短く切った髪に、不自然なほど大きなマスクをしている。マスクからはみ出た部分は、ほとんどが湿布で覆われている。湿布からもはみ出た部分にようやく見えるのは、赤紫色に腫れた火傷の跡。
ユウスケである。
大きなマスクや湿布に覆われていても、目元が微笑んでいるのがわかる。
「ただいま」
「おかえりなさい」
ヒロコは詰まるような声でそう言うと、涙ぐんだ。彼の袖をつかみ、すぐに離した。本当は、思い切り彼に抱きつきたかったのだ。あるいはすぐさまこの場から逃げ出したかった。ユウスケをかくも悲惨な姿にしたのは彼女自身である。ユウスケと再会して以来、彼と面と向かうたびに、ヒロコはこみ上げる涙をどうすることもできなかった。
痩せた頬に涙を伝わせながら、彼女は静かに自分の顔を差し出した。もう一度、ためらいがちに彼の袖を握る。
ユウスケはマスクをずらした。火傷の跡の残る口元を見せる。
二人は物静かな接吻を交わした。
電車の振動が窓を揺らす。
二か月前、磐誠会に心を乗っ取られたヒロコによって炎上させられたユウスケは、火だるまの状態で、AUSP富士研究所にテレポートした。焼けぼっくいのように丸焦げになって、彼は研究所前の空き地に転がり落ちた。
瀕死の状態であった。
ミサの二日二晩に渡る必死の手当てにより、辛うじて一命を取り留めた。その後も彼女の献身的な治療により、炎症はある程度回復したが、火傷の跡は全身に残った。
リーダーのエイジは、ヒロコを連れて出奔しようとしたユウスケを一切責めなかった。むしろ十分な休養を彼に与えようとしたが、ユウスケ自身がそれを拒んだ。
「ヒロコを探し出します」
「その体では無理だ」
「私の責任です」
「誰の責任でもない。彼女は、誰の責任でもない」
「きっと探し出します」
坊主頭のエイジは太い眉をしかめた。
「探し出して、どうするつもりだ」
包帯だらけのユウスケは、ベッドから半身を起こした。「守ります」
「誰を。何から」
「彼女を。危険からです」
(つづく)