牡丹
2015年05月08日 | 花

落語家の三遊亭円朝の作った話に、『怪談牡丹灯篭』いうのがある。この怪談に出てくる女主人公お露は、女中を連れていた。盆の十三日の宵の口のことゆえ、女中は灯篭を下げていた。灯篭はそのころ流行っていたちりめん作りのもので、牡丹の花がつけてあった。丁度、新三郎が蚊遣りを焚いて、団扇を片手に冴え渡る月を眺めていた。
カラコンカラコンと下駄の音がする方を見ると、女中の後から十七八と思われる娘が、髪は文金の高髷に結い、着物は秋草色染めの振袖に、緋縮緬の長襦袢に繻子の帯をしどけなく締め、上方風の塗柄の団扇を持って、ぱたりぱたりと通って行った
かつてみそめたお露の姿であるが、この時お露はこの世のものではなく、新幡随院の通りの新墓に眠っていた。幽霊になったお露は死んだことは認めず、私と新三郎の間を諦めさせようとする方便だと強弁する。だが、新幡随院の墓の前に行って見ると、牡丹の花の灯篭が雨ざらしになって手向けてある。その灯篭は、お露が新三郎に会いにくるとき、女中に持たせていた灯篭に違いがなかった。そのために新三郎は、お露が幽霊であることを知るのである。