静岡のむかし話/静岡県むかし話研究会編/日本標準/1978年
静岡県沼津市が舞台。沼津というと漁業が浮かぶが、ミカンやお茶も名物。
たくさんのミカンを作って暮らしていた木負(沼津)の彦兵衛のとろに、ミカンの実がならない木が一本あった。
原因がわからず、木を切り倒そうとでかけた彦兵衛が、木の根元にねころんでいると、木の真ん中あたりの葉っぱの陰に、ミカンがひとつだけなっていているのを見つけた。
たった一つでもミカンはミカンと、木を切らずに育てることに。すると山へ出かけるごとに、このミカンがどんどん大きくなって、とうとうひとかかえもある大きさになった。そろそろとってもいいころと、実を切りとろうとすると、実のなかから「まて、まて」という声。
人の話し声が聞こえてくるのは、不思議だなあと思った彦兵衛が、ミカンに穴をあけ、のぞいてみると、やせたとしよりが二人、向かい合って碁を打っていた。
夢でも見ているような心もちになって、中の様子をのぞいていたら、どうやらこの勝負は、こっちをむいているとしよりが負けているとみえ、しきりに頭をひねったり、うなったりしている。碁の好きな彦兵衛が勝ち目のあることを教えてやると、やがて負けていたとしよりは、もりかえしてきた。
あいてが急に強くなったのでふしぎにおもったもうひとりのとしよりも、外に彦兵衛が立っていることに気がついて、お互いに顔を見合わせ大笑い。そして急に背中をむけていたとしよりが、碁石を彦兵衛めがけて投げつけた。身をふせた彦兵衛が、しばらくして顔をあげてみると、そこには二人のとしよりも、大きなミカンも消えてしまった。
よくみるとミカンの種が、たくさんちらばっていて、彦兵衛がこの種をまくと、三年目には大きな実が、いっぱいになった。このミカンはこれまでのものより、たいへん甘かったので「木負のミカン」として有名になったという。
木負ミカンはあまり聞きなれないですが、検索するとすぐに出てきました。