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常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

ひかりの素足

2022年06月09日 | 読書
昔、テレビの人気番組に「ジェスチャー」というのがあった。出演者は紅白に分れ、視聴者が出す問題を、出演者がジェスチャーのみで演じ、正解を紅白で競うものであった。白組の大将は柳家金五郎、紅組の大将は水の江瀧子。司会は小川宏であった。テレビを視るということは、こんな娯楽番組で笑いながら、家中で答えに様々な出演者の動きに一喜一憂する。金五郎はこの時代のテレビのヒーローであった。金五郎の長男は山下武と言って、戦後の暗い時代に、古書店で本を集め、読書の世界に耽溺し、椎名林蔵の指導で小説を書く、という文人であった。

何故か分からないが、私の本棚に山下武の著書が2冊と紀田順一郎との共同編集した読書論の本2冊がある。書名は『青春読書日記』、『古書の誘惑』で編集した大部の本は『書物と人生』1、2である。会社に勤めていた頃、読書にはまり、その関連本を小遣いを削って蒐めたものらしい。これらの本は、整理の対象になっている。山を休んでいる間に、山下の本をパラパラと繰ってみた。日記をそのまま本にしただけに、世相が浮かび上がってくる。日記に1946年8月の収支が書いてある。収入は母より返金20円、小遣い140円、父より小遣い100円とある。支出では殆どが本だが、なかに米軍チョコレート22円などの記述があるのはほほ笑ましい。

そんななか、宮沢賢治全集(4)が目をひく。谷崎潤一郎の『細雪』は3部になっていて賢治全集と同じ80円になっている。蔵書を売って60円ほどになっているので、古書店からの本は2円位でたくさん買えたらしい。「宮沢賢治の「ひかりの素足」を読んで泣いてしまった。この人の考えていることがわかるような気がして。その寛大な心はどうだ!」あの暗い時代に見えた一筋の光。それは賢治の童話であった。本棚の賢治全集から「ひかりの素足」と「貝の火」を読む。なるほど、賢治は時間を経ても、古い話にはならない。80歳を越えた人間にも、明るい光りを感じさせてくれる。
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