どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

<おれ>という獣への鎮魂歌 (42)

2006-06-26 12:18:02 | 連載小説
 北千住で東武伊勢崎線に乗り換え、小菅駅に着いた。  プラットホームの時計は、八時少し前を指していた。前回の経験を踏まえて少し早めに家を出たせいか、ここまでの行程はうまくいっていた。  あとは、ゆっくりと歩いていけばいい。おれの気持ちに余裕が生じた。  おれは、ホームに立ったまま大きく息を吸い込んだ。湿った空気が、肺の中に入ってきた。  雨足は、衰える様子を見せなかった。  トップグループを形成す . . . 本文を読む
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<おれ>という獣への鎮魂歌 (41)

2006-06-20 03:18:17 | 連載小説
 ミナコさんの業務上横領事件に関連して、共犯を疑われた不愉快な経験が、おれのなかに、心の傷となって残っていた。 (今度は、なんなのだ?)  自然に、身構える姿勢になっていた。 「いや、内容を知らずに、頼まれて保管している物があるんじゃないかと思いましてね」  刑事は、遠まわしな言い方で鎌をかけてきた。 「知り合いといっても、顔見知り程度ですよ。・・ぼくに、モノを預けるなんて事は、ありえませんね」 . . . 本文を読む
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<おれ>という獣への鎮魂歌 (40)

2006-06-17 15:44:36 | 連載小説
 その夜、隣人は帰ってこなかった。  何があったのだろうと考えて、おれの眠気も吹っ飛んでしまった。  明け方になって、とろとろと眠ったようだったが、なんとも不快な気分で目覚まし時計に起こされた。梅割り焼酎のげっぷが突き上げてきた。  二日酔いというほどではないが、胃の調子が悪いのは確かだ。湯で薄めた牛乳と共に、胃腸薬を飲んで家を出た。  しばらく顔を合わせていなかった紺野が、新たな事務所開設の挨拶 . . . 本文を読む
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<おれ>という獣への鎮魂歌 (39)

2006-06-13 02:59:51 | 連載小説
 その日は、午後から大学に行くアルバイトの写植オペレーターと入れ替わりに、懸案の『こども相撲大会』用チラシ作成に取り掛かった。  こどもの日の前日、五月四日の縁日を開催日としているから、それほど、のんびりとはしていられない。  おれは、レイアウトを考え、写植を打ち、台紙を作り、その夜のうちに貼りこんだ。  出来上がった版下を元に、校正用の清刷りを作り、翌日、巣鴨地蔵通り商店会会長宅を訪れた。  前 . . . 本文を読む
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<おれ>という獣への鎮魂歌 (38)

2006-06-10 00:10:33 | 連載小説
 なにを言うのかと、不満もあらわに、立会いの係官を振り返った。 「しゃべらなくても、会話をしているんです・・」  きびしく思いを口にしながら、声を荒げなかったことで、なんとか治まりは付きそうだと直感した。  年恰好をみても、看守と呼ばれる職業に就いて、かなりの経験を積んできたはずの男である。制帽の下の表情は判らなかったが、定位置で平然と立っている姿勢からは、おれの言葉に、ことさら反応した様子は見ら . . . 本文を読む
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<おれ>という獣への鎮魂歌 (37)

2006-06-08 02:52:18 | 連載小説
 綾瀬駅で降りると、東京拘置所までの道順が矢印で示されていた。降りてみて、初めて、おれの乗ってきた電車が、地下鉄千代田線との共用車両であることを知った。  このところ、国鉄と私鉄の相互乗り入れが進んでいて、利用者には便利になったわけだが、むかしの知識や経験にとらわれている者には、すんなりと理解しがたいところもあった。  再編を進めて、効率化を図る。  世の中、大胆に仕組みを変えて、より利潤を追求し . . . 本文を読む
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<おれ>という獣への鎮魂歌 (36)

2006-06-03 06:27:13 | 連載小説
 おれは、机の上の原稿をじっと見つめた。  紺野は、彼なりの感覚でチラシのレイアウトを考えたのだろうが、きのう暗室で乾燥させていた印画紙を思い出すかぎり、飾り文字の選び方、変形文字の組み合わせ方なども、いかにも平凡で面白みに欠けていた。  見出し用の書体ひとつを取ってみても、もっと柔軟に考れば、子供たちの躍動する姿にぴったりのものが選び出せただろうにと、まだ目に残っている文字列の数々を検証していた . . . 本文を読む
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