ライム病、あるいはボレリア症は,マダニを媒介とするスピローヘータの一種Borrelia burgdorferi感染に起因する細菌感染症である.ライム病は,北米、ヨーロッパ、南アフリカ、オーストラア、中国、そして日本で存在が知られ、特にヨーロッパ、北米では年間数万人の患者が発生している.とくに欧米では重要な感染症であり,私がアメリカに在住していたときも,学校からの回覧で「ライム病が発生したので気をつけるように」といった記載を目にして驚いたことがある.一方,日本では報告は多くはなく,北海道、長野を中心に報告がある.野山を散策した際に感染することが多いなどとされている.
症状は第1期;遊走性紅斑、リンパ節腫張,第2期:神経症状(髄膜炎、多発性神経炎など),循環器症状(不整脈),関節炎,第3期(1~数年後);慢性萎縮性肢端皮膚炎,慢性関節炎,慢性髄膜・脳炎を呈すると教科書には記載されている.
しかし,日本ではきわめて稀な疾患であって,あまり話題になることはないのだが,個人的には見逃し症例が存在する可能性があるのではないかと考えている.今回は本症の診断と治療に関するポイントについて検討したい.
① どんな神経所見のとき疑えばよいか?
ギランバレー症候群を疑いつつも,病初期から高度の両側顔面神経麻痺を呈する場合(通常味覚は保たれる),麻痺に左右差が顕著な場合,感覚障害(とくにしびれ)が高度の場合,症状の進行が持続的で,4週以降にピークがある場合は鑑別診断として検討に値する.遊走性紅斑や関節痛がないことは,後述するように必ずしもライム病を否定する材料とはならない.
② 検査で注意すべきこと
あまり知られていないことだが,ボレリアのタイプは欧米と日本で異なり,業者を介して欧米のラボに抗ボレリア抗体のチェックをしてもらっても本邦例では陰性の結果になる可能性が高い.欧米の発症例はB. burgdorferi感染であるが,日本はB. gariniiとB. afzeliiが主体である.抗体検査でB. gariniiとB. afzeliiは交差反応性があるが,これらとB. burgdorferiの間には交差反応性はない.よって海外渡航時に感染した症例ではB. burgdorferiに対する抗体価を確認する必要があるし(業者を通して海外に依頼),海外渡航歴がなければB. gariniiとB. afzeliiに対する抗体価を測定してくれる国内研究者に依頼することが重要になる.
③ B. gariniiとB. afzeliiの違い
九州大からの既報にもあるが,両者は臨床症状も異なる.B. gariniiは関節・神経症状を呈し,B. afzeliiは皮膚症状を呈しやすいと言われている.よって,遊走性紅斑がないからといって,B. garinii感染の場合は,ライム病は否定できないことになる.
④ 治療の問題点
治療を考える上でボレリアによる神経症状の発症メカニズムを知ることは非常に重要である.
まず,ボレリアは末梢神経に移行し,直接,傷害することが考えられている.例えば,sural nerveをtemplate DNAとして行ったPCRにて,B. burgdorferi DNAが検出されたという報告がある(Muscle Nerve. 20:969-975, 1997).よって治療の第一は塩酸ドキシサイクリン(ビブラマイシン内服)とセフトリアキソンナトリム(ロセフィン点滴)による抗菌療法である.事実,九州大学の症例のように抗生剤のみで回復する例は多数報告されている.
その一方で,抗菌療法のみでは神経症状は十分な改善が得られず,後遺症となりやすいという報告もある(Acta Neurol Scand. 106:253-257, 2002.).その原因としては,ボレリア感染後に何らかの免疫反応が誘導され,それが神経障害を引き起こす可能性が指摘されている.その根拠としては,ボレリアOsp蛋白(outer surface protein)を用いたワクチン療法(現在は行われていない)で,CIDP様の神経症状が誘発されること(J Peripher Nerv Syst 9:165-167, 2004.),B. burgdorferi Osp蛋白とヒト神経細胞epitopeに共通する3ヶ所のアミノ酸配列がある(J Neuroimmunol. 159:192-195, 2005.)といったことが挙げられる.つまり,ライム病においてもギランバレーのような分子相同性仮説が成り立つのではないかという考えである.もしそうであれば抗菌療法では十分な治療効果が得られないはずであり,とくに抗菌療法が遅れた症例では免疫をmodulateする治療が必要になるはずである.しかし,ステロイドや免疫抑制剤,IVIgなどの有効性はほとんど分かっていない.この辺は今後の重要な課題といえよう.
ところでライム病を診た人はどれぐらいいますか?経験談など聞かせてください.
臨床神経学41; 632-634, 2001
症状は第1期;遊走性紅斑、リンパ節腫張,第2期:神経症状(髄膜炎、多発性神経炎など),循環器症状(不整脈),関節炎,第3期(1~数年後);慢性萎縮性肢端皮膚炎,慢性関節炎,慢性髄膜・脳炎を呈すると教科書には記載されている.
しかし,日本ではきわめて稀な疾患であって,あまり話題になることはないのだが,個人的には見逃し症例が存在する可能性があるのではないかと考えている.今回は本症の診断と治療に関するポイントについて検討したい.
① どんな神経所見のとき疑えばよいか?
ギランバレー症候群を疑いつつも,病初期から高度の両側顔面神経麻痺を呈する場合(通常味覚は保たれる),麻痺に左右差が顕著な場合,感覚障害(とくにしびれ)が高度の場合,症状の進行が持続的で,4週以降にピークがある場合は鑑別診断として検討に値する.遊走性紅斑や関節痛がないことは,後述するように必ずしもライム病を否定する材料とはならない.
② 検査で注意すべきこと
あまり知られていないことだが,ボレリアのタイプは欧米と日本で異なり,業者を介して欧米のラボに抗ボレリア抗体のチェックをしてもらっても本邦例では陰性の結果になる可能性が高い.欧米の発症例はB. burgdorferi感染であるが,日本はB. gariniiとB. afzeliiが主体である.抗体検査でB. gariniiとB. afzeliiは交差反応性があるが,これらとB. burgdorferiの間には交差反応性はない.よって海外渡航時に感染した症例ではB. burgdorferiに対する抗体価を確認する必要があるし(業者を通して海外に依頼),海外渡航歴がなければB. gariniiとB. afzeliiに対する抗体価を測定してくれる国内研究者に依頼することが重要になる.
③ B. gariniiとB. afzeliiの違い
九州大からの既報にもあるが,両者は臨床症状も異なる.B. gariniiは関節・神経症状を呈し,B. afzeliiは皮膚症状を呈しやすいと言われている.よって,遊走性紅斑がないからといって,B. garinii感染の場合は,ライム病は否定できないことになる.
④ 治療の問題点
治療を考える上でボレリアによる神経症状の発症メカニズムを知ることは非常に重要である.
まず,ボレリアは末梢神経に移行し,直接,傷害することが考えられている.例えば,sural nerveをtemplate DNAとして行ったPCRにて,B. burgdorferi DNAが検出されたという報告がある(Muscle Nerve. 20:969-975, 1997).よって治療の第一は塩酸ドキシサイクリン(ビブラマイシン内服)とセフトリアキソンナトリム(ロセフィン点滴)による抗菌療法である.事実,九州大学の症例のように抗生剤のみで回復する例は多数報告されている.
その一方で,抗菌療法のみでは神経症状は十分な改善が得られず,後遺症となりやすいという報告もある(Acta Neurol Scand. 106:253-257, 2002.).その原因としては,ボレリア感染後に何らかの免疫反応が誘導され,それが神経障害を引き起こす可能性が指摘されている.その根拠としては,ボレリアOsp蛋白(outer surface protein)を用いたワクチン療法(現在は行われていない)で,CIDP様の神経症状が誘発されること(J Peripher Nerv Syst 9:165-167, 2004.),B. burgdorferi Osp蛋白とヒト神経細胞epitopeに共通する3ヶ所のアミノ酸配列がある(J Neuroimmunol. 159:192-195, 2005.)といったことが挙げられる.つまり,ライム病においてもギランバレーのような分子相同性仮説が成り立つのではないかという考えである.もしそうであれば抗菌療法では十分な治療効果が得られないはずであり,とくに抗菌療法が遅れた症例では免疫をmodulateする治療が必要になるはずである.しかし,ステロイドや免疫抑制剤,IVIgなどの有効性はほとんど分かっていない.この辺は今後の重要な課題といえよう.
ところでライム病を診た人はどれぐらいいますか?経験談など聞かせてください.
臨床神経学41; 632-634, 2001
教科書にもなかなか出ていない知識を、読ませていただき助かっております
アイデアをネットに流されておられること、後進のご指導となっていると思います
只今毎日ロセフィン点滴中です。
左手が元に戻るかどうかも分からず不安です。
医師は自然治癒を待つしかないと…
鍼治療等は効果ないのでしょうか?
日常生活はなんとかなってもかなり指先を使う仕事に就いていたので、このままでは働けなく困っています。
退院後食べていけません(泣)
ライム病についての説明とても分かりやすかったです、ありがとうございました♪
ときたま、訪問して、情報を得ています。
勉強になります。
ところで、僕のブログに経験例の抄録を載せましたので、ご参考まで。