卯の花が咲いた。垣根の卯の花は、白い花で知られる。これはピンクだが、紅ウツギだから卯の花と言っていいのではないか。この花が咲いても、まだホトトギスの声は聞かない。打撲の痛みは、日に日に軽快している。
ところで、人の心をどのように知るのだろうか。荘子にこんな逸話がある。川を泳ぐ魚を見て、「魚が楽しんでいる」と荘子が言った。すると、一緒に歩いていた恵子が言った。「君は魚じゃない。魚の楽しみが分かるはずがない」荘子「君は僕じゃない。僕が魚の楽しみが分からないと君が分かるはずがない」恵子「君は僕じゃないから、もちろん君の内面はわからない。君も魚じゃないから、魚の楽しみを分からないことは確実だ。」荘子「それは、つまり他者である僕の知覚能力を知っていることだね。僕も同じさ。川の辺で、他者である魚の楽しみを知ったんだよ」。有名な知魚楽の逸話だ。
森のなかでけたたましい鳥の鳴き声が聞こえる。そこにいると、鳥たちが「人間がいるぞ」という警戒音を発していることが分かる。一緒に風景を眺めると、人は心の中で、その風景に感動していることが分かる。聴覚も、視覚もみんな脳の回線を通って、風景や音として認識される。自分と他者とは同じなどということはあり得ない。だが、知魚楽のような逸話は大事だ。他者とコミュニケーションをとることによって、他者の内面を知ったり、感情を共有することができる。高齢者が、孤独を生きるためにもそれは大事だ。