「彼氏は今は別にいいかな、て感じ」
その女は夜の公園を横切って自宅へと帰る道すがら、私に向かってつぶやいた。きらきらする目と純白のドレスが、街灯の頼りない灯りの下でも怪しいほどに光り輝いて見えた。危険な笑顔を持つ人だ、と私は思った。飲み屋で偶然知り合ったばかりのこの私に、その笑顔はとても危険だ。
誰が危険なのか?
「今は、もっと多くの人を愛したい」
彼女の笑顔は、えくぼがくっきりとふくよかな頬につく、とても愛らしい笑顔であった。彼女が笑うとき、あらゆる男の警戒心を打ち砕くかのように、美しく並んだ前歯がわずかに上唇の下に覗く。その前歯がなぜかとてもあだっぽく見えるである。
彼女の全身から出る、何人をも攪乱するこのオーラは、彼女自身、留めることができないのではないか。
事実、先ほどの飲み屋でも、彼女は一人の会社員と一人の社長に美しいと褒めちぎられ、彼女の純白のドレスのせいで飲み屋は日頃ありえないほど男性客で混雑した。
「だれでもいいから」
───そんなこと言っちゃ駄目だよ。
彼女はちょっと驚いた風であったが、すぐに、今までよりはオーラの少ない、どこかおざなりな、しかし自然な笑顔を私に向けた。
「ここが家なの」
そうか、と私は小さく答えた。ずいぶん大きな邸宅だった。
なぜかとても切ない気持ちに、私はなった。ハーフコートの立ち襟にあごをうずめた。
彼女は立ち止まり、ぺこりと私に頭を下げ、ありがとう、おやすみなさい、と言い残して家に入っていった。おやすみ、と私も、声を返した。
その女は夜の公園を横切って自宅へと帰る道すがら、私に向かってつぶやいた。きらきらする目と純白のドレスが、街灯の頼りない灯りの下でも怪しいほどに光り輝いて見えた。危険な笑顔を持つ人だ、と私は思った。飲み屋で偶然知り合ったばかりのこの私に、その笑顔はとても危険だ。
誰が危険なのか?
「今は、もっと多くの人を愛したい」
彼女の笑顔は、えくぼがくっきりとふくよかな頬につく、とても愛らしい笑顔であった。彼女が笑うとき、あらゆる男の警戒心を打ち砕くかのように、美しく並んだ前歯がわずかに上唇の下に覗く。その前歯がなぜかとてもあだっぽく見えるである。
彼女の全身から出る、何人をも攪乱するこのオーラは、彼女自身、留めることができないのではないか。
事実、先ほどの飲み屋でも、彼女は一人の会社員と一人の社長に美しいと褒めちぎられ、彼女の純白のドレスのせいで飲み屋は日頃ありえないほど男性客で混雑した。
「だれでもいいから」
───そんなこと言っちゃ駄目だよ。
彼女はちょっと驚いた風であったが、すぐに、今までよりはオーラの少ない、どこかおざなりな、しかし自然な笑顔を私に向けた。
「ここが家なの」
そうか、と私は小さく答えた。ずいぶん大きな邸宅だった。
なぜかとても切ない気持ちに、私はなった。ハーフコートの立ち襟にあごをうずめた。
彼女は立ち止まり、ぺこりと私に頭を下げ、ありがとう、おやすみなさい、と言い残して家に入っていった。おやすみ、と私も、声を返した。