まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

慰安島

2025-03-05 | 中国・台湾・香港映画
 台湾映画祭⑦
 「軍中楽園」
 1969年の台湾。対立する中国との最前線である金門島に配属されたルオ・バオタイは、泳げないことを知られ特約茶屋を管理する831部隊に転属となる。そこは“軍中楽園”と呼ばれる、兵士のための娼館だった…
 戦時中の日本軍による韓国人慰安婦問題は、今なお根深い禍根となっていますが、台湾では90年代まで軍が営む慰安所があったと知り、軽からぬ衝撃を受けました。中国とわずか2kmぐらいしか離れてない小島、金門島にある831部隊の軍人と慰安婦の生活や交流、悲恋を活き活きと、かつ情感たっぷり描いた映画です。エロティックなシーンはほとんどないので、そういうのを期待して観るとガッカリするのでご注意を。それにしても。つい最近まで本当にあったこととは、にわかには信じられない金門島の実態でした。まず、冒頭の軍の訓練シーンがハードすぎてドン引き。けが人どころか死人も続出したのでは。今はさすがにあそこまではやってないよなあ。厳しい訓練も、いつ敵が攻めてくるかわからない最前線での軍隊と、平和な日本の自衛隊とでは、熱量や深刻度に差があるのでしょうね。岸辺での訓練中、いきなり空爆のように中国からのプロパガンダちらし弾が降って来るとか、怖すぎる。中国からの台湾否定放送が聞こえてくると、それをかき消すように台湾愛国放送を流したりするのも、戦争なんて所詮ひとごと、身近に感じることがない日本人からしたら異様。


 中国本土にいる家族との生き別れとかも、朝鮮半島もだけど悲劇すぎる。戦争で負けた日本が、隣国と同じような分断に悲しまずにすんだのは、やはり国民性の違いもあるのでしょうか。慰安婦たちも、いろいろワケアリで金門島にやって来たみたいでしたが、刑務所での刑期を短くするために、という理由には驚きました。私なら長くても刑務所にいたほうがいい!慰安婦なんて、女性の権利侵害、人権蹂躙もはなはだしいおぞましさですが、この映画の慰安婦たちは、無理やりさせられてるって感じがほとんどなく、全体的にあっけらかんと明るくたくましい女性たちだったので、見ていて重苦しくて陰惨な気分にはならなかったけど、それってどうなんでしょう?軍人相手の慰安婦なんて、間違いなく生き地獄なのにそうは描かなかったのは、やはり都合のいい男性目線だったからでしょうか。


 軍の訓練も慰安婦のセックスワークも命がけの過酷さですが、島での彼らの生活はさほど厳格な感じではなく、けっこうユルいのが意外でもありました。台湾の風土や気候が何となく人々を開放的に、大雑把にするのでしょうか。軍人も慰安婦も、みんなほとんど半裸で暮らしてるし。トロピカルな風景は素朴で美しいけど、台湾の夏、とにかく暑さと湿気が過酷そうで、私は暮らせない!映画では出てこなかったけど、あのあまり衛生的ではなく無防備な環境では、きっと怖い動物や虫、病気に悩まされたことだろうな~と怖気が。


 軍人、慰安婦を演じた役者さんたちはみんな個性的、彼らの好演・熱演も印象的です。主人公のルオ・バオタイ役は、ちょっと前に観た「我、邪で邪を制す」や「この心亡き者」に比べると若っ!なイーサン・ルアン。当時32歳だけど、20代に見えました。ルーキー軍人役に違和感なし。スラ~っとした長身はモデルみたいで、軍人役にしてはスタイルが良すぎかなとも思ったけど、しなやかに引き締まった細マッチョの裸体を惜しげもなく披露。ラストのラブシーンでは、お尻も見せてくれてます。顔は決してイケメンではなく、たま~に川谷拓三に見えたり現在の彼のほうが、シブくなってて好きかも。真面目で優しい青年だけど、結局は女性のことを尊べない男のひとりだったんだな、と苦々しくも悲しくもなる青年を、若々しく真摯に演じてたイーサンです。


 ルオ・バオタイの友人で、壮絶ないじめに遭うホアシン役は、これまた最近観た「疫起 パンデミック」などの、私が好きな台湾男前のひとりであるワン・ポーチエ。彼もイケメンとか美男子ではないのだけど、いい男に見える不思議な俳優。陰湿で残酷ないじめを受ける姿が痛々しかったです。恋人の慰安婦と島から脱走したホアシンが、あの後どうなったのか、生死が気になります。それにしても。台湾といい韓国といい、兵役がある国の若者は本当に大変。私なら確実に精神も体もコワレてしまうでしょう。私だけでなく、ダミアンやジミーが戦争に行かなくてもいい日本に生まれて、神さまに感謝。どうか、日本で徴兵制が復活しませんように。私が台湾に滞在中、有事が起きませんように!
 
 


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それが罪というのなら

2025-02-25 | 中国・台湾・香港映画
 台湾映画祭⑥
 「親愛なる君へ」
 ピアノ教師のジエンイーは、死んだ同性パートナーの老母シウユーと幼い息子ヨウユーと同居し、献身的に彼らの世話をしていた。病を患っていたシウユーが急死、財産を当てにしていたシウユーの次男は、ジエンイーが遺産相続人のヨウユーと養子縁組をしていたことを知ると、ジエンイーが母を殺したと警察に訴える。捜査によりジエンイーに不利な証拠が明るみとなり、ジエンイーは逮捕されてしまうが…

 ゲイの青年が死んだ恋人の家族に尽くす…という設定は、ベン・ウィショー主演の佳作「追憶と、踊りながら」と似てますが。こんなに胸が締め付けられる映画を観たのは久しぶりかも。感動したとか涙腺が緩んだとかではなく、いろいろ考えさせられて苦しくなる、重い気分になる、そんな映画でした。秀作なんだけど、こういうシビアな内容って苦手です。BLを期待して観たのですが、そんな甘い映画ではありませんでした。この世って、ほんと生きづらい…ジエンイーを見ていてため息が出ました。

 自分のことだけ考えて生きていればいい私のような孤独な人間よりも、自分よりも大切な愛する者がいる人のほうが、試練や苦難が多くて人生は優しくないようです。愛のための悲しみや苦しみ、闘いがあるからこそ人生は豊かになるともいえるけど、私はジエンイーのような人生は送りたくないです。あれが深く強く愛し愛される代償なら、私は愛を望みません。独りで寂しく穏やかに生きるほうがいいです

 ジエンイーの亡き恋人とその家族への愛が、とにかく悲痛。ここまで誰かに無償の愛を捧げることができるなんて、尊いけど怖いわ。亡き恋人の残した家族とはいえ、何の義理も義務もない赤の他人に、なぜここまで献身的に、自分を犠牲にしてまで尽くすのか。ただ人が善いだけではできない、優しさや愛情だけではない、何か重い十字架を背負ってるかのような、罪を償っている囚人のようなジエンイーが不可解でしたが、終盤になって判明する悲しすぎる事実で、すべてはジエンイーの贖罪と自罰だと理解できました。人を愛しすぎると不幸になる…

 台湾はアジアで初めて同性婚が合法となった、LGBT先進国。でも、現実にはまだまだ大きな壁や深い溝があるようです。ゲイカップルが子どもと幸せに暮らせる社会じゃないからこそ、あんな悲劇が起きてしまったわけだし。ゲイの生きづらさもだけど、老人介護や安楽死、子どもの人権など、深刻な社会問題も現実的で暗澹となってしまいました。喪失感と後悔を分かち合い、感謝と愛情を抱きながらも、ふとした瞬間に噴出する憎悪…老母のジエンイーへの複雑な想いも、悲しく痛ましかったです。でもいちばん可哀想だったのは、やっぱ幼いヨウユーです。身勝手な大人たち、非情な社会に振り回される、少年の冷ややかな寡黙さがいたいけで。決してハッピーエンドではないけど、ヨウユーの静かな強さと優しさのおかげで、未来に希望が感じられる余韻の結末でした。それにしても。あの老母の次男ムカつくわ~。老母も甥もほったらかしだったくせに、遺産が手に入らないと知ると速攻でジエンイーを陥れる卑劣さ。でも、あんな人のほうが世の中フツーにいるんですよね。ジエンイーのほうが特異です。


 ジエンイー役は、「台北に舞う雪」で記者役だったモー・ズーイー。地味イケメン。優しそうで悲しそうな顔と雰囲気が、薄幸な男の役に合ってました。静かな抑圧演技が印象的。すごい聖人だけど、独り暗い黒い懊悩に煩悶するジエンイーは、難しい役だと思います。日本のアラフォー俳優にも挑戦してほしい役。恋人とのシーンでの、不安と隣り合わせな幸せの表情も印象的でした。クスリの売人とラブホテルの浴室で、激しい全裸セックスシーンがあり。モーさん、お尻も出して頑張ってました。号泣しながらの性交が痛ましかったです。あの若い売人、ジエンイーのことを心配して助けようとしてくれる数少ない味方だったのに、結果的にはジエンイーを窮地に立たせる存在になってしまったのが皮肉で悲運。


 かなりキツい内容だけど、少な目の台詞、静かで淡々とした展開と空気感で、生々しくない味わいになっています。ジエンイーと亡き恋人との間に何があったか、シウユーの急死の謎など、現在と過去を交錯させながらドラマが紡がれ、真相が紐解かれる構成の脚本がミステリータッチで秀逸でした。ロケ地である港町・基隆の憂いある叙情、冬の山麓の厳しくも美しい風景も心に残ります。

 ↑ 莫子儀、いい役者!1981年生まれの現在44歳。若く見えますね~。斎藤工とか星野源とかと同い年。チャン・チェン共演の新作「餘燼」が面白そう!現代で起きた殺人事件が、戦後台湾の黒歴史である白色テロと結びつくミステリードラマで、莫子儀は事件のカギを握る謎の男役みたいです。配信でもいいので早く観たい



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終着駅の恋

2025-02-20 | 中国・台湾・香港映画
 台湾映画祭⑤
 「台北に舞う雪」
 声が出なくなった新人歌手のメイは、いたたまれなくなり台北から出奔、平渓線の終点である菁桐にたどり着く。そこで彼女は、町民のために働く心優しい青年モウと出会うが…
 予定している台湾旅行、マストの九份に加えて、ランタン上げで有名な十分にも行ってみようと計画してます。その際に利用する鉄道、ローカル線の平渓線の終着駅である菁桐を舞台にした映画を観ました。台湾の田舎町って、日本の昭和っぽくてノスタルジックですね。家屋や商店街、あぜ道、古びた電車が通る線路、小さな駅etc.日本にもまだあるのかな?と懐かしくも不思議な、優しく時間が止まったかのような原風景を見ているようで、ちょっとセンチメンタルな気分になりました。願い事を書いて吊るす竹筒、ロープづたいに渡す弁当や郵便物、清流に架かる赤い橋など情緒があって、菁桐にも来てね!的なプロモーション映画みたいでもありました。

 風景や雰囲気はよかったのだけど、肝心の内容がちょっと…優しい人情とか、淡い恋とか、題材も描き方もありきたりで薄い。悪人もいない悪事も起きない、善人だけの話とかつまんない。いい人のいい話なんて、私の汚れた心には響かないんですよね~。みんな善人なのに、あまり共感できなかったし。メイとか、すごい迷惑な女。「傲慢と善良」の女もですが、失踪とか人騒がせすぎるでしょ。モウも、優しさの裏に隠した深く悲しい翳りや孤独がほしかった。ただのアホみたいなお人よしにしか見えなかったし。脚本がちょっと乙女すぎるというか、幼稚?もっと大人の心に沁みたり刺さたったりする設定や人物描写が欲しかったかも。

 スターのヒロインが一般人男性と出会って恋に落ちるという設定は、「ノッティングヒルの恋人」と同じですが。メイは新人でそんなに有名でもない小物だったので、住む世界が違うから生じるズレや葛藤など、話がユニークにドラマティックに膨らまなかったのも残念なポイント。同じ若い女性歌手でも、テイラー・スウィフトみたいな超大物が田舎に現れたら、大変なことになって面白くなりそうですが。
 モウ役のチェン・ボーリンが、イケメン!チェン坊、当時26歳。日本でも活動していた頃?ただもうカッコカワいいです!

 可愛いけど男らしい、チェン坊のスウィートな精悍さが我很喜歡!1日に2、3回は髭を剃ってそうな口周りなど、男性ホルモンとフェロモンが濃厚なところも素敵。チェン坊の厚くて柔らかそうな唇が、何かいつもエロい。スラ~っとした長身で、スタイルも抜群!ルックスがもう非一般人。あんなイケメン、田舎にいたら平和に暮らせないと思う!どこにいても、どんな役でもスペシャル感は隠せないチェン坊です。アイドルレベルの役と演技が残念。

 メイ役の女優さん、チャン・ツイイーにそっくり。劇中でもそう指摘されてました。音楽プロデューサー役は、チェン坊と「再見、在也不見」でも共演してたトニー・ヤン。懐かしのBL映画「僕の恋、彼の秘密」の可愛い男の子も、すっかり大人の男に。業界人っぽい髪型が何か笑えた。メイを追う記者役のモー・ズーイーもイケメン。嵐のN宮を優しくスマートにした感じの風貌?タイトルは台北とありますが、物語のほとんどは菁桐で展開します。温暖な台北では雪はほとんど降らないとか。台北の雪、それは叶わぬ夢のようなもの、愛のようなものなのでしょうか。でも何年か前に、台北に大雪が降ってニュースになったことを覚えています。夢や愛の奇跡もありえる、と思えたりしました。

 ↑ 去年台湾で大ヒットしたチェン坊主演のホラーコメディ「鬼才の道」が、来月の大阪アジアン映画祭で上映!観たい!

 ↑ 可愛かったチェン坊も、もう41歳。今でもカッコカワイい
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ここではないどこか遠くで

2025-02-16 | 中国・台湾・香港映画
 台湾映画祭④
 「帯我去遠方」
 台湾の南部の港町。両親が離婚し、父親とともに祖母の家で暮らす少女阿佳は、従兄の阿賢を慕い、それはいつしか淡い恋心となっていたが、ある日阿賢の秘密を知ってしまい…
 地味で小粒ながら、愛らしくホロ苦い青春の1ページ映画でした。女の子の成長ストーリーなんて、私がもっとも興味がないジャンルですがこの映画に食いついたのは、BL要素があったから(^^♪従兄の阿賢がゲイで、行きずりのイケメンや年上の男との恋にときめいたり傷ついたりなエピソードが、なかなか切なかったです。

 それにしても。あまり文化的とは言えない田舎町でゲイでいるのは、何という孤独と苦痛だろうと、阿賢を見ていて思いました。カミングアウトなんて論外、理解者に出会える希望もない。阿賢みたいに見た目も頭もよいゲイならなおさら、絶望と閉塞感で窒息しそうな日々。でも、あんな田舎で恋に落ちる男たちと出会えるなんて、奇跡みたいな幸運でもあったような。でも。どれも幸福に進展せず、初恋もガチ恋も悲恋に終わってしまうという、腐が大好きなBLのさだめに阿賢も従ってしまってます。

 感受性が強く繊細すぎる阿賢、彼にはもうちょっと強くなってほしかったわ。絶望も失望も糧にして、あいつらだけが男じゃない!素敵な大人、いい男になってやる!と奮い立ってほしかった。まだ若いんだし、夢にも希望にもあふれている未来が待ってる。田舎を出て台北とか憧れてたニューヨークとかに行けば、きっと本当の愛を見つけることもできたはず。しっかりしろ!と阿賢の肩を叩きたくなったけど、あらら、彼が選んだのは悲しすぎる逃避。何で!?と呆れてしまったけど、あの思いつめ方、激情は、純真な若者にしかない美しい危うさ、脆さ。私のような冷血で俗にまみれた老人などが、どうして理解できようか。

 弱くはかない男に比べて。女はやっぱ強くて冷徹。幼いながらも、阿佳はまさに女でした。ゲイを愛してしまった女の悲しみもまた、痛ましく切ない。恋心を隠して、感情を抑えて阿賢を冷静に見守っている阿佳、少女なのに大人だな~と感嘆。阿賢と違い、コワレたりしません。もやもやや苛立ちを、誰にも気づかれずひとりで抱えている阿佳もまた、すごく孤独。孤独な者同士が労わり合い寄り添い合うような、阿賢と阿佳の親密さが微笑ましくも哀しかったです。阿佳が、見た目もキャラも女子女子しておらず、ぶっきら棒でクールな少女だったのが好感。彼女が色盲障害、という設定が辛いハンディキャップではなく、ちょっとファンタジックなシーンで表現されていたのが可愛かったです。

 阿賢役は、これが映画デビューとなったリン・ボーホン。当時21歳。わ、若い、ていうか少年!雰囲気も顔つき、体つきもまだ蒼々しいです。現在の彼は肉体美も魅力の大人の俳優になってますが、この頃はまだ痛々しいまでにほっそりしててショタっぽい。顔は岸優太というよりマエケン(前田健太)っぽいかな。阿賢は美少年な俳優が演じたほうが腐受けするだろうけど、私は女よりもキレイな男の子って苦手なので、マエケン似のボーホンでOK!

 阿賢の初体験相手となる旅人がイケメン!風来坊なバックパッカーも、イケメンだと絵になりますね~。日本人という設定で日本語も口にしてましたが、演じたのは台湾の俳優さんだとか。夜の校舎で寝泊まりする旅人に抱かれにいく阿賢、ドキドキ♡キュンキュンな展開でしたが、肝心のラブシーンは全然なし見事に省かれてました。それにしてもあの旅人、さっさとそっけなく旅立っていって、ヤリ逃げですか?!甘いロマンスより刹那の性欲処理、それがゲイの現実?
 台湾の南部の田舎町が、まるで60、70年代の風景。携帯が出てこなかったら、現代の話と気づかなかったかも。素朴な生活の情景は、昭和の日本のようでノスタルジック。夏が暑そう!青く張り詰めた快晴の空が美しかったです。
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ロックダウン・ホスピタル!

2025-02-14 | 中国・台湾・香港映画
 台湾映画祭③
 「疫起 エピデミック」
 2003年の台北。外科医の夏正は勤務を終え娘の誕生会へと急ぐ途中、急患の報を受け病院に戻る。その頃、未知の伝染病が院内で広がり始めていた…
 コロナパニックも今は昔。すっかり収束した感じの現在ですが、当時も私はあまり深刻に受け止めることができていませんでした。私の周囲に死者や重症者がおらず、私も含め罹ってもすぐに回復できたからでしょう。コロナへの恐怖よりも、医療に従事する人たちへの感謝と尊敬に心打たれる毎日でした。この台湾映画では、コロナ前に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)による2003年の実際の院内感染と病院封鎖が、ドキュメンタリータッチで描かれています。コロナの時のクルーズ船もそうでしたが、得体の知れない疫病が跋扈する場所に閉じ込められ、いつ自分も感染して発症、ついには死に至るかもしれないという極限状態、想像しただけでゾっとします。

 SARSって、名前はよく聞いたけど、日本では流行しなかったんでしたっけ?台湾では大変なことになってたんですね。台湾ではSARSの教訓を活かして、コロナはかなり蔓延を阻止できたとか。それにしても。医療関係者や入院患者もさることながら、たまたまあの病院にいた人たちまで巻き込まれて、問答無用に閉じ込められるとか、運が悪すぎる。理不尽!でも誰のせいでもない、誰にも文句を言えない苦境に落とされてしまった人々に同情。外で彼らの安否を気遣う家族のストレスも相当なもの。子どもも老人も妊婦も、容赦なく閉じ込める冷酷非情さがホラーでした。外の世界の人のために、あなたたちは死になさい、と言わんばかりな生き地獄。

 SARSを封じ込めるための対策、措置も非情でしたが、恐怖と絶望が渦巻く中で露わになってしまう人間の本性もまた、ああ無情!でした。みんな結局、自分がいちばん大切。自分が助かるためなら、他人の苦しみに見て見ぬふりができる、他人を犠牲にすることもできる。でも、それが人間の本当の姿なんですよね。あんな状況ではもう、何が正しくて何が間違ってるのかわからなくなる、どうでもよくなる。感染を恐れて医療行為を拒否したり、感染の疑いがある同僚を排斥する医師や看護師たちのことを、非情だなとは思っても卑劣とか醜いと蔑むことはできません。だからこそ、自分を犠牲にして医療に尽力する人たちが崇高に思えました。もはや人間を越えた神に近い存在。保身と献身で分断されたあの病院、無事にロックダウンが解除された後、SARSの後遺症以上に深刻な人間関係のしこりが残りそう。不運にも病院に閉じ込められてしまった一般の人たちは、みんな比較的冷静だったのが救いでもあり、痛ましくもありました。

 主人公の夏正役は、ドラマ「罪夢者」では男の色気ダダ漏れだったワン・ポーチエ。今回は粗野なチンピラ役から一転、エリートドクター役。顔は上川隆也+くりーむしちゅーの上田?決してイケメンでも美男子でもないのだけど、いい男に見えます。熟年に見えるけど、まだ30半ばなんですね。藤ヶ谷くんとかより年下最初は何とかして病院から逃げ出そうとしてたけど、惨状を目の当たりにして医師の本分を呼び起こされる葛藤や変化を、リアルな人間味で演じています。全裸シーンもあった「罪夢者」ほどセクシーではないけど、サービス脱ぎのようなシャワーシーンはありました。


 若い看護師役は、BL映画の佳作「君の心に刻んだ名前」でのフレッシュなイケメンぶりが忘れがたいツェン・ジンホア。ドラマ「次の犠牲者」では、主人公の青年時代を演じてましたね。今回もイケメン!端正で涼しげで薄幸そうな美男子。白衣が似合う。悲しみが似合う風貌と雰囲気が好き。あの看護師さん、イケメンなだけでなく、優しく真面目で勇敢な人柄で、聖人のような若者だった。でも、すごい不幸で不運。なんでこんな善い子がこんな目に…と、暗澹となってしまったけど、彼みたいな子がいるおかげで世界にも救いがあるんだよなと、暗闇で美しい蝋燭の灯を見ているような思いになりました。ジンホアくんも「君の心に~」ほどには脱いでないけど、サービス脱ぎ的なシャワーシーンあり。

 研修医役は「愛という名の悪夢」で強迫神経症ヒロインを怪演したクロエ・シャン。今回は凛々しく使命感が強いタフなヒロインでした。可愛い顔、今回はチャン・ツイイーにちょっと似て見えた。みんなを励ますタクシーの運転手さんみたいに、逆境の中でも思いやりや助け合いを忘れない人に、私もなりたいです。エピデミックとパンデミックの違い、今さらながら知ることができました。

 
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女難!台北恋愛怪奇譚

2025-02-12 | 中国・台湾・香港映画
 台湾映画祭②
 「愛という名の悪夢」
 古本交換で出会った白佳琪と恋に落ち、彼女の家で同棲を始める青年。だが白佳琪の強すぎるこだわりと束縛は、やがて耐えがたい重荷に。そんな中、青年は再会した高校の同級生である林艾璇に安らぎを求め、彼女と密会を重ねるようになる。白佳琪と林艾璇との間で苦悩する青年は、夢の中に現れたウサギの怪人から、ひとつだけ願いをかなえると言われ…
 ラブサスペンス映画かと思いきや、ん?ラブコメ?こだわりの強い彼女に振り回される彼氏の姿とか、彼氏とその友だちのやりとりとか、ライトでスウィートなラブコメ調…だったのが、可愛いレベルだった白佳琪のこだわりと束縛が、だんだん異様なまでに重くキツくなっていき、いつしかサイコパス調に。彼氏がコソコソと他の女と会ってることに気づいて、白佳琪が何かヤバいことをするのでは?と不穏で危険なサスペンス劇場…が、青年の夢の中にウサギの怪人が現れ、青年の願いが現実化した世界に…と、突然ファンタジーな展開に。終盤はオカルトめいてくるし、いろんなジャンルをぶっこんだ忙しい内容に、かなり戸惑ってしまいました。

 それにしても。白佳琪のこだわり、強迫神経症が壮絶。生きづらいな~。あんなに可愛くて、しかも金持ちなのに。私もわりとこだわりが強いほうだけど、さすがに白佳琪ほどではない。こだわりに合わせるよう他者に要求、強制したりはしません。まあ、誰とも深く関わらないから、そうする必要がないだけかもしれないけどとにかく、こだわりが強すぎる人は恋愛が困難ですよね。白佳琪の彼氏みたいな献身的(隷属的?)な男、なかなかいませんよ。まさに愛は忍耐、とばかりに白佳琪に従う青年。涙ぐましいほど頑張ってたけど、さすがにもう限界!な状態になるのは、当然で同情。でも、他の女とこっそり頻繁に会いながら、白佳琪と別れられずズルズルと二股を続けるとか、かなりクズでもあった。どっちともセックスしないのが、返って異様な三角関係でした。

 ウサギの怪人への願いがかなった世界では、白佳琪でも林艾璇でもなく、憧れの美人モデルである黒澤由里が恋人になっていて、理想の恋愛生活にルンルンな青年。めんどくさい女どもはもう要らない!やっぱクズ男、でもよほどの聖人でないかぎり、男は同じことすると思います。その理想の世界も実は…な、ラストのオチが怖くて切なかったです。深すぎる強すぎる愛の一念が起こした怪奇!この映画、「不思議の国のアリス」をモチーフにしているようで、白佳琪と黒澤由里は主人公をそれぞれ奇怪な恋の迷宮へといざなう白いうさぎ、黒いうさぎの役割になっています。謎めいたラストシーンは観客の解釈に委ねられ、考察させるものとなっています。


 青年役(名前がない!)は、最近観たドラマ「此の時、この瞬間に」にも出てた台湾の人気俳優リン・ボーホン。やっぱ彼、岸優太に似てますね。岸くんはイケメンじゃないけど、ボーホンはイケメン。男らしさと愛嬌、大人と少年がいい感じにブレンドされてます。「青春弑恋」と「僕と幽霊が家族になった件」とのギャップで分かるように、コメディの時もシリアスの時もいい演技、いい表情が多くて、すごく器用な役者さんです。こんな彼氏ほしいわ~と思わせるボーホンのスウィートさでした。目力の強さ、鋭さも彼の魅力。肉体美も。ちょこっとだけ脱いでますが、相変わらずいいカラダ♡


 白佳琪役のクロエ・シャンが、すごく可愛くて怖かったです。宮崎あおい+和久井映見、みたいな顔?超可愛いけど、関わらないほうがいいのでは…早く逃げたほうがいいのでは…な、ヤバいメンヘラムード&演技がなかなか強烈。黒澤由里役は、リン・ボーホンと「恋の病 潔癖な僕らのビフォーアフター」でもカップルを演じてたニッキー・シエ。ぜんぜん気づかなかった。男にとって理想的(都合がいい?)なパーフェクト美女だけど、実は怪しい信仰系のオカルト呪術女で、メンヘラ女とはまた違うヤバさ。まさに、げに恐ろしきは女。独特の設定やポップな演出と雰囲気、強迫神経症の主人公、iPhoneで撮ったという映像など、「恋の病」とよく似た感じの作品。同じ監督と聞いて納得!台北の夜市、台北101が見える沿岸、原チャリ(青年の電気?スクーター、あれいいですね。ほしい!)など、台湾!な風景も、台湾に行きたい気持ちを高めてくれました。
 
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悲しみの九份

2025-02-09 | 中国・台湾・香港映画
 着てはもらえぬセーターを寒さこらえて編んでしまいそうなほど、春はまだ遠いような毎日ですね!
 春告鳥が啼く頃、いい日旅立ち(^^♪久々の海外旅行を決行することに。行先は、ロンドン!と言いたいところですが、さすがに遠すぎて現状無理。なので、台湾に行くことにしました!ロンドンと違い、台湾は近い!2泊3日で行ける!飛行機代など旅費も安い!折しも今ハマってる台湾映画とドラマで目にする、趣きある風景や美味しそうな食べ物、そしてイケメン!不好意思!不好意思!心ははや台北の空、いそいそとネットや本で情報収集中。でも、先日の台湾地震とか、私が行った途端に某ニーハオ大国と有事が起こる可能性とか、浮き立つ心に冷水かけるような不安要素も…でもでも。父が亡くなって、私もいつどうなるかわからない、そうなる前に人生できるだけ楽しんでおかなきゃ!と、あらためて思うように。なので、我去台湾!我期待着去台北!台北に行かれたことがある方、请给我信息!アドバイスや情報、謝謝!多謝!

 台湾映画祭①
 「悲情城市」
 敗戦した日本の統治が終わった台湾。裏社会にも顔が利く林家は、長男の文雄が取り仕切り、次男は戦地で行方不明のまま、戦争から戻った三男は精神を病み入院。四男の文清はろうあ者で、写真館を営んでいる。台北で起きた事件を機に、日本に代わって台湾を統治する中国政府への不満が爆発、台湾は混乱に陥るが…
 台湾映画の名作といえば、この名匠ホウ・シャオシェン監督作品を挙げる映画ファンは多いのではないでしょうか。恥ずかしながら私がこの作品を知ったのは、90年代に入って日本でも香港のニューウェイヴ映画が大人気だった頃。ウォン・ガーワイ監督の「恋する惑星」で大好きになったトニー・レオンの出演作のひとつとして。ミーハーなのですぐにDVDを借りて観たのですが、睡魔に襲われて途中リタイアしちゃったんですすごく静かで淡々としていて、むずかしい政治的な内容…当時の私が最も苦手としていた類いの映画。長らく封印していたのですが、なぜか最近台湾がマイブーム、台湾についていろいろ調べているうちに、この名作を観直すべきだと思うように。また寝たらどうしよう、という不安を抱きつつ再観したのですが、若気の至りで退屈!かったるい!なんて思ったことが恥ずかしくなるほど、静かで深い哀感と郷愁、そして恐怖が心にしみわたる、余韻嫋嫋たる佳作であることを、加齢のおかげで知ることができました。

 台湾といえば、中国に狙われている、食べ物が美味しい、日本から近い親日の国、というイメージ。台湾の歴史や政治については今も無知に近い私ですが、日本の統治下にあった時代、中国との深刻な確執については、薄々ながら興味は抱いていました。この映画で描かれた、長らく台湾ではタブー視されていたらしい二二八事件の悲劇的な顛末…文化大革命とか天安門事件とか、いろんな映画や実際のニュースで中国の怖さを見せつけられたけど、二二八事件とその後の血塗られた騒乱も、ほんと信じられない、信じたくないほどの悲劇。中国、今も昔も恐ろしやこの映画では、ドラマティックな描写やお涙ちょうだい的なシーンは全然ないのですが、それだからこそいっそうやるせなく悲痛で。

 台湾は日本に侵略されていたのに、韓国と違ってなぜ親日な国なの?と、常々思ってたのだけど。この映画が日本でも高く評価され、多くの人の胸を打ったのは、侵略者、支配者だった日本への憎悪とか恨みといった反日的メッセージがなく、むしろ去りゆく日本への惜別が優しく美しかったからでは。日本人とのやりとり、形見の着物や日本刀のゆかしさ、流れる日本の童謡。哀切でノスタルジックな情感にしんみり。日本の次にやって来た中国がもたらしたのは、自由と希望の光ではなく、絶望と恐怖の暗黒…逆らう者、邪魔者は容赦なく排除、虐殺の嵐!やってることはナチスと同じ。暴力、問答無用に連行、投獄され処刑を待つ、行方不明…時代に翻弄され流され無惨に踏みにじられ闇に葬られる、平凡で無辜な人々の悲しすぎる運命に暗澹となってしまいました。韓国と北朝鮮もですが、同じ民族が分断され敵対する悲劇に終わりは来ないのでしょうか。


 狗去豬來…多くの台湾人は当時の日本と中国を比べて、そう揶揄するとか。犬は厳しくうるさいが、賢く強くもあり、台湾を守った。でも豚は貪欲で怠惰で、ただ台湾を貪っただけ。日本と中国、どちらが犬で豚なのかは、言うまでもありません…
 主人公の文清役のトニー・レオン、当時27歳!若い!可愛い!後年のニヒルさとか色気はまだない、優しく真面目な好青年って風貌。トニさんの最大の魅力である、あの雨に濡れた捨て犬のような哀愁に、胸が痛むと同時にキュンともします。ホウ・シャオシェン監督は台湾華語が話せない香港スターのトニさんのために、文清をろうあ者に設定したのだとか。納得の起用です。トニさんの静謐なる悲しみが、台湾の悲劇の物言わぬ語り部である文清を、忘れえぬ美しい主人公にしました。


 それにしてもトニさん、戦後すぐのファッションが似合いすぎ!昭和っぽさもトニさんの魅力ですよね。きょとんした表情とか、困惑してる時の顔つき、はにかみが可愛い!守ってあげたくなる、母性本能くすぐり系です。ルックスだけ俳優がもし文清を演じたら、あざといだけの気持ち悪い男ぶりっこになってたことでしょう。台詞がなく、優しい悲しみと愛しさを具えた文清は、かなり難易度の高い役だと思います。若い頃からすでにもう、アジアきっての名優だったトニさんです。

 食事や家屋、服装、鉄道や儀式、やくざの世界など、当時の台湾の生活描写も興味深かったです。日本が撤退した後も混乱とか生活苦とかいった感じはなく、中国が来るまでは平穏無事な様子が意外でした。立つ鳥跡を濁さず、日本が悪あがきな騒擾狼藉をせず、きれいに去っていったからでしょうか。
 舞台となった九份は、この映画のロケ地としてだけではなく、宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」のモデルとなった(ジブリ側は否定しているらしい)ことで、今や台湾随一の人気観光地になってます。この映画を観た後に、お気楽な観光気分で九份を訪れるのは、何だかちょっと気が引けるけど…それはそうと。ホウ・シャオシュン監督は数年前にアルツハイマー症となり、すでに引退しているのだとか。
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漢(おとこ)たちの砦!

2025-02-04 | 中国・台湾・香港映画
 「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」
 80年代の香港。密航者の陳洛軍は、黒社会のボス大兄貴に見込まれスカウトされるが拒絶、追われる身となり九龍城砦に逃げ込む。大兄貴から奪った麻薬を金に換えようとした陳洛軍を、城砦を守る信一たちはシマ荒らしと見なし攻撃する。ピンチの陳洛軍を、理髪店の店主である龍捲風が救う。龍捲風は黒社会の伝説的人物だったが…
 最近、復興の兆しを見せている華流。近頃少し韓国男に飽きたところよ~♪(ピンクレディのUFO調)な私の心の間隙にハマりこんでいるのが、中華系の男たち。日本では韓流に凌駕されてるけど、華流もかつては映画ファンの間では大人気でした。古くはジャッキー・チェン主演作、90年代にはウォン・ガーワイ監督の新感覚映画がもてはやされるなど、香港が華流のメインストリームでしたが、現在が台湾が牽引してる感じでしょうか。香港も負けちゃいねえ!とばかりに、本国で大ヒットを飛ばした快作を観ました。香港映画復活の狼煙!とも思える作品でした。

 香港といえば、ジャッキー・チェンを筆頭にスターがド派手に大暴れする、ありえねー!なハチャメチャアクション映画。この新作でも、そんな往年の香港節が炸裂、爆裂していました。その荒唐無稽に豪快で創意工夫にあふれたアクションショーン、バトルシーンは、斬新でありながら懐かくもあるコテコテに香港なノリで、往年の香港映画ファンにとっては感涙ものではないでしょうか。私も堪能しました!血沸き肉躍るような、息もつかせぬ激しさとスピード感、そして凝った演出。これぞ香港!

 CGもふんだんに使用してるんだけど、それをあまり感じさせないのが俳優たちの生身のぶつかり合い。韓流のヴァイオレンスと違って、香港のそれは陰湿な残虐性がなくて、見ていて楽しいエンタメ感が強くて濃ゆい。無茶しよんな~なシーンばかりで笑える。ジャッキー映画とか、香港アクションって基本コメディ調なんだけど、この映画はシリアスタッチ。コミカルなシーンもあるけど、極力お笑いは抑えられてます。


 この映画の最大の見どころは、九龍城砦のセットでしょうか。まるで異世界のラビリンス。猥雑で活気に満ちた、香港庶民の情緒が凝縮され充満している空間は、かなりの巨費を投じて創り出したのではないでしょうか。実社会とは隔絶された、治外法権な独立国みたいな住民の暮らしぶりが面白かったです。火事になったら大変なことになりそうでしたが。中華な料理が美味しそうだった。実在した九龍城砦、映画で描かれた中の様子はほぼほぼフィクションだろうけど、実際の九龍城砦の画像とか、その魔窟なスラム街の怪しさは、想像力を刺激するものです。

 キャストは、フレッシュかつ懐かしい面々。まず、サモ・ハン・キンポー!うわ~ご健在だったんですね!さすがにお爺さんになったけど、まだまだお元気そう。セコい悪人役かと思ったら、けっこう極悪役でした。コミカル演技はもちろん、ハイッ!ハイッ!ハイッ!なカンフーとか、デブゴン時代を彷彿とさせるキレッキレのアクションも披露してます。龍捲風役のルイス・クーも、しばらく見ない間にすっかり激シブなイケオジに。ニヒルな慈愛と任侠の男、龍捲風は最もカッコいい役でした。龍捲風と過去に死闘を繰り広げた殺し屋役は、これまたイケオジになってるアーロン・クオック。二人の絆と悲しい運命が胸アツでした。

 主人公である陳洛軍役のレイモンド・ラムは、精悍な日本兵みたいな風貌。龍捲風の片腕的存在の舎弟、信一役のテレンス・ラウが、この映画でのイケメン担当。「鯨が消えた入り江」や「次の犠牲者」「此の時、この瞬間に」それぞれ違った顔を見せてたテレンス、今回の彼が今まででいちばん男らしい役と見た目。クールで優秀有能、かっとばすバイク、鮮やかなナイフさばきなど凄腕の戦士だけど、気を許したシーンでは優しくて可愛い!ハードな役と演技でも、スウィートなイケメンであることは隠せてません。どことなく日本人っぽいので(役名も信一だし)親近感も。髪型とネクタイなど、なかなかおしゃれさんな信一でした。陳洛軍と信一、スカーフェイスを隠した医師、龍捲風の兄弟分の舎弟、敵と戦いながら友情をはぐくむ若者4人が、九龍城砦の四銃士みたいで痛快。ワンピースとか少年ジャンプ系漫画っぽい映画でもあります。

 もっともオイシイ役だったのは、大兄貴の子分の王九。はじめはただのテンションが高いアホ、そのうち消える雑魚なのかと思いきや、最強最凶最狂な悪役でした。卑劣すぎる下剋上っぷり、不死身の気功術でどんどん無双状態となっていき、怪獣みたいに大暴れ。ラストの九龍城砦四銃士との死闘は、なかなかぶっとんでて圧巻です。王九役を怪演したフィリップ・ン、なかなか男前。若く見えるけど、もう熟年な年齢なんですね。AVビデオや田原俊彦、ダンシングヒーローやモニカ、家電、日本語の台詞など、日本ネタがちょこちょこ出てくるが楽しかったです。

 ↑ 劉俊謙、1988年生まれの現在36歳。台湾映画やドラマ出演にも積極的で、ADHDの少女を描いた「トラブル・ガール」も公開中。今後も追っかけていきたい俳優です🐼
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君と探した夏の海

2024-11-18 | 中国・台湾・香港映画
 「鯨が消えた入り江」
 盗作疑惑をかけられた香港の人気作家ティエンユーは、天国へ導いてくれるという“鯨が消えた入り江”を探すため、台北へと旅立つ。酒場でのトラブルからティエンユーを救ったチンピラのアシャンは、ティエンユーに入り江へのガイドを買って出る。はじめはアシャンを怪しんでいたティエンユーだったが、いつしか二人は離れがたい関係に…
 ちょっと前に偶然ネットで知った、香港と台湾の人気イケメン俳優の競演が話題になったBL映画。日本でも公開されないかな~と思ってたら、早くもNetflixで配信開始されていて驚喜!さっそく観ました(^^♪


 異なる時空をつなぐ不思議なポストとか、未来を変えるとか、「イルマーレ」と「君の名は。」をブレンドさせたようなファンタジーな設定に、ちょっと戸惑ってしまいました。フツーに運命的な出会いをした男同士の話でもよかったのでは、と思わないでもなかったけれども。自ら死を選んだあの香港の大スターが生きていて活躍中!という未来が衝撃的、かつ心憎い演出でした。その姿は劇中にはなかったけど、もし彼が存命ならどんな風になってるだろうか…と切なく想像。

 ファンタジー設定だけどファンタジックなシーンはほとんどなく、なかなか腐心をくすぐる胸キュンBL映画になってました。BLカップルがどっちもルックス、キャラともに腐のツボを巧みに突いてます。腐が求めているものを作り手がよく解ってる感じ。年上のティエンユーはリッチ&フェイマス、クールな陰キャ。年下のアシャンは底辺の不良、やんちゃで無邪気な陽キャ。どんどん親密になっていく二人を包むのは、甘く優しい恋人同士の空気なのに、セックスどころかキスもしないのでもどかしい!性的なシーンは皆無なので、ライトなBLファン向けかも。セックスやキスはしないけど、壁ドン(死語?)とかバックハグとか押し倒しとか、男同士でやるとドキドキ♡なことは、いっぱいやってくれてます。ビーチでダルマさんが転んだ(韓国だけでなく台湾にもあったんですね)やってたらキスしそうに、なんてシーンとか笑えるぐらい狙ってます。


 ティエンユーもアシャンも、BL漫画では定番のキャラですが、それが嬉しい。特にアシャンのワンコぶりが可愛すぎる!一途で献身的で、とにかくけなげ。ティエンユーじゃなくても、心ほだされますよ。私もミャンマーで、アシャンみたいな男子にガイドされたかったわ。ぼったくられても、アシャンだったらきっと得した気分になれるわ。


 BL映画なんだけど、男同士だから生じる苦悩や困難、禁断のにおいなどは全然なく、男女の恋愛と変わらない描き方が、イマドキのBLって感じです。それは現実社会では喜ばしいけど、苦しみや悲しみ、秘密の隠微さが美しいドラマになるBLを、映画やドラマでは…と望んでしまう私です。
 ラブシーンはないけど、イケメン二人は必要以上に脱いでます。二人とも、きれいなカラダ。韓国俳優ほどムキムキマッチョではなく、日本俳優ほど細くない、ちょうどいい肉体美。主演俳優二人は初めて見たけど、どっちもイケメン!ティエンユー役のテレンス・ラウは、ちょっとミステリアスで、優しい大人の雰囲気と清潔感が素敵。アシャン役のフェンディ・フォンは、山崎賢人をエグザイルっぽくした感じ?若々しい色気が香しいです。それにしてもティエンユーとアシャン、どっちが攻めで受けなんだろ?個人的には、年下タチ年上ネコ希望(^^♪


 BLもよかったけど、香港&台湾旅行の気分を味わえる美しい景色、情緒ある風景も素晴らしかったです。台湾のバナナやグアバが生えてる亜熱帯な山、どこかノスタルジックな田舎や海、素朴で美味しそうなお餅。ティエンユーとアシャンが裸になって水遊びする滝の秘境っぽさ。香港の街を走るトラム、湾岸の夜景。台湾にも香港にも行きたくなりました。

 ↑ イケメンかなあ?と首を傾げてしまう俳優が多い韓流と違い、華流はほぼほぼ正真正銘のイケメン
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害vs悪 必殺アンチヒーロー

2024-06-23 | 中国・台湾・香港映画
 「我、邪で邪を制す」
 悪名高き殺し屋の陳桂林は、暴力団の組長を射殺し逃亡するが、潜伏中に自分が末期がんで余命いくばくもないことを知る。死ぬ前に自分より重大扱いされている凶悪指名手配犯二人を殺すことを決意し、彼らの行方を追う陳だったが…
 韓流に押され気味だった華流ですが、ここのところ新作映画やドラマの公開や配信が盛んで、復調の兆しを見せているようです。ジャッキーやウォン・カーウァイ監督が人気だった80・90年代、最盛期の香港映画が大好きだったので、華流の再興は喜ばしいかぎりです。現在は香港ではなく台湾が華流の主流になってるみたい?「君の心に刻んだ名前」や「恋の病」「青春弑恋」など、最近の台湾映画はイケメンが出てる良作が多い、というイメージが。この台湾映画は、なかなかクレイジーな怪作でした。

 エグいヴァイオレンスといえば韓流ですが、この台湾映画も負けてませんでした。容赦なき凄絶な暴力と殺戮、人間も社会も狂ってるハチャメチャさは、韓流も真っ青でした。いったいいつの時代の話なの?!やくざのドンパチ抗争、反社会の人々の風貌や言動など、邦画の「孤狼の血」以上の昭和臭が。街並みの風景や雰囲気が昔の日本っぽいところも、何だか懐かしい感じ。東南アジアっぽい暖かい湿り気を含んだ空気感が、日本との違いでしょうか。

 とにかく主人公の陳桂林がイカレてます。一見、寡黙でスマートな二枚目風なのですが、中身は危険な狂犬。暴力も殺人も呼吸と一緒、みたいな躊躇も罪悪感もなきサイコパスが、おとなしく病死すればいいものを(彼の病気については、ラスト近くに意外な事実が)、自分が最悪の犯罪者と見なされていなかったことに反発、俺こそが最凶!死ぬ前に自分がナンバーワンの悪であることを世間に認めさせる!と悪人抹殺を計画、という理解不可能な思考回路とプライド、そしてブレない行動力と凄腕ヒットマンの能力を発揮して、まるでダークヒーローのように屍を重ね続けるんですよ。その狂った展開と場面は、見方によってはコメディでもあります。

 映画の中盤、陳桂林が新興宗教団体の施設にたどり着き、教祖に洗脳されて罪を悔い改め信者になる、という意外な展開に驚かされます。その新興宗教がオ〇ムや統〇教会を彷彿とさせるヤバさと悪辣さ。そんな悪を倒せるのは愛や善ではなく、やはり悪…という皮肉なカタルシスが待ち受けている終盤も、目がテンになる地獄絵図でした。殺すのは悪人だけ、悪に虐げられていた人たちを救うダークヒーローなんかではなく、正体はやはり妄執に憑かれた冷血な狂人だったと判明する救いのない虐殺シーンには、陳桂林をほんとはいい人、可哀想な人として描かない苛烈な潔さがあり、ヌルいユルい凡庸な内容にならずにすんだと思います。

 台湾の死刑執行シーンも、衝撃的かつ興味深かったです。数年前に台北の地下鉄で起きた、通り魔による無差別殺人事件の犯人の死刑執行ニュースで私は初めて知ったのですが、台湾は銃殺刑。日本の絞首刑とどっちが怖い、どっちが人道的なんだろう。どっちもイヤですが…この映画の陳桂林は、捕まって処刑された実在の殺し屋の男をモデルにしてるとか。「青春弑殺」の通り魔も、地下鉄事件の犯人がモデルっぽい。許しがたい凶悪き〇がい犯罪者を、イケメン俳優に狂演させる台湾映画が好きです陳桂林の悪人駆逐と重なる中国の故事、仏教の教えが奥深い。

 陳桂林役は、台湾の人気俳優イーサン・ルアン。初めて演技するところを見ましたが、涼しげで優しそうなイケメンですね。イカレてるのに澄んだ目がきれい。顔はちょっとチョ・インソン+伊原剛志、みたいな?髭があるほうが好きかも。スラっとした長身で、スタイルがいいな~。ほんとはとんでもない狂人、害悪男なのに、カッコよく見えなきゃいけない役である陳桂林は、演技がうまいだけの俳優やイケメン大根俳優が演じてはいけない役。非道い!頭おかしい!けど応援してしまう、いい男マジックと演技力を具えたイーサン・ルアン、いい役者ですね。他の出演作も観たいと思います。
 
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