今年1月20日に月面へのピンポイント着陸に成功した無人探査機SLIMが、2月末と3月末に続き、4月末にも三度目となる月の夜を乗り越えた(越夜)。マイナス170度〜プラス110度と、寒暖差が280℃もある過酷な月面環境に耐える設計になっていなかったにもかかわらず、である。23日の夜に機体との通信を確立し、カメラで月面の周囲の様子を撮影するなど、主要機能の維持を確認したという。
日経XTECHに寄稿された松浦晋也氏によると、月面探査機は通常、着陸地点の朝に着陸し、温度が上がり切らない数日間だけ運用して、そのまま運用を終了するように設計するものだそうだ。では、長期にわたる場合はどうするかというと、旧ソ連の無人月面車ルノホート(1970年と73年に月面に着陸)や中国の月着陸機・嫦娥3/4号(2013/19年に月面着陸)は、熱を発する放射性同位体を搭載し、夜間の極低温から搭載機器を保護する設計を採用していたらしい。
他方、SLIMと同様の方針で設計されたものとして、2023年8月に月面着陸に成功したインドのチャンドラヤーン3号が搭載していた月面探査車プラギャンは越夜の後に復活することなく運用を終了したとか、2月に民間初の着陸に成功した米インテュイティブ・マシンズも翌月に運用を終了したなどと、暗にSLIMの日本品質を誇るかのような記事が見られる(私もブログにそのように書いた)が、遠い昔には、米国がアポロ計画の準備として打ち上げたサーベイヤー1号(1966年6月に月着陸)が6回の、同5号(1967年9月に月着陸)が1回の越夜を達成しているらしい。そうは言っても、当時はトランジスタを主体としたもので、現代の高集積半導体を使用したSLIMとは状況が異なり、単純比較はよろしくないかもしれない。此度のSLIMの復活が想定を上回る性能を示しているのは紛れもない事実で、放射性同位体に頼らない機器設計に基づいて長期間月面で運用できる探査機の開発に道を開くものだと評価されるのは、現代技術の文脈においてはその通りなのだろう。
SLIMは29日未明から再び休眠状態に入ったそうだ。「はやぶさ」の時もそうだったように、勝手ながらなんだかんだ言って擬人化して、JAXAがXの公式アカウントで報告する稼働状況を楽しみにしている(笑)
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