クマガイ草は、源平合戦の源氏の武将熊谷次郎直実にちなんで名づけられた。『平家物語』に戦場での直実の出で立ちの語りがある。「熊谷はかちの直垂に、赤革威の鎧着て、紅の母衣を懸け、ごんだ栗毛と云ふ聞ゆる名馬にぞ乗りたりける。」直垂、鎧、母衣とも原色をふんだんに使った派手な出で立ちである。母衣(ほろ)とは、背後から飛んでくる矢を避けるために、布製の袋をふくませて背負ったものだ。クマガイソウの膨らんだ唇弁を、戦場の母衣に見立てたのである。葉が幅広い珍しいランの種類である。
熊谷草甲冑すでにほろびけり 河野 南畦
山形市の西蔵王にある野草園は、初夏の花が満開である。どの花も珍しくここへ来ると全部見られるのでうれしい限りだ。
クリンソウと言えば、鶴岡の玉泉寺の庭園が有名である。花の付きかたが五重の塔の九輪の形に似ていることから名づけられた。野草園には、濃いピンクの花が玉泉寺にも負けないほどたくさん咲いている。その脇にはサクラソウの群落がみごとであった。
九輪草径きれぎれに沼あふれ 原 柯城
オゼコウホネ。この花を見るたびに、高い山の湖のなかで咲いている風景を想像してしまう。それほど、山中の水のなかで咲いているこの花の姿が可憐なのだ。野草園では、コウホネのまわりを錦鯉が泳いでいる。やはり栽培したものと見えて、浅い水辺に点々と花を開いている。クリンソウもコウホネも夏の花だ。火を点じたろうそくの思わせ、「河骨の花が灯る」などとしゃれた言い方もされてきた。
河骨のいよいよ黄なる雨催い 永井東門居