真新しい高架駅の清水駅に下車する。海側には広いロータリーができている。清水といえば港町。東海道本線で何度も通過しているが、下車したのは初めてである。
駅前広場から、赤い舗装の広い歩道を歩く。国道を挟んで海側には港が広がり、潮の香りがただよう。このまま歩道を南の方向に歩くが、国道が高架橋になったり、途中で道路と交わってもこの歩道だけはマイペースで続いていく。
15分ほど歩いて、清水埠頭に出る。ヨットハーバーや、「エスパルスドリームプラザ」という大きなショッピングモールなどがあり、「清水マリンパーク」として地元の若者たちで賑わっている。清水といえば市民球団エスパルス、その名を冠したスポットは街の誇りなのかな。
そんな一角に、なにやら巨大な鉄の塊がある。何かのモニュメントか。近寄ってみると、これは「テルファー」という、荷役用のクレーン機械であるらしい。その説明書を読むと、「国鉄清水港線清水港駅に木材を貨物に積込む荷役機械として作られました」とある。「国鉄清水港線」・・・そうか、ここはかつて駅だったのか。そういえば、「旅客列車が1日1往復の路線」として、宮脇俊三著の『時刻表2万キロ』はじめ、多くの鉄道ものの本に清水港線のことが取り上げられていたのを思い出す。あとでわかったことだが、清水駅の東側というのはかつてのヤード跡地で、昔ながらの市街地は駅の西側であること、赤く舗装された歩道というのが実は旧清水港線の跡地であることのようだ。そのことを知らなければ、全く気付くことがなかっただろう。
そんな清水港の歴史を紹介しているのが、このマリンパークにほど近い「フェルケール博物館」というところ。「フェルケール」とは、ドイツ語で「交通」という意味らしい。
清水港は漁港だけではなく、東海を代表する工業港、貿易港として栄えている。そして、この港の親分的存在といえば鈴与こと鈴木与平(この名前は代々襲名されているとかで、今の社長で8代目らしい)である。清水の次郎長か、鈴木の与平ってなもんか。この博物館も、鈴与の貢献が大きい。(そういえば、エスパルスのユニフォームの胸部にも「Suzuyo」とありますな)
内容は工業港、貿易港としての清水港の成り立ちや、船舶関係、沿岸荷役関係の資料が満載で、現在のコンテナ中心の荷役とはまた違った港の賑わいというのが伝わってくる。太平洋側に面していることから欧米諸国との貿易の窓口にもなっており、静岡名産の茶葉やみかんなども輸出品目になっていたとか。こういう交通・物流関係の資料館というのは見ていて飽きない。海運の役割について、もっと広く観光客の啓蒙にも役立ててほしい。
また2階の企画展示室では、「わが家の宝物展」ということで、清水近辺の家庭から出品された骨董品、コレクション、思い出の品々が多数飾られていた。中でも大きなスペースをとっていたのが、駅弁の掛け紙のコレクションと、地元出身の名プレイヤー・中田英寿選手が着用したユニフォーム(日本代表とセリエAのもので、「ベルマーレ平塚」に関するものはなかったが・・・)といったところ。それらを見学するうち、いつしか閉館の時間となった。
博物館を出て、しばらく清水の街を歩く。魚を食べさせてくれそうな居酒屋がそろそろ営業を始める時間帯。なかなかそそられるものがある。今夜は静岡駅の近くのホテルを予約しているのだが、可能であればキャンセルして清水に泊まるか、あるいは清水で引っ掛けてから静岡に移動するという手もある。まあ、そこは次の機会にするとして、そうした商店街の真ん中にある静岡鉄道の新清水駅に着く。
新清水から新静岡まで、JR東海道本線と競うかのように走っている静岡鉄道。本数を見ると日中でも6~7分に1本、朝夕のラッシュ時にはもう少し本数が増えるというフリークェンシーを持っているし、自動改札機に磁気式プリペイドカードが備えられているし、ローカル私鉄ではなく完全に近郊路線。
2両編成の電車だが、民家の軒先に近いところをグンと加速して走ったかと思えば、すぐに減速して次の駅に停まる。並行するJRが途中駅が少ないのだが、静岡鉄道はその分近郊の乗客をこまめに拾う。静岡に遊びに行く人たちで、駅ごとに乗客が膨れ上がる。新清水駅とJRの清水駅も微妙に離れているのだが、終点の新静岡駅もJRの静岡駅とは数百メートル離れている。それでも駅ビルやバスターミナルを持ち、完全に静岡市内交通の一方の雄のような存在である。
今夜の宿は最近オープンしたという「アーバントイン静岡」。シングル料金だが、通されたのはベッド2つのツインルーム。もっとも、シングルなら「何か得したんとちゃう?」と思うのだが、ツインで申し込んでこの広さだったら「狭い部屋に押し込められた」という感想が出るだろうな、という広さ。
清水では飲まなかったが、結局静岡でも店のこだわりがそれほど出てこず、結局チェーン店風の居酒屋に入る。それでも生のシラスを食べたり、由比の地酒「正雪」(いかにも地酒といったネーミングだ)、焼津の地酒「磯自慢」といった銘柄を味わう。シラスに限らず、魚にはこだわりがある店のようで、ここはここで美味かった。
さて、明日は早起きである。それに備えてゆっくりと休むことにする・・・。(続く)