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横山秀夫『震度0』

2009-08-15 16:33:00 | ノンジャンル
 山田詠美さんが「熱血ポンちゃん膝栗毛」の中で挙げていた、横山秀夫さんの'05年作品「震度0」を読みました。
 阪神大震災の起きた日、N県警で金と人事を握る警務部の課長・不破が失踪します。キャリアの警務部長・冬木は外部に情報が漏れないように捜査の陣頭指揮を取り、裏金融にも関わりのあるフィクサー・桑江から不用意に賄賂をもらってしまい、その処理を不破に頼んでいた、やはりキャリアの本部長・椎野から捜査の妨害を受けながらも、不破が結婚前に付き合っていた同僚の婦警・史子に瓜二つで、現在は生活安全部長になっている倉本に史子が犯されてできた娘と不破がしばしば会っていて、失踪当夜も一緒に車に乗っていたことをつきとめますが、冬木に反発して県警のメンツにかけて独自の捜査を展開していた刑事部長の藤巻は、不破が署長時代に警察OBの圧力で県議選の対立候補の選挙違反を一方的に摘発していた疑惑があることをつきとめ、それに起因するトラブルに巻き込まれたのではないかと考えます。一方、失踪の数日前に不破にある青年の交通違反の取り消しを依頼されていた交通部長の間宮は、その青年と桑野とのつながりを探り出し、それをネタに人事権を持つ冬木に取り込みます。そんな折り、不破の妻が一時行方不明になった後、部長会議に現れ、真相を告白します。不破は椎野に頼まれていた賄賂の処理に悩み、殺人で指名手配を受けて自首したがっている子分にそれを渡してくれれば受け取ると桑野から言われますが結局渡せず、その足で史子の娘に会いに行って泥酔し、娘に自宅まで送られた後、仕事の行き詰まりと今は亡き史子への思いによる妻への罪悪感から、妻に自分を殺してくれと懇願し、結局風呂場で溺死していたのでした。やはり息子を不注意から溺死させて苦しんでいた警備部長の倉本は、自殺を考えていた不和の妻を説得し、子どもたちのために勇気を持って生きて行こうと言う場面で小説は終わります。
 場所と時間が明示されながら進行していき、話者は本部長と5人の部長、そしてそれぞれの妻たちが順次受け持ち、徐々に事実が判明していくという形を取っています。倉本の妻が「死んだ息子しか見ていないのは私ではなくあなただ」と倉本に告げるところから一気に盛り上がり、ラスト近くの不破の妻の告白でそれは頂点に達します。権力争いに明け暮れる登場人物たちと、テレビで写し出される阪神大震災の様子が対比的に描かれていて、それが最後になって倉本の姿勢に集約されていくという、よく考えられた構成になっていたと思います。非常にオーソドックスな小説であり、またシビアな小説でもありますが、本好きの方にはオススメです。