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カシワバアジサイが咲いて雨模様、いよいよこの地方でも入梅が目前になってきた。蒸し暑い日と、肌寒い日が交互に来て、体調を崩しやすいこの頃だ。ブックオフまでの散歩は続いている。昨日買った100円コーナー。北村薫篇『名短篇、ここにあり』、北村薫『続・詩歌の待ち伏せ』、渡邉みどり監『美智子さまのお好きな花の図鑑』。加えて新刊『スマホ困ったときに開く本』。
名短篇のひとつ、円地文子『鬼』が恰好の読み物だ。雨模様のなかで、室内でページを気軽に開ける。熊野の旧家の生まれの土岐華子。その母は民子と言った。家は大きな材木商であったが、父が浪費家で殆ど財産を使いはたして死んでいった。残されたわずかの財産を貸して、一家は生きていたが、娘は上京して雑誌の編集者になっていた。
作家の筆者が、華子の結婚が次々と駄目になったいきさつを聞くうちに、娘の結婚を心配する母民子のなかに潜む鬼の話である。華子の最初の交際相手とは結婚を意識する付き合いになっていた。母にもその存在を知らせ、上京して母と彼氏、名は木辻が会うことになった。母は会って木辻をいい人といい、木辻も母と同居してもいうほど気に入った。しかし、それから華子はいやな夢を見るようになった。得体の知れない蛇か蜥蜴などの爬虫類が華子の夢のなかに現れて、締め付けたり、舐めまわしたりして苦しめる。夢から覚めるとき、決まってその夢を操る木辻がいた。半年も夢の中の爬虫類に苦しんで、いつしか木辻への愛は褪めて行った。
その後、適齢期を迎えていた華子は、2人ほど木辻と同じような経過を辿って破談になった後、いよいよ本命と思える小関とめぐり会った。母にもまた相談し、やはり変な夢を見るとを打ち明けた。母が言うには、「古い家には娘の結婚をいやがる鬼がいてそれが悪さをしているのよ。二人で相談して鬼に負けないような強い気持ちを持ちなさい。」小関にも相談すると、小関もまた同じような夢を見ていると打ち明けた。お互いに力を合わせて、そんな鬼に負けないようにしようと約束してくれた。母もその話を聞いて、そんな男らしい人なら心配ないと喜んいた。
だが小関の身に異変が起こる。勤めていた役所で視察旅行でヨーロッパから東南アジアわ視察する3週間ほどの旅行に出かけた。ところがインドの上空で、飛行機が密林の中に墜落した。小関を含めて、その飛行機の乗員は全員死亡した。熊野の実家では、母が亡くなり、家事を手つだった沙々の証言がある。華子を嫁に行かせたくない鬼は、その死んだ母の中に住みついていた。しかも、母が亡くなったので、鬼は華子のなかに住み替えている、という恐ろしい話だ。馬場あき子は『鬼の研究』の末尾で「鬼とは人であり、鬼の秘密を知れば鬼と親しく交渉し、自分も鬼である、と思うようになった」と語っている。