居心地のよい窓辺の場所について、普段からよく考えています。たとえば、たまたま入った喫茶店やレストランで、あるいは旅先のホテルで。
大きな広場や空間があっても、落ち着くのは、その真ん中ではなくて端っこの窓辺だったりします。内と外が出会う場所。そこには本来、人を惹きつける何かがあるのだと思います。
昔々の日本の家屋は、床があって大きな屋根があって、その間の吹きさらしの部分を板戸や襖や障子で仕切っていましたが、そこには「窓」という概念はなかったのだと思います。壁の中に穿たれた「穴」。窓をそのように定義するのなら、日本の家屋に初めてそれが登場したのは、茶室の空間であったように思います。壁で囲われた暗い空間のなかに、光が差し込み、外の風景が印象的に切り取られること。普段、漠然と見ている風景も、窓を通して切り取られた姿としてみると、何か特別なもののように感じられることも少なくありません。
以前、ポルトガルを旅行したときに、印象的な窓辺で時間を過ごしました。ポルトという町の小さなホテル。壁がうんとぶ厚くて、カーテンから窓ガラスまでの間に椅子が置けてしまうような、そんな窓辺。部屋のなかのもうひとつの小さな部屋のようで、居心地のよい場所でした。その窓辺は広場に面していて、古い教会が見えました。ライトアップされた教会と、時折行き交う人々を見遣りながら、日付が変わる頃から深夜しばらくその「特等席」で過ごしていると、自分自身のためだけに用意された場所のように思われてきて、ずっと座っているのに飽きることなく離れがたかったように記憶しています。
世の中にそっと用意された、自分だけの場所。そんな場所をいろいろ見つけていきたいし、設計する住宅にそっと作りこんでいきたいと思っています。