共同浴場の女湯ってのはね、まあ男連中にはわからないだろうけど、戦場だね。戦場。言っとくけどね、女が服を脱ぎ捨てたら、ただの獣だよ。ほんと。女湯ってのは、まあある意味、女が女であることを止める所だよ。ほんとに。へへっ、女湯を覗き見したがる男どもにはがっかりな話だけどさ。少なくとも、共同浴場ってのはそういう所さ。
どんな雰囲気かって? 「雰囲気」なんてもんじゃないよ。とにかく落ち着かないね。情緒なんてこれっぽっちもありゃしないよ。だって戦場なんだもん。まず場所取りするやつがいる。悪いやつらだよねえ。洗い場はとにかく混むからさ、洗面器に自前の風呂道具を入れて置いとくわけさ。あたしゃ絶対許さないけどね。あたしゃ許さないよ、そういうの! 「おい、こら!」って感じだよ。
でもねえ、本当に混み始めるとさ、もう場所取りも何もあったもんじゃないの。何しろカランが全部塞がっちゃうんだから。ながーい空き待ちが出来ちゃうわけ。女は時間かかるからねえ。そんで待ちながらでもしゃべくり合うでしょ。洗ってる連中もしゃべくり合う。洗い終わって湯に浸かってもまだ、しゃべくり合う。どうでもいい世間話とかをさ、でかい声でしゃべくり合うから、高い天井に反響してわんわんだよ。排気が悪いから湯気が立ちこめてさ。排水溝に髪の毛が溜まってたり、めいめいが持ってくるシャンプーやリンスの強烈な匂いとかさ・・・もうなんやかやが一緒くたにごたまぜになって、そこにいるだけで湯当たりしそうな感じなのさ。
だいたいいるのは年寄りだね。人生ここしか行き場がなくなりましたって顔してみんな浸かってるよ。たまに若い女の子がさ、何を勘違いしたのか、温泉気分で入ってくると、びっくりしてるね。熱気というかさ、殺気というか、ババアっ気というか、はは、そんなものにあてられてさ。息苦しいし、肩身は狭いし、洗い場なんていつまで待っても空かないしってんで、早々に退散していくよ。
そう、温泉が出るのさ。あたしの行きつけの共同浴場は。『せきれいの湯』って名前でさ・・・綺麗な名前だろ? 名前はね。まあ料金は安いし一応温泉だしってんで、芋の煮っ転がしみたいな混み具合なのさ、いつも。