医者に通っているのである。夕方5時に予約があったので、12時頃から4時半頃まで演芸ホールにいたわけである。
 
 昇進するのは二つ目のユニット「成金」メンバーだった昔昔亭A太郎(せきせきてい・えーたろう)、瀧川鯉八(たきがわ・こいはち)、桂伸衛門(かつら・しんえもん)の3人。「成金」メンバーでは柳亭小痴楽神田伯山がすでに昇進したが、どっちも大した実力の持ち主だった。では今回の3人はどうだろうか。桂伸衛門はまだ伸三だったときだが、伯山の披露興行で超絶的におかしい「寿限無」の発展型を聞いている。しかし、後の二人、昔昔亭A太郎瀧川鯉八は機会がなくて聞いたことがない。ところがこれが素晴らしく独自な新作で沸かせてくれた。

 観客制限は撤廃されたが、寄席はまだ半分しか客を入れていない。普段は1回の「仲入り」(途中休憩)を2回取っている。(その分芸人数は少ない。)今日は新真打以外にも人気者が多く、ほぼいっぱい入っていた。最初のうちは春風亭昇々柳亭小痴楽ねづっちと沸かせて、桂文治師匠が大受けして仲入り。続いて、新真打の師匠、桂伸治師匠、昔昔亭桃太郎師匠。東京ボーイズの歌謡漫談をはさんで、芸協会長の春風亭昇太が登場。久しぶりに新作を聞いた。
(新真打三人の色紙)
 そしてお目当ての披露口上。A太郎が「いい男」だという話が皆から出る。昔ならまさに役者といったハンサム。伸衛門も「カワイイ」という人もあり、昇太会長のように否定する人もあり。しかし鯉八は体が大きく、皆が顔はともかく実力はとか言って笑わせる。ところが本日のトリの鯉八を見ると、実際に話を始めればその生き生きとした表情に魅せられた。それ以上に、口上で師匠連が独特の発想とか言う意味がよく判った。何だこれはという感じの、ニキビに悩む中学生と祖母の「ニキビをつぶす快感」をめぐるやり取り。ぶっ飛んだ発想に驚いた。
(終幕後の新真打三人)
 一方、A太郎もホームランを打った野球選手のヒーローインタビューの話。嫁姑のいさかいを面白おかしく語る新作に抱腹絶倒。こんな笑える新作を作るんだとこれも驚き。伸衛門は白い犬が人間になるという「元犬」。これはまあ何回も聞いているので驚きはないが、犬の様子など安定した面白さ。三者三様で満足出来る新真打だった。来年5月には再び「成金」メンバーの昇進が予定されている。また見に行きたいなと思った。
(ナイツ土屋の絵)
 なお、「プレバト」の水彩画部門で高く評価されたナイツ土屋の「浅草演芸ホール」の絵が飾られている。小さいので見落としないように。真打昇進披露は、今後池袋演芸場、国立演芸場と11月20日まで続く。
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神田松鯉の「乳房榎」ー浅草演芸ホール7月中席夜の部

2020年07月18日 17時26分59秒 | 落語(講談・浪曲)
 緊急事態宣言解除後、映画館には行ってるけど寄席や劇場には行ってない。僕が見たい演劇は、おおむね新宿や渋谷以遠(自宅から見て)の夜公演が多い。どこかで食べなきゃいけないし、家に着くのが遅くなる。しかし、浅草演芸ホールの7月中席(後半)の夜公演はトリが神田松鯉の怪談噺連続長講だから、家から近いしどうしても聞きたくなって出掛けてきた。

 客席は一席ずつ空けて座れないようになっていた。神田伯山も出るし、客席半分は入れない前提での「ほぼ満員」になったが、他の寄席より広いから「密」な感じはあまりない。9時に終わって、つくばエクスプレスを使ったら9時40分に自宅に着いた。これは東京感覚ではものすごく早い。先に軽く食べて、帰りは外食しないで帰る。これなら心配は少ない。

 なんと言っても神田松鯉(しょうり)先生。人間国宝認定以降、何回か聞いてるが素朴な語りに乗せられてしまう。今回は5夜連続の怪談噺で、本来なら梅雨明けしている頃である。今年は梅雨が長く、各地で被害が起きている。東京も久しく太陽を見ていない。本来なら「猛暑の五輪どうする」と息巻いていた時期だが、どっちも外れるとは年初には予想できなかった。しかし、梅雨寒の多湿感も怪談向きだと松鯉先生は言う。
(神田松鯉)
 「番町皿屋敷」や「お岩誕生」などもある中で、「乳房榎」に行ったのは圓朝の原作を読んでいて、板橋にある「乳房榎」も見に行っているからだ。しかし、乳房榎(という木がある)は直接は出て来なかった。悪党が絵師の先生宅に入り込んで、先生が長い仕事を頼まれている間に、留守宅の奥方を手込めにする。そこから恐怖の犯罪と因縁話が始まる。悪党が師匠をあやめた後で、突然灯りが消えて懐中電灯で演者だけが浮かび上がる。怪談らしい趣向。

 今回は落語家も出ているけれど、松鯉門下の3人が講談を披露する講談中心のプログラム。最初が神田阿久鯉で、江戸時代に怪盗に憧れた少年の話。中入り前に神田伯山の「万両婿」で、15分圧縮ヴァージョンは筋を知ってると今ひとつか。前に聞いてるから。「大岡政談」の一種である。途中で救急車の音が聞こえて「うるせえな」とか言いながらやってた。熱演だから客席には受ける。中入り後に神田鯉栄の次郎長もの。阿久鯉と鯉栄は、伯山の姉弟子にあたる女性講談師だが、持ち味が少し違う。伯山もいいけど、この二人がだんだん楽しみになってきた。しかし、やっぱり何となく乗せられてしまう松鯉先生が一番聞きたくなる。

 ねづっちの謎かけ、北見伸&スティファニーのマジック、鏡味正二郎の大神楽(曲芸)なんかも、いつ見ても受けている。僕も面白くて大好き。実は初めての「ザ・ニュースペーパー」、真打間近の「成金」メンバー春風亭昇々も面白かった。浅草演芸ホールはプログラムが充実していて、一度行ったらまた行きたくなった。これで3千円、4時間楽しめるって、他の芸能に比べてもコスパがいいし、マスクして見ているのも思ったよりは辛くなかった。
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浅草演芸ホール3月上席ーライブ芸能「最後の砦」

2020年03月07日 22時40分36秒 | 落語(講談・浪曲)
 一日時間を取って、浅草演芸ホール3月上席に行った。2月下席が神田伯山襲名披露だから、続けて見に行ったことになる。その時は昼夜入れ替えだったが、ここは普段は入れ替えなしである。12時前から21時頃までいられる。しかし、今まではさすがに疲れるから、そんなことはしたことがない。今回は12時じゃあないけど、13時頃に行って最後までいることにした。昼にも夜にも聞きたい人がいるからだが、それ以上に今や寄席が「ライブ芸能最後の砦」になりつつあることが大きい。多くの劇場が閉まっている中でやってるから、こっちも最後まで付き合うかという気になったのである。

 客席は最初はいい具合にパラパラで、「感染対策のために離れて座って頂いて」と笑わせていた。夜の最後になると、そこそこ入っていたけど満員にはほど遠い。寄席は超人気者が出ない限り、大体平日は満員にはならないけれど、やはり普段よりも空いていたと思う。「こんな時に来て頂き」とマクラで皆が触れる。熱演が続いて、気持ちがいい。落語や演芸は採点するつもりで見てないので、ノンキに聞いて(時にはウトウトして)脳内をクリーニング出来たかな。

 一番の満足は夜のトリを取った古今亭文菊師匠。前に何回か聞いて面白かったから期待して行った。この人は風貌に気品があって、頭も剃髪だから高僧みたいなイメージがある。ちょっと前に出た林家正蔵も下がるときに「お目当て」をお楽しみにと言いながら手を合わせて去って行った。市川海老蔵の幼なじみで、学習院大学卒業。と言っても別に上流階級でも何でもないようだけど、見た目が高貴な出身に見せておいて飲んべえを熱演するから、それだけでも可笑しみがにじみ出る。
(古今亭文菊)
 ネタは「猫の災難」というもので、僕は初めてだったが実におかしい。友だちが持ってきた酒をいない間に飲んじゃう様子を熱演した。落語は話芸という以上に顔芸だなあと思った。まだ知らない人多いと思うけれど、1979年生まれで40歳になったばかり。志ん生の弟子古今亭圓菊の最後の弟子だが、2012年の真打襲名には師匠は体調不良で出られず、市川團十郎が付き添ったとウィキペディアに出ていた。兄弟子の古今亭菊之丞も人気があって、要注目の一門だ。

 夜の部では大御所、五街道雲助の「強情灸」もさすがの絶品で、雲助師匠は久しぶりなんだけど今見ておくべき人だなあ。その弟子の隅田川馬石も最近注目の若手だが、今までは掛け違って初めて見た。生き生きして面白かった。中入り後最初が林家たけ平で、あまり知らないと思うけど僕の地元出身で、地元で落語会を開いてきた。数年前に真打になったが、どうも今ひとつではあるものの今回の新作「宿題」は面白く聞いた。なんと鶴亀算にお父さんが悩む話である。
(五街道雲助)
 昼の部はトリが林家ひろ木で、2017年に真打に昇進した林家木久扇門下の40歳。チラシに落語×津軽三味線と書いてあって、一席演じた後で津軽三味線を弾くのが趣向。正直言って本業はまだまだだと思ったが、三味線付きが面白い。この日は師匠の木久扇も出ていて、立川談志の選挙を手伝った思い出を語った。鈴々舎馬風も林家三平に連れられて銀座で飲んだ思い出話。この辺りの大御所になると落語というより昔話だけなんだが、それも貴重か。落語芸術協会の桂米丸や落語協会の三遊亭金馬川柳川柳なんかも最近はとんと見なくなってしまった。元気なうちに見ておかないと。
(林家ひろ木)
 三遊亭圓歌春風亭一朝なども出ていたが僕には今ひとつだった。圓歌は受けていたけど、どうも噺の内容がなあ。それより久しぶりに聞いた林家三平がけっこう面白いじゃないか。笑点の大喜利ですっかり「受けない」というイメージになってしまった。本人もマクラで自虐ネタにしている。確かに昔は全然面白くなかったけど、今回は声も大きいし口跡もいいから楽しめた。笑点はなんでも「無観客収録」をしたという話で、目の前に客がいるだけでも頑張れるということだろう。紙切りも昼夜で見たし、マジックや曲芸も楽しいがパントマイムのカンジヤマ・マイムが面白かった。
 
 寄席は長くて腰が痛くなるときもあるが、昔より好きになったと思う。昔は落語でもホール落語の方が良かった。もちろん演劇や映画の方がずっと楽しかった。寄席だとお目当て以外の「色物」やあまり面白くない若手が時間のムダに思えた。でも今ではそんな時間が貴重に思えてきた。別に寝たっていいんだし。人生の残り時間はどんどん少なくなっていくんだけど、だからこそライブの芸を見て気持ちをリセットすることが必要に思えるようになった。ところで浅草はガラガラかと思ったら、まあ昨日はそこそこ外国人も含めて観光客がいたようだった。前よりも全然空いてるけれど。
 
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