タンポポの綿毛が風を待っている。吹かれた風に乗って、種を少しでも遠くに運びたいからだ。この時期、戸外に出て深呼吸がしたい。厳しい山堂で冬を過ごした良寛は
むらぎもの心楽しも春の日に
鳥のむらがり遊ぶを見れば 良寛
春の喜びを詠んだ。風のなかで、鳥や花を愛で、自然と一体になることで人は生きる喜びを感じる。堀辰雄の『風立ちぬ』にも、「風立ちぬいざ生きめやも」の詩の一片が巻頭にある。
もうひとつかみしめてみたい谷川俊太郎の詩。
息
風が息をしている
耳たぶのそばで
子どもらの声をのせ
みずうみを波立たせ
風は息をしている
虫が息をしている
草にすがって
透き通る胎を見せ
青空を眼にうつし
虫が息をしている
星が息をしている
どこか遠くで
限りなく渦巻いて
声もなくまたたいて
星が息をしている
人が息をしている
ひとりぼっちで
苦しみを吐き出して
哀しみを吸い込んで
人が息をしている