寒波は勢力を強めて平地でも積雪とな
った。雪が風景を一変させる。それだ
けに、降り始めの景色は新鮮である。
明治時代、石上露子という才能豊かな
歌人がいた。
海こえてこゆきちりくる夕など
こひしさの身に湧きまさるかな 露子
昭和10年、露子53歳の年の歌である。
露子の初恋は、相手の青年がその恋心
を知らぬままにカナダへ移り住み、そ
のまま音信は途絶えた。
その後、露子は意にそまぬ結婚をする
も破綻、与謝野晶子に励まされて、悲
恋の歌を詠んだ。雪は、そんな女性の
心情を思い起こさせる。この歌人の存
在を教えてくれたのは芳賀徹、新聞の
コラムに連載された『詩歌の森へ』で
ある。