ステロイドミオパチーは厄介な病態である.とくに多発性筋炎や皮膚筋炎のステロイド治療の際に,治療開始後に生じた筋力低下が,原疾患の増悪によるものか,ステロイドミオパチーによるものかの鑑別はきわめて重要だが難しい.診察所見のみで鑑別することはしばしば困難であり,鑑別に有用な検査所見がないか当然考える.総説などで取り上げられているのは①%クレアチン尿,②3-メチルヒスチジン尿中排泄である.①は比較的有名であり,ステロイドミオパチーではクレアチンの筋からの放出を反映する尿中へのクレアチン排泄増加,および筋肉の量を反映すると考えられる尿中クレアチニン排泄の減少が認められるということから,両者を組み合わせて「%クレアチン尿」という指標(%クレアチン尿=尿中クレアチン(g/day)/{尿中クレアチン(g/day)+尿中クレアチニン(g/day)})が1970年代に提唱されている.健常者では10%未満であるのに対し,ステロイドミオパチーでは上昇し,かつ筋力低下の程度とよく相関するという.
今回,本邦より%クレアチン尿の使用上の問題点が報告されている.筋疾患を除く原疾患に対する治療としてステロイド内服を検討した26例を対象とした前向き研究で,ステロイド内服前後(とくに使用前)における%クレアチン尿を計算した.この結果,%クレアチン尿(中央値)は男性2.5%,女性17.1%であり,女性において有意に高値であった(p=0.041).カットオフ値として知られる10%を超えた症例は,男性3/14例(21.4%),女性8/12例(66.7%)と高頻度であった.さらに腎機能障害(軽度であっても)が認められる患者では筋症状が見られなくても%クレアチン尿値が大きく変動した.%クレアチン尿が治療前にかかわらず高値を示した症例が多数存在した原因として,①尿クレアチン・クレアチニン排泄量の測定法の問題(原著の時代はJaffe反応を利用した化学法を用いているが,現在は特異性が高く誤差が少ない酵素法を用いている),②尿中クレアチン排泄量における性差(原因不明ながら女性では尿中クレアチン排泄量が高い),③高蛋白食摂取,④腎機能(腎尿細管における再吸収低下によっても尿中クレアチン排泄量は増加する)が挙げられている.
結論としては「ステロイド開始後における1時点のみの%クレアチン尿測定はステロイドミオパチーの診断において有用性が乏しい」ということである.ただ,この研究の弱点は,ステロイドミオパチー発症者における%クレアチン尿の変動についての評価がなされていない点である.今後の課題ということになるが,重要な疾患の検査にも関わらず,しっかりしたエビデンスがないまま放置されてきたものの代表と言えるかもしれない.治療のみならず検査も,ときには疑ってかかったほうが良いのかもしれない.
脳と神経2006. Vol.58 No.1
今回,本邦より%クレアチン尿の使用上の問題点が報告されている.筋疾患を除く原疾患に対する治療としてステロイド内服を検討した26例を対象とした前向き研究で,ステロイド内服前後(とくに使用前)における%クレアチン尿を計算した.この結果,%クレアチン尿(中央値)は男性2.5%,女性17.1%であり,女性において有意に高値であった(p=0.041).カットオフ値として知られる10%を超えた症例は,男性3/14例(21.4%),女性8/12例(66.7%)と高頻度であった.さらに腎機能障害(軽度であっても)が認められる患者では筋症状が見られなくても%クレアチン尿値が大きく変動した.%クレアチン尿が治療前にかかわらず高値を示した症例が多数存在した原因として,①尿クレアチン・クレアチニン排泄量の測定法の問題(原著の時代はJaffe反応を利用した化学法を用いているが,現在は特異性が高く誤差が少ない酵素法を用いている),②尿中クレアチン排泄量における性差(原因不明ながら女性では尿中クレアチン排泄量が高い),③高蛋白食摂取,④腎機能(腎尿細管における再吸収低下によっても尿中クレアチン排泄量は増加する)が挙げられている.
結論としては「ステロイド開始後における1時点のみの%クレアチン尿測定はステロイドミオパチーの診断において有用性が乏しい」ということである.ただ,この研究の弱点は,ステロイドミオパチー発症者における%クレアチン尿の変動についての評価がなされていない点である.今後の課題ということになるが,重要な疾患の検査にも関わらず,しっかりしたエビデンスがないまま放置されてきたものの代表と言えるかもしれない.治療のみならず検査も,ときには疑ってかかったほうが良いのかもしれない.
脳と神経2006. Vol.58 No.1