なんで(とても)久しぶりに、梨木香歩さんの本を
読もう思い、そしてこの本にしたのかその「動機」は
またもや思い出せませんが(きっとどなたかが
面白かったと紹介していたのでしょう)。
図書館にいつの間にか(自分が)予約していて(笑)、
順番が来たので、受け取りに行き、そこではじめて
ステキな絵の表紙だなー、タイトルの『雪と珊瑚と』って、
なんだろう?名前?と思ったしだいです。
梨木さんの本が出るたびに、一応チェックというか、
そうかまた新刊が出たんだーと思ってはいましたが、
実際に手に取って読んだのは10年ぶりくらいかもしれません。
(ブログのログがほぼ10年前でした)
私の中で梨木さんの書く小説は、読み始めれば面白くて、
考えさせられるのですが、ちょっとだけ「はぐらかされそう」
みたいな気持ちもどこかにあって。それは、物語の大筋とは別に
語られているアナザーストーリーを自分が読み取れないせい
なのか‥読み手としても自分の力量不足を過去に感じたような
漠然とした不安みたいなものが、本を手にすることをためらわせて
いたのかなあと思ったりしています。
でも、この本を読み終えて、そんな過去のトラウマ?とも呼べない
ような不安は、一掃されました。素直に、とても面白かったと
言えるし、素直に、とても感動しましたから。
雪と珊瑚。
珊瑚はこの話の主人公(21歳のシングルマザー)の名前で、雪は、
珊瑚が生んだ赤ちゃんの名前でした。
物語冒頭で、珊瑚は自分の名前の由来をこんなふうにくららに話します。
「母が若い頃、私を産む前、祖母の形見の珊瑚の簪を質に入れたんだ
そうです。結局そのまま質草は流れてしまって。で、生まれた子に
つけた名前が、珊瑚」
そして、雪と名付けたわけは‥。
「この子は雪。生まれたとき、窓の外に雪が降り始めたのを見て、
名づけました。そのとき、とても嬉しくて。雪が天から降りてきて
くれたみたいで。」
母から愛された記憶がない珊瑚は、離婚後ひとりで雪を産み、
育てていこうと決心しますが、働きたくても、生後すぐの赤ちゃんを
預かってくれるところは見つからず、途方にくれて脇道に折れた
ところで偶然にも「赤ちゃん、お預かりします」の張り紙を見つけます。
おそるおそる呼び鈴を押すと中から出てきたのが、くららさん。
赤ちゃんを預かるのは「初めて」だけど、子どもは昔から好きだし、
最近子どもを預けるところが不足しているって聞いて、やってみよう
かしらって気になった、と言います。
そんな都合よく物事が運ぶなんて‥と思っているうちに、この
くららさんと知り合ったことが、間違いなくその後の珊瑚の人生の
大きな転機になっていき、色々な人の助けを借りて、惣菜カフェの
オーナーになっていくのですが。
物語をただのサクセスストーリーにも、カフェ開店までの
how toガイド的なものにもしていないのは、もちろんそれが梨木さんの
小説だからなのですが。珊瑚のことを助けてくれる人も、そうではない
人も(少なからず出てきます)、それぞれの人の背景がうまく設定
されているというか、描かれているからなのです。(特にくららさん)
もちろん、「カフェ」をフツーのカフェではなく、「惣菜」カフェに
したことには大きな意味があり、それは、くららさんのこの言葉からも
わかります。
「どんな絶望的な状況からでも、人には潜在的に復興しようと
立ち上げる力がある。その試みは、いつか、必ずなされる。でも、
それを現実的な足場から確実なものにしていくのは温かい飲み物や
食べ物ースープでもお茶でも、たとえ一杯のさ湯でも。そういう
ことも見えてきました」
くららさんが、どんな「背景」を持った人なのかは、ここで
書いてしまうとつまらないのでやめておきますが、こんなくららと
珊瑚との、一見何気なく思えるような会話にも、「アナザーストーリー」は
しこまれていて‥同情とは何なのか、「プライドの鍛え方」とは‥に
大きくココロが動いた自分がいました。
そうそう、書き忘れてならないのは、タイトルの『雪と珊瑚と』の、
「と」。この一文字があるとないとでは全然物語は違ってきます。