おもしろいもので、邦楽を好んで聴くようになってから絵画の趣味も日本画の方が好みになってきた。ルノワールやモネらが嫌いになったわけではないが、どちらかというと鏑木清方や上村松園の方を見たい。やっぱり僕のメンタリティーには日本画がしっくりくるようだ。なかなか実物を見る機会はなく、もっぱら図書館から画集を借りてきては楽しんでいる。清方と松園はともに明治から昭和にかけて活躍した画家だが、松園がまさに美人画であるのに対して清方はどちらかというと風俗画というべきかもしれない。二人の作品の中から僕が好きなものを一つずつ選んでみたのが下の二つ。左が松園の「志ぐれ」で右が清方の「寒月」。「志ぐれ」は時雨の中、傘をさした美女が小走りに通り過ぎる様子だが、鮮やかな色彩と女性らしい柔らかい曲線。そして乱れた裾を繕うほんのりとしたお色気が何とも言えない。一方の「寒月」は流しの三味線弾きの母子だろうか、寒月の下、お客の声もかからず、母子が手を握り合って街中をさまよっているのだろうか。じんわりと心に沁み入るような情景だ。