ぼくは勉強ができない, 山田詠美, 新潮文庫 や-34-6(5648), 1996年
・高校生、時田秀美(男)が主人公の青春小説。9編収録。同著者の作品は、昔『ベットタイムアイズ』を読んだことがあります。話の内容は全然覚えていませんが、「ナンジャコリャ!?」と、よくわからなかったという印象だけが残っています。それと比べて、今作品は素直におもしろいと思いました。全く視点は異なりますが、どこか灰谷健次郎の作品と共通した部分を感じます。
・「どんなに成績が良くて、りっぱなことを言えるような人物でも、その人が変な顔で女にもてなかったらずい分と虚しいような気がする。女にもてないという事実の前には、どんなごたいそうな台詞も色あせるように思うのだ。」p.17
・「ぼくの祖父が、前に、ぼくに教えてくれたのだ。女に口を割らせたければ、誉めて誉めて誉めまくれ、と。」p.35
・「確かに、空腹時のラーメンの至福は、恋愛のそれより上等だ。」p.39
・「知識や考察というものは、ある大前提のその後に来るものではないのか。つまり、第一位の座を、常に、何か、もっと大きくて強いものに、譲り渡す程に控え目でなくてはならないのだ。」p.43
・「「おじいちゃん、ぼくは苦しいよ」 「そうか、そうか、それは良かったなあ」 お話にならねえや。ぼくは、恋愛に最も役立たないのは肉親であると確信した。」p.64
・「肉体って、即物的なものだもん、恋愛においてはね。解り易いっての? でも、精神状態も、健全だってのは困るのよ。もっと、不純じゃなきゃ。いやらしくないのって、つまんないよ(中略)ね、秀美、もっと、やらしい男になんなよ。まだ子供だから無理かもしれないけどさ。あんた、いい人だけど、あんまり色気ないよ」p.79
・「世の中には生活するためだけになら、必要ないものが沢山あるだろう。いわゆる芸術というジャンルもそのひとつだな。無駄なことだよ。でも、その無駄がなかったら、どれ程つまらないことだろう。そしてね、その無駄は、なんと不健全な精神から生まれることが多いのである」p.83
・「近頃の高校生は、ファミコンのソフトを買うために避妊具の節約をする程、経済観念を発達させているのだ。」p.102
・「病人にとって大切なのは、その病気が取るに足りないものであると悟らせてくれる周囲の無関心かもしれないなあと思ったりもするのだ。」p.117
・「ぼくは、側に寄って、耳許で、「お茶目さん」と囁きたい欲望に駆られた。確か、鉄棒で失敗した主人公に、「わざ」と、やっただろうおまえは、と言葉にならない冷笑を与えた警告者の登場する小説があった筈だ。」p.140
・「自分が非凡であると意識することこそ、平凡な人間のすることではないか。」p.140
・「これなら、どんな男も夢中になるだろうと、ぼくは思った。彼女のすべては、無垢な美しさに満ちている。けれど、この世の中に、本当の無垢など存在するだろうか。人々に無垢だと思われているものは、たいてい、無垢であるための加工をほどこされているのだ。白いシャツは、白い色を塗られているから白いのだ。澄んだ水は、消毒されているから飲むことが出来るのだ。純情な少女は、そこに価値があると仕込まれているから純情でいられるのだ。もちろん、目の前の女の子は美しい。そのことに疑いの余地はない。けれど、何かが違うのだ。ぼくの好みではない何かが、彼女の美しさを作っているのだ。」p.149
・「くだんないことで悩んでるのは確かだけど、あなたの悩みの実態は、手を替え品を替え、沢山の小説に書かれているのよ。もちろん、どんな文豪も、射精の瞬間には、そんなこと忘れているでしょうけどね」p.163
・「母親は、教師に救いを求めてこそ、その愛情が教室で還元されるのだ。」p.183
・「気付かないということ。それが子供の純粋さであり、特性であるのだ。」p.187
・「他の子供と自分は違う。この事実に、秀美は、とうに気付いていた。自分の物言いや態度が、他人を苛立たせるのも知っていた。そのことで、彼は、たびたび孤独を味わっていたが、自分には、常に支えてくれる母親と祖父が存在しているという安心感が、それを打ち消していた。」p.193
・「過去は、どんな内容にせよ、笑うことが出来るものよ。母親は、いつも、そう言って、秀美を落ち着かせた。」p.193
・「生きてる人間の血には、味がある。おまけに、あったかい(中略)だからな、死にたくなければ、冷たくって味のない奴になるな。いつも、生きてる血を体の中に流しておけ」p.197
・「悪意を持つのは、その悪意を自覚したからだ。それは、自覚して、失くすことも出来る。けどね、そんなつもりでなくやってしまうのは、鈍感だということだよ。」p.211
・「大人になるとは、進歩することよりも、むしろ進歩させるべきでない領域を知ることだ。」p.243
・高校生、時田秀美(男)が主人公の青春小説。9編収録。同著者の作品は、昔『ベットタイムアイズ』を読んだことがあります。話の内容は全然覚えていませんが、「ナンジャコリャ!?」と、よくわからなかったという印象だけが残っています。それと比べて、今作品は素直におもしろいと思いました。全く視点は異なりますが、どこか灰谷健次郎の作品と共通した部分を感じます。
・「どんなに成績が良くて、りっぱなことを言えるような人物でも、その人が変な顔で女にもてなかったらずい分と虚しいような気がする。女にもてないという事実の前には、どんなごたいそうな台詞も色あせるように思うのだ。」p.17
・「ぼくの祖父が、前に、ぼくに教えてくれたのだ。女に口を割らせたければ、誉めて誉めて誉めまくれ、と。」p.35
・「確かに、空腹時のラーメンの至福は、恋愛のそれより上等だ。」p.39
・「知識や考察というものは、ある大前提のその後に来るものではないのか。つまり、第一位の座を、常に、何か、もっと大きくて強いものに、譲り渡す程に控え目でなくてはならないのだ。」p.43
・「「おじいちゃん、ぼくは苦しいよ」 「そうか、そうか、それは良かったなあ」 お話にならねえや。ぼくは、恋愛に最も役立たないのは肉親であると確信した。」p.64
・「肉体って、即物的なものだもん、恋愛においてはね。解り易いっての? でも、精神状態も、健全だってのは困るのよ。もっと、不純じゃなきゃ。いやらしくないのって、つまんないよ(中略)ね、秀美、もっと、やらしい男になんなよ。まだ子供だから無理かもしれないけどさ。あんた、いい人だけど、あんまり色気ないよ」p.79
・「世の中には生活するためだけになら、必要ないものが沢山あるだろう。いわゆる芸術というジャンルもそのひとつだな。無駄なことだよ。でも、その無駄がなかったら、どれ程つまらないことだろう。そしてね、その無駄は、なんと不健全な精神から生まれることが多いのである」p.83
・「近頃の高校生は、ファミコンのソフトを買うために避妊具の節約をする程、経済観念を発達させているのだ。」p.102
・「病人にとって大切なのは、その病気が取るに足りないものであると悟らせてくれる周囲の無関心かもしれないなあと思ったりもするのだ。」p.117
・「ぼくは、側に寄って、耳許で、「お茶目さん」と囁きたい欲望に駆られた。確か、鉄棒で失敗した主人公に、「わざ」と、やっただろうおまえは、と言葉にならない冷笑を与えた警告者の登場する小説があった筈だ。」p.140
・「自分が非凡であると意識することこそ、平凡な人間のすることではないか。」p.140
・「これなら、どんな男も夢中になるだろうと、ぼくは思った。彼女のすべては、無垢な美しさに満ちている。けれど、この世の中に、本当の無垢など存在するだろうか。人々に無垢だと思われているものは、たいてい、無垢であるための加工をほどこされているのだ。白いシャツは、白い色を塗られているから白いのだ。澄んだ水は、消毒されているから飲むことが出来るのだ。純情な少女は、そこに価値があると仕込まれているから純情でいられるのだ。もちろん、目の前の女の子は美しい。そのことに疑いの余地はない。けれど、何かが違うのだ。ぼくの好みではない何かが、彼女の美しさを作っているのだ。」p.149
・「くだんないことで悩んでるのは確かだけど、あなたの悩みの実態は、手を替え品を替え、沢山の小説に書かれているのよ。もちろん、どんな文豪も、射精の瞬間には、そんなこと忘れているでしょうけどね」p.163
・「母親は、教師に救いを求めてこそ、その愛情が教室で還元されるのだ。」p.183
・「気付かないということ。それが子供の純粋さであり、特性であるのだ。」p.187
・「他の子供と自分は違う。この事実に、秀美は、とうに気付いていた。自分の物言いや態度が、他人を苛立たせるのも知っていた。そのことで、彼は、たびたび孤独を味わっていたが、自分には、常に支えてくれる母親と祖父が存在しているという安心感が、それを打ち消していた。」p.193
・「過去は、どんな内容にせよ、笑うことが出来るものよ。母親は、いつも、そう言って、秀美を落ち着かせた。」p.193
・「生きてる人間の血には、味がある。おまけに、あったかい(中略)だからな、死にたくなければ、冷たくって味のない奴になるな。いつも、生きてる血を体の中に流しておけ」p.197
・「悪意を持つのは、その悪意を自覚したからだ。それは、自覚して、失くすことも出来る。けどね、そんなつもりでなくやってしまうのは、鈍感だということだよ。」p.211
・「大人になるとは、進歩することよりも、むしろ進歩させるべきでない領域を知ることだ。」p.243