

「エヴァ」
盗作で戯曲家としての名声を得たものの、次回作が書けず焦っていたベルトランは、エヴァという娼婦と出会う。謎めいたエヴァに翻弄されながらものめりこんでいくベルトランだったが…
「
エヴァの匂い」のリメイク?現代版?ストーリーもキャラ設定も、まったく別物になってました。最大の違いは、男女の年齢でしょうか。旧作は若い女と熟年男でしたが、新作は熟女と若い男になってました。二人の関係性も、かなりアレンジされてます。妖艶でミステリアスで冷酷な悪女に身も心も虜となり、翻弄されながらも溺れ、やがて破滅する男の話だったはずなのですが、この映画のベルトランはエヴァに激しい恋も欲情も抱いておらず、ただ見た目も性格もヤバい高齢娼婦を戯曲のネタにしようと密着取材しようとして失敗しトホホ、みたいな感じでした。

確かにエヴァ、ネタの宝庫な女なので、彼女をモデルにすれば面白い作品が2、3本は書けそう。見た目からしてネタですもん。何でこんなおばちゃん、いや、おばあさんが!?仕事中のファッション、メイク、ウィッグ、妖艶ではなく妖怪ですし

よほどの熟女マニア、枯れ専でないとエヴァは抱けんだろ~。なかなかの売れっ子だったエヴァ、世の中には若い女じゃ満足できない殿方も多いみたいですね

でもエヴァはいくらなんでも特殊すぎます。キワモノの域に到達してますもん。ベルトランに浴槽に顔を沈められて、浮かび上がってきた顔とかまさに魔老女な怖さでした。

私が客だったら、たぶんセックスはできないと思うので

代わりに酒でも飲みながらいろんな話がしたいわ~。高齢娼婦の生きざま、才能ある作家だったらさぞや興味深い小説や戯曲として、彼女との関わりを昇華できたはずなのですが、無能なベルトランにはそれができなかった。せっかくのネタを活かせず、ただ酷い目に遭うだけなんです。特異なプレイや会話をするわけでもなく、エヴァに惚れてストーカーするわけでもなく、実にもったいない骨折り損のくたびれ儲けな関わり。才能がないって、悲しい。

悲しい凡人だけど、そんじょそこらにいないイケメンだったのが、返って凶と出てしまったベルトラン。真面目に地道にまっとうに働けよ!と呆れつつも、あれだけイケメンだとフツーの生活なんてできないよな~とも。バカ男でも、美しいので大抵のことは甘やかされたり許されたりするので、ますます愚かになってしまうのがバカ美男の悪質さ、そして不幸です。でも私、生まれ変わるなら賢いブサ男よりバカな美男になりたいです

作家としての才能がないだけでなく、人間としてもバカすぎるベルトラン。あそこまでイケメンじゃなかったら、恋人にもエヴァにもソッポ向かれてたでしょうし。ベルトラン自身も、エヴァに負けず劣らずな胡乱で隠微な生き方してるので、自分をネタに戯曲を書けばいいじゃんと思いました。盗作前は、彼も男娼もどきだったし。じじい作家に一緒に風呂に入るよう言われて、服を脱ごうとする冒頭のシーンがスリリングでした。じじい!いいところで発作起こすんじゃねーよ!と思った人、結構いたのでは(笑)。
生き地獄のような狂気の愛の物話、みたいなのを期待すると、あまりのそっけなさ、大したことが起きない内容にガクっとなりますが、2大スターの競演はフランス映画ファン必見です。

エヴァ役のイザベル・ユペールは、毒々しいんだけど何かすっとぼけてひょうひょうとしてる、といういつもと同じ芸風、じゃない、演技。いつも同じもキムタク、織田裕二レベルだともう飽き飽きなんだけど、ユペりんクラスの神女優となると、やっぱそーでなくちゃ!これこれ!と、注文通りの高級料理が運ばれてきたみたいな期待感、満足感を得られるんですよね~。エヴァは、「
エル ELLE」のミシェルが会社をたたんで娼婦に転職、という設定でも通りそうなヒロインでした。冷たいけど軽やかにトボけてて、怖いけどクスっと笑えるユペりんならではのヒロインでしたが、さすがに若い男を惑わす女役には無理がある、御年が隠せぬ容色

魅惑の悪女ではなく、ヤバい妖婆みたいになってたのは、計算された演技というより自然の成り行きだったのかも

ベルトラン役のギャスパー・ウリエルが、相変わらずブラボーなボーギャルソン

イザベル・ユペールとは「
Un barrage contre le Pacifique」以来の共演でしょうか。

盗作して名声を得たものの、次回作が書けず焦って暴走するイケメン役といえば、奇しくもピエール・ニネの「
パーフェクトマン 完全犯罪」と同じ。イヴ・サンローラン役といい、天才人気ゲイ監督作品主演でセザール賞対決といい、やはり何か因縁めいてるボーギャルソン二人。ギャス男とニネっち、どっちの盗作男もイケメンなだけでなくバカ、というところも共通してます。どっちもこんなバカ男役にはもったいない、けどバカだからこそ女がほっとけない、バカも魅力にしてしまう美男、というところがただのイケメン俳優と違うところです。

可愛かったウリ坊も、今やアラサーのギャス男に。いい感じに大人の男に成熟しつつ、痛々しい若作りおじさんではない青年っぽさもまだ失ってなくて、男として俳優としていちばん魅力的な時期ではないでしょうか。薄汚いバカ男役なのに、悪い男には全然見えないんです。雰囲気もだけど、やっぱあの瞳ですよ。すご~く優しい瞳。宮根とか大泉洋とかの目と比べたら、一目瞭然です。瞳って、口よりも正直で饒舌なんです。優しい瞳のせいで、ギャス男は真の悪役はできないかもしれません。

ちょっと顎がトンガリすぎて見えることもあるけど、やはり一般世界には絶対いない類のイケメン。何気ないセーターとかジャケットとか、ハリウッドや韓国の悪趣味ファッションとは大違いな小粋さ。さすがパリジャン。スラっとして見えるけど、脱いだらマッチョなところもギャス男の魅力。歩き方がノシノシとイカつくて男らしく、気どってないところが好きです。
イザベル・ユペールは、この映画のブノワ・ジャコー監督ともよく仕事をしてるみたいで、ヘンリー・ジェイムズの「鳩の翼」や三島由紀夫の「肉体の学校」など、日本では一般公開されないままなのが残念!DVDでもいいので観たい!



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