ぴかりんの頭の中味

主に食べ歩きの記録。北海道室蘭市在住。

【本】考える脳 考えるコンピューター

2007年05月10日 20時43分33秒 | 読書記録2007
考える脳 考えるコンピューター, ジェフ・ホーキンス サンドラ・ブレイクスリー (訳)伊藤文英, ランダムハウス講談社, 2005年
(ON INTELLIGENCE How a New Understanding of the Brain Will Lead to the Creation of Truly Intelligent Machines, Jeff Hawkins with Sandra Blakeslee, 2004)

・「動いているのは天ではなく地面のほうだ!」とはじめに誰かが叫びだしたときの状況はこんな感じだったのでしょうか。一見、突拍子もないアイディアに見えるが、これまでの経験に基づきいろいろ検証してみると合理的。しかし、一般の人々の生活にとってはその正否がどっちだろうとたいした影響もなく、「へぇ~、そりゃおもしろい考えだね~」とたいした関心も持たれずおしまい。その発見の恩恵を皆が受けるようになるのは、まだそのずっと後の話。本書は脳の機能についての新しい考え方を提案していますが、その主張を聞いていて、そんなことを考えました。常々、「頭の中味」に興味を持つ身としてはそれほどの衝撃を受け、どうしてもっと大騒ぎにならないのか不思議な気もしましたが、やはり多くの人にとっては「へぇ~。」という程度のことなんでしょうね。
・著者はハンドヘルドコンピュータ『Palm』の生みの親として有名な方らしいです(私は知りませんでしたが)。文章からは、そのように時代を切り開く人物らしい『自信』がムンムン感じられます。これまで科学がほとんど手をつけられなかった、『知能』、『意識』、『記憶』、『思考』、『創造性』などといった言葉についてズバズバと明快な定義を与えていきます。「もしかしてホントに人工知能ができちゃうんじゃないの!?」 そんな興奮と希望を抱かせる。ちょっとでも『頭の中味』に興味を持つ人には是非オススメ。
・今年のベスト本候補。
・「わたしは脳にほれている。その働きを解明したい。哲学の観点からではなく、ただの一般論でもなく、実用的で詳細な工学の立場から知能の本質をさぐり、脳の働きをあきらかにしたい。そして、その働きを人工の装置の上で実現したい。つまり、人間のように考える機能を持った、真の知能を備えた機械をつくりたいのだ。」p.9
・「わたしの考えでは、この問題を解明する最良の方法は、生物学から得られる脳の詳細を制約と手本にしながら、知能をなんらかの計算とみなすことだ。学問としては、生物学とコンピューター科学のどこか中間に位置している。」p.11
・「「記憶による予測の枠組み」」p.13
・「未来を予測する能力こそが知能の本質だ。脳がどのように予測をたてるのかは、この本の主題であり、徹底的に議論する。」p.15
・「わたしは技術者としての直観で、脳はいったん働きが解明されれば人工的に実現することができ、そのときには半導体が使われるはずだと気づいた。」p.19
・「人工知能の研究は人間の能力をプログラムできないばかりか、知能の本質も解明できないだろうと直観した。コンピューターと脳は、完全に異なる原理でつくられている。前者はプログラムされ、後者は自分で学習する。」p.21
・「わたしの考えでは、ニューラルネットワークのもっとも根本的な問題は、人工知能と同じところにある。どちらも、振る舞いに焦点をあてているのが致命的なのだ。(中略)頭の「中」の働きを無視し、外にあらわれる行動に重点を置くことは、知能の解明と、それを備えた機械の実現において、大きな障害となっている。」p.40
・「自己連想記憶では、逆方向の流れと、時間とともに変化する入力の重要性が暗示されていた。だが、人工知能、ニューラルネットワーク、認知科学の研究者の大多数は、時間も逆方向の情報も無視してきた。」p.42
・「残念なことに、全員が全員、脳の働きを解明できると信じているわけではない。少数の神経科学者を含め、驚くほど多くの人々が、どういうわけか、脳や知能を人知のおよばない領域にあるものとみなしている。」p.47
・「人間であることと知能を備えていることは、根本的に違う。(中略)人間は知能を備えた機械よりも、はるかに複雑な存在だ。」p.54
・「人間のほうが(動物よりも)賢いのは、身体の大きさと比較しても新皮質がより広いからであり、層が厚いわけでも、何か特殊な「知能細胞」が存在するわけでもない。」p.55
・「この300億個の細胞が、あなた自身だ。記憶も知識も技能も人生経験も、ほとんどすべてがここにつまっている。」p.56
・「ウィスコンシン大学の生物工学教授ポール・バキリタは、パタンであればすべて脳によって処理されることに気づき、視覚の情報を人間に舌に表示する方法を開発した。」p.73
・「新皮質全体は一つの記憶システムであって、けっしてコンピューターなどではないのだ。」p.80
・「新皮質は「普遍の表現」と呼ばれるかたちで記憶を形成し、現実世界のばらつきを自動的に吸収する。」p.81
・「あるいは、騒々しい場所で会話をしているとき、言葉がすべては聞こえないことがよくある。だが、問題はない。脳は聞こえなかった部分を、聞きたかったように補う。」p.87
・「脳は自己連想によって現在の入力を補い、自己連想によってつぎに何が起きるかを予測する。このような記憶のつながりが「思考」の本質だ。」p.88
・「つまり、人間の脳は蓄積した記憶を使って、見たり、聞いたり、触れたりするものすべてを、絶えず予測しているのだ。(中略)予測はあらゆる場合に行われているので、もはや人間の「認識」、すなわち、現実世界がどのように見えるかは、感覚だけから生み出されるものとはいえない。人間の意識は、感覚と、脳の記憶から引き出された予測が組みあわさったものなのだ。」p.100
・「新皮質が行動を支配し、高度な役割を果たしていることは、人間だけの特徴だ。だから、ほかの動物と違い、複雑な言語や道具を操れる。」p.117
・「脳を解明する研究は、ずっとボトムアップの方針にしがみついてきた。いま必要なのは、トップダウンの方針だ。」p.121
・「新皮質を流れるパターンは三種類ある。つまり、階層をのぼって集まってくるパターン、階層をくだって広がっていくパターン、視床をまわって同じ階層に遅れて再入力されるパターンだ。」p.162
・「この本の中で新皮質とその働きについて述べてきたことには、きわめて基本的な前提が一つある。それは、現実世界に構造があるからこそ、予測か可能になることだ。森羅万象にはパターンがある。」p.194
・「創造性とは、簡単にいえば、類推によって予測をたてる能力にすぎない。新皮質のあらゆる場所で起こっていて、人間が目覚めているあいだには、頻繁におこなわれていることなのだ。」p.200
・「創造性とは、それまでの人生で得られたあらゆる経験と知識を混ぜあわせ、同じパターンを見つけることだ。「これはひょっとして、あれと同じかな?」という具合に。」p.204
・「人々はあまりにも簡単にあきらめてしまう。答えは発見されることを待っていると確信し、長期間にわたってしつこく考えつづける必要がある。  つぎに、自由に発想をふくらませる。脳に時間と余裕を与えなければ、答えを見つけることはできない。問題を解くということは、現実世界から手本になる解法を見つけることだ。あるいは、新皮質に蓄えられた記憶から、類似する問題の解答を引き出してもいい。」p.206
・「意識を生身の脳に振りかける魔法のソースとみなす考えは根強い。脳は細胞のかたまりだが、そこに意識という特製ソースを注いで、ようやく人間のできあがりというわけだ。」p.211
・「わたしの考えでは、意識とは、新皮質の存在によってもたらされる作用にすぎない。(中略)意識の概念は、大きく二つに分類できる。一つは「自覚」と同義であり、日常ではこの意味に使われている。こちらは割合と理解しやすい。もう一つは「クオリア」と呼ばれる概念で、感覚と結びつけられる感情がどういうわけか感覚器官への入力から独立しているというものだ。こちらは難しい。」p.212
・「宣言的記憶とは、思い出して他人に話すことができる記憶、つまり、言葉での表現が可能な記憶のことだ。」p.212
・「想像とは、計画をいい換えたものにすぎない。」p.218
・「このように、人間の意識の大部分は感覚から得られるのではなく、脳に記憶されたモデルからつくられる。」p.219
・「これまでの説明で、「心」が脳の活動の呼び名であることを理解してもらえたと思う。心は別個の存在として脳の細胞を支配するものでも、それと共存するものでもない。」p.221
・「知能を備えた機械は、わたしの考えでは、人類が開発してきた技術の中で、もっとも危険が少なく、もっとも利益が多い部類に属するものだろう。」p.231
・「知能を備えた機械をつくるためには、新皮質のアルゴリズムを突き止め、それだけを機械で実行すればいい。だが、生きている脳のおびただしい数の機能的な特徴を読みとり、機会の上に複写するというのは、これとはまったくべつの問題だ。」p.233
・「しかし、こうした類推は誤っている。知能、すなわち新皮質のアルゴリズムと、旧脳の感情的な衝動、つまり恐怖、妄想、欲望などとが混同されている。知能を備えた機械は、このような感情を持っていない。」p.234
・「数学や科学の問題が、進歩した機械によって100万倍の速さで解かれると考えてみよう。10秒間におこなわれる問題の考察は、人間なら一か月かかる作業に相当する。電光のような速さで考えることができ、疲れることも飽きることもない頭脳は、想像もつかない働きをすることが確実だ。」p.242
・「わたしの考えでは、知識を備えた機械の革命的な応用は、いままでにない種類の感覚の世界にある。」p.246
・「知能を備えた機械はさまざまな応用において、劇的なまでに人間自身の能力を超える。100万倍の速さで学習と思考をおこない、膨大な量の情報を詳細に記憶して、信じられないほど抽象的なパターンを予測する。感覚は人間よりも鋭く、地球全体から刺激を受けることも、きわめて小さな現象を検知することもできる。」p.249 ここまでくると、ワクワクを通り越して恐怖を感じる。将来は、「ワープロ普及で漢字が書けない」どころの騒ぎではなくなりそうです。
・「知能を備えた機械が実現する時期を予想するのは気が進まないが、じゅうぶんな数の研究者がこの問題にいまから専念すれば、実用に耐える試作品を開発して新皮質のシミュレーションをすることは、わずか数年で可能になるだろう。10年とかからずに、科学技術のもっとも注目を集める分野の一つになることが期待される。」p.251
・「階層的な記憶システムの上に新しい産業が築かれ、インテル社やマイクロソフト社にあたる会社が産声をあげるのは、これから10年以内だろう。」p.254
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