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豊島ミホ『ぽろぽろドール』

2008-06-23 17:41:07 | ノンジャンル
 19日に発行されたフリーペーパー「R25」に国別累計人工衛星打ち上げランキングというのが載っていて、1位は旧ソ連で3228基、2位はアメリカで1825基まではいいのですが、3位は何と日本で119基、4位中国で99基となっていました。中国は実際は発表してない軍事衛星を加えると倍の数字らしいのですが、それにしても日本がこんなに多いとは。他の国のロケットに乗せて打ち上げてもらったのだと思います。

 さて、豊島ミホさんの'07年の作品「ぽろぽろドール」を読みました。人形を扱った6編の短編からなっています。
 第一話「ぽろぽろドール」は、頬を打つと涙を流す等身大の人形を知り合いのおばさんから内緒でもらい、それをぶつことが一番の遊びだと言う少女の話。
 第二話「手のひらの中のやわらかな星」は、田舎育ちで不細工な女の子が同級生のきれいな子に憧れ、着せ替え人形に彼女の姿を投影し、かわいい服やアクセサリーを作り、実際に学祭の劇で彼女の服を作る事になり、彼女に服を気に入られ、ますます人形の世界に倒錯していくという話。
 第三話「めざめる五月」は、等身大の人形を愛する男の子に、人形に瓜二つということで、人形に自分がすることを見ていて嫌だな、ということがあったら教えてほしいと頼まれ、だんだん自分自身が人形のように愛撫されたいと考え、彼のいない間に人形の衣装に着替え、彼を待ちますが、彼は人形しか受け付けない人間だったという話。
 第四話「サナギのままで」は、戦前、製糸工場の坊ちゃんと2歳年下の下女が仲良く遊び、将来も坊ちゃんのお妾さんになろうと思っていましたが、やがて別れ別れになり、坊ちゃんは出征することになり、その壮行会の夜、坊ちゃんは元下女に昔の幸せだった時間を求めますが、彼女は戦時中ということもあり、お国のために勇ましく死んできて、と言って、彼を怒らせます。そして彼が戦死した後、彼女はあんな言葉をかけたことを後悔し、マネキンの型を作る工場で働くようになり、優秀な成績から自由に一体作ることを許され、坊ちゃんのマネキンを作ります。そしてそれは出荷され、彼女はショーウィンドウにマネキンになった坊ちゃんを探しますが、78才になった今でも見つかっていません。しかし彼女は必ず会えると信じ、もうすぐ彼と一つになれるのだ、と思うという、せつなくも悲しい話。
 第五話「きみのいない夜には」は、ネットオークションで買った大人向けの着せ替え人形の元の持ち主が、その人形への愛を捨てられず人形宛の手紙を出し続け、ついには買った女性のもとに来てしまい、最後には女性が人形とともに彼の世界に飛び込んで行くという話。
 第六話「僕が人形と眠るまで」は、美しい顔に事故で火傷を負い、醜くなった男は秋葉原で元の美しい恋人にそっくりの等身大の人形を見つけ、その人形を抱きしめて泣くという話。

 「ぽろぽろドール」は人形を虐待し、「手のひらの中のやわらかな星」は人形を飾りあげ、「めざめる五月」では生身の人間よりも人形をとる男の子がいて、「サナギのままで」は亡くなった恋人を人形にして蘇らせ、「君のいない夜には」では着せ変え人形を運命の恋人と思う男がでてきて、「僕が人形と眠るまで」では火傷で醜くなった男が昔の恋人にそっくりな人形を抱いて泣きます。どの話にも人形を愛し、現実に愛する人を見出せない淋しい人が登場し、中にはエキセントリックなものもあって読んでて辛くなりました。豊島ミホさんって、こんなに淋しい話を書くひとだったでしょうか? せつないけれどもっと明るい物語を書く人だったと思うのですが‥‥。この本では唯一「サナギのままで」がせつなくて素直に泣ける小説でした。次回作に期待したいと思います。