「ありがとう、トニ・エルドマン」
ブカレスト在住のドイツ人女性イネスは、ワーカホリック気味のキャリアウーマン。そんな娘を心配するイタズラ好きの父ヴィンフリートは、トニ・エルドマンという別人に扮してイネスにつきまとい始める。そんな父に困惑し、ストレスを募らせるイネスだったが…
世界中で高く評価されたドイツ映画。コメディなのですが、かなり独特の味わいです。大爆笑とか、クスクス笑うとか、そんなんじゃないんですよ。ハリウッドのコメディや日本のお笑いバラエティとは、まったく笑いの性質が違うというか。おかしなシーンや台詞ではなく、父娘のやりとりが生み出す空気感が笑いの源になっています。心配性のパパが、娘の身を案じるあまりにストーカーじみた奇行暴走、という設定は、岡田あーみん先生の漫画「お父さんは心配性」と同じなのですが、あの狂気的なまでにハチャメチャハイテンション炸裂とは真逆で、終始淡々とテンションが低く、何だかわびしささえ漂ってるので、ちらっと観ただけではコメディと受け取れない、でもしっかり観るとじわじわ可笑しい、そんな笑いです。
ハリウッド映画だと、おバカでノーテンキな笑い+ほのぼのしんみり、なパターン通りの喜劇になってたでしょう。まったくそうしなかったところが、この映画の特異さ、魅力と言えるでしょうか。とにかくヴィンフリートもイネスも、やることなすことすべてが痛々しいんですよ。娘や周囲を何とか笑わせ和ませようとするヴィンフリートのジョークやパフォーマンスが、ことごとく骨折級のスベリまくりで、そのイタさに笑うよりもあちゃちゃ~…と観客も困惑し気まずくなる、その繰り返しなのです。ハリウッド映画だと絶対に、善人だけど空気を読まない自由奔放な天然おじさん、みたいな言動で周囲を振り回して迷惑をかける、みたいなキャラになってたでしょうけど、ヴィンフリートはそんなんじゃないんですよ。単なる迷惑な構ってちゃん爺なら、ただウザくて不愉快なだけですが、彼のいつもゼーゼー言いながら苦しそうな、必死で一生懸命で真剣そのものなスベリ芸は、なぜそこまでしてと心配になるほど悲壮感があります。フツーだとあんな人、怒られたり嘲笑われたりするけど、イネスも周囲もほとんど腹を立てず不快感もあらわにせず、ただもう当惑、狼狽するだけな様子が、大笑いじゃないけどジワっとくる滑稽さ。とにかく、ヴィンフリートが実は余命いくばくもないとか、イネスに何か心の傷やトラウマがあるとか、そんな陳腐なお涙ちょうだいを狙った内容ではないので、感動したい方はご注意を。
ヴィンフリート以上にイタいイネスの、深刻なメンタル崩壊っぷりもヤバい笑いを誘います。仕事をバリバリこなすキャリアウーマンという表面をギリギリ保ったまま、今にもブッコワレそうなイタい言動をしまくり、何かやらかすイヤな予感を抱かせ、その何かが楽しみになります。劇中、え?ん?は?な言動を、さりげなくチョコチョコやってたイネスが、ラスト近くになってついに!誕生パーティーでの奇行は、かなり衝撃的(笑撃的?)です。特に服を着替えるシーン、あれお茶吹いたわ~。
↑ なかなか服が脱げなくて、もがく姿がかなり衝撃的!
ヴィンフリート役のペーター・ジモニシェックは、ゴツいお爺さんだけど顔はかなりカッコいいです。年老いて太った伊藤英明、みたいな。イネス役のザンドラ・ヒュラーの、近年稀な珍演に瞠目させられました。あれ、アカデミー賞級ですよ。ハリウッドでこの映画がリメイクされるそうですが、ハリウッド女優にはザンドラみたいな静かなる捨て身の演技、無理でしょ。大熱演!な気合いや気負いが全然なく、シレっとトンデモないことをする演技は、ちょっとイザベル・ユペールを彷彿とさせて、さすがヨーロッパ女優だな~と感嘆。
父と娘の関係について、あらためて考えさせられました。ヴィンフリートはちょっと特殊ですが、ほとんどのお父さんは愛する娘のことを死ぬほど心配してるんでしょうね。私やM子は、今も昔もほぼネグレクトなので、今さら愛情たっぷりに心配されたら、ウザいし気持ち悪いだけです
ブカレスト在住のドイツ人女性イネスは、ワーカホリック気味のキャリアウーマン。そんな娘を心配するイタズラ好きの父ヴィンフリートは、トニ・エルドマンという別人に扮してイネスにつきまとい始める。そんな父に困惑し、ストレスを募らせるイネスだったが…
世界中で高く評価されたドイツ映画。コメディなのですが、かなり独特の味わいです。大爆笑とか、クスクス笑うとか、そんなんじゃないんですよ。ハリウッドのコメディや日本のお笑いバラエティとは、まったく笑いの性質が違うというか。おかしなシーンや台詞ではなく、父娘のやりとりが生み出す空気感が笑いの源になっています。心配性のパパが、娘の身を案じるあまりにストーカーじみた奇行暴走、という設定は、岡田あーみん先生の漫画「お父さんは心配性」と同じなのですが、あの狂気的なまでにハチャメチャハイテンション炸裂とは真逆で、終始淡々とテンションが低く、何だかわびしささえ漂ってるので、ちらっと観ただけではコメディと受け取れない、でもしっかり観るとじわじわ可笑しい、そんな笑いです。
ハリウッド映画だと、おバカでノーテンキな笑い+ほのぼのしんみり、なパターン通りの喜劇になってたでしょう。まったくそうしなかったところが、この映画の特異さ、魅力と言えるでしょうか。とにかくヴィンフリートもイネスも、やることなすことすべてが痛々しいんですよ。娘や周囲を何とか笑わせ和ませようとするヴィンフリートのジョークやパフォーマンスが、ことごとく骨折級のスベリまくりで、そのイタさに笑うよりもあちゃちゃ~…と観客も困惑し気まずくなる、その繰り返しなのです。ハリウッド映画だと絶対に、善人だけど空気を読まない自由奔放な天然おじさん、みたいな言動で周囲を振り回して迷惑をかける、みたいなキャラになってたでしょうけど、ヴィンフリートはそんなんじゃないんですよ。単なる迷惑な構ってちゃん爺なら、ただウザくて不愉快なだけですが、彼のいつもゼーゼー言いながら苦しそうな、必死で一生懸命で真剣そのものなスベリ芸は、なぜそこまでしてと心配になるほど悲壮感があります。フツーだとあんな人、怒られたり嘲笑われたりするけど、イネスも周囲もほとんど腹を立てず不快感もあらわにせず、ただもう当惑、狼狽するだけな様子が、大笑いじゃないけどジワっとくる滑稽さ。とにかく、ヴィンフリートが実は余命いくばくもないとか、イネスに何か心の傷やトラウマがあるとか、そんな陳腐なお涙ちょうだいを狙った内容ではないので、感動したい方はご注意を。
ヴィンフリート以上にイタいイネスの、深刻なメンタル崩壊っぷりもヤバい笑いを誘います。仕事をバリバリこなすキャリアウーマンという表面をギリギリ保ったまま、今にもブッコワレそうなイタい言動をしまくり、何かやらかすイヤな予感を抱かせ、その何かが楽しみになります。劇中、え?ん?は?な言動を、さりげなくチョコチョコやってたイネスが、ラスト近くになってついに!誕生パーティーでの奇行は、かなり衝撃的(笑撃的?)です。特に服を着替えるシーン、あれお茶吹いたわ~。
↑ なかなか服が脱げなくて、もがく姿がかなり衝撃的!
ヴィンフリート役のペーター・ジモニシェックは、ゴツいお爺さんだけど顔はかなりカッコいいです。年老いて太った伊藤英明、みたいな。イネス役のザンドラ・ヒュラーの、近年稀な珍演に瞠目させられました。あれ、アカデミー賞級ですよ。ハリウッドでこの映画がリメイクされるそうですが、ハリウッド女優にはザンドラみたいな静かなる捨て身の演技、無理でしょ。大熱演!な気合いや気負いが全然なく、シレっとトンデモないことをする演技は、ちょっとイザベル・ユペールを彷彿とさせて、さすがヨーロッパ女優だな~と感嘆。
父と娘の関係について、あらためて考えさせられました。ヴィンフリートはちょっと特殊ですが、ほとんどのお父さんは愛する娘のことを死ぬほど心配してるんでしょうね。私やM子は、今も昔もほぼネグレクトなので、今さら愛情たっぷりに心配されたら、ウザいし気持ち悪いだけです