monoろぐ

古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

「霞の谷」用例

2015年02月22日 | 日本国語大辞典-か行

 固有名詞ではない「霞の谷」という用語の日本国語大辞典・第二版の用例は拾遺愚草の和歌ですが、200年くらいさかのぼる以下の用例があります。

浅香山霞の谷し深ければ我が物思ひは晴るゝ世もなし
(古今和歌六帖、第二、谷)
『校註国歌大系 第九巻』国民図書、1929年、311ページ

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「春に合う①」用例

2015年02月21日 | 日本国語大辞典-は行

「春に合う」という語には「①春の季節にあう。」という語釈があり、日本国語大辞典・第2版では『赤人集』(11C初か)から「しをわけてみやこたづねてくるかりもはるにあひてぞとびかへりける」の例をあげていますが、さらに100年ほどさかのぼる用例があります。

春ながらまた春にあふ春日野に生ひぬ草木はねたくやあるらむ
(28・延喜廿一年〔五月〕京極御息所褒子歌合、十巻本、35)231ページ
春ながらまた春にあふ春日野に生ひぬ草木はねたしとや聞く
(28・延喜廿一年〔五月〕京極御息所褒子歌合、廿巻本、35)230ページ
萩谷朴『平安朝歌合大成 増補新訂 第一巻』同朋舎出版、1995年

 943年頃成立かとみられる「敦忠集」にも「まちわひし-はるにあひにし-うくひすは-おとらぬことの-なにかくるしき」(日文研の和歌データベースより)という歌があります。

 平安時代後期の成立とされる「素性集」には以下の和歌があります。
しらゆきとみはふりぬれどあたらしきはるにあふこそうれしかりけれ
(9・素性集、63)
『新編国歌大観3 私家集編1 歌集』角川書店、1985年、28ページ

 さらに成立年として最古と思われるのは、日国用例の異同歌の以下の和歌です。
雲わけて都たづねにゆく雁も春にあひてぞとびかへりける
(40・千里集、117)
『新編国歌大観3 私家集編1 歌集』角川書店、1985年、148ページ

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「名残の雪」用例

2015年02月20日 | 日本国語大辞典-な行

「名残の雪」という用語は、日本国語大辞典・第二版には以下の二つの語釈があります。
①春先まで消え残っている雪。
②春になってから降る雪。

 ①は用例が記載されておらず、②は1780年の辞書例が記載されています。語釈①の用例として古そうな和歌があります。

あまの原春とも見えぬ眺めかなこぞの名残の雪の曙
(六百番歌合、余寒)
『六百番歌合・六百番陳情(岩波文庫)』岩波書店、1936年、28ページ

とし暮し名残の雪やおしからん跡たにつけて春はきにけり
(巻第三百八十二・正治二年院御百首、守覚法親王、春)
塙保己一編『続群書類従・第十四輯下(訂正三版)』続群書類従完成会、1983年、576ページ

コメント (1)
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枕詞「かげろふの―小野」

2015年02月15日 | 日本国語大辞典-か行

「かげろふの―小野」という用語を、以下の三つの辞典で調べてみました。
 A 『日本うたことば表現辞典10 枕詞編・上』遊子館、2007年、『日本うたことば表現辞典13 歌枕編・下』遊子館、2008年
 B 『角川古語大辞典 一巻』角川書店、1982年
 C 『時代別国語大辞典 室町時代篇 二』三省堂、1989年

 まずA『日本うたことば表現辞典10 枕詞編・上』の195~196ページに「かげろふの【陽炎の・蜉蝣の】」という項目はありましたが、解説本文中にも例歌にも「小野」にかかるという記載はありませんでした。
 次にA『日本うたことば表現辞典13 歌枕編・下』の492ページにあたると(当該ページは「大和国」)、「かげろふのをの【蜻蛉の小野】」で立項。以下が説明文。

 所在未詳。奈良県高市市とする説がある。景物は「若草・菫草・雪」など。「かげろふ」に「陽炎」を掛ける。「かげろふの」は「をの」「ほのか」にかかる枕詞。『八雲御抄』に「大和 かげろふのを野(みよしの也。かるかや。)」とある。

 さらにB『角川古語大辞典 一巻』にあたってみると、「かげろふの」という枕詞の項には「小野」の記載はありませんでしたが、736ページには「かげろふのをの」という項目が立項。以下が説明文。

所名。秋津野(あきづの)①に同じ。「立ち去る姿はかげろふの小野の浅茅と形は消えて」(謡‐生田敦盛)「かげろふの小野。猿引坂、琴堂」(風俗文選・吉野賦)

 C『時代別国語大辞典 室町時代篇 二』が枕詞としての記載がはっきりありました。156ページ「陽炎の」の項目の説明文は以下のとおり。

枕詞。 ①陽炎の立つ小野の縁で「小野」にかかる。「蜻蛉カゲロフノ小野ヲノ 大倭」(広本節用)「かけろふの小野 睗矣カケロウ小野ト書、大和ナリ」(伊呂波拾要抄)「いくとせへてかかげろふの小野 年よりぬる物はかげのごとくになるを、かげろふとつづけたる也。かげろふの小野は、大和名所也。小野小町を又云かけたる也」(謡抄 関寺小町)②「石(いし・いは)」にかかる。「粟津の森やかげろふの、石山寺をふしおがみ」(光悦本謡=田村)「夜ごゑもいとど神さびて、月かげろふの石清水の、あさからぬ誓かな」(謡=放生川)

 以上の辞典例にあたってみて、謡曲用例も探してみようと思いました。ふつう「枕詞」と言えば、和歌の用法と思っていましたが、歌謡も含むんですね。
 前日の記事中で集めた和歌例から、「かげろふの+小野」という用語は「1300年代頃に流行った用法らしい」ことが分かりましたが、上記B・C辞典中の謡曲用例を見ると、その後の室町時代には「かげろふの+小野」という表現は、熟した使い方がされたと言えると思います。春という季節はもはや関係なく使用してるし、掛詞との併用が顕著だから。
 [枕詞]となるためには、ある特定の語に付く、というだけでなく、どの季節でも関係なく使用できて、掛詞とも併用する、というぐらいの条件がありそう。

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「陽炎(かげろう)の」という枕詞の用例

2015年02月14日 | 日本国語大辞典-か行

 日本国語大辞典・第二版では、「陽炎(かげろう)の」という枕詞の語釈として「地名「小野」にかかる。」とあり、1320年の「続千載和歌集」(土御門院)の和歌を早い用例としてあげてありますが、もっとさかのぼる例があります。ちなみに下記和歌は「新後撰和歌集(第十一・恋一、774・藤原為家)」(1304年)に入集しています。

しられじなかすみにこめてかげろふのをののわか草下にもゆとも
(14・新撰和歌六帖、第六帖、はるのくさ、1917)~1244年頃成立
『新編国歌大観 第二巻 私撰集編 歌集』角川書店、1984年、393ページ

 日国語釈には「地名・小野にかかる。」とあるのですが、日国用例を見ても他例を見ても、固有名詞とは思えないので、一般名詞「小野」にかかる枕詞なのかと思いました。語釈の参考として「→かぎろいの」となっていますが、そちらを見ても「小野」にかかる語釈はありません。
 手元の古語辞典の類を見ても「小野」にかかるという語釈自体がなく、何をもって「地名・小野にかかる」枕詞と認定しているのでしょうか。山城国の「小野」という地名で用いているのでしょうか。枕詞辞典などで調べてみたいと思います。

 以下に「かげろふの+小野」となっている他の和歌例をあげます(年代の早い順)。引用は日文研HPより。
 「平安朝歌合大成」の語句索引や「校註国歌大系」の総合索引にも他に用例はないので、1300年代頃に流行った用法と思われます。
 陽炎の立つ季節である「春」にひかれるのか、「かげろふの+春」という枕詞の用法にひかれるのか、春歌が多いです。

しられしな-かすみにこめて-かけろふの-をののわかくさ-したにもゆとも(新後撰和歌集・774・藤原為家)←前述同歌
しられしな-かすみにこめて-かけろふの-をののわかくさ-したにもゆとも(夫木抄・9675・為家)←前述同歌
かけろふの-をののふるえを-こすしほの-みなとやいつく-はるのゆふなき(夫木抄・10656・光俊)
かけろふの-をののくさはの-したもえに-つもるともなき-はるのあはゆき(文保百首・俊光・1203)
かけろふの-をののくさはの-かれしより-あるかなきかと-とふひともなし(続千載和歌集・1796・土御門院)←コレが日国用例
かけろふの-をののしはふの-すみれくさ-もゆるはるひに-いまやつむらむ(後普光園院百首_良基・16)
かけろふの-をののふゆくさ-かれしより-あるかなきかに-しももおくなり(延文百首・実夏・1858)
それとなく-かすむひかりや-かけろふの-をののふるえの-はるのよのつき(延文百首・有光・2412)
かけろふの-をののゆきまを-ふみわけて-あるかなきかの-わかなをそつむ(草庵集・25)
おとたてて-はやふきにけり-かけろふの-をののあきつの-あきのはつかせ(草庵集・416)←これは場所を特定してそう?
くもかかる-ゆふひはそらに-かけろふの-をののあさちふ-かせそすすしき(新拾遺和歌集・293)
かけろふの-をののあさちふ-うらかれて-あるにもあらぬ-あきのいろかな(慶運法師集・145)
なれもまた-おもひにもえて-かけろふの-をののあさちに-とふほたるかな(新葉集・235)
おくつゆも-あるかなきかに-かけろふの-をののあさちに-あきかせそふく(沙玉集_貞成親王・69)

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