まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

白い混沌

2014-08-25 | フランス、ベルギー映画
 土砂災害から、早くも6日が経過しました…
 被害のあまりのむごさ、悲しさに、心ふさぐ毎日です…
 まったく被害に遭わなかった私でさえ、こんなに悲しく苦しいのだから、被災者の方々の精神的肉体的苦痛はいかばかりか、察するにあまりあります。亡くなられた方々のご冥福をお祈りすることしかできない無力な自分が情けないです。これ以上被害が拡大せず、一日も早く被災地が復旧し、行方不明者の方々が無事に見つかり、被災者の方々に安全と安心がもたらされますよう…
 映画とかカープとか、楽しんでいいのかな…と罪悪感を感じずにはいられませんが、私なんかが暗く落ち込んだところで、周囲が迷惑なだけですよね。悲しみに沈まないよう生きるためには、元気と勇気が必要。私にとって、今は映画とカープがそれらの源です…

 お松の独りイザベル・ユペール映画祭⑦
 「White Material」
 アフリカのとある国。コーヒー農場を営むフランス人のマリアは、内戦が勃発し危険が身に迫っても、頑なに立ち退きを拒むが…
 アメリカで男と火遊び、フィリピンでテロの人質になり、韓国でブラ散歩、ベトナムで農業、そして今度はアフリカの紛争地で再び農業。イモトアヤコも真っ青な、イザベル・ユペールのイッテQぶりです。フランスの大女優なのに、パリで演技してる彼女って最近お見かけしないですよね~。世界各国を飛び回ってるユペりんですが、NYとかロンドンとかカッコいい都会でも、南の島とか楽しい美しいリゾート地でもなく、行く先々のほとんどが絶対行きたくない!住みたくない!ハードライフ&デンジャラスゾーン。この作品の舞台も、まるで北斗の拳実写版のような、危険度MAXなヤバさ。現在、世界各地で深刻な紛争や内戦がドロ沼化しているので、平和や豊かさを当り前のように享受している日本人からすると、観ていて身につまされる映画でした。
 アフリカのどこの国とか、なぜ内戦が起こったのかとかは、明確にされることなく物語は進行するのですが…終わりのない暴力と憎悪のループ、血と涙、恐怖と混沌に支配された国が、世界には数多くあるのだという厳然たる事実を、あらためて突きつけられた感じです。ドキュメンタリータッチのリアルさが、息苦しく暗澹とさせる。ああ~日本に生まれて本当によかったと、つくづく思いました。暴力に育てられた若者たちの、荒廃と残虐さに戦慄。血に飢えたケダモノって感じは全然なく、みんなどこか心が死んでるような虚無感を漂わせていたのも怖かったです。あんな環境で、思いやりとか優しさとか人情とか、そんなヌルいこと言ってられないよなあ。一瞬一瞬が、死と隣合わせ。いつ血泥の屍になっても不思議じゃない世界。幼い子どもたちさえ、武器を手に殺るか殺られるかな修羅場。日本のヤンキー映画とかドラマとか、平和でいいよな~と心の底から思います。

 そんな地獄の真っ只中にいても、そこから抜け出そうとせず、農園に固執するヒロインのマリアも、これまた怖い女なんですよね~。何で逃げないの!?意思の強さも、あそこまで頑なだと病的です。困難や危険から逃げ出さず、闘う勇敢なヒロインってキャラじゃないが、ありきたりではない独特さですが。共感は全然できません。独善的な強い意志でイラクやシリアにノコノコと乗り込み、結局ただの大迷惑になるだけだった困ったちゃんな日本人を、マリアは思い出させました。マリアはいったいなぜ、あそこまで農園に執着したんだろうか。それもはっきりとは説明されず、観客の想像に委ねられています。
 タイトルの“ホワイトマテリアル”とは、劇中マリアや彼女の家族が所持していたライターとかネックレスといった、“白人の持ち物”という意味みたいです。農園とかも含むのかな。かつてはアフリカの一部も植民地として支配していたフランス、さぞや理不尽な搾取や特権で原住民を苦しめてたんだろうな~。ホワイトマテリアルが奪われ壊され、意味のないものにされていく争いや反抗が、皮肉で虚しいです。
 イザベル・ユペールが、もちろんマリア役です。

 強い女なんて、たいていの女優ならできる陳腐な役ですが、ユペりんだと強いとか弱いとかいったフツーの言葉、次元ではなくなってしまうんですよね~。いつ殺されるか知れたものではない状況、雇っても逃走したり脅したりしてくる原住民。なのに、テコでも農園を手放そうとせず、逃げようともしない不可解な女マリアを、いつもの通りクールに演じてるユペりんです。いったい何を考えてるんだろ?なヒロインをやらせれば、やはり天下一品です。謎という魅惑的な言葉が、世界一似合う女優。小柄で華奢で、後ろ姿とか遠くからだと、少女のように肉体的には頼りないユペりんですが、屈強で凶暴な原住民に囲まれていても、弱々しく見えないんですよね~。静かで冷やかな貫禄もだけど、関わったらマズいんじゃないかというヤバいオーラがあって、原住民たちも何となく彼女を恐れているような感じがしました。それは「囚われ人」や「Un barrage contre le Pacifique」でも同じでしたが。

 還暦を迎えたイザベル・ユペールですが、おばあさん臭は皆無。まだまだオンナ現役よぉ~!と、腐臭のような色気を必死に出そうとしてる気持ちの悪い熟女とも違う。美しい!若々しい!といっては当たらないけど、そこを通り過ぎた清潔さが。熱いカオスの中で立ち尽くす白い寒げな彼女が、とても印象的です。
 マリアの息子役、ニコラ・デュヴォシェルのイケメンぶりが、この映画の華になってます。

 アフリカの紛争地で、のんきにニートしてるバカ息子なニコラ、久々に見ましたがやっぱイケメンですね~。カッコカワいい。はじめはバカなだけだったのに、原住民の子どもたちに襲われ非道い屈辱的な目に遭って以来、おかしくなってしまうコワレっぷりが何か笑えた。アソコ丸出しなすっぽんぽんシーンあり。彼、脱がないほうがいいかも。服を着てたら、スレンダーでスタイルよく見えるけど、脱いだら生っ白くてプヨプヨ、おまけに小汚い胸毛もあるし。アフリカにいても、すごい美白肌なのが羨ましかった。アンナの夫役、クリストフ・ランベールも久々に見た感じ。おっさんに、いや、何かもうおじいさんになってしまってたような…
 やはりアフリカを舞台にした処女作「ショコラ」で高い評価を得た、クレール・ドゥニ監督作品。ドゥニ監督は、幼い頃にアフリカのカメルーンで過ごした経験があるとか。この映画のロケ地は、そのカメルーンなのかな。サッカーでその名を日本でも知られるようになったカメルーン、私なんか絶対この先行くことないだろうな~。遠い遠い世界です。でも内戦とか紛争を、自分には縁のない異次元の出来事、とスルーしてはいけないのですよね…

 ↑クールな童顔ボーギャルソン、ニコラ・デュヴォシェル。顔は可愛いけど、中身は完全にヤンキーな彼。全身タトゥーだらけで、ガンとばし夜露死苦ポーズな画像多し。盗んだバイクを走らせて、校舎の窓を壊したに違いない子です情痴アヴァンチュール」で共演したリュディヴィーヌ・サニエの元カレとしても有名。サニエちゃんとの間にもうけた子、さぞや可愛いんだろうな~。
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ありのままでいい、はずだった家

2014-08-17 | フランス、ベルギー映画
 お墓参りの帰りに、家族(老父母とダミアン)と焼肉を食いに行きました~
 前日、あまりにもカープはもうダメダメ言う両親に腹が立って、今日は勝つ!焼肉賭けてもええわ!と啖呵を切ってしまったのです。で、結果は…ひえ~カープ惨敗~おいおい~マエケンよぉ~たのむわ~というわけで、焼肉をおごるハメに陥ってしまったのです…
 普段は何でもすぐ忘れるボケ老人のくせに、こういうことは絶対忘れず、しかも普段は寝たきりも近いのではな動きの鈍さなのに、ささっと店に予約まで入れやがった両親。ここぞとばかりに、食わんと損とばかりに、ガッツガッツ食いまくり、ジャンジャカ注文する老人ふたりに、呆れおののく私。『ダミアンみたいな若い男がガツガツ食う姿は素敵だけど、年寄りががっつく姿は醜いよね~』『よく食べたら長生きするから、やめてね♪』『あ~わし当分、お昼はコッペパン一個じゃ~』『メロンなんか注文せんでええし!家に帰ったらスイカがあるけん!』etc.イヤミ攻撃を仕掛けましたが、老人の耳に念仏でした
 想定外、大誤算な出費を強いられてトホホ、カープのバカバカバカ!と泣きそうになりましたが、でも焼肉はとっても美味しかったです♪久々の家族との外食も楽しかったし。またおごってあげたいです。次はラーメンで♪
 追記…
 今夜、カープが巨人に連勝!!逆転勝ちだったので、驚喜狂喜でしたね~まだまだ優勝、あきらめんけんね~☆
 今夜の殊勲者は、もちろんプリンス堂林

 やっぱ彼はプリンスですよ!カープファンに幸せと興奮をもたらす王子さまですよ!堂林のファンだと言うと、ミーハーな顔ファンのカープ女子と嗤われがちですが、今夜の彼を見たら、顔だけじゃないことが明明白白でしょ。女子だけじゃなく、誰だって惚れるわ!
 ヒーローインタビューのプリンス、可愛かったですね~。何と今日は、彼の23回目の誕生日!ハッピーバースデイ、プリンス!今夜はご両親がズムスタに来てたとか。親孝行息子じゃのお~。素敵な誕生日になって、ほんとよかったですね!それにしても…お立ち台で、いろんなものをぶっかけられてた堂林くん、まるでお笑い芸人みたいな扱い泥くさく闘い、そして仲良く楽しく喜びを分かち合うカープは、やっぱどこぞの人もなげな金満傲慢球団とは違って、爽やかで清々しいですよね!先はまだ険しいけど、頑張れカープ!元気と勇気をcontinue to give us

 ↑ファンの間で騒然?となった、アイドル顔のプリンス。あざといまでに可愛いですよね~

 お松の独りイザベル・ユペール映画祭⑥
 「ホーム 我が家」
 建設が中断されたまま放置されている高速道路の脇で、ミシェルとマルト夫妻は3人の子どもたちと仲良く愉快に暮らしていた。しかし突然、高速道路の再建設が始まり、ついに開通されてしまう。以来、一家の生活は一変してしまうが…
 何年か前にカンヌ映画祭、そして東京映画祭で上映され、好評を博した(のに、日本では一般公開はされずオクラ入り)作品。ありえそうでありえない、ありえなさそうでありえる、リアルで珍奇なファミリー映画でした。まず、設定がユニークです。長年放置されたままの高速道路を、勝手に自由に庭みたいに使ってる家族に驚き。使われてない家やアパートなどの不法占拠とかならよく聞く話ですが、道路があんな風に私用されてるなんてこともありえるんですね。あんな広大な道路を、ずっと放置したままってのもスゴイと思った。家族にとっては、いい意味でほったらかしにされてたのに、孤立を上手に愉快に活用してたのに、いきなり、かつジワジワと幸せな孤立が壊され削られていき、どんどん現実世界の侵入にさらされて追いつめられてしまう一家の姿が、時に淡々と滑稽に、時にダークな病的さで描かれています。

 いきなりの再建設が、何だか宇宙人の侵略みたいで笑えました。暗闇の中、静かに不気味に現れる建設作業員。一家を無視してロボットみたいに機械的にスピーディに、あっという間に任務完了。すぐに開通して、あの平和な静けさがウソのように、一気に家の前は車の川状態。騒音と排気ガスで環境はいっぺんに破壊されただけでなく、道路を渡って向こう側に行かなきゃいけないので、危ない危ない~!いつ轢き殺されてもおかしくない状況に、見ていてハラハラさせられます。
 ユルくてヌルい居心地のいい平和にドップリ浸かっていたら、急激な変化に上手く対応、適応できず、狼狽とストレスで心身ともにコワレてしまうことは、すごく切実で理解も共感もできるのですが…私も含め、たいていの人は、憂鬱だけど余儀なくされた変化に何とか合わせようと努力を試みますが、この一家はガンとして変化を受け入れず、あくまで抵抗するのです。その徹底した頑固な、時にパラノアイアじみた抵抗と、現状維持への忍耐と努力は、変化を受け入れたほうが楽なのに、と呆れ慄いてしまうほどなのです。再建設前の生活への固執が、とにかく壮絶すぎて笑えます。
 夫婦二人だけならまだしも…あの生活、環境を子どもたちに強いるなんて、非道い!よく車に轢かれずに生活できるな~と、命がけの横断をしてる子どもたちに、ハラハラさせられます。子どもたちだけでなく、ペットの猫ちゃんもウロウロしてるので、ほんと心配でした。姿が見えない猫ちゃんをパパが探すシーンとか、ほんまドキドキしましたよ。車に轢かれる危険性のみならず、高速道路が渋滞になって停車中の車から人がワラワラ降りてきて、庭に入り込んだりゴミを棄てていったり、なんてトラブルも笑うに笑えない。どんな状況になっても孤立を守る一家もどうかしてるけど、行政がまったく彼らを放置したままなのも変だった。まさに忘れられた一家、忘れられようとする一家の、ありのままでいいの~♪少しも怖くなんかないわ~♪物語でした。
 しぶとく抵抗しながらも、だんだん追いつめられてコワレていく一家が、おいおい~?!な無茶すぎる暴走をおっぱじめるラストには、笑いを通り越してドン引きさせられます。あれって、もう一家心中に近い。怖い~頑なな抵抗も、意思の貫きすぎも、ほどほどにしとかないと…という教訓に満ちた?珍作です。
 イザベル・ユペールは、ママのマルト役です。

 静かなコワレっぷりが、怖いけど何か笑えるユペりんです。ジワジワしたコワレかたなので、いつプッツンするか楽しみなような恐ろしいような、観客の心をザワつかせる演技は、まさにユペりんの専売特許です。ラスト近く、ついにブっコワレた~!な彼女は、ヤバすぎてホラーです。ユペりんの、あの時おり見せる虚ろな目は、とても演技とは思えません。まさに狂人のそれですから。これでもか!と、これ見よがしなオーバーな熱演ではく、あくまでクールでニヒルな、何もしなくても狂気が伝わってくるイザベル・ユペールの演技は、まさに神の領域にあると言えます。小柄で華奢な、どこか少女っぽい風貌も素敵です。
 
 パパのミシェル役は、ダルデンヌ兄弟監督作品などでおなじみのオリヴィエ・グルメ。いつもは不可解で不気味、暗い複雑な役が多い彼が、珍しく明るくて元気な父ちゃん役で、ちょっと新鮮でした。子どもたちも好演。特に、末っ子の男の子が存在感あり。
 スイス出身のウルスラ・メイヤー監督作品。メイヤー監督はこの後、アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた「シモンの空」を撮っています。主演は、今をときめくフランス映画界のプリンセス、レア・セドゥ。と、「ホーム」で末っ子を演じてた男の子!あの子、ほんま演技うまかったので、シモンもぜひ観たいな~。
 
 
 
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太平洋の防波堤

2014-08-07 | フランス、ベルギー映画
 お松の独りイザベル・ユペール映画祭⑤
 「Un barrage contre le Pacifique」
 30年代のフランス領インドシナ。高潮になると塩漬けになってしまう不毛な農地を守るため、防波堤を築こうとする母を支えながらも、貧しく不便な生活に絶望している美しい兄妹ジョゼフとシュザンヌ。そんな中、大金持ちの息子ムッシュー・ジョーが、シュザンヌに恋をする。それを知った母とジョゼフは…
 マルグリット・デュラスの小説「太平洋の防波堤」の映画化。あの大ヒットした「愛人 ラマン」の姉妹編?みたいな作品でしょうか。フランスの植民地インドシナ(現在のベトナム)が舞台、蠱惑的な少女とアジア人の金持ちとの恋愛話、はラマンと共通してます。思春期の少女の性愛がメインテーマだったラマンに比べると、こちらは当時のインドシナの植民地生活を描くことに重きを置いてました。入植者がみんな、必ずしも優雅で贅沢な植民地ライフを送っていたわけでないことを、母子3人の逼迫した貧苦ぶりが教えてくれます。私だったら、3日ともたんわ、あんな生活。自然環境も過酷だし、不衛生で不便、ゴハンもマズそうだし、食卓のテーブルにフツーにウジ虫みたいなのがニョロニョロしてるのなんて、耐えられない。娯楽も何もないし、フランス人に反発する現地人がいつ一揆を起こすか分からない不穏さも怖いし、まさに大自然の牢獄です。体も壊さず気も狂わず暮らしてる3人の、肉体的精神的たくましさに驚嘆。

 ママンも子ども二人も、辛いけど頑張る!闘う!な必死感は全然なく、自然に対抗する防波堤を築くように、過酷で無情な運命にも抗ってはみてるけど、もうどうなってもいい、どうでもいい、みたいなヤケのヤンパチ感、無気力で虚無的だったのが興味深かったです。そのせいか、亜熱帯が舞台なのに暑苦しさや湿度が低く薄く、全体的に乾いた冷ややかな雰囲気が漂っていました。どこにいても、フランス生まれじゃなくても、ドライでニヒルなところがフランス人らしかった。
 金持ちのお坊ちゃまムッシュー・ジョーへの、母子3人の態度や思惑が面白かったです。毎日退屈だし、恋やセックスにも興味あるしなシュザンヌは、処女の小娘のくせに百戦錬磨のビッチも呆れるほど、男を翻弄し手玉にとる。私の裸が見たいの?見せてあ・げ・る。でも、それ以上はNon♪な、じらしっぷりが見事でした。じらしてじらして、さりげなくオネダリして貢がせたり。結局ヤらせなかったのに、ダイヤモンドの指輪はちゃっかり受け取ってるし。ほんと小悪魔!かけひきとか計算じゃないところが、返って怖い。遊び慣れた男ほど、あーいう無垢ゆえに残酷な女に弱く、振り回されてみたいM心をソソられるのでは。女冥利につきるよな~と、シュザンヌが羨ましくなりました。「愛人 ラマン」のヒロインとカブるシュザンヌは、実際にインドシナで少女時代を過ごした原作者マルグリット・デュラス自身なのでしょうか。
 野生の美青年ジョゼフの、妹シュザンヌへの意地悪で屈折した態度もイビツで色っぽかった。普段は邪険に扱ってるくせに、いざシュザンヌに男が、しかも差別対象のアジア人が近づいてくると、嫉妬したり挑発したり。ムッシュー・ジョーの目の前で、裸のジョゼフがシュザンヌを腕に抱いて踊るシーンが、どー見ても兄妹ではなく男と女。禁断っぽくてドキッ。確実に精神的には近親相姦関係。環境が環境なので、肉体的にも禁忌を犯さなかったのが返って不思議なくらい。でもあれ、美しい兄妹だからこそ成り立つ、絵になる関係。ブサイク兄妹だと、ただ不愉快で気持ち悪いだけだろうし。
 ママンは現実的で、背に腹は変えられぬ、シュザンヌが玉の輿に乗れば助かる!みたいなノリ。ホントなら言語道断なアジア人との結婚にも前向き。でも、シュザンヌにその気がないことを知り、プッツン逆上するママンの冷酷な身勝手さが怖かったです。現実の前では、娘の幸せなんてどうでもいいことなんですか?!
 現実的だけど、どこか狂ってるコワレてるママン役が、イザベル・ユペールです。

 明らかにどっかおかしい、ヘン、なんだけど、全然そんな風には見えない。誰よりも理知的で冷静沈着。でも、歪みや狂気がサラっと垣間見える…そんなヒロインをやらせれば、イザベル・ユペールは世界一ですよね~。ユペりん、ほぼ無表情なんですけど、怒りや虚しさ、悲しみが伝わってくるんですよ。表情だけでなく、後ろ姿の細い肩だけでも感情が分かるのです。いや、喜怒哀楽よりも、心が空っぽな“無”って演技で表現できるんだ~と、演技派きどりや大根を見慣れた目には、いつもながらユペりんの演技レベルは高すぎます。暑苦しい大熱演じゃないところが、ほんと素晴らしいです。原住民に囲まれた彼女の、亜熱帯までも冷ややかな砂漠のようにしてしまう存在感と、クールでエレガントな気高さは、まさに孤高の女王って風情。薄化粧とシンプルな衣裳が、還暦の彼女をすごく可愛らしくしていました。
 ミーハー的には、ジョゼフ役のボーギャルソン、ギャスパー・ウリエルこそ、この映画最大の見どころでしょう。

 かつてのカッコカワいい紅顔の美少年ウリ坊も、すっかり野郎っぽいギャス男になっちゃったな~。ほとんど裸か半裸なギャス男、スギちゃんも平伏すワイルドだぜぇ~(死語?)ぶりです。半裸衣裳、ほんとスギちゃんみたいで笑えます。どんだけ鍛えてるんだよ!なマッチョぶりも、磨きがかかってました。胸板の厚さ、二の腕の太さときたら!なかなか堂に入った野生児ぶりでした。気性が激しく傲慢で屈折してるジョゼフを、セクシーに演じてたギャス男です。瞳は優しいけど、口もとが何か卑猥なところも彼の魅力ですね。相変わらずのノシノシしたイカつい歩き方もトレビアン。

 打算的で意地悪なフランス人母子に翻弄されるムッシュー・ジョーも、なかなかイケメンでした。ちょっとエグザイルのアキラ似?あんなカッコよくて優しい、しかも大金持ちの若い男なら、結婚してくれなくても喜んで付き合うけどな~私だったら

 ↑ギャス男といえば、イヴ・サンローランを演じてる新作の日本公開が待ち遠しい!別作品でサンローランを演じてるピエール・ニネくんとの、華麗なるイケメン対決の勝敗はいかに?!
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華麗なるキャットファイト!

2014-08-06 | フランス、ベルギー映画
 今日は原爆記念日、今朝も静かに鎮魂の祈りを捧げました…
 原爆の生き証人が減っていくことが、TVなどで報道されています。でも私の周囲のお年寄りは、みんな超元気。90過ぎなんてザラにいます。お迎えが来る気配はまったくありません。返って、お年寄り子ども世代、つまり私の親世代の方々のほうが、お亡くなりになることが多くて悲しいです。お年寄りには長生きしていただきたいけど、私自身は長生きしたくないです♪

 お松の独りイザベル・ユペール映画祭④
 「8人の女たち」
 クリスマスの夜、留学先から実家に帰省したスゾンを、母のギャピーや祖母のマミー、叔母のオーギュスティーヌ、妹のカトリーヌ、メイドのルイーズとシャネルが迎える。そんな中、一家の主人が何者かに殺害される。雪に閉ざされ、屋敷は密室状態。主人の妹ピエレットがフラリと現れたことを機に、女たちは秘密の暴露と本音をぶつけ合い始めるが…
 カトリーヌ・ドヌーヴ、イザベル・ユペール、ファニー・アルダン、エマニュエル・ベアール…ひとりだけでも強烈で濃ゆい大物フランス女優たちが一同に会してしまったこの恐ろしい映画は、文芸大河ドラマでもシリアスな人間ドラマでもなく、何と密室殺人ミステリー仕立てのミュージカル!つっても、圧倒的な迫力と技術を駆したハリウッド製のミュージカル映画みたいな歌と踊りからは程遠い、とても真剣にやってるとは思えぬ、脱力感でいっぱいな、お遊戯的にオチャラケた大物女優たちのノリと振り付けに、目が釘づけ!

 舞台は、お人形屋敷みたいな洋館。雪ふりしきる中、そこに集まったワケあり女たち8人。わざとらしいまでに陽気で和やかなムードの中、発生する殺人事件。そこから始まる、女たちのバトルロワイアル!
 目がチカチカするほど明るい原色の衣装を身にまとった、一癖二癖どころか百癖はありそな女たちが、次から次へと暴露・嘘・皮肉・いやがらせの応酬を繰り返す、そのテンポと内容はまさに、甘くて危険な毒入りデコレーションケーキを召し上がれってな感じ。だんだん殺人の謎はもうどうでもよくなってきて、自分勝手で嘘つきで恥知らずな女の性悪さを武器に、次に誰と誰がエゲツないバトルを勃発させるか、それが最大のお楽しみになってしまうのです。
 女優たちは、それぞれに見せ場が用意されていて、毒々しくもおちゃめに歌い踊る。歌は、人生や愛に対する絶望や哀しみに満ちたものが多く、女たちのキツさ強さ元気さとは対照的で面白いです。含蓄のあるドギツい台詞も黒い笑いを誘います。

 一緒の画面にいるだけで、こっちが何だかハラハラしてしまう大物女優たちですが、演技の火花!といった肩のこりそうな気合はまったく感じられず、彼女たちのパフォーマンスは、あくまで軽やかで楽しげ。
 ゴージャスなドヌーヴ。神経症チックなユペール。妖艶なアルダン。小悪魔チックなベアール。みんな自分のイメージを見事にパロッているのです。みんな珍演・怪演していますが、やはり中でも一番の大怪演を披露して目立ちまくりだったのがイザベル・ユペール。欲求不満のオールドミスって、まんま「ピアニスト」のパロディじゃん!あのエリカ先生が、ギャグ化して戻ってきてくれたような怖さ嬉しさ。常にイライラカリカリ、誰にでもすぐに噛みついてくるヒステリーぶりが笑えます。笑えるシーンはいっぱいあるのですが、特にププっだったのは、ファニー・アルダンに義兄へのラブレターを暴露されてアタフタするところ。コメディエンヌとしても卓越してるユペりんです。グレタ・ガルボ風な美女への変貌も、さすが女優!と拍手ものです。

 最もインパクトがあるのは、やっぱドヌーヴとアルダンのキャットファイト&キスシーンでしょうか。「終電車」や「隣の女」など、故トリュフォー監督のミューズだった大女優ふたりが、まさかこんな形で共演を果たすとは。コノヤロー!と掴み合い、床の上でゴロゴロ転がり回り、組んずほぐれつの格闘してたかと思うと、ブチューっとキス!ひえ~!!です。トリュフォー監督は、草葉の陰でどう見たことでしょうか

 一見、エレガントでオチャメなおばあちゃま、実は最凶の因業ばばあマミー役は、戦前からの往年の大女優ダニエル・ダリュー。彼女の裏の顔、本性がエゲツなくて笑えます。ついにプッツンしてギャーギャー大騒ぎする彼女の頭を、うるさい!とカトリーヌ・ドヌーヴが瓶で撲るシーン、スゴい老人虐待シーン当時は若手だったヴィルジニー・ルドワイアンとリュディヴィーヌ・サニエの可憐さ、活きのよさも、映画を華やかに楽しいものにしています。サニエちゃんはオゾン監督のお気に女優だっただけあって、おいしい役もらってます。
 これだけのメンツを集め、統率することができたフランソワ・オゾン監督、その毒々しいユーモアのセンスが香ばしい。豪華キャストでも、まったく集めた意味がないし面白くない映画っていっぱいありますから、いかにオゾン監督が有能かがこの映画を観ると解かります。ゲイである彼独特の感性で、おんなという魔物が敬愛をもって描かれています。
 これ、邦画でリメイクされるとしたら、理想はこうだ!

 カトリーヌ … 能年玲奈
 スゾン … 二階堂ふみ
 ルイーズ … 真木よう子
 オーギュスティーヌ … 若村麻由美
 シャネル … 藤山直美
 マミー … 八千草薫
 ピエレット … 桃井かおり
 ギャピー … 岩下志麻

 こんなん出ましたけどぉ~?
 なかなか華やかで毒々しいメンツじゃないですか?このメンツで見てみたいな~
 
 

 
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あなたの近くに誘拐魔

2014-08-03 | 北米映画 08~14
 早いもので、もう八月ですね
 今日、カープ勝ちました~巨人に逆転勝ち!やれ嬉しや相手が巨人なので、歓びもひとしおじゃのお。カープが勝つと、嬉しさ以上にホっとしてしまう私…今夜はぐっすり眠れそうです♪
 前回、不死鳥のごとく甦った福井優也が、今夜もやってくれました!ふっくん、完全復活かのお♪何か彼、男前ぶりも上がってきてますよね~
 巨人撃退記念!若鯉食いしん坊バンザイ♪

 ↑ふっくん、こんな可愛い姿は珍しいのお~

 ↑プリンスどうばやちん、こんな彼氏に何でもおごってあげたいのお~

 ↑イマムー、野生のカピバラ

 ↑ノムスケ、相変わらず夜は元モー娘の女子アナに食べられてるのかな…

 ↑大瀬良くん、わしにもガブっと食らいついてや~

 ↑マエケン、鬼嫁から大好きな駄菓子も禁じられてる?!

 「プリズナーズ」
 感謝祭を祝っていたケラーとフランクリン両家の幼い娘たちが、忽然と姿を消す。刑事のロキはアレックスという青年を逮捕するが、知的障害のある彼からは何も聞き出すことができない。保釈となったアレックスを犯人と信じるケラーは、アレックスを拉致監禁し、娘を見つけ出すために彼を拷問するが…
 いや~。評判通り、すごく面白かったです!クリミナルマインド劇場版?みたいな内容ですが、軽いクリマイに比べると、ものすごく重くて暗い。長い悪夢を見ているような感覚。その陰鬱さ、重苦しさに、面白いけど早く終わってくれ~!これ以上イヤな展開にならないで~!と祈るような気持ちになってしまいました。
 私、今も昔も何がいちばん怖く、何がいちばん許せないかって…幼い子どもが犠牲者になってしまう犯罪ほど、心肝を寒からしめ、憤りを感じるものはありません。特に、私がトラウマ的に小さい頃から恐怖を感じているのが、誘拐殺人です。カネ目当て、イタズラ目当て…身勝手で醜い欲望で、何の罪もない幼子を汚して殺すなんて、鬼畜というもおろかです。もし自分が誘拐されて、そして…という恐怖に憑かれ、独りで外に行けなくなったり、眠れなくなったこともあった幼少時代を、この映画を観ながら思い出してしまいました。被害者の子どもの恐怖は、想像を絶するものがありますが、子どもの両親に与える恐怖もまた筆舌に尽くしがたい。他人の、子どもをもったことのない私でさえ、子どもが殺される事件には理性を失いそうになるのだから、被害者の両親の怒りや悲しみはいかほどか。その痛みを想像しただけで、暗澹となってしまいます。鏡子ちゃん事件とか、ノンちゃん事件とか、宮崎勤の連続幼女誘拐殺人事件とか、飯塚事件とか…私が被害者の子どもの親なら、発狂するかもしれない。
 この映画の主人公ケラーもまた、子どもへの愛ゆえに狂ってしまった男。アレックスへの呵責なき拷問は、目を背けたくなるほど酸鼻を極めた苛烈さ、残酷さ。彼がこしらえる“拷問部屋”が、怖すぎ~私なら、やってもないことでもやりましたー!!早くここから出してくれー!!とゲロるでしょう。非道な犯罪のために、自分も非道になってしまった悲劇が痛すぎます。狂ってる…けど、その狂気も、理解できないわけではないというか…ケラーは極端すぎますが、多かれ少なかれ、子どもを奪われた親が正気を保つことは不可能でしょうし。
 ケラーの暴走も戦慄ものですが、いとも簡単に子どもがさらわれてしまう、見つからない、という恐怖や、おかしな連中が近くにウヨウヨいる、という不安も、この映画は観る者にジワジワと伝えてきます。そして、ちょっとヘンだったり、人と違ってたりしたら、すぐに犯罪者扱いされてしまう恐ろしさも。アレックス、誰がどう見てもオマエが犯人に決まってる!と思いこませてしまうルックスとキャラ。損というか、もう宿業に近い悲劇ですよね~。
 暗くて重いけど、二転三転するドンデン返しに惹きこまれます。え!おまえだったのか?!と思ったら、やっぱりあんたか!と思ったら、そ、そうきたか!な、ラスト近くは怒涛の驚き展開。小道具の使い方や伏線の張り方も巧みで、秀逸な脚本に感嘆です。
 俳優たちの熱演、好演、存在感も魅力的です。

 ケラー役のヒュー・ジャックマン、なかなか鬼気迫る演技でした。迫力あるコワレっぷり。でも、おヒューさん自身はココロもカラダも屈強そうで、とても優しい善い人というイメージが強いせいもあってか、き○がいや外道になりきれたら楽なのに、という悲しい正常さがキャラに面白さと深みを与えていたように思えました。
 おヒューさんが動の熱演なら、刑事ロキ役のジェイク・ギレンホールは静の熱演でしょうか。冷静沈着で思慮深く、被害者への思いやりや同情を忘れないロキ刑事のキャラは、好感度の高いものでした。それにしても…ジェイクもすっかり大人の男になりましたね。でもまだそんなにおっさんでもないのに、もう人生の酸いも甘いも知り尽くしたかのような、悲しげな優しさが素敵でした。40過ぎて、まだ『よろしこ』なんて中学生レベルな台詞を口にする役しかできない中年アイドルとは、熟成の度合いが違いますね。この映画でも、彼の長い睫がすごく印象的です。

 もうひとりの被害者の父、フランクリン役のテレンス・ハワードも、相変わらず男前。顔が可愛い!黒人男優の中では、いちばん好きです。すごい若く見えるので、妻役のヴィオラ・デイヴィスが彼の母ちゃんに見えてしまった(笑)。
 主役二人をかすませるインパクトといえば、アレックス役のポール・ダノ。

 あわわわ…出てきた瞬間から、電波人の危険すぎる電流が走りまくり。見た目もヤバいけど、まともなコミュニケーション不可能なキャラも、不気味というか、これいいのかな~?マズくないか?!と気まずくなるような、近年まれに見るスレスレ系です。ヤバい電波人をやらせたら、最近は無敵状態な若き怪優ポール・ダノ。観客の神経を逆なでし、惑わせる怪演が見事です。あと、もうひとりの容疑者の男も、電波すぎます。彼の家で発見されるもの、まさにギョエ~です。こんな人たちが住んでるあの町、まさに地獄の一丁目です。

 ↑二人とも、演技に対して常にチャレンジや向上心があって、ほんと役者の鑑な男たちですよね~。日本の何ちゃって俳優は、彼らを見習って!
 
 
 
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