た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

8月19日

2010年08月19日 | essay
 木漏れ日の下に車を止める。
 サイドブレーキに手をかけても火傷しそうな猛暑である。
 「この先になにがあるのかしら」
 助手席の妻がつぶやいた。
 「なんだろうな。もう少しだけ行ってみようか」
 私は襟元に風を送りながら答えた。
 来たこともない道である。せっかくだから通ってみようということになった。路上にせり出すように緑が茂り、勾配は明らかに山奥を示している。
 二人とも引き返すつもりはさらさらない。少々道に迷ってもおつりが来るくらい、久しぶりの二人だけの時間は手持無沙汰である。
 「行ってみましょ」
 「うん」
 私は再びサイドブレーキに手をかけた。とてもデートコースとは言えない細く険しい山道だが、我々に相応しい道であろう。
 車は年老いた忠実な番犬のようにゆっくりと再発進した。
 今日は結婚記念日である。
コメント (2)
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