た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

佐渡へ渡る!(その6)

2024年11月07日 | 紀行文

 海岸に出る。日は少し西に傾いている。潮風が心地よい。

 そこは「千畳敷」と呼ばれ、海面すれすれの平らな岩場からなる浅瀬が広がっていた。「万畳敷」も別な場所にあるらしいが、とりあえず「千」で充分である。小さな防波堤に橋が架かって遊歩道になっており、防波堤の先端では、階段を降りてくるぶしまで潮水に浸りながら浅瀬を歩くことができる。犬はついて来るのを嫌がった。幼いころ、近くの川で無理やり水遊びをさせたことを、いまだに根に持っているらしい。油断すれば海に放り込まれるとでも思っているのだろう。

 海水にサンダル履きの足を浸ける。温いさざ波を感じながら腰に手を当て、大海原を眺める。眺めているうちに、自分の生きてきた半生もそんなに悪くないか、という気持ちになってきた。海は人を楽天的にさせる作用があるのか。それは私だけなのか。毎日毎日、情緒も感動もなくあくせく働いて日銭を稼いでいるが、ま、たまにこんな景色を眺められるなら、それはそれでいいか、と思ってしまう。海を見て、このま まではいかん、と思ったら、それはよほどこのままではいけない状況なのだろう。

 遊歩道で、釣り糸を手に歩く地元民とすれ違った。それも二度。聞けばタコを釣るらしい。二度とも二人組で、一度目は親子、二度目は夫婦だった。テグスの先におもちゃみたいな疑似餌をつけ、手に持ったまま垂らして、針に引っ掛けて釣るらしい。そんなので釣れるのだろうか、と思ってしまう。サンダルに短パン半そでの軽装で、ちょっと散歩がてら夕餉のおかずを仕入れに来た、という感じである。

 宿にチェックインするまでにはまだ少し時間がある。少し車を走らせ、高台にある陶器のお店に立ち寄った。旅の記念に手頃な値段の皿を買い求めてから、来た道を戻り、宿へ。

 

 民宿『たきもと』。それが旅程一日目の終着点だ。

(つづく)

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