「硫黄島からの手紙」で、戦争の実態を知ったという
話を聞くが、確かに、ありがちな「戦争賛美」、或い
は逆の「徹底批判」、と類型にはまらない映画で、バ
ランスよく描いているとは思う。
のだが、この映画によって教えられたと、初めて思う
人が多いと言う状況には少々驚く。
それだけ、当時の情報と言うのがちゃんと伝えられて
いないということだから。
普段、たとえばドキュメンタリーの太平洋戦争ものな
ど見ないのかね、と思ってしまう。
映画によってある事実を知るというのは、確かにある
とは思うが、多くは単純化、脚色などによって本来と
は違うのではないか、と想像できてしまう。
本当の事実とは何か、というのは難しい問題で、戦争
の真実など、誰にも解らないという事実はあるが、と
りあえずは、なるべく主観の入らない実際に起こった
事柄からその全体像を想像するしかない。
だから、映画からそのきっかけを得るのは、良いこと
だと思うが、それが全てだと思うことは危険だ。
知らず知らずに嵌められ洗脳(思い込まされる)され
るというのは、普通によくあることだから。
最近の若手と言われる議員たちにも、そんな傾向が見
られる。
はっきり言って、大丈夫か?と思う。
そんな状況で、押さえておくべき本として真っ先に挙
げられるのが「レイテ戦記」だ。
大岡昇平の、膨大な記録を基にした戦記で、アメリカ
寄り日本寄りという偏りはなく、当時の作戦、現地の
状況が細かく書かれている。
物語ではないので、一般的な「面白い小説」ではない
が、非常に興味深い本で、戦争物では必須だと思う。
小説仕立てだったら大西巨人の「神聖喜劇」だ。
本人の経験を基にした軍隊での物語で、小説としても
面白いのだが(「失われたときを求めて」にどこか似
ている)、当時の日本軍の体質も充分に伝わってくる。
こういうのは、優れた小説家ならではの視点がないと、
描くことが出来ない部分だと思う。
つまり、軍国主義者の盲信によって見えなくなって
しまう部分を、的確に捉えているということなのだ。
そして映画だったら、ドキュメンタリーの「ゆきゆき
て神軍」。
ある兵士を追ったドキュメンタリーだが、その兵士の
極端から極端の突き抜け方が凄い。
こういう人間がいないと、戦場での上官のひどい行為
も知られることもなかったろうに、と納得する。
はっきり言って、世の中に対する適応性はない人だと
思うが、一つの事実を暴くためには極端さ、執念も必
要だと思わざる得ない。
よくこんな作品が撮れたものだと、本当感心する。
以上が、個人的戦争物必須教材だ。