まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

死が燦燦と

2024-11-08 | イギリス、アイルランド映画
 「地中海殺人事件」
 偽造ダイヤに関する詐欺事件の捜査と休暇を兼ねて、名探偵ポアロはアドレア海の島にある上流階級御用達のホテルにやって来る。宿泊客のひとりである女優のアリーナの絞殺死体がビーチで発見されるが、彼女を殺す動機のある関係者にはみな鉄壁のアリバイが。ポアロは真相究明に乗り出すが…
 映画ファンには悲しいニュースが今年も次々と。グレンダ・ジャクソンに続いて、イギリスが誇る名女優マギー・スミスも旅立ってしまいました。多くの映画ファンにとっては、マギーといえば「ハリー・ポッター」と「ダウントン・アビー」だと思いますが、私はどっちもほとんど観てない私にとってマギーといえば、アガサ・クリスティ映画「ナイル殺人事件」と「地中海殺人事件」なんですよね~。子どもの頃、どっちも何度もテレビで観て、そのクールなシニカルさと毅然とした雰囲気、でもクスっと笑える軽やかなユーモアで、これぞイギリス女性!と、幼い心に印象付けてくれたのがマギーでした。その他の彼女の出演作も、イギリス映画の魅力を私に教えてくれました。本当に素敵な、偉大な女優さんでした。追悼の意をこめて、この映画を久々に観ました。

 やっぱ何度観ても面白い!好き!シリーズの「オリエント急行殺人事件」と「ナイル殺人事件」に比べると、キャストは地味化、スケールダウンはしてますが、3作の中では最も軽妙洒脱でコメディ色が強く、殺人は起こっても陰惨さや重苦しさなどが微塵もなく、とにかく明るくて楽しい映画になってます。鬱な気分な時に観たくなる映画かも。マギーはホテルの経営者であるダフネ役。テキパキと軽やかに、時に辛辣に、でも人情味もある女将役を楽しそうに演じてます。犬猿の仲であるアリーナとの、毒を含んだ軽妙なやりとりが笑えました。

 アガサ・クリスティ映画の魅力は、私には一生無縁なハイソな世界。優雅なホテル、食事、衣装、かしずく使用人…杉乃井ホテルとかが、めちゃくちゃ庶民的に思えます庶民的リゾートホテルの客と違い、常にフォーマルな服を着用、ディナーやカクテルでは正装しなきゃいけないのは大変そう。でも憧れます。リゾートだけどどこかイギリスの貴族の館を思わせるホテルや、美しい海を臨む島内の風風光明媚さ、美味しそうな食事とお酒!一度でいいから、あんなホテルで夏休みを過ごしてみたいです。

 殺人トリックも、よく考えつくな~と毎度感嘆してしまいますが、実際には実行不可能だよな~。成功するには、かなりの運が必要だし。でもあのトリックを実写化できるロケ地、よく見つけ出したな~。
 ポアロ役の名優ピーター・ユスティノフ、大柄で優しそうなところは原作のポアロとはかなり違うのだけど(ポアロはチビで気取り屋なオネエっぽいおじさん)、私の中ではポアロ=ユスティノフ、なんですよね~。水着姿が漫画ちっくで可愛かった。ポアロが注文したパフェが、美味しそうでゴージャスだった!あんなの独りで食べたら体に良くないと思う

 アリーナの清々しいまでに性悪ビッチな言動が笑えます。アリーナ役のダイアナ・リグが、懐かしの韓流ドラマ「美しき日々」のヤンミミ、たまに池畑慎之介(ピーター)に見えて仕方なかったわ。アリーナの浮気相手である男の妻役は、「ナイル殺人事件」にも出てたジェーン・バーキン。ジェーンも去年、他界してしまいました…

 実際にはイギリス人だけど、ジェーンといえばもはやフランス女優、というイメージなので、母国語である英語での演技は返ってレアな感じがします。少女のような声が可愛い。30代半ばの、最も美しい頃のジェーン。冴えないサレ妻な彼女の、ラストの美しい変貌も見ものです。コール・ポターの音楽も、心をウキウキと弾ませてくれます。




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人生を変えるガーデニング

2024-09-06 | イギリス、アイルランド映画
 「マイビューティフルガーデン」
 天涯孤独なベラは、こだわりが強い性格のせいで他人とうまく関われず、作家になることを夢見ながら図書館で働いていた。庭の手入れをせず放置しているという理由で、借家の大家から立ち退きを要求されてしまうベラだったが、隣人の気難しい老人アルフィーと彼の家政夫ヴァーノンの協力を得て、庭づくりに着手することに…
 暑さのせいで夏になるとほぼネグレクト、荒れ放題になってしまうマイリトルガーデン。この映画を観て、涼しくなったらガーデニング頑張ろう!と奮起しました。憧れのイングリッシュガーデン、ナチュラルな美しさの裏には緻密な計算と綿密な計画が。アルフィーのガーデニング指導、すごく参考、勉強になりました。時間と労力、そして愛情を注げば、素人でもあんなに見事な庭を作り出せるんですね。生まれ変わったベラの庭、感動的な美しさでした。アルフィーの庭と家の中の美しさも、まさにおとぎ話の世界。有料でもいいので一般公開してほしいレベル。

 それにしても。あんな広い庭がある小ぎれいな家に住んで、暮らし向きも特に困窮した様子もないベラ。図書館のバイトとは思えぬ生活が解せなかったけど。ベラが書いた童話とかぶる、ちょっとおとぎ話的なストーリーなので、あまり現実的なツッコミを入れるのは野暮というものでしょう。物の配置やスケジュールに強いこだわりがあり、他人や社会とうまく適応できないベラは、明らかにアスペルガー症候群なのですが、そこの部分は話が進むにつれ、いつの間にかなかったことになってしまってた。ベラと仲良くなる青年ビリーも、彼女と同類と思われる言動の持ち主。二人とも自分の世界を大切にしてるピュアな人たちなんだけど、ベラの職場での遅刻癖や、何度注意しても図書館で飲食したり私語をしたりするビリーに、おばさん司書がイライラするのも理解できる。実際にもおばさん司書みたいな人が、障害者に寛容ではない悪者と見られる世の中ですよね。
 アルフィーやヴァーノン、ビリーがベラを支え愛したのは、彼女が美人だったから。人柄だけでは、あそこまで関心もってくれたり親身になってくれないと思う私も独り暮らしのワーキングプアですが、誰も相手にしてくれませんよベラ役は「ダウントン・アビー」にも出てたジェシカ・ブラウン・フィンドレイ。ベラ役には美人すぎる?ベラはもっと、地味でオタクっぽい風貌のほうがよかったのでは。やもめの家政夫ヴァーノン役は、アンスコことアンドリュー・スコット。

 今まで見たアンスコの中では、いちばん明るい楽しい役と演技でした。お人よしでヘタレっぽいけど、いざという時は有能なヴァーノンを、ちょっとトボけた感じでコミカルに演じてたアンスコが可愛かったです。妻に先立たれた子持ち男、というアンスコには珍しく非ゲイな役。ベラとは男女のロマンスな雰囲気や展開が全然なかったのが、さすがというか、やはりというかベラがビリーと恋に落ちたと知った瞬間の、ちょっと寂しそうな、でも安堵もしたようなアンスコの表情が秀逸でした。

 ビリー役は、スピルバーグ監督の「戦火の馬」で主役を演じたジェレミー・アーヴァイン。最近観た「刑事ダルグリッシュ」シリーズにも若い刑事役で出ていて、誰このイケメン?と思ったけど、この作品でもイケメンでした。アルフィー役は、去年惜しくも他界した名優トム・ウィルキンソン。偏屈で頑固な絵に描いたような因業爺さん、大事な家政夫を盗んだ!返せ!とストーカーみたいにベラに因縁をつけてくる迷惑高齢者なのですが、さすがイギリス人、イヤミやイヤガラセに知的な軽妙さがあって、何か笑えるんですよ。ガーデニング同様、こっちも参考になりましたガーデニングを通して培われるベラとアルフィーの信愛関係も、庭に劣らず美しかったです。

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昼下がりの秘みつ

2024-09-05 | イギリス、アイルランド映画
 「シークレット」
 夫と幼い娘がいるジェニーは、公園で声をかけてきた中年紳士に誘われるまま、彼の家へ。そこで自分が男の亡妻とそっくりであることを知ったジェニーは…
 70年代最高の美女と謳われたジャクリーン・ビセット主演作です。古今東西、映画界にはきら星のごとく美女がひしめいていますが、あなたにとって最高の美女は誰?と問われたら、まっさきに思い浮かぶのはイザベル・アジャーニとジャクリーン・ビセットです。トリュフォー監督の佳作「アメリカの夜」や、「オリエント急行殺人事件」「大空港」など、そのしっとりと艶やかに清冽な美貌、優雅で洗練された雰囲気で、私を魅了したジャクリーン・ビセット。70、80年代は名だたる実力派女優たちの群雄割拠時代だったので、いつの間にかそれに埋もれていってしまったかのような彼女ですが、今でも私にとっては心の中にしまってある美しいエメラルドのような女優さんです。数あるジャクリーン・ビセットの出演作の中で、すごく気になってたのがこの作品。子どもの時、古い映画雑誌やレンタルビデオのパッケージで見た、ジャクリーン・ビセットののけぞる裸体とエクスタシー顔…

 ビセットさん、当時27歳ぐらい。下積み時代の黒歴史出演作かな?と思いきや、もうこの頃はメジャーな人気女優。そんな彼女が、こんなエロそうな映画、演技を?でも調べてみると、いろんな映画で美しい裸体をさらしてるみたいです。松坂慶子とか邦画もだけど、70、80年代の美人女優って、ほんと脱ぎっぷりがよかったですよね。この映画での中盤に、あののけぞりセックスシーンがあります。ジャクリーン・ビセット、肢体はほっそりしてるけど、なかなか豊かな胸。白い柔肌な美乳が激しく揺れたり、男の手に包まれたりがエロかったです。絶頂顔&声もエロい。
 セックスシーンは劇中一回だけ。愛欲に溺れる人妻、みたいな話ではありません。不倫って感じもなく、昼さがりの気まぐれ、短く甘い白昼夢を楽しんだだけ、みたいな軽やかさ、あっけらかんさ。重苦しさや深刻さは微塵もありません。ジャクリーン・ビセットは美しいけど、雰囲気も演技も女~なベタベタしさ、ネチネチ感がなく、サバサバ颯爽としてるところも好き。長いブルネットの髪を無造作になびかせて闊歩する姿や、ジャケットとジーパンといったファッションも、マニッシュで素敵でした。
 見知らぬ中年男についていって浮気より、幼い娘を外にほったらかしにして心配もしないことのほうが、どうかしてる女なジェニーでした。娘も娘で、こっちも知らない若い男に誘われ家に行くとか、ヤバすぎでしょ。キスされて驚いてたけど、キスだけですんでよかった。キスだけでも十分犯罪だけど、イタズラされて殺されなかっただけましですね。夫も女性面接官と浮気してるし、家族3人のそれぞれの昼下がりのアバンチュールが描かれています。正直あんまり面白くありません。せめて夫と中年男がイケメン、男前だったらなあ。中年男の家が、シンプルだけど優雅で素敵でした。こんな家、住みたくない!金の使い方間違ってる!な韓国の金持ちと違い、イギリスの富裕層の趣味の高さが好きです。
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パパは野獣

2024-08-30 | イギリス、アイルランド映画
 「The Beast Within」
 イギリスのヨークシャーにある森の奥深くで、両親と暮らす10歳の少女ウィローは、父親のノアに何か秘密があることに気づいていた。ある夜、森へ向かう両親を尾行したウィローは、ノアの恐るべき正体を目撃してしまい…
 大好きなキット・ハリントン主演のホラー映画。キット、久々に見ましたが、すっかりおじさんになっちゃってますね~。まあ、年齢を考えれば当然。いつまでも可愛いイケメンなままであるわけがありません。おじさんになったけど、やっぱカッコカワいいです。ワイルドな風貌でも、野卑な感じはまったくなく、実はいいとこの御曹司なのかな?と思わせる雰囲気も、キットの魅力。農夫風の服装、木こり姿も似合ってました。幼い娘と仲良く遊んでるシーンとか、こんなイケメンパパいいなあ~と思いました。少年っぽいところも素敵。

 でも今回もキット、不幸で悲劇的な役。明るく幸せなキットって、見たことないような。まとっている薄幸オーラ、精神不安的っぽい危うさは、確かに暗い役にドンピシャ。黒目がちの遠い瞳が、いつも悲しそう。実際のキットも、すごくデリケートなメンヘラっぽい人みたいだし。無邪気な少年っぽさの正体は、大人になりきれない未熟さ。そんな男の役ばかり、キットは演じてるような気がします。

 大人になれない男はたいてい、自分の思い通りにならなかったり、現実と折り合いがつかなくなると、子どもっぽくキレる。子どもと違って大人なので、それが恐ろしい暴力に。いわゆるDVですね。この映画のノアも、ちょっとでも妻子が気に障ることをしたり言ったりすると、すぐ不機嫌になって鬼の形相で睨んだり怒鳴ったり、物に当たったり。妻子に手は上げないけど、あんな風に脅したり怖がらせたりする時点でもう立派なDV男。家族に代々伝わる呪われた血のせいで、月夜に凶暴な狼?に変身してしまうノアですが、DV男こそが変身せずとも狼そのもののように思えました。非現実的な狼男よりも、現実的なDV男のほうがホラーです。

 狼に変身する前に鎖につながれるシーンで、キットの全裸が崇めます。キットといえば肉体美。バキバキムキムキではないけど、がっちりむっちりした脂ののった色気ある裸体でした。お尻も見せてますが、暗くて不明瞭、これほんとにキットなの?ボディダブルもあり得る?な怪しさも。ノアよりもどちらかといえば娘のウィローのほうが主役で、キットは思ってたより登場シーンが少なく、出ずっぱりではなかったのが物足りませんでした。

 それにしても。幼い、しかも喘息もちの娘に、あんな人里離れた森の奥で、狼男に変身して襲いかかってくるかもしれない父親との生活を強いる母親も、とんでもない毒親だと思いました。ロケ地となったヨークシャーのヘアウッドの森や城跡が、神秘的で美しかったです。あんな森の中で暮らしてみたいけど、ヤバい動物や虫とかいっぱいいそうで怖いので、やっぱ無理

 ↑ ロンドンの金融界を描いたドラマ「インダストリー」のシーズン3に、若きCEO役で出演。映画は産後うつをテーマにした「ベイビールビー」で、ヒロインの夫役を演じてるキットです
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幸せの隣は地獄

2024-06-09 | イギリス、アイルランド映画
 「関心領域」
 アウシュビッツ強制収容所の隣で、所長のルドルフ・ヘスとその妻ヘートヴィヒは子どもたちと幸せに暮らしていた。壁の向こうにある収容所からは悲鳴や銃声が聞こえ、煙が立ち上っていたが…
 カンヌ映画祭グランプリ、そしてアカデミー賞国際長編映画賞(外国語映画賞)受賞など、昨年度の賞レースを席捲した話題作を、やっと観ることができました。評判通り、なかなかのディープインパクト作でした。人類最大の汚点のひとつである、ナチスドイツのユダヤ人虐殺。その象徴といえるアウシュビッツ強制収容所と、そのすぐ近くで楽しそうに幸せに暮らしている家族、まさに天国と地獄が壁ひとつ隔てての隣り合わせ、という異様で異常なシチュエーション。この映画の特異で怖いところは、収容所で行われているであろう非道で残忍な虐殺や人体実験の描写がいっさいなく、壁の向こうから昼夜問わず聞こえてくる絶叫や悲鳴、銃声や機械音、そしてもくもくと煙突から出ている煙を観客に見聞きさせ続け、おぞましいシーンを想像させるという斬新な手法。オスカーの音響賞も受賞したのも納得。すごい不気味で神経に障るんですよ~メンタルが弱い人は耳に残ってトラウマになるかもしれないので、観ないほうがいいかも。あんな家、私なら絶対住めません。一日で精神病みそう。

 声や音も怖かったけど、それらを気にせず暮らしているヘス一家の、楽しそう幸せそうな様子もまたおぞましい。大人も子どもも、壁の向こうで何が起こっているか知ってるのに、そんなの知ったこっちゃないとばかりに平然としてるんですよ。声にも音にも煙にも無頓着。ユダヤ人からの押収物をみんなで分け合ったり、収容所に入れられた知り合いのユダヤ人の噂話も、まるで当たり前な日常の些事。言いたいけど言えない、助けたいけどでできない、罪悪感や抑圧に苦しみながら厳しい時代を生きている、そんなありきたりなヒューマンさが微塵もなく、ひたすら自分たちのことだけ、自分たちの平和と幸福が保たれるのなら他人の犠牲も気にならない。そんな風に生きることができる怖さ、醜さを見せつけられて戦慄、愕然となる映画でした。

 人間って、ここまで無関心になれるの!?ここまで慣れてしまえるの!?ありえない!と言いたいところですが。私はヘス一家のようには絶対ならない!と、自信を持って言うことはできません。そこが怖い。この映画ほど極端ではないけど、現代社会に生きる私たちもまた、いろんなことに無関心を決め込んでます。遠い国の戦争や災害よりも、新車こすっちゃった~!とか、庭の花に害虫が!とかいった、私の小さな世界の小さなことのほうが一大事。それに罪悪感を抱いたりもしません。恐怖や理不尽も多すぎて、慣れて麻痺しちゃう。生きるため、精神安定のため無関心、慣れて平気、にならざるをえないのも事実。ナチスドイツ時代の非ユダヤ人ドイツ人たちも、そんな風だったのでしょうか。いつの世も最強なのはやはり、無知無関心な凡人…

 え?何?と驚かされたり、考察を求められる演出やシーンも独創的でした。特に印象的だったのは、リンゴを土に埋めて歩く少女のサーモグラフィ。実際に当時ユダヤ人のための食べ物を隠し配っていたポーランド人の少女と、ヘンゼルとグレーテルの物語とが重なるダークメルヘン的な演出が強烈。ヘートヴィヒのママが突然いなくなった謎も気になる。ラスト近く、ヘスが一瞬見る幻覚?が博物館になった現代のアウシュビッツ収容所、というシーンも非凡でした。ジョナサン・グレイザー監督の才気が凝縮された映画です。収容所やヘス家のセットも、芸術の域な素晴らしさ。
 ヘス役のクリスティアン・フリーデル、ヘートヴィヒ役のザンドラ・ヒュラーも、狂った異常事態の中でフツーに仲睦まじい夫婦、優しいパパママとして生活しているのが気持ち悪い男女を好演。ヘートヴィヒが丹精こめてる庭が楽園的に美しく、それもまた彼らの異様さを際立たせていました。ヘスが他所に転任が決まると、ここ(アウシュビッツ)は夢がかなった幸せな場所、ここを離れたくない!と夫に単身赴任させるヘートヴィヒ。やっぱ何かが狂ってる!とゾッとしました。
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愛は涅槃で待つ

2024-05-05 | イギリス、アイルランド映画
 「異人たち」
 ロンドンで暮らす脚本家のアダムは、かつて両親と住んでいた郊外の家に立ち寄る。そこで幼い頃に事故死した両親と再会したアダムは、両親に会うため旧家に通い始める。そんな中、同じマンションの住人ハリーと恋に落ちるアダムだったが…
 今年上半期の腐マスト映画、やっと&ついに観に行くことができました!結論から申し上げますと…せつなかった!尊かった!期待し過ぎると「落下の解剖学」みたいなことに…という心配は、杞憂に終わりました。期待通り、期待以上の佳作でした。古今東西いろんなBL映画を観てきたけど、正直そんなに胸に刺さる、胸に残るような作品には出会ったことないんですよね~。ほとんどのBL映画、BLドラマは、現実味のない絵空事なファンタジーだけど、カッコいいイケメンや男前を愛でることができればそれでいいかな、みたいな構えで観てるので、失望もしない代わりに感動とか衝撃もないのですが、ごくまれに奇跡のようなBL作品に出会うこともある。この作品がそれでした。深く優しく悲痛…という理想的なBLが描かれていました。

 この作品はBL映画というより、ゲイ映画と言ったほうがしっくりくるかも。フィクションの世界では、男性同士の恋愛もすっかり市民権を得ていて、最近のBLものは男女とそう変わらないような内容のものが多く、同性愛ゆえの苦悩や苦闘、悲しみなど存在しないハッピー&スウィートさ。それこそが魅力とも言えるのだけど、そんなのを観続けているうちに違和感というか疑問というか、ノーテンキで軽薄なBLってゲイを冒涜してるように思えてきて。おっさんずラブとか、私も最初は笑いながら楽しんでたのだけど、だんだん不愉快に。結局はゲイをイロモノ扱い、バカにしてるように思えて、パート2は途中リタイア。観たいのはもっと真摯な、でも気が滅入るような、目を背けたくなるようなリアルなものではなく、現実の中でささやかに懸命に息づいている姿が美しい悲しい、と心動かされるBL…まさにこの映画がそれでした。

 死んだ両親と再会という設定はファンタジーですが、アダムとハリーのBLは現実的。ゲイってこんな風に惹かれ合って想いを伝え合って結ばれて、そして傷ついて悩むんだな~と、男女の恋愛ものとの違いをさりげなくも明確に描いているところが、さすがオープンゲイのアンドリュー・ヘイ監督ならでは。都会を舞台にしているのに静かで寂しい雰囲気なのも、ゲイの恋愛や人生をよく表していると思います。「さざなみ」や「ウィークエンド」など、ヘイ監督の感性がすごく好き。現実的なのに生々しくないところとか。ベタベタしい湿っぽさがなく、どこか乾いた悲哀の心地よさとか。ファンタジー部分も奇をてらった演出やシーンなど全然なく、アダムが幽霊?と会ってることも忘れそうになるほど。アダムの部屋の窓から臨むロンドンの夜と朝の風景の寂寥感ある美しさ、アダムとハリーがトンじゃうクラブのシーンのスタイリッシュさなど、今回も私の胸を衝く映像と演出でした。

 喪失の痛みと悲しみがテーマなのですが。私はそんなに愛されたことも愛したこともないのでアダムと両親のエピソードには、そんなに感動はしませんでした。もし両親が死んでもそんなに会いたくないかももし会ったら、お互い生きてる時によくも~!と不満不平ぶつけ合ってケンカになるだけだと思うし。この映画と違い、私の場合はコメディがホラーになっちゃいそうです。

 アダムとハリーの愛は、ほんとジワる!お互いを思いやる優しさ、分かち合う安らぎには、見てるほうも幸せな気分に。二人のゲイゆえの孤独、家族や社会との断絶と疎外感、ゲイの生きづらさも、最近の粗製乱造BLにはないリアルでした。このまま末永く…と願わずにいられない二人が、ああ…衝撃的で悲しい真実に、観る者は打ちのめされてしまうのですが。気づかないフリはできない劇中の不幸フラグ、悲しい伏線の回収に胸がしめつけられるラストでしたが、ある意味ハッピーエンドな余韻も。エンドクレジットへつながる演出が、これまた切ないまでにロマンティックで、冷血な私のハートを優しい五月雨のように潤したのでした。

 BLカップルを演じた二人の俳優が、とにかく素晴らしい!アダム役のアンドリュー・スコットは、ちょっと前にnetflixのドラマ「リプリー」を観たばかりなので、彼の地味にスゴい役者っぷりにあらためて感嘆。いろんな映画やドラマでお見掛けしますが、今まででいちばんいい男に見えたかも。これ見よがしじゃなく、かつ引き込んでくるという難易度の高い演技。特に別におかしなことはしないのに、ひょっとして心が…?と思わせる静かな不安定さ、不穏さが秀逸。カミングアウト俳優としても有名な彼、男と愛し合う姿がこれほどナチュラルな俳優もなかなかいません。もう青年じゃない大人の落ち着き、けどおっさんでもない繊細さも魅力的でした。それにしても。アダム、霊感強すぎでしょ
 ハリー役のポール・メスカルが、か、可愛い!

 いや~ポール、ほんといい役者ですね~。あんなラヴリーでピュアな笑顔、演技でできるもんなんですね~。いきなりポールみたいな男が訪ねてきて、あの笑顔で一緒に飲もう(=ヤろう)と誘ってきたら、私なら断る自信ないわ~。断ったアダムの用心深さと自制心、あのとき部屋に入れていたら…と思うと泣けてきます。年上の男に甘える可愛さ、支える頼もしさ、風貌もキャラも一途で忠実な大型犬みたい。こんな彼氏ほしい!なポールasハリーでした。

 言動は明るいけど、たまに見せる暗い淵をのぞいているような目とか、泣くのをこらえているような表情とか、ハリーが深い傷と闇を心に抱えていることがわかるポールの演技は、秀作「アフターサン」の彼を彷彿とさせました。脱ぎっぷりのよさも相変わらず。ムキムキバキバキではなく、がっちりむっちりなガタイが素敵。ラブシーンではお尻も当然のように見せてます。デカくてきれいなケツがイイネ!ポールの相手を労わるような愛撫や腰の動きがムズキュンでした。セックスシーンはBLでは大切。リアルだけどイヤらしくない、情熱と優しさにあふれるアダムとハリーのセックスシーンも、BL映画では理想的なものでした。ポールみたいな若い俳優が日本にいないのが残念、と今回も思ったけど。日本の若い俳優だってみんな優秀、ただポールが特別で稀有なだけ、と思い至りもしました。

 アダムの両親役のジェイミー・ベルとクレア・フォイも好演。登場人物は全編ほぼ4人だけ、というシンプルさも今思えば驚異的。山田太一先生の小説「異人たちとの夏」をイギリスで大胆にBLアレンジしての映画化、ということも話題に。邦画版もあるみたいですが、ぜんぜん観る気が起きない男女の話とかありえん~!なんて思ってしまって。ぜひBLバージョンで日本でリメイク希望!アダムは妻夫木聡、ハリーは池松壮亮でお願いします!

 アダム&ハリーforever…
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南の島のBL不倫!

2024-04-26 | イギリス、アイルランド映画
 皆さまComment ça va?
 早いもので、もうゴールデンウィーク!🎏貧乏ヒマなしワーキングプアな私ですが、珍しく今年は3連休をいただきました!嬉しい!休みに何をするわけでもないけど、まったり怠惰な休日を満喫したいと思います(^^♪皆さまは素敵なご計画がおありでしょうか。


 春の花はすっかり散ってしまい、ちょっと寂しくなったマイリトルガーデンですが、代わりに初夏の使者が訪れ始めています。ラベンダーとゼラニューム、ナスタチウムが早くも元気いっぱい。ほぼほったらかしでも毎年きれいに咲いてくれるので重宝してます。

 フェニックスという変わった形のナスタチウム。次々と咲いてどんどん伸びて、何か怖いくらい強健です。休日は庭いじりも楽しみたいと思います(^^♪

 「異人たち」公開記念BL映画祭④
 「Play the Devil」
 カリブ海の島国トリニダード・トバゴ。成績優秀で容姿にも恵まれた高校生グレゴリーは、家族や学校から将来を嘱望されていた。そんな中、裕福な実業家ジェームズと親しくなるグレゴリーだったが…
 トリニダード・トバゴ、この映画で初めて知りました。人気リゾート地のような華やかで人工的なところがなく、風景も人々の暮らしも現代社会に汚されておらず、その素朴で原始的な美しさに魅了されました。行ってみたい!公用語が英語なので、短期語学留学を兼ねて半年ほど滞在してみたいものです。日本のように何でもできる、何でもそろってる便利さはないけど、生きるために必要なものは欠けてないし、不必要で有害なものがないシンプルライフが送れそう。本当に高いQOLって、トリニダード・トバゴのような国で得られそうな気がします。

 そんな美しく静かな南の島でも、BLは繰り広げられるのです。トロピカルな舞台だと、BLも明るくハッピースウィートなものになりそうですが、この映画は暗くて悲劇的なBLです。ラブコメ調のBLより、私はそっちのほうが好み。BLにはどうしても、悲しみと苦しみを求めてしまうんですよね~。イケメンDKとハイスペック熟年のBLなんて、シクラメンのように甘い禁断のかほりしかしません。

 グレゴリーが、ほんと見た目もキャラも可愛いんですよ。あどけなさの残る童顔とセンシュアルな美しい肉体がアンビヴァレントな魅力に。見た目がもう他の島民とは違うんですよ。まさに鶏群の一鶴、みたいな。美しいだけでなく、頭も性格もいいという欠点のなさ。自分の美点に驕らず優しく真面目で、家族思いなところも痛ましいほどけなげな少年。グレゴリーが小さな南の島ではなく、ニューヨークとかロンドンで生まれ育ってたら、もっと楽な人生を歩めただろうにと思わずにはいられませんでした。神さまって残酷だわ。

 美しくて才能があって、優しくて繊細なグレゴリーのような若いゲイにとっては、トリニダード・トバゴのような小さな島は監獄のような場所です。家族や友だち、島民はみんな彼を愛してくれる善き人たちだけど、無知なので誰もグレゴリーの苦悩や閉塞感に気づかない。カミングアウトどころか、ゲイであることを自認さえできず鬱屈を抱えるグレゴリーが悲痛。外国帰りで教養があり金持ちのジェームズは、彼にとってやっと出会えた理解者のはずだったのに、ジェームズにはもちろん下心が。誘惑されて初めてのセックス体験をするのですが、それがまたデリケートなグレゴリーを追い詰めて、苦すぎる顛末に。環境も価値観も同性愛を許容していない、多様性?何それ?な小さく狭い世界の現実がシビアでした。

 グレゴリーにマジぼれ、執着してつきまとう中年ストーカーなジェームズがヤバい、けど報われない恋が切なかったです。既婚者のジェームズなので、何も知らない奥さんと子どもも可哀想。同性愛には何の罪もないけど、不倫はやっぱマズいですよね~。
 グレゴリー役のペトリス・ジョーンズは、イギリスの俳優だとか。極小ベビーフェイスが可愛い。劇中ほとんど上半身裸だったような。おじさんゲイが溺れて執着するのも理解できる肉体美でした。1回だけあるセックスシーンは大したことないけど、若者らしい激しいがっつき方が素敵でした。ジェームズ役の俳優はブサイクではないけど、もうちょっと男前熟年ならmuch betterだったかも。島の伝統の祭りやダンスも、エスニックで面白かったです。森林や滝など、自然の風景も美しかったです。ほんと行ってみたいわトリニダード・トバゴ!
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奇々怪々人間ベラの冒険

2024-03-03 | イギリス、アイルランド映画
 「哀れなるものたち」
 ヴィクトリア朝時代のロンドン。天才的な科学者デクスター博士は、自殺した女性の脳を彼女が身ごもっていた胎児のものと取り換え、赤ん坊の心で蘇生した女性をベラと名付け養育する。幼児から少女へと精神が成長したベラは、屋敷から出られないことに反発と不満を募らせ、弁護士のダンカンの誘惑に乗って彼と共にリスボンへと出奔するが…
 独特すぎる作風が一度ハマるとクセになる、ギリシアの鬼才ヨルゴス・ランティモス監督の新作を、ようやく観に行くことができました(^^♪前作「女王陛下のお気に入り」も強烈でしたが、この最新作はさらにスケールアップ、パワーアップしていて、まさに驚異とインパクトのカオス状態でした。内容も演出も演技も、すべてが文字通りぶっとんでます。まさにクレイジーファンタジー。ポリコレ、コンプラ時代の今、よくこんな映画作れたな~と感嘆あるのみな、下ネタ満載のエログロ映画でした。清く正しい紳士淑女は観ないほうがいいかもしれません。私はこういう映画、大好き!めっちゃくちゃ面白かったです!

 ヒロインの自分探し、成長の物語ってありふれたテーマですが、この映画は前代未聞なほどに斬新で特異。ありえないほどの怪奇な方法で爆誕したベラは、まさにニュータイプのヒロイン。ベラの冒険が、めくるめくような華美さとグロテスクさ、そして大胆不敵な愉快痛快さで描かれています。ベラの固定観念とか常識、モラルにとらわれない自由さ、勇敢さに圧倒され唖然ボー然となりつつ、これこそ女性の理想の生き方なのではと憧れも。恐れ知らずの行動力、実践力で世界を知り自我に目覚めるベラですが、性への探求心の貪欲さにはただもう畏怖、そして爆笑!ダンカンとヤリまくるだけでは満足できず、パリで娼婦になっていろんな男ともヤリまくり、その過程で考察を深めていくベラのトンデモ社会勉強が笑えました。男性優位な社会の矛盾や理不尽さ、女性の自立や自由も、ストレートに大真面目に描くのはもう廃れた手法で、「バービー」やベラみたいな異形のヒロインが非現実的な世界で目覚めて行動する、という描き方がトレンドになってるんですね。

 この映画、何といってもベラ役のエマ・ストーンですよ。いったいどうしちゃったの?!と仰天する怪演、そして脱ぎっぷりヤリっぷり。ハリウッドの今をときめくトップ女優のエマ石が、おっぱいもヘアも丸出しであられもなく下品に卑猥に、そしてあっけらかんと痴態を繰り広げてるんです。すごいわエマ石。彼女ほどの人気女優になったら、フツーは守りに入って無難な仕事しかしなくなるはずなのに。オスカーを受賞した「ラ・ラ・ランド」なんか比ではない女優魂の炸裂ぶり。その攻めまくった演技、あっぱれの一言です。ドギツいコメディ演技なところもまた非凡。日本の同世代女優には絶対不可能な、ウルトラC級の激烈演技でした。ギョロ目と大きな口という漫画顔も、怪奇映画のヒロインにぴったり。今年のアカデミー主演女優賞、「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」のリリー・グラッドストーンとの一騎打ちみたいですが、リリグラ石の演技が真珠なら、エマ石のは誰も行ったことがない惑星の石、みたいな。

 ダンカン役は、大好きなマーク・ラファロ。彼の珍演もなかなかのものでした。うさん臭いヤリチン色魔役なんて、マークもよく引き受けたな~。でもそんな役でも実力と魅力を発揮し、卓越した俳優であることを証明してるマークです。マークも毛むくじゃらな全裸をさらしてヤリまくってます。ベラを弄ぶつもりが逆に骨抜きにされ、いい男風だったのが身も心もボロボロになっていく姿が滑稽。あのメンタル崩壊っぷり、オスカーの助演男優賞候補も納得の珍妙さでした。笑えるシーンいっぱいあるのですが、特に笑えたのはダンスホールでベラと踊るシーン。変なダンス!女王陛下のお気に入りでも、変ダンスありましたね。

 モンスターな風貌と悲しい父性愛のデクスター博士役、ウィレム・デフォーもオスカー候補になるべきだった名演と存在感。博士が語る、父親に人体実験のモルモットにされた幼少期のエピソードが、非道すぎてホラーでした。豪華客船でベラが仲良くなる老婦人役で、ドイツの名女優ハンナ・シグラが登場して驚きました。博士の屋敷にいるアヒル犬がファニーなヤバさ。

 トンデモな話や演技だけでなく、映像と美術、衣装も独創的で目に楽しいです。ロンドンやリスボン、パリが舞台になってるけど、ほとんど架空の世界のような、妖しい近未来っぽい風景がシュールです。体力気力がある時に、また観たい映画です。それはそうと。脳みそを取り換えるという設定は、楳図かずお先生の名作怪奇漫画「洗礼」を思い出させました。

 ↑ まずありえないけど、続編作ってほしい(笑)

コメント (2)
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癒しの村

2024-02-23 | イギリス、アイルランド映画
 「ひと月の夏」
 第一次世界大戦で心に深い傷を負ったバーキンは、ヨークシャーのオズゴッドビーで教会の壁画修復の仕事に就く。村人や牧師の妻アリス、村で発掘調査をしているムーンとの交流は、バーキンの心を静かに癒していくが…
 ヘレン・ミレンがカンヌ映画祭女優賞を受賞した佳作「キャル」のパット・オコナー監督作。空前?の英国美青年ブームが起こった80年代後半、「アナザー・カントリー」で人気美青年リスト入りしたコリン・ファースの初主演作。1987年の作品だから、コリン当時27歳!当然ですが、わ、若い!お肌つるつる&すべすべ!韓流アイドルやイケメン俳優と違い、メイクばっちり感がない自然な美白肌は、まさにイギリス美青年。輝くばかりの若さですが、元気溌剌!な若者ではなくて、もう人生の酸いも甘いも嚙み分けたような沈着と憂いは、すでに老成した紳士の風情。27歳でこんなに大人っぽい俳優、日本にはいません。40過ぎてもアイドル芸な自称俳優はいますが。

 すごい気難しそうなところは、現在と変わってませんね。性格が悪いのではなく、すごく内省的で不器用なため誤解されやすい、そして心に傷や闇を抱えているバーキンのような役は、コリンの十八番でしょうか。いかにも苦しんでいる、悲しんでいると周囲や観客に訴えてくるような演技ではなく、寡黙さの中に何げない表情や仕草で心の痛みを伝えてくる演技が秀逸です。悲惨な戦争体験のトラウマで、吃音になってしまったバーキン。コリン、後年オスカーを受賞した「英国王のスピーチ」でも、吃音に悩む役でしたね。

 でもほんと、若い頃のコリンってスマート!無駄な肉が全然なさそうな長身痩躯。ピクニックシーンで寝そべって伸ばしてる足、長っ!今回は元従軍兵士役ですが、コリンもまた上流階級の役が似合うイギリス俳優なので、ビンボー臭さや不潔感なんて微塵もなし。教会の鐘楼に住み込んで、お風呂もほとんど入ってないはずのバーキンだけど、いつも小ぎれいで清潔な紳士に見えるのは、やはりコリンのきちんとした個性のなせるわざでしょうか。バーキンがもし軽薄で卑しげな小汚い男だったら、誰も彼に近づいてこなかったでしょうし。孤高だけど善良、そしてイケメンなバーキンなので、勝手に人が寄ってくる。彼らとの交流もベタベタした人情話にはならず、優しさの中にも礼節や思慮があり、距離感を保つやりとりになっていたのも、いかにもイギリス、そしてコリンって感じでした。

 ムーン役は、これまた若い!ケネス・ブラナーですよ!コリンと同い年だから、彼も当時27歳!これが記念すべき映画デビュー作だって。若かりしコリン&ケネスを拝めるだけでも、一見の価値ありな映画です。ケネスはイケメンではないけど、人懐っこい笑顔が可愛く温かく、見ていて癒されます。ムーンも悲しい戦争体験の持ち主で、死にたくなるような辛さだろうに、明るく振る舞ってるところが返って痛ましかったです。同性愛スキャンダル!で軍を追放、というのがこれまたイギリスらしい。実は同性愛者のムーンですが、全然ゲイゲイしくはないです。でも、時々バーキンに向ける上目遣いとか、ピクニックでのちょこんとした座り方とか、これまた何げない乙女っぽさの出し方が、さすが当時英国演劇界の神童的存在だったケネスです。バーキンとムーンが、BLな関係に発展するのかなと期待しましたが、残念ながらバーキンとムーンの別れも、静かだけど切ない余韻。夏は毎年来るけど、必ず終わる。同じ夏は二度と来ない…

 アリス役は、大女優ヴァネッサ・レッドグレイヴの娘、ナターシャ・リチャードソン。ママそっくりですが、ママよりも柔らかく優しそう。若くして亡くなったのが惜しまれます。これといった事件や劇的な展開、シーンなどはいっさいなく、終始静かに淡々としてる映画なのですが、それがとても心地よくもありました。そしてあらためて思った。イギリスの田舎、最高!主役は人間ではなく、田舎の美しい風景や自然かも。明るく優しい陽射し、静かな森、庭の木々や草花、古い教会、ティータイム、鉄道etc.英国のカントリーライフ、憧れる!住めば私の荒んだ魂も、きっと浄化される。ヨークシャーにも行ってみたくなりました。

 ↑ 二人とも今では貫禄あるシブい大物俳優になってますけど、こんなに可愛い青春真っ盛りな頃も。また共演してほしいですね(^^♪
 
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インドの愛人

2024-01-17 | イギリス、アイルランド映画
 「トリシュナ」
 インドの貧しい農村で家族と暮らす美しい娘トリシュナは、イギリス育ちの御曹司ジェイと出会い恋に落ちる。彼の子を身ごもったトリシュナは、両親に連れていかれた病院で堕胎する。それを知ったジェイは…
 ロマン・ポランスキー監督の映画や、エディ・レッドメイン出演のテレビドラマ版など、何度か映像化されてるトマス・ハーディの小説「ダーバヴィル家のテス」を、19世紀末のイギリスから現代のインドへと舞台を置き換えて映画化。トリシュナがテスなのですが、ジェイはテスに関わる男ふたりを合体させたキャラになっているなど、大胆なアレンジがなされています。

 究極のだめんず女といえば、真っ先にテスが思い浮かぶ私です。男たちに翻弄され傷つけられ、挙句は身を滅ぼすヒロインなんて、今の自立した強い女性たちからすると、ただのバカ女にしか見えないかもしれません。私もテスのような人生なんて真っ平ごめんですが、テスのような愚かさって悲しいまでに美しくも思えるんですよね~。生き馬の目を抜くような世の中をサバイバルするため、自分が傷つかないため損しないため、理不尽な男社会に抗い糾弾するため、声高に自己主張や権利を訴える女性たちはカッコいい、憧れるけど、見ていて疲れることも。近年の映画のヒロインたちも、強く賢い女性ばかり。テスのようなヒロインなんて、今のハリウッドのトップ女優たちは絶対やらないでしょうし。女性がみんな強く賢くなったら、きっと世の中も映画もつまんなくなるだろうな、なんて言うと、フェミニストに怒られちゃうでしょうか。

 女性が強くなったとはいえ、今でもテスやトリシュナみたいなだめんず女は後を絶ちません。すごい美女が貧乏で優しく、あまり賢くなく生まれると、悲しい運命をたどるんですね~。トリシュナがあんなに美女じゃなく、気が強く性格が悪くて頭が良ければ、もっと美味しい人生を歩めただろうに。何でそんなことする?!何で言いなりになる?!なトリシュナの言動には、イライラしたり呆れたりするばかりです。その理解できなさが興味深くもある。共感や好感もいいけど、神秘や謎こそ私を惹きつける女の魅力です。衝撃のラスト、ここも原作とはちょっと違います。トリシュナの、男と両親への復讐のような壮絶な最期にも、そんなことするぐらいなら男とも家族とも縁を切って独りで自由に生きればいいのに、なんて思ってしまいましたが…

 ジェイ役は、大好きなリズ・アーメッド私のイケメンレーダーをビビビとさせた「ジェイソン・ボーン」よりさらに前、当時29歳のリズ。カッコカワいい!27歳の役でしたが、もっと若く見えました。大学生役でも通りそう。コテコテのインド人って感じではなく、濃さがほどよくマイルドなところが好き。ロンドン育ちの御曹司役なので、すごくスマートで洗練されてる見た目と演技でした。前半は金持ちで優しくて情熱的な最高の恋人、後半はケツの穴が小さい最低のクズ&ゲス野郎、二つの顔を巧演してるリズです。スウィートなリズも素敵でしたが、イケズなリズもセクシーでチョベリグ(死語)。ジェイみたいに、女の傷や過ちを許せず、価値が下がったかのような扱いをする狭量な男、ほんと気持ち悪い。そんな男とわかったら、さっさと縁を切るのが一番ですが、そう簡単にはいかないのが男女の仲なのでしょうか。そんな恋愛したことないのでわかりません(^^♪

 トリシュナ役は、アカデミー賞受賞作の「スラムドッグ$ミリオネア」で一躍注目されたフリーダ・ピント。美男のリズとはお似合いの美女です。英語とインドの言葉(ヒンディー語?)のバイリンガル演技がお見事。インドの民族衣装姿も美しかったです。クズ野郎のジェイよりも、トリシュナの両親のほうに腹が立ったわ。親父は自分が起こした事故でトリシュナにも怪我させて、自分の治療費と家族の生活のためにトリシュナを売り飛ばすように工場勤めさせるし。ジェイの子を妊娠して戻ってきたトリシュナに冷ややかで、さっさと堕胎させたり。出ていけと追い出すし。インドの貧しい家に生まれなくてよかった!と心底思いました。ムンバイと田舎、金持ちと貧乏人の格差、現代インドの現実の描写も興味深いものでした。マイケル・ウィンターボトム監督の「ジュード」も、トマス・ハーディが原作でしたね。厳しい現実を描きつつ、生々しくなく透明感ある清澄な映像や雰囲気がウィンターボトム監督ならではでした。

↑ インド人って広島市街やK市でもよく見ますが、こんなイケメンにはお目にかかったことないです!ちなみにリズはインドではなくパキスタン系ですね🍛
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