タチアオイ
(城跡ほっつき歩記)より
庭先の立葵は花嫁の蒼ざめた紅いろ祝言の夜を前に不安の風が胸元を吹きわたる昨日まで陽光に焼かれた肌をはたはたとパフで叩けば打ち水の庭に似てあえかな羞らいが立ち昇る姉よ 三つ違いの姉よ 花嫁になるな憧れであり懊悩である幾多の日々を 持ち去らないでくれ思い出のカンバスには暮れなずむ青い空と立葵の . . . 本文を読む
(花相撲の丘) ぼくは屋外でキックボクシングの試合を見ていた。 リングを囲む金網に客が取り付き、ぼくもその仲間の一人として気持ちを高ぶらせていた。 口ぐちに張り上げる声が、塊となって不穏な空へ飛んで行った。 子供の歓声だけは、大人の放つどよめきを縫って黄色く立ち昇った。 空はみずからの秩序を失い、黒雲と照り映えがせめぎ合っていた。 歓声は暗紫色の裂け目を狙って駆け上がり、天への抜け道を探 . . . 本文を読む
(『富岡製糸場』と絹産業遺産群を世界文化遺産推薦へ)
文化審議会の特別委員会は7月12日、2014年の世界文化遺産登録を目指し、国連教育科学文化機関(ユネスコ)に「富岡製糸場と絹産業遺産群」(群馬県)を推薦することを決めた。富岡製糸場を中心に開発された技術が世界に広まり、絹織物の大衆化に貢献したことを評価した。政府の関係省庁連絡会議で正式決定し、9月末までにユ . . . 本文を読む
(ラブレター焚書の一件) <千年風呂>の経営者である荷車三吉は、朝から青いため息をついていた。 女房の好恵が昨日とうとう家を出て行ってしまったのだ。 カラオケで知り合った若い男に夢中になり、いくら諌めても言うことをきかなかった。「離婚するのはいいが、原因はおまえにあるのだからビタ一文やらんぞ」 半ば脅して翻意させるつもりであったが、返事はあっさりしたものだった。「こんな借金まみれの風呂屋 . . . 本文を読む
瑠璃金剛インコ
(ウィキペディア)より
瑠璃色のドレスをまとった美しいインコよ
この薄汚れた空になぜ迷い出たのだ
飼い主の愛情が足りなかったのか
いや、そんなことはあるまい
口移しに餌を与え
一日中お喋りの相手をしてくれたマダムがいたではないか
むかしタカラジェンヌだった貴婦人が
歌まで教えて呉れたではないか
すみれの花咲く~ . . . 本文を読む