まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

悲しみの九份

2025-02-09 | 中国・台湾・香港映画
 着てはもらえぬセーターを寒さこらえて編んでしまいそうなほど、春はまだ遠いような毎日ですね!
 春告鳥が啼く頃、いい日旅立ち(^^♪久々の海外旅行を決行することに。行先は、ロンドン!と言いたいところですが、さすがに遠すぎて現状無理。なので、台湾に行くことにしました!ロンドンと違い、台湾は近い!2泊3日で行ける!飛行機代など旅費も安い!折しも今ハマってる台湾映画とドラマで目にする、趣きある風景や美味しそうな食べ物、そしてイケメン!不好意思!不好意思!心ははや台北の空、いそいそとネットや本で情報収集中。でも、先日の台湾地震とか、私が行った途端に某ニーハオ大国と有事が起こる可能性とか、浮き立つ心に冷水かけるような不安要素も…でもでも。父が亡くなって、私もいつどうなるかわからない、そうなる前に人生できるだけ楽しんでおかなきゃ!と、あらためて思うように。なので、我去台湾!我期待着去台北!台北に行かれたことがある方、请给我信息!アドバイスや情報、謝謝!多謝!

 台湾映画祭①
 「悲情城市」
 敗戦した日本の統治が終わった台湾。裏社会にも顔が利く林家は、長男の文雄が取り仕切り、次男は戦地で行方不明のまま、戦争から戻った三男は精神を病み入院。四男の文清はろうあ者で、写真館を営んでいる。台北で起きた事件を機に、日本に代わって台湾を統治する中国政府への不満が爆発、台湾は混乱に陥るが…
 台湾映画の名作といえば、この名匠ホウ・シャオシェン監督作品を挙げる映画ファンは多いのではないでしょうか。恥ずかしながら私がこの作品を知ったのは、90年代に入って日本でも香港のニューウェイヴ映画が大人気だった頃。ウォン・ガーワイ監督の「恋する惑星」で大好きになったトニー・レオンの出演作のひとつとして。ミーハーなのですぐにDVDを借りて観たのですが、睡魔に襲われて途中リタイアしちゃったんですすごく静かで淡々としていて、むずかしい政治的な内容…当時の私が最も苦手としていた類いの映画。長らく封印していたのですが、なぜか最近台湾がマイブーム、台湾についていろいろ調べているうちに、この名作を観直すべきだと思うように。また寝たらどうしよう、という不安を抱きつつ再観したのですが、若気の至りで退屈!かったるい!なんて思ったことが恥ずかしくなるほど、静かで深い哀感と郷愁、そして恐怖が心にしみわたる、余韻嫋嫋たる佳作であることを、加齢のおかげで知ることができました。

 台湾といえば、中国に狙われている、食べ物が美味しい、日本から近い親日の国、というイメージ。台湾の歴史や政治については今も無知に近い私ですが、日本の統治下にあった時代、中国との深刻な確執については、薄々ながら興味は抱いていました。この映画で描かれた、長らく台湾ではタブー視されていたらしい二二八事件の悲劇的な顛末…文化大革命とか天安門事件とか、いろんな映画や実際のニュースで中国の怖さを見せつけられたけど、二二八事件とその後の血塗られた騒乱も、ほんと信じられない、信じたくないほどの悲劇。中国、今も昔も恐ろしやこの映画では、ドラマティックな描写やお涙ちょうだい的なシーンは全然ないのですが、それだからこそいっそうやるせなく悲痛で。

 台湾は日本に侵略されていたのに、韓国と違ってなぜ親日な国なの?と、常々思ってたのだけど。この映画が日本でも高く評価され、多くの人の胸を打ったのは、侵略者、支配者だった日本への憎悪とか恨みといった反日的メッセージがなく、むしろ去りゆく日本への惜別が優しく美しかったからでは。日本人とのやりとり、形見の着物や日本刀のゆかしさ、流れる日本の童謡。哀切でノスタルジックな情感にしんみり。日本の次にやって来た中国がもたらしたのは、自由と希望の光ではなく、絶望と恐怖の暗黒…逆らう者、邪魔者は容赦なく排除、虐殺の嵐!やってることはナチスと同じ。暴力、問答無用に連行、投獄され処刑を待つ、行方不明…時代に翻弄され流され無惨に踏みにじられ闇に葬られる、平凡で無辜な人々の悲しすぎる運命に暗澹となってしまいました。韓国と北朝鮮もですが、同じ民族が分断され敵対する悲劇に終わりは来ないのでしょうか。


 狗去豬來…多くの台湾人は当時の日本と中国を比べて、そう揶揄するとか。犬は厳しくうるさいが、賢く強くもあり、台湾を守った。でも豚は貪欲で怠惰で、ただ台湾を貪っただけ。日本と中国、どちらが犬で豚なのかは、言うまでもありません…
 主人公の文清役のトニー・レオン、当時27歳!若い!可愛い!後年のニヒルさとか色気はまだない、優しく真面目な好青年って風貌。トニさんの最大の魅力である、あの雨に濡れた捨て犬のような哀愁に、胸が痛むと同時にキュンともします。ホウ・シャオシェン監督は台湾華語が話せない香港スターのトニさんのために、文清をろうあ者に設定したのだとか。納得の起用です。トニさんの静謐なる悲しみが、台湾の悲劇の物言わぬ語り部である文清を、忘れえぬ美しい主人公にしました。


 それにしてもトニさん、戦後すぐのファッションが似合いすぎ!昭和っぽさもトニさんの魅力ですよね。きょとんした表情とか、困惑してる時の顔つき、はにかみが可愛い!守ってあげたくなる、母性本能くすぐり系です。ルックスだけ俳優がもし文清を演じたら、あざといだけの気持ち悪い男ぶりっこになってたことでしょう。台詞がなく、優しい悲しみと愛しさを具えた文清は、かなり難易度の高い役だと思います。若い頃からすでにもう、アジアきっての名優だったトニさんです。

 食事や家屋、服装、鉄道や儀式、やくざの世界など、当時の台湾の生活描写も興味深かったです。日本が撤退した後も混乱とか生活苦とかいった感じはなく、中国が来るまでは平穏無事な様子が意外でした。立つ鳥跡を濁さず、日本が悪あがきな騒擾狼藉をせず、きれいに去っていったからでしょうか。
 舞台となった九份は、この映画のロケ地としてだけではなく、宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」のモデルとなった(ジブリ側は否定しているらしい)ことで、今や台湾随一の人気観光地になってます。この映画を観た後に、お気楽な観光気分で九份を訪れるのは、何だかちょっと気が引けるけど…それはそうと。ホウ・シャオシュン監督は数年前にアルツハイマー症となり、すでに引退しているのだとか。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする