ざくろ
「症状」
僕はざくろの裂け目から
ひとつぶ
ポロロと生まれた
紫水晶の心を
人肉の酸っぱさでしゃぶられ
憐憫の涙を糧に育ったのだ
戸籍の暗がりには 今も
おふくろの濡れた名札が下がっているが
官吏が涙の主をまちがえたとは言えぬか
涙の透明に
さては独善の免疫を植えたか
--ご . . . 本文を読む
(祭りの記憶)
がんばろう日本
秋祭りのシーズンのせいか、昨日(9月23日)は布多天神社の近くを通りがかったら祭礼の準備をしていた。
時刻は午後一時前、実行委員とか神社関係者、それに花形の子供たちと町内会の役員、ボーイスカウトなどがそれぞれ段取りに専念しているところだった。
山車や太鼓があわせて七、八台はあったから、引き手の大人たちはどこかに待機している . . . 本文を読む
(親指コンプレックス)
マツ子は、自分の足の親指が人一倍大きいのではないかと悩んでいた。 意識するようになったのは、小学三年生になった春のあの日からだった。「あら、あなたの親指ずいぶん大きいのね」 新学年になって間もなく健康診断があり、身長計測器の台に乗った瞬間、担任の女性教師がじっとマツ子の足元を覗きこんで言ったのである。「・・・・」 普通、背伸びをしていないか踵の位置を確かめた . . . 本文を読む
成るもの
「病葉の唱」
この若木の枝で
五月の風にブランコをしていた君が
己を支える力もなく
ついに落ちた
君と僕は病葉だから
みどりの葉の中で
ひときわ目立つ黄濁の侮蔑だった
きみが落ちて湿った土に仰臥しても
五月の風すら君を
めくってみなかった
僕もまた黄疸が激しくて
ほどなく手を . . . 本文を読む
水
「明るさについて」
痩せた日本列島にも内臓がある
穴という穴から
ひとは回虫のように
胃壁をめざして押し寄せる
陽の当らぬ苔のトンネル
みずは滴る
水に生きるボクは一匹の虫
僕のそばで
ユキノシタは
透けた血管を震わせる
渓谷の奥に何かを
もとめるのではない
浅瀬をさかのぼるのは
. . . 本文を読む
(たった一人のグランプリ)
三田村ソラは、スタート地点に向かいながら、武者ぶるいをした。 長い直線とカーブのきついバンクを抱えた立川のスタンドが、目の前にひろがっている。 顔見せに一周した時とは違った緊張感があった。 (いよいよ、この日が来た・・・・) ソラは両手で軽く頬をたたいた。 同じスタートラインに立つのは、各地を転戦してきた先輩と数名の新人たちだ。 このレースに出走を斡旋され . . . 本文を読む
(第一詩集『誓いの館』の背景)
当ブログを始めたのが2005年12月だから、まもなく6年が過ぎようとしている。
それまでは『凱』という同人誌に小説を発表していたのだが、年に一回か二回の発行がやっとで、そのペースだとナマってしまう気がしてブログに切り替えた。
主に短編小説を書き、あいまに身の回りの自然や出来事をエッセイ風につづって今日に至っている。
<むかしの詩集とフ . . . 本文を読む