

醍醐寺の門をくぐる。オフシーズンということで混雑はさほどでもないが、それでも西国三十三所の先達用輪袈裟を首にかける人もいるし、冬晴れの境内をカメラに収める人もちらほら見られる。



まずは三宝院にて、下醍醐と霊宝館の共通拝観券を購入する。オフシーズンということで800円。共通拝観券と書いたが、実際はどれか一つだけ、あるいは二つだけという選択肢はない。

三宝院は2018年9月の台風21号で倒木や屋根瓦の破損があり、国宝の唐門の白壁も一部剥がれる被害があったが、台風が通過した9月4日から3日後の9月7日に拝観を再開した。下醍醐の拝観再開までは全ての納経、朱印を三宝院で対応したそうだ。建物手前にある樹齢160年の枝垂れ桜も枝が折れてしまったという。




庭園を見る。見た目には普段と変わらないように見えるが、瓦や回廊の床板がはがれたり、折れた木も伐採したという。


続いて霊宝館に向かう。前の記事にも書いたが、仏像館は冬の休館期間中で(まあ、春と秋に特別に開く)、平成館のみの見学である。平成館と言えば聞こえはいいが、プロ野球でいうなら若手の2軍という感じなのかな?
その2軍、もとい平成館だが、展示されているものそれぞれは立派なもので、一般の寺院ならこのうち一品を持っているだけでも寺宝として語ることができると言ってもいい。このあたりはさすが醍醐寺と言ってもいいだろう。どこの球団になぞらえるかは、この記事をご覧の皆様にお任せするとして・・・。
平成館にも五大明王は安置されている。このうち大威徳明王が平安時代のもので、残りは江戸時代の制作で豊臣秀頼の発願とある。今回の近畿三十六不動めぐりの直接の本尊ではないにしても立派な造りなので、手を合わせる。また奥の仕切られたスペースには千手観音像が安置されている。上醍醐が開かれた10世紀の作とされていて、これも西国三十三所の本尊である准胝観音とは異なるが、これも豊かな表情の仏様で、西国めぐりのつもりで手を合わせる。
他にも両界曼陀羅や三宝院の障壁画などを見る。これだけでも十分なラインナップだったが、また特別開館の時に仏像館を見てみたいものである。

そして仁王門をくぐり、下醍醐の境内に入る。
そこには驚きの光景が広がっていた。



確かこの辺りは木が生い茂り、青々としていたはずである。それが更地のようになり、工事中のフェンスやロープで仕切られている。台風21号では、醍醐寺全体で約2千本の樹木が折れたそうだ。折れた樹木を伐採したらこのような光景になったということだ。見ても痛々しい。これからどう復興させていくのだろうか。

建物は幸い大きな被害はなかった模様で、五重塔も変わりなく立っている。さすが、一千年以上の歴史を持つ建物だ。


本堂にあたる金堂で、安置されているのは薬師如来だが般若心経のお勤めとする。ともかく台風21号からの一日も早い完全復興をお祈りする。


隣の不動堂に参る。近畿三十六不動めぐりとしての本尊が霊宝館に移されている旨の札があり、内陣には小ぶりな不動明王像が安置されている。ここでもお勤めとする。




そのまま境内を進み、役行者の像や、祖師堂(弘法大師と理源大師を祀る)にも手を合わせる。広いしキャストが揃っているため、なかなか忙しい。


最後に観音堂に着く。現在は准胝観音の写し仏が西国三十三所の本尊で、周りにも幟が並んでいるが、中央奥にデンと座っているのは阿弥陀如来である。准胝観音はその手前の厨子に安置されているが、あくまでも間借りの立場である。ここでまたまたお勤め。西国めぐりで観音像に手を合わせているつもりが、実は奥の阿弥陀如来像を観音像と勘違いして・・・という人もいるかもしれない。



観音堂の中に納経所があり、ここは行列ができている。少し並んで、近畿三十六不動、西国三十三所の両方の朱印をいただく。バインダー式の近畿三十六不動の朱印は書き置きで対応する札所がほとんどの中、その場で一から墨書きしていただいたのにありがたく感じた。
これで西国三十三所めぐりの2巡目は姫路の圓教寺を残すだけとなったが、近畿三十六不動めぐりはまだくじ引きとサイコロがある。もっとも、選択肢は残り3つとなり、サイコロの出目も2つずつ割り当てる。
1、2.東山(聖護院、青蓮院、智積院)
3、4.湖西(葛川明王院)
5、6.左京(曼殊院)
この中で出たのは「5」。また近々訪ねることにしよう。


そのまま下醍醐の境内を抜ける形で、回転式のゲートの外に出る。本来ならそのまま上醍醐を目指すところだが、ここまで触れているように入山はできない。その手前まで行ってみる。

そこには女人堂がある。長い歴史の中、上醍醐は女人禁制だったため、女性は山上の神仏に対してここから拝んでいたという。女人堂の本尊も准胝観音の分身という。


上醍醐への道は仕切られていて上ることはできない。今の立場は、その昔入山を禁じられていた女性たちと同じである。上醍醐に行ける日は結構先になるのかな。

女人堂の前に五体の仏像がならんでいる。左から不動明王、理源大師、大日如来、役行者、地蔵菩薩。これらも醍醐寺のオールスターキャストと言える。その前に水が流れていて、一つ一つに水をかけながら手を合わせることができる。私が訪ねた時も地元のお年寄りらしい人が代わる代わるやって来て、それぞれの像に水をかけて手を合わせている。有料拝観エリアの下醍醐、そして今は入れないが入れたとしても入山料がいる上醍醐の境目にあって、女人堂とその前の水かけ仏像だけは「無料」エリアである。地元の人の中には毎日でも醍醐寺に手を合わせたい人も多いだろう。ただ、醍醐寺は庶民信仰の歴史があるわけでもなく、境内も有料となれば毎日入るには無理がある。
そうしたさまざまなものの緩衝地帯が、この女人堂と五体の仏像だと言える。

そのまま下醍醐の外側を歩き、元の門に戻る。門前がバス通りということもあり、そのままバスに乗る。乗ったのは山科駅行きだが、タイミングが合えばJR京都駅行きの便もある。

そのまま山科駅前に到着した。前に来た時は昼飲みもできる店に入ったが、今回は大人しく駅前の餃子の王将でシンプルな昼食とする。

今のタイミングならそのまま次の札所の曼殊院まで行くこともできる。また曼殊院に行かなくても、ちょうどこの日京都で行われていた全国女子駅伝のコースのどこかに立つこともできる。ただそのいずれもせずにそのまま大阪に帰ることにする。
今回醍醐寺を訪ねたが、この寺にはこれからも来る機会があると思う。その時には上醍醐も含めて、かつての姿をまた目にしたいと思う。醍醐寺に対して頑張ろうというのはおこがましいのだが、ともかくここは「頑張ろう」ということで・・・。