た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

年頭の辞

2013年01月07日 | essay
 温泉だが大衆浴場であるそこは、年明け早々からゆるんだ顔のおっさんやおばさんたちで賑わっていた。
 露天風呂につかる。湯けむりの立ち昇る彼方から話声が聞こえてくる。
 「それがさ。息子らんとこへ正月に行ってきただ」
 「行ってきたかえ」
 「それがほお、二晩泊ってみたけどよ」
 「よかったでねえか」
 「それがほお、岡田に住むより町に住む方がずっと楽だだよ」
 「そりゃ町が便利だ」
 「歩いて買い物いけるだよ」
 「そりゃ歩いていけるさ」
 「それにほお、寒さが違うだ。マンションつうのはさ、マンションつうのはあったけえもんだなあ」
 「そうかも知んねえ」
 「一軒家よりマンションの方が不思議なことにあったけえだよ」
 「他の部屋の人も暖房たいてるからかもしんね」
 「そういう理屈だ。それだで、岡田に住むより町に住む方がずっと楽だ」
 「夏はわかんね」
 「夏はそりゃ、岡田が涼しいさ」
 「町もエアコンがあるだでね」
 「町もエアコンがあるだ。そいでも岡田が涼しいさ」
 「岡田が涼しい」
 「だけんど、冬は町に住むのがあったけえだ」
 「冬は町が住みええ」
 二人はどうやら、岡田に住んでいるか、少なくとも町には住んでいないようである。私は三十分湯船につかっていたが、ついに二人の会話は岡田と町の間から出ることが無かった。

 日本はまだまだ平和である。
 新年明けましておめでとうございます。
コメント
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