【期待されたPROMESA試験】
多系統萎縮症(MSA)に対する臨床試験(PROMESA試験)の結果が報告された.PROMESAはPROgression rate of Msa under Egcg Supplementation as Anti-aggregation-approachの略で,αシヌクレイン凝集を顕著に阻害し,これに関連した神経毒性を減らす作用がある没食子酸(もっしょくしさん)エピガロカテキン(Epigallocatechin gallate;EGCG)が,MSAの進行速度を抑制するのではないかと非常に期待された臨床試験である.EGCGはカテキン(ポリフェノールの一種で,昔からタンニンと呼ばれてきた緑茶の渋みの主成分)のひとつで,エピガロカテキンと没食子酸のエステルである.抗酸化活性を示すと同時に,αシヌクレイン・オリゴマーにモノマーが結合し,凝集することを強力に抑制することが,in vitroおよび動物を用いた前臨床試験で明らかにされていた.
【方法と結果】
本試験はランダム化比較試験として,ドイツにおける12施設で実施された.対象は30歳以上のGilman分類probableないしpossible MSAに該当する患者で,かつYahr分類で1-3とした.92名が参加し,EGCGまたはプラセボを無作為に1:1(実薬47名,偽薬45名)で割り付けた(またMSA-PとCでブロック・ランダム化が行われた).最初の4週間は1日1回経口内服(計400 mg),つぎの4週間は1日2回(計800 mg),そ してつぎの40週間は1日3回,副作用によっては2回内服とした(計1200 mgないし800 mg).48週間後, 4週間の休薬期間を設けた.主要評価項目は52週後のUMSARSの運動スコアの変化とし,安全性も確認した.
さて結果であるが,67名が治療介入を,64名が試験を完遂した.EGCG群におけるUMSARS運動スコアは,偽薬群と比較して,有意差を認めなかった(EGCG群5·66±1·01,偽薬群6·60±0·99: 平均値の差 –0·94±1·41(95% CI –3·71~1·83; p=0·51). EGCG群のうち4名,偽薬群のうち2名が試験期間中に死亡した.またEGCG群のうち2名が肝毒性のため治療を中止した.
以上のように, EGCGによる48週間の治療はMSAの進行を抑制できなかった. 安全性に関しては,概して忍容性は良好であったものの,一部の患者では肝毒性を認めたことから,1200 mgを超えて使用すべきではないと考えられた.
【果たせなかった約束】
PROMESAはスペイン語で「約束」の意味である.試験に関わった者は,患者との「治療を実現するという約束を果たそうとした」のかもしれない.もしくはこの臨床試験を,万全を期して計画し,「成功は約束されている」と考えたのかもしれない.事実,ROMESA試験は従来の試験の結果を参考にしてさまざまな工夫がなされている.
・過去の自然歴データを利用し,綿密にパワー計算を行い参加人数を決め,主要評価項目を設定した(検出力80%,p値5%,効果サイズ50%,脱落率20%に設定した).
・これまでで最多の参加者をエントリーした.
・使用可能な最大投与量まで増量した.
・理論的にMSAの病態を修飾しうる薬剤を用い,前臨床試験でも有効性を確認した.
しかし,これだけ行ったにもかかわらず臨床試験は失敗した.関係者はもちろんのこと,私どもこの試験に期待をしていた医師,そして患者さん,家族は大きく失望したのである.
【失敗から学ぶべきものはなにか?】
では今回の失敗から学ぶべきものはなにか?著者らは以下を挙げている.
・遺伝的要素,および,より詳細な病態の理解.
・最適な(非運動症状を含む)エンドポイントの決定
・最適な(早期診断と治療効果判定のための)バイオマーカーの同定.
・より病態を反映する前臨床モデル.
・(間違っている可能性のある)病態仮説によらないモデルの構築(例えばiPS細胞モデルのような患者由来のモデル).
そして現行のMSAの臨床診断基準(改訂Gilman基準)の改訂が必要であろう.早期診断に限界がある.実際に,2020年を目標に,MSA criteria revision task forceによる診断基準の改訂が進められている(Stankovic I et al. Mov Disord 2019;34: 975-984).以下がその方針である.
1.診断の確かさの改善(感度・特異度>80%)
2.さまざまな臨床亜型の取り込み
3.レボドパ抵抗性の適切な定義
4.診断を支持しない項目の見直し
5.補助診断(画像診断,OHの定義の見直し)
個人的にはmultiple systemではなく,mono systemの変性の段階で治療を開始する必要を感じる.失敗を糧として,知恵を総動員して,MSAの病態抑止療法を成功させる必要がある.
Johannes L, et al. Safety and efficacy of epigallocatechin gallate in multiple system atrophy (PROMESA): a randomized, double-blind placebo-controlled trial. Lancet Neurol 2019 Published Online July 2, 2019
多系統萎縮症(MSA)に対する臨床試験(PROMESA試験)の結果が報告された.PROMESAはPROgression rate of Msa under Egcg Supplementation as Anti-aggregation-approachの略で,αシヌクレイン凝集を顕著に阻害し,これに関連した神経毒性を減らす作用がある没食子酸(もっしょくしさん)エピガロカテキン(Epigallocatechin gallate;EGCG)が,MSAの進行速度を抑制するのではないかと非常に期待された臨床試験である.EGCGはカテキン(ポリフェノールの一種で,昔からタンニンと呼ばれてきた緑茶の渋みの主成分)のひとつで,エピガロカテキンと没食子酸のエステルである.抗酸化活性を示すと同時に,αシヌクレイン・オリゴマーにモノマーが結合し,凝集することを強力に抑制することが,in vitroおよび動物を用いた前臨床試験で明らかにされていた.
【方法と結果】
本試験はランダム化比較試験として,ドイツにおける12施設で実施された.対象は30歳以上のGilman分類probableないしpossible MSAに該当する患者で,かつYahr分類で1-3とした.92名が参加し,EGCGまたはプラセボを無作為に1:1(実薬47名,偽薬45名)で割り付けた(またMSA-PとCでブロック・ランダム化が行われた).最初の4週間は1日1回経口内服(計400 mg),つぎの4週間は1日2回(計800 mg),そ してつぎの40週間は1日3回,副作用によっては2回内服とした(計1200 mgないし800 mg).48週間後, 4週間の休薬期間を設けた.主要評価項目は52週後のUMSARSの運動スコアの変化とし,安全性も確認した.
さて結果であるが,67名が治療介入を,64名が試験を完遂した.EGCG群におけるUMSARS運動スコアは,偽薬群と比較して,有意差を認めなかった(EGCG群5·66±1·01,偽薬群6·60±0·99: 平均値の差 –0·94±1·41(95% CI –3·71~1·83; p=0·51). EGCG群のうち4名,偽薬群のうち2名が試験期間中に死亡した.またEGCG群のうち2名が肝毒性のため治療を中止した.
以上のように, EGCGによる48週間の治療はMSAの進行を抑制できなかった. 安全性に関しては,概して忍容性は良好であったものの,一部の患者では肝毒性を認めたことから,1200 mgを超えて使用すべきではないと考えられた.
【果たせなかった約束】
PROMESAはスペイン語で「約束」の意味である.試験に関わった者は,患者との「治療を実現するという約束を果たそうとした」のかもしれない.もしくはこの臨床試験を,万全を期して計画し,「成功は約束されている」と考えたのかもしれない.事実,ROMESA試験は従来の試験の結果を参考にしてさまざまな工夫がなされている.
・過去の自然歴データを利用し,綿密にパワー計算を行い参加人数を決め,主要評価項目を設定した(検出力80%,p値5%,効果サイズ50%,脱落率20%に設定した).
・これまでで最多の参加者をエントリーした.
・使用可能な最大投与量まで増量した.
・理論的にMSAの病態を修飾しうる薬剤を用い,前臨床試験でも有効性を確認した.
しかし,これだけ行ったにもかかわらず臨床試験は失敗した.関係者はもちろんのこと,私どもこの試験に期待をしていた医師,そして患者さん,家族は大きく失望したのである.
【失敗から学ぶべきものはなにか?】
では今回の失敗から学ぶべきものはなにか?著者らは以下を挙げている.
・遺伝的要素,および,より詳細な病態の理解.
・最適な(非運動症状を含む)エンドポイントの決定
・最適な(早期診断と治療効果判定のための)バイオマーカーの同定.
・より病態を反映する前臨床モデル.
・(間違っている可能性のある)病態仮説によらないモデルの構築(例えばiPS細胞モデルのような患者由来のモデル).
そして現行のMSAの臨床診断基準(改訂Gilman基準)の改訂が必要であろう.早期診断に限界がある.実際に,2020年を目標に,MSA criteria revision task forceによる診断基準の改訂が進められている(Stankovic I et al. Mov Disord 2019;34: 975-984).以下がその方針である.
1.診断の確かさの改善(感度・特異度>80%)
2.さまざまな臨床亜型の取り込み
3.レボドパ抵抗性の適切な定義
4.診断を支持しない項目の見直し
5.補助診断(画像診断,OHの定義の見直し)
個人的にはmultiple systemではなく,mono systemの変性の段階で治療を開始する必要を感じる.失敗を糧として,知恵を総動員して,MSAの病態抑止療法を成功させる必要がある.
Johannes L, et al. Safety and efficacy of epigallocatechin gallate in multiple system atrophy (PROMESA): a randomized, double-blind placebo-controlled trial. Lancet Neurol 2019 Published Online July 2, 2019