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佐渡へ渡る!(その8)

2025年01月13日 | 紀行文

 佐渡の旅二日目、最終日。汽船の出向は夕方なので、まだ充分時間がある。午前中、近くの相川という古い町並みを散策したが、それでもまだ十分時間が余っている。天気は快晴。我々は、佐渡島を一周することに決意した。

 佐渡は外周およそ200キロメートル。六時間もあれば一周することができる。ただ、何しろ完全には観光地化していない島なので、途中でガソリンや飲食料の補給が心もとない。ガソリンスタンドとコンビニ(島に二軒あるらしい)に立ち寄り最低限の準備をして、長距離ドライブに出立した。

 左手に海を見ながら西海岸をひた走る。

 長い道のりである。ときどき、こんな狭い道を?とか、こんな急カーブを?といった疑問符をフロントガラスに投げかけたくなる場面もあったが、大抵は運転しやすい道だった。なにより対向車が少ない。ここから先にまだ人が住んでいるのか不安になるほどである。森だけがどこでも道路を海に押し出さんばかりの勢いで茂っている。佐渡は本当に自然豊かな田舎なのだ。

 ちなみに、今回の旅用に、カーステレオで流すCDを二枚仕入れた。CDというところが昭和か。それでよい。そのうち、セリーヌディオンのベストアルバムは、佐渡の大自然ととてもよく調和した。我々はタイタニック号の帆先で両腕を広げるように、佐渡のオーシャンロードを疾走した(日本海はオーシャンに入らないだろうが)。

 昼過ぎ、最北端に到達。

 大野亀という山の脇を通り、二ツ亀という、海の中から突起した山にたどり着く。どちらの山も、写真で見るよりもずっとスケールが大きかった。二ツ亀は蛇行する細長い砂浜によって佐渡島とつながっている。遠くから見下ろすと美しい形をしていた。あまり近づくと、打ち寄せたゴミに辟易するが。

 石段に柴犬と我々二人座り込み、しばし海と二ツ亀を眺める。思えば遠くへ来たものだ。犬は、いったいどこまで連れていかれるのだろうと思ったことだろう。

 帰路は東側の海岸を南下。

 もっと海の幸を食べたいという妻の主張に押され、両津港で寿司屋を探す。幸い、『魚秀』という素敵な構えの寿司屋がすぐ見つかった。二人前をテイクアウトし、港の空き地に持参の折りたたみ椅子を出して食す。

 港に停泊する船を望み、潮風に当たりながら食べる寿司は旨かった。人が見れば相当な変人と思われたろうが、構わなかった。旅は、人を大胆にする。

 小木港に帰着。出航までまだ小一時間ある。車を走らせ、近くの宿根木と呼ばれる古い町並みを覗きに行った。ここが、駆け足で見て回るにはもったいないほど風情があった。江戸時代、回船業で栄えた頃の建物や石畳の小路が、そのまま保存されているらしい。だがいかんせん、我々にはじっくり見て回る時間がない。

 海に出ると、たらい舟の発着場があった。妻が船酔いするので我々は遠慮したが、乗っている観光客を見物できた。岩礁の間をゆったりと航行し、岸から見る分にも充分面白い。夕焼け空の下、バスを待つ他の観光客とともに、波止場に腰を下ろし、飛来するかもめや、去り行くたらい舟や、穏やかな海を眺めていると、やがて旅の終わるちょっとした切なさとともに、この旅が充実していたことをしみじみと感じた。

 いい旅だった。いい島だった。

 またいつか来よう。

(おわり)

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