Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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筋強直性ジストロフィーと球脊髄性筋萎縮症はBrugada症候群による突然死を来しうる

2015年02月01日 | 筋疾患
Brugada症候群は,1992年にスペインのブルガダ兄弟が報告したもので,12誘導心電図のV1からV2(V3)誘導における特徴的なST上昇と,致死性の不整脈である心室細動を主徴とする症候群である.ST上昇には,上向きに凸のcoved(入江)型と下向きに凸のsaddle back(馬鞍)型がある(図).男性に多く,夜間に心室細動の発作を起こすことが多い.常染色体優性遺伝形式をとり,現在までに7つの遺伝子型が報告されている.最初に報告された原因遺伝子はヒト心筋Na+チャネルαサブユニット(Nav1.5)をコードする SCN5A遺伝子で,最も頻度が高い.症候性ブルガダ症候群や家族歴を有する症例では植込み型除細動器(ICD)治療が必要で,突然死の予防に対してはICD植え込みによる発作時の除細動のみが確実な方法である.

さて,神経内科疾患も突然死を呈するものがある.原因は不明なことが多いが,最近,その原因としてBrugada症候群の関与が示唆された2つの疾患を紹介したい.

(1)筋強直性ジストロフィー(DM1)
筋強直性ジストロフィーは,成人で最も頻度の高い遺伝性筋疾患で,常染色体優性遺伝形式を取る.筋症状以外に多彩な全身症状を呈する.また3分の1の症例が突然死を来す.致死性の不整脈(心室細動や房室ブロック後の心停止)がその原因として重視されるが,その発生機序については不明であった.

DM1の原因遺伝子は,DMPK遺伝子の3’非翻訳領域のCTGリピートの異常伸長である.この変異は,スプライシング制御因子のアンバランスを招き,種々のmRNAのスプライシング異常(幼若型スプライシングアイソフォームの増加)を引き起こし,多彩な症状をもたらす.例えば,特徴的な筋症状であるミオトニアは,骨格筋型電位依存性クロライドチャネル(ClC1)をコードするCLCN1遺伝子のスプライシング異常により,正常な機能を持つClC1が産生されず,機能するチャネル量が減少した結果,筋細胞の興奮性が高まり,ミオトニアを引き起こすと考えられている.

同様のことがSCN5A遺伝子(!)でも生じうる.2013年,フランスのWahbiらは,914名のDM1患者の心電図を検討し,うち7例(0.8%)でBrugada心電図を認め,うち5例をBrugada症候群と診断した.末梢血ゲノムを用いた検討では,全例でSCN5A遺伝子変異を認めなかった.しかしDM1患者1名と拡張型心筋症3名の心筋を用いてSCN5A遺伝子のスプライシングを検討したところ,前者でのみスプライシング異常(幼若型の増加)を認めた.このことからDM1の突然死にSCN5A遺伝子のスプライシング異常に伴うBrugada症候群が関与している可能性が指摘された.

Arch Cardiovasc Dis 106; 635-643, 2013 

(2)球脊髄性筋萎縮症
球脊髄性筋萎縮症(SBMA)は伴性劣性遺伝形式をとり,成人男性に発症する下位運動ニューロン疾患である.原因遺伝子はアンドロゲン受容体で,CAG リピート病(ポリグルタミン病)である.四肢の筋力低下および筋萎縮,球麻痺を主徴とし,女性化乳房など軽度のアンドロゲン不全症などを合併する.

名古屋大学のArakiらは,SBMA 144名の心電図を検討し,うち70名(48.6%)で心電図異常,28名でST-T異常,17名(11.8%)でBrugada心電図を呈していたことを示した.うち2名は症候性で,かつ突然死を来たしていた.さらに病態機序について詳細に検討が行われた.まずBrugada症候群で報告されている原因遺伝子(SCN5A遺伝子等)について検討し,遺伝子変異を認めないことを確認した.そして,心筋におけるSCN5A遺伝子の発現が,mRNA(RT-PCR)および蛋白レベル(Western blot,免疫染色)で低下していることを見出した.この機序としては,SBMAでは変異アンドロゲン受容体が核内に蓄積されるが,この結果,遺伝子発現に異常が生じて,SCN5A遺伝子のdown regulationが生じ,心筋Naチャネルに関連した不整脈が引き起こされる可能性を指摘した.また不整脈死した2名では,低Na血症が不整脈のトリガーとなった可能性を指摘し,電解質異常には注意を要すると述べている.臨床的な観察から出発し,その病態を解明し,患者さんの突然死の防止につながったという点で,本当に素晴らしい研究である.

Neurology 82: 1813-1821, 2014

以上,DM1とSBMAはBrugada症候群による突然死を来しうること,およびそのメカニズムにSCN5A遺伝子のmRNAレベルでの発現低下が関わっていることを紹介した.原因不明であった突然死も,臨床を出発点とした基礎研究により徐々にメカニズムが明らかにされ,対策も可能となっていることを提示した.

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