冬の空は時々刻々と変わっていく。青空に
朝日を受けた受けた雪山は、神々しい輝き
を見せる。それから一時間も経たないうち
に雲が出て、空も山の頂を隠していく。人
はこんな光景を見ながら何を思うのであろ
うか。それはその人が置かれている環境、
時代、年齢などの条件によって千差万別で
ある。
山々は白くなりつつまなかひに
生けるが如く冬ふかみけり 茂吉
昭和20年4月、斎藤茂吉は、空襲に明け暮
れる東京を逃れて、郷里の上山市金瓶に疎
開した。その8月には敗戦を迎え、その冬、
生家から見える山々の景色に深い感慨を覚
えている。山々は、敗戦によって傷ついた
茂吉へ、あたかも生きている人間の如くに
語りかけたであろう。白くなりつつ、とい
う言葉には、雪景色の美しさに加えて、白
髪となっていく、自らの老いの姿がある。
故郷の山の姿は、時とともに装いを変え、
厳としてそびえることで、人に色々なこと
を教えてくれる。